【第39話】「峠の決戦、そして戻る日常」
三連休の最終日。
お母さんの帰路に待ち受けていたのは、再び姿を現したネームド魔物。
群れを率いて襲いかかるその脅威に、伝説の存在が再び立ちはだかる。
しかし――その余波は、街全体を揺るがすほどのものだった。
峠の道を歩いていたお母さんは、妙な静けさに胸騒ぎを覚えた。
人の往来がまったくない。
次の瞬間、地を揺らす羽音が轟き、視界の先に影が現れた。
「グルルル……」
それは、かつて温泉街で対峙した巨鶏――ネームド魔物。
その背後には、おぞましい魔物の群れがぞろぞろと姿を現す。
数は――三十。
「この間はぢゃ魔が入ったからよォ……喰えなかったがなァ」
「オメェを喰ったら、龍の野郎に近づける……なんとしても喰らってやる!」
不気味な笑い声が峠に響き渡る。
お母さんは腰を抜かし、ただ目を見開いて後ずさるしかなかった。
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◆ フェンリル再び
その刹那――。
「――退け」
一陣の風とともに、銀の毛並みを持つ影が前に立った。
伝説の存在、《フェンリル》。
しかし、今回は違った。
コーチンは迷わず先制攻撃を放つ。
群れの魔物たちも一斉に襲いかかった。
鋭い嘴と爪、炎や毒を宿した魔法。
次々と襲い来る敵を、フェンリルは風刃と氷槍で弾き返し、反撃の牙で次々と仕留めていく。
「……コーチンよ。二度目は見逃さぬ」
フェンリルの声は低く響いた。
だがコーチンは嗤う。
「勝ってから言え!」
峠は修羅場と化した。
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◆ 炎と水の極大魔法
やがて、一体の魔物が隙を突き、お母さんに魔法を放った。
詠唱は間に合わない――。
「ッ!」
フェンリルが咄嗟に割り込み、その身で受け止めた。
浅い傷。しかし、確かに血が滲む。
「ぐっ……!」
その瞬間、コーチンが牙を剥き、フェンリルの足に食らいついた。
鋭い痛みに表情を歪めるフェンリル。
だが次の瞬間――。
「焼き尽くすッ!」
詠唱と同時に放たれたのは、炎系の極大魔法。
至近距離から直撃を受けたコーチンは羽を焦がされ、背後の魔物たちも次々に焼かれていく。
峠の木々まで火に包まれた。
フェンリルは即座に水系の極大魔法を展開し、炎を鎮火。
そして空間魔法で、焼き尽くされた魔物たちの残骸を取り込んだ。
「立てるか?」
お母さんに視線を向ける。
震える膝で立ち上がりながら、お母さんは必死に頷いた。
「……ありがとう。立てるわ」
「怖い思いをさせたな。気をつけて帰るんだ」
短く告げると、フェンリルの姿は霧のように掻き消えた。
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◆ 街に響いた轟音
同じ頃――街の中心。
美容院とエステを楽しんでいたルミとあーちゃんは、不意の衝撃に顔を上げた。
ドォォォン……!
大地が揺れ、窓が震えた。
人々は騒然となり、「山が爆発したのか?」「魔物か!?」と叫び声が飛び交う。
「な、何今の……?」
「街が揺れるなんて……ただ事じゃないよ」
冒険者組合は即座に調査団を募り、峠へと向かった。
だが現場には、焼け焦げた木々と魔物の痕跡のみ。
そこに何が起きたのか、真相を知る者はいなかった。
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◆ ポムの怪我
夕方。
ルミとあーちゃんが家に戻ると、驚く光景があった。
「ポム!? 足……怪我してる!」
慌てて駆け寄り、血で汚れた毛を撫でる。
その時――。
「ただいま」
お母さんが帰宅した。
元気そうな笑みを浮かべ、あえて何も語らない。
ポムの足に癒しの魔法をかけながら、優しく頭を撫でる。
「……ありがとう」
ポムは目を細め、安心したように眠りに落ちた。
「ねぇ……ポム、さわれるようになったの?」
思わず問いかけたルミに、お母さんは肩をすくめる。
「さぁね」
三連休に起きた出来事――。
温泉街での遭遇も、峠での決戦も、決して口にはされなかった。
こうして謎を残したまま、三連休は幕を閉じた。
日常は戻るのか、それとも……。
第39話「峠の決戦、そして戻る日常」お読みいただきありがとうございました!
今回は大きな戦闘回。お母さんとフェンリル、そしてネームド魔物の再戦を描きました。
街を揺るがすほどの戦いの余韻が残りつつも、表向きには“原因不明”とされる……そんな一幕。
次回からは再び日常へ。
しかし、ポムの怪我やお母さんの秘密が、次の展開に静かに繋がっていきます。




