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異世界焼肉  作者: 天坂 透真


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【第40話】「フェンリルの記憶、ポムの始まり」

今回はポム視点のお話です。

なぜポムがルミたちのもとに現れたのか――その始まりを、少しだけ紐解いていきます。


気づいたとき、私は森の中にいた。

湿った大地の匂い、木々のざわめき、そして――己の体を覆う銀色の毛並み。


「……私は、フェンリル……?」


確かに記憶はある。

伝説と呼ばれる魔物、畏怖の象徴。

しかし同時に、胸の奥にかすかな温もりが残っていた。

それは「帰るべき場所」の記憶。

誰かが待っているような、そんな不思議な感覚。


気づけば体は勝手に動き出していた。

森を抜け、山を越え、川を渡り――どれだけ月日が経ったのだろう。

見知らぬ街の灯りが、ようやく目の前に広がった。


⸻


◆ 隠密の術


けれど、この姿のままでは入れない。

フェンリルの姿は、街の人間にとって恐怖そのものだ。


「仕方ない……」


私は自らの力を抑え、小型犬の姿へと変じた。

丸まった毛並み、短い足。

街の人々にとっては、ただの愛玩犬にしか見えないだろう。


同時に、気配を消す《隠密魔法》を施す。

それは力ある冒険者にはわずかに感じ取られるが、ほとんどは気づかない。

だが、この魔法には代償があった。

能力が削がれ、動きも鈍くなるのだ。


それでも構わなかった。

ただ――探したかった。

あの“帰るべき場所”を。


⸻


◆ 出会い


その日は昼下がり。

街の市場で買い出しをしていた一人の女性が、私の存在に気づいた。


「ん? こんなところに犬が……?」


彼女は袋を片手に、こちらへ歩み寄る。

私は胸が温かくなり、思わず「くぅん……」と泣いた。


「寂しいのね」

女性――後に“あーちゃん”と呼ぶ存在は、そっと私を抱き上げた。

温もりが伝わってくる。


「よし、一緒に帰りましょう」


そう言って、あーちゃんは買い物袋を抱えながら、私を連れて歩き出した。


⸻


◆ 異世界焼肉との邂逅


街の外れに差し掛かると、大きな看板が目に入った。


――《異世界焼肉》。


胸がざわついた。

懐かしい。

ここが、帰るべき場所なのだと、本能が告げていた。


店の戸を開けると、中にいた年配の女性が声をあげた。

「ぎゃああああっ! 元の場所へ返してきなさい! 無理無理無理無理!」


だが追い出すことはなかった。

ただ困惑しながら私を見つめていた。


すると、もう一人の若い女性が近づいてきて、首をかしげた。

「名前は?」


あーちゃんは、帰り道で私を抱きながらつぶやいていた言葉を思い出した。


「ポム……かなぁ」


その響きに、私は小さく尻尾を振った。


こうして私は、“ポム”として迎え入れられた。

ここが、私の新しい日常の始まりだった。


第40話「フェンリルの記憶、ポムの始まり」お読みいただきありがとうございました。

今回はポム視点で、拾われた日の出来事を描きました。


次回は三連休最終日までをポム視点で続けます。

彼の中に眠る“フェンリルとしての記憶”と“家族としての日常”――二つがどう繋がっていくのか、ぜひ楽しみにしていてください!

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