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異世界焼肉  作者: 天坂 透真


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【第16話】「水キムチと赤いオーラ」

異世界焼肉の日常は、決して単調ではありません。

常連さんの笑顔や、偶然の出会い、そして不思議な出来事が毎日のように起こります。

今回は、私ルミが漬けた「水キムチ」と、常連えーさんが見抜いた“不思議な一言”が重なる一日。

ポムも大活躍する16話をお楽しみください。


また新しい朝の始まり。

目を覚ますと、ポムが当たり前のように私の布団の中に潜り込んでいた。

ふわふわの毛に顔を埋めると、温もりが心地よく、思わずもう少し眠ってしまいたくなる。

けれど、お母さんが部屋の前に来て扉を半分ほど開ける前には、必ずポムはお姉ちゃんの布団に戻っていく。

そして、お母さんの前にちょこんと座り、「ワン」と短く挨拶。

お母さんは相変わらずドアを少しだけ開けたまま、「起きなさいよー」と声をかける。

——これが最近の毎朝のルーティンだった。


今日はお姉ちゃんが市場の仕入れの日。

私はお母さんと一緒に仕込みを始めることに。

ポムはお姉ちゃんに付き添って、元気よく出かけていった。

「また何かやるつもりかな…」

空気を読む犬、ポムの行動は予測がつかない。けれど、きっと市場の散歩を楽しんでいるのだろう。


私は店の掃除を済ませると、厨房でお母さんから料理を教わる。

今日は私の番で「名物キムチ」を漬けることになった。

仕込むのは——水キムチ。


◆ 水キムチの仕込み


唐辛子をあまり使わず、塩とにんにく、それにほんのりと果物の甘味を足した透明な漬け汁。

そこに大根やきゅうりを切りそろえて入れると、やがてさっぱりとした酸味の効いた水キムチになる。

焼肉の脂をすっきり流してくれる、大切な箸休め。


「いい香りだねぇ、ルミ」

お母さんが微笑みながら言う。

その笑顔に少し照れながら、私は心の中でガッツポーズを決めた。


そうして水キムチが仕上がるのと同時に、お母さんの「今日の一品」も完成。

ちょうどその頃、お姉ちゃんとポムが帰ってきた。

「ただいまー! 今日もいい仕入れしてきたよ!」

元気なお姉ちゃんの声と、しっぽをぶんぶん振るポム。


七輪に炭を入れて、暖簾をかける。

「異世界焼肉、本日も元気にオープンです!」


⸻


◆ 喧騒と静かな気配


最初に入ってきたのは常連えーさん。

いつもの一人席に腰を下ろし、慣れた手つきで「たん」を注文する。

一枚一枚を丁寧に焼き、レモン汁は使わず、塩胡椒を多めに振って味わう。

「人それぞれ楽しみ方があるなぁ」と、私は心の中で呟く。


すぐに他のお客さんたちも次々と入ってきて、店はあっという間に満席。

外には行列までできていた。


赤く焼けた肉の香ばしい匂いと、エールを煽る音。

そんな中、えーさんは今日の一品「もつ煮込み」と、私の漬けた水キムチに手を伸ばした。


「こっちもいいねぇ…」

満足そうに頷くえーさんだったが、その視線はふと、隣の席のお客へ。


「……あの人、赤いオーラが出てるな」

私にだけ聞こえる小さな声。


「え? オーラ? 元気そうに見えるけど…」

私は思わず首を傾げた。


そのお客さんは、帰り際に私へ小さく打ち明けた。

「実は医者に、お酒をやめなきゃ死ぬって言われててね。ヒールじゃ治らないんだってさ。だから明日からは本気で控えるよ」


その言葉に私は驚き、えーさんの言葉を思い出す。

物書きであって医者ではないのに、どうしてわかったのだろう。

——不思議な出来事だった。


⸻


◆ より坊と、ポムのひと吠え


夜も更け、客が少しずつ帰っていく頃。

最後にやってきたのは、より坊とその友達のなっかん。

二人ともお姉ちゃんに飲まされ、ドワーフ腹になるまで飲み続ける。


そして——恒例の一幕。

より坊が酔いに任せて、また余計なことを言い出そうとした瞬間。


「ワンッ!」


ポムが吠えた。

その一声により坊は言葉を飲み込み、代わりに店内は大爆笑に包まれる。

「ポムの方が空気読めてるじゃん!」

誰かがそう言い、みんなが頷いた。


より坊は頬を赤くしながらも、結局お姉ちゃんに叩かれることなく済んだ。

私はポムにサムズアップを送り、ポムはしっぽを誇らしげに振っていた。


⸻


◆ クローズの時間


やがて全てのお客さんが帰り、静けさが戻る店内。

私はもやもやとした気持ちのまま、えーさんの「赤いオーラ」の謎を思い返していた。

けれど今は聞けない。また明日、えーさんに会えたら尋ねてみよう。


片付けが終わった頃。

お母さんはいつものように、腕をしっかり伸ばしながらポムへ干し肉を差し出す。

「今日もよく頑張ったわね」

その姿を見て、私とお姉ちゃんは同時に笑い声をあげた。


——こうして今日も、異世界焼肉は温かな笑いに包まれて幕を閉じた。


「異世界焼肉クローズです」


第16話「水キムチと赤いオーラ」お読みいただきありがとうございました!

今回は、私ルミが漬けた“水キムチ”と、えーさんの不思議なひと言が印象的な回でした。

異世界であっても、人と人とのやりとりや、心の中に芽生える小さな気づきは変わらない。

そんな思いを込めて描きました。


次回も、笑いと温もりが詰まった異世界焼肉に、ぜひ遊びに来てくださいね。


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