【第34話】「今を楽しむ日常」
えーさんの作業場で聞かされた秘密、そしてナオさんの旅立ち。
揺れる気持ちを抱えつつも、ルミは「今を楽しむ」という選択を胸に刻む。
姉とポムもまた、それぞれの想いを抱えながら日常を歩んでいく。
えーさんの作業場からの帰り道。
私は胸の奥で、ナオさんの手紙のことと、えーさんの言葉を何度も反芻していた。
「今を楽しむかぁ……」
今いくら考えたところで、何も始まらない。
けれど、私を支えてくれるみんながいる。
お母さんも、お姉ちゃんも、ポムも。
その温かさを思うと、自然と笑みがこぼれた。
——今は今を楽しもう。
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その頃、あーちゃんはポムを抱きながら市場へ向かっていた。
「ねぇポム、この間の休みに何かあったの?」
当たり前だが、ポムは言葉を喋らない。
けれど「ワン」と短く鳴いて、返事のように答えた。
「あぁ……やっぱり、なんかあったんだね」
お姉ちゃんは少し物憂げに呟き、ポムの耳を撫でた。
「……私の記憶がないのも、どうにかならないかなぁ」
小さな声で漏らす。
「記憶がなくても体が勝手に動く。変な感覚だよね。
でも、もしそれを言葉にしたら、私が私じゃなくなる気がして……」
言い終えると、ポムは「ふぅん」と小さく嘆くように鳴いた。
けれど次の瞬間、「ワン!」と力強く吠えた。
「そうだよね。今考えても仕方ない。今を生きるしかないか」
お姉ちゃんは肩の力を抜き、気持ちを切り替えた。
ターザンの八百屋では筋肉ネタに笑い、コージーさんの肉屋ではポムが甘えて癒しを振りまく。
香辛料屋ではナオさんの不在を感じながらも「またすぐ帰ってくる」と信じて、荷物を抱えて帰ってきた。
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その頃の私は、キムチの仕込みを終えていた。
今日はシャキシャキした山芋を漬け込み、ピリッと爽やかな味に仕上げる。
横ではお母さんが、コリコリ食感のチャンヂャを海苔で巻いた「チャンヂャ巻き」を完成させていた。
「お母さんって、本当にすごいなぁ……」
思わず呟くと、お母さんはにっこり微笑んだ。
ちょうどお姉ちゃんとポムも帰ってきたところで、開店の準備が整う。
七輪に炭を入れ、暖簾を掲げる。
「異世界焼肉、本日もオープンです!」
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今日も最初のお客様は、やはりえーさん。
「今日はありがとう」と頭を下げると、えーさんはどこか嬉しそうに笑った。
私は——今を楽しむ姿を、ちゃんと見せられているだろうか。
するとお姉ちゃんがこちらを見て、ふっと眉をひそめる。
「うちの妹に変なことしてないでしょうね?」
「やれやれ」と肩をすくめるえーさん。
その軽いやりとりに、お客たちはクスクスと笑い、店内が柔らかい空気に包まれた。
その後も次々とお客さんが入り、七輪の上で肉が焼ける音と笑い声が絶えなかった。
夜も更け、最後に現れるのは——やっぱりあの男、より坊。
お姉ちゃんに叩かれたり、ポムに吠えられたりしながら、結局ドワーフ腹になるまで飲まされて千鳥足で帰っていった。
片付けが終わると、恒例のシーン。
お母さんが腕をしっかり伸ばし、ポムに干し肉を差し出す。
「今日もよく頑張ったわね」
ポムはしっぽをぶんぶん振りながら干し肉を頬張った。
その姿に笑いながら、私は心の中でつぶやいた。
「異世界焼肉、本日もクローズです」
第34話「今を楽しむ日常」お読みいただきありがとうございました!
揺れる心を抱えながらも「今を楽しむ」という選択をするルミ。
姉とポムの会話を通じて、少しずつ“秘密”の影が深まる一方で、日常の賑やかさが一層引き立った回でした。
次回は、また新しい客や出来事が待ち受けているかも……?




