【第14話】「一品から名物へ」
異世界焼肉の魅力は、七輪の上でジュウジュウ焼ける肉だけではありません。
その日、その時の食材から生まれる「今日の一品」こそ、この店のもう一つの看板。
今日はそんな“一品料理”にまつわる、ちょっと特別なお話です。
「おはようございます!」
……なんて、誰に向かって言ってるんだろう、と自分で思いながら笑ってしまった。
いつもの朝の光景。
ポムが私の布団に潜り込み、お姉ちゃんのところへ戻ってから、お母さんが半分だけ開けた扉から「起きなさいよー」と声をかける。
もうすっかり定番になった毎日の始まり。私はその幸せをかみしめていた。
今日は、異世界焼肉の“あるもの”について紹介したい。
それは――「今日の一品」。
お母さんが作ることが多いけど、たまに私も任される。
肉屋のコージーさんが勧めてくれる珍しい部位や、八百屋のターザンさんの野菜を使ったり。
ときにはキムチに仕立てて、常連のお客さんに喜ばれることもある。
ちなみに、姉は最近“ソムリエごっこ”に夢中で、酒屋のケンタさんと何やら怪しい密談をしている。
でも必ずお母さんが鋭い目で見張っているので、まぁ大丈夫だろう。
⸻
この世界では、小型の龍種が牛代わりに育てられている。
冒険者が野生の龍を仕留めると、高値で市場に出回ることもあるけど、ネームドと呼ばれる“マツサカ”“コウベ”“チヤ”なんかは滅多に仕留められない。
ほとんどは王家の食卓へ消えるそうだ。
焼肉にするとき、必ず出るすじ肉。
そのままじゃ食べられないけど、お母さんが作るすじ煮込みは絶品だ。
胃袋も、浄化魔法を使って清潔にして、焼肉として出したり、一品料理に使ったりする。
ハチノスの煮込みや、イリカスなんかも評判がいい。
そうやって毎日違う料理が生まれ、お客さんを楽しませている。
今日はそんな“一品料理”がテーマの一日だった。
⸻
七輪に炭を入れて暖簾をかける。
「異世界焼肉、本日もオープンです!」
早い時間から必ずやってくる常連客――えーさん。
オープンと同時に一人席に座るのがすっかり習慣になっていた。
毎回注文するのは、たんかつらみ。
それを一枚一枚丁寧に焼き、エールを飲み干して満足げな顔をする。
今日の一品は、骨盤あたりの希少部位“めがね”。
仕込みの都合で出ない日もあるけど、今日は運良く提供できた。
もちろんえーさんも注文したのだが、何度もこちらをちらちら見てくる。
「どうしたんですか?」と声をかけると、えーさんは少し照れながら言った。
「美味しいんだけどさ、手の込んだものも楽しみにしてるんだよね」
その言葉に、私は思わず壺から自分用に漬けていたチンゲンサイのキムチを取り出した。
「毎日来てくださってるから、サービスです」
「いいのかい?」
「どうぞ」
一口食べた瞬間、えーさんの顔が変わった。
「こりゃあ旨い!」
その声があまりに大きかったので、店内のお客さん全員に聞こえてしまった。
「え? それなに?」
「俺も欲しい!」
結局、私のチンゲンサイのキムチは、あっという間に売り切れになった。
⸻
営業が落ち着いた頃、えーさんは申し訳なさそうに謝ってくれたけど、私はむしろ嬉しかった。
お客さんたちは「美味しかった」と口々に褒めてくれ、チンゲンサイのキムチは異世界焼肉の名物の一品としてレギュラー入りすることになったのだ。
「少しはお店に貢献できたかな?」
私は心の中で小さくガッツポーズをした。
次は水キムチを仕込もうかな。
ちょっと酸っぱいくらいのが好きなんだ。
そう考えながら、今日もお客さんの笑顔を胸に刻み、閉店の時間を迎える。
異世界焼肉クローズです。
第14話「一品から名物へ」お読みいただきありがとうございました!
今回は“今日の一品”がスポットライトを浴びたお話でした。
日々の小さな挑戦や工夫が、お客さんの笑顔につながり、やがてお店の“顔”になる……そんな喜びを描きたかった回です。
次回はまた、どんな出来事がこの異世界焼肉を賑わせるのか。
お楽しみに!




