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異世界焼肉  作者: 天坂 透真


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【第29話】「厄災の豚と始祖龍の影」

嵐の夜に響いた咆哮。

ナオさんが「厄災」と呼んだ存在がついに姿を現す。

圧倒的な魔力と力の前に、仲間たちは身をすくめるしかない。

そんな中、私の口から知らぬ呪文が紡がれ——星空の下、運命の戦いが幕を開ける。

◆ 厄災の出現


咆哮とともに空気が重くなる。

肌を刺すような圧に、ナオさん以外誰ひとり動けなかった。

「くっ……やはり来たか」


木々を薙ぎ倒し、姿を現したのは巨大な豚の魔物。

その存在感は、ただの魔獣ではない。

「——イベリコ」

ナオさんが名を告げる。

「厄災の豚だ」


その巨体から迸る魔力が、大地を軋ませる。


⸻


◆ ナオさんの戦い


ナオさんは即座に空間魔法を展開。

そこから取り出したのは、大剣。

「並列思考——展開」


幾重にも紡がれる魔法陣。

次々と放たれる攻撃魔法が、イベリコの吐き出す魔法弾とぶつかり合い、互いの力を相殺していく。


「はあぁっ!」

剣に稲妻のような光を纏わせ、肉体強化の魔法で加速する。

雷鳴と共に大剣を振り下ろすが——。


「ブモォォォ!」

イベリコの皮膚にはほとんど傷がつかない。

地響きのような咆哮と反撃に、何度も衝撃波が走った。


それでもナオさんは怯まない。

魔法と剣技を組み合わせ、三十分以上も渡り合い続けた。

けれど、徐々に疲労がその身を蝕んでいく。


⸻


◆ ルミへの指示


「ルミ!」

戦いの最中、ナオさんが叫ぶ。

「こいつは私が引きつける! お前たちはルミを護って街に戻れ! 援軍を——」


その言葉を遮るように、イベリコが笑う。

「逃すか……その女、喰らってやる!」

血走った瞳が、私を射抜いた。


次の瞬間、巨大な魔力の奔流が放たれる。

「——ッ!」

ナオさんが結界を張り、私たちをかろうじて守った。


⸻


◆ 覚醒


恐怖で足がすくむ。

でも、心の奥から声が響いた。

——守らなきゃ。


気づけば私はナオさんの横に立ち、知らぬ呪文を口にしていた。


「術式天界——曼荼羅」


眩い光が走り、見たこともない魔法陣が空に浮かぶ。

その中心から現れたのは——一体の龍。


「タジマ……」


私の口から自然にその名が紡がれた。

始祖龍。すべての龍の源。


タジマは言葉を発することなく、ただイベリコに向けて圧倒的な魔力を解き放った。

見たこともない魔法が嵐のように襲いかかり、イベリコは抵抗する間もなく倒れ伏した。


そして——タジマの姿は光の粒子となって消えていった。


⸻


◆ 戦いの後


「……助かった」

ナオさんが荒い息を吐きながら、私を見た。

「ルミ、あなた……一体なに者なの?」


けれど私には答えられなかった。

あの呪文も、タジマのことも、覚えていないのだ。


ヒョウさんも、風雷のメンバーも呆然と立ち尽くしていた。

イベリコの巨体は、ナオさんの空間魔法で回収された。


そしてナオさんは厳しい声で告げた。

「このことは外に漏らすな。契約魔法を結ぶ」


光が走り、私たちは互いに口外できない契約を交わした。


⸻


◆ 帰路


結界魔法で守られた夜。

興奮と不安で誰も眠れなかったが、身体を休めることはできた。


朝になるとすぐに出発。

ヨルゼンの丘を後にし、昼過ぎには街へと戻った。

みんな疲れ切っていたが、無事に帰還できたことに安堵した。


解散後、私はポムと一緒に家路を急いだ。

「ポム……私、どうしちゃったんだろう」


混乱する私を、ポムは黙って抱っこをせがみ、温もりをくれた。

「……無事でよかった。まずはそれだけでいい」


胸にそう言い聞かせながら、私は心に誓った。

秘密の謎が解けるその日まで——。

「異世界焼肉、頑張ろう」


第29話「厄災の豚と始祖龍の影」お読みいただきありがとうございました!

今回は大きな転換点となる回。ルミの覚醒、始祖龍タジマの登場、そして“厄災イベリコ”との死闘。

これまでの日常とは一線を画す出来事が描かれました。

次回からは、日常と謎が交差する展開をさらに深めていきます。


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