↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界焼肉  作者: 天坂 透真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/48

【第30話】「余韻と、静かな再開」

ヨルゼンでの死闘を経て、私たちは街に帰ってきました。

まだ体の奥に残る震えと、胸の中に巣くうざわつき。

でも日常は待ってくれない――焼肉の香りと笑い声が、再び私を迎えてくれます。


今日はその“余韻”と“日常の再開”を描きます。

そして、一人の常連客が放ったひとことが、新たな物語の幕開けを予感させるのです。

◆ 帰還の安堵


街の門をくぐった瞬間、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。

昼過ぎの陽射しに包まれた石畳の街並みが、こんなにも穏やかに見えるなんて。

昨日の咆哮と血の匂いが幻だったかのように錯覚してしまう。


「ふぅ……生きて帰れたな」

御者台のヒョウさんが、深く息を吐きながら馬を下りた。

風雷のメンバーも、それぞれ疲れた顔で肩を寄せ合う。

誰もが昨夜の光景を、まだ言葉にできずにいる。


私はポムを抱きしめた。

「ポム……よかったね、無事で……」

ポムは小さく「ワン」と返事をして、私の胸に顔をうずめてきた。

その温もりだけが、現実に繋ぎ止めてくれる。


⸻


◆ 秘密の重み


家に戻る前、ナオさんは静かに言った。

「昨日のことは、誰にも話しちゃいけないよ。ルミ。あんたのためにも、みんなのためにも」


私はただうなずくことしかできなかった。

“あの瞬間”――自分の口から紡がれた呪文も、召喚された龍も、何一つ覚えていない。

ただ、体の奥が灼けるように熱く、そして……恐ろしくも心地よかった。


「私……何なんだろう」

自分の胸に問いかけても、答えは出ない。

でも日常は待ってくれない。

焼肉屋の仕込みも、キムチの漬け込みも、私を待っている。


⸻


◆ 日常の再開


翌朝。

昨日までの嵐が嘘のように晴れ、私たちの家に、またいつもの朝が戻ってきた。


布団の中に潜り込んでくるポム。

お母さんが半開きの扉から「起きなさいよー」と声をかける。

その前にお姉ちゃんの布団へ戻り、ちょこんと座って「ワン」と挨拶するポム。

……そうだ、これが私の“日常”だ。


お母さんは今日の一品を仕込み、私は水キムチを漬け込み、お姉ちゃんは酒瓶とにらめっこ。

七輪に炭を入れ、暖簾をかければ。

「異世界焼肉、本日もオープンです!」


あの戦いが嘘のように、肉の焼ける音と笑い声が広がっていく。

でも、胸の奥のざわつきは消えない。


⸻


◆ えーさん


最初に現れたのは、やはりこの人だった。

常連のえーさん。

いつものカウンターに座り、黙って塩たんを焼いて、胡椒を振って、エールを飲み干す。


私はそっと声をかけた。

「えーさん、今日もありがとうございます」


すると彼は、にやりと笑って。

「……いよいよ始まったかもしれんな」

とだけ呟いた。


「え? 何がですか?」

思わず聞き返したけれど、えーさんは話題を切り替えるように肉を口に運び、

「やっぱり、ここは旨いな」

と笑ってごまかした。


私には意味がわからなかった。

けど、その言葉は胸に深く刺さった。

――えーさんは、何かを知っている。


横でポムが「ワン」と吠え、まるで“同意”するかのように尻尾を振った。

私は思わず、息を呑んだ。


⸻


◆ 閉店後


夜。

お客さんが引け、静けさを取り戻した店内。

お母さんが腕をしっかり伸ばして、ポムに干し肉を差し出す。

「今日もよく頑張ったわね」


ポムは嬉しそうに干し肉を頬張り、尻尾をぶんぶん振る。

お姉ちゃんと私は笑い合った。

――そうだ、これが私たちの日常。


けれど、えーさんの言葉が頭から離れない。

「いよいよ始まったかもしれんな」


何が始まるのか。

私はまだ知らない。

けれど、そのときが来るのだとしたら……

きっと私は、逃げられない。


胸の奥に、ひとつの決意の種が芽吹いた気がした。


「異世界焼肉、本日もクローズです」


第30話「余韻と、静かな再開」お読みいただきありがとうございました!

今回はヨルゼンの戦いの翌日、街に戻った後の日常を中心に描きました。

えーさんの「いよいよ始まったか」という一言が、これから先の展開の伏線になります。


日常と非日常の間で揺れるルミの心。

その“秘密”が、いよいよ物語を大きく動かしていきます。


次回もどうぞお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。