【第13話】「誕生日肉ケーキ」
異世界焼肉の日常は、毎日同じようでいて、毎日違う。
今日は市場で仕入れた“特別なお肉”が、思いがけない形で新しい歴史を作ることになる――。
今日も新しい一日の始まり。
変わらない風景の中で、ポムと私とお母さんとお姉ちゃんが織りなす朝のルーティンが繰り返される。
この何気ない光景に、私は最近とても幸せを感じるようになっていた。
今日は私の市場仕入れの日。
なぜか妙な胸騒ぎがしていたが、それを振り切るように市場へ向かう。
肉屋のコージーさんが顔を出し、「今日は龍しゃぶのいいところが入ってるよ。くらしたっていう部位だ」と勧めてくる。
「じゃあ、そこ多めに頂戴」と即答した。
焼肉屋なのにしゃぶしゃぶ用の肉を買ってしまったのは、なんだかその部位に惹かれたから。
店に戻ると、お母さんに「うちは焼肉屋だよ」とチクリと指摘される。
私は「たまにはいいじゃん」と思いつつ、口をつぐんだ。
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今日の一品が完成する頃、七輪に炭を入れ、暖簾をかける。
異世界焼肉、元気にオープン!
店内はすぐにごった返し、今日も賑やかに。
ふと見ると、ひとり席が空いていた。そこへ久しぶりに姿を現したのは――御者のヒョウさんだった。
「久しぶりじゃん」とお姉ちゃんに声をかけられながら席に着くヒョウさん。少し疲れた顔をしている。
閉店間際になり、客もまばらになった頃。私は思い切って話しかけてみた。
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この世界って、1月1日に全員が歳をとる。
誕生日を祝う習慣がない。
砂糖が希少のためケーキがない。
いろんな話をしていると、ヒョウさんが「今日は……俺の生まれた日なんだ」とぽつりと告げた。
私は胸の奥で何かが弾けた。裏へ走り、深めの小皿を用意。買ってきた龍しゃぶのくらしたを丁寧に並べ、その真ん中に一本のローソクを立てる。
「ヒョウさん、お誕生日おめでとうございます!」
皿を差し出した私の声に、ヒョウさんは目を丸くする。
「ケーキ?」とすぐに反応するお姉ちゃん。
「お誕生日おめでとう?」と驚くお母さん。
私は笑いながら「まーいいじゃん。今日は異世界焼肉初めての誕生日祝いだから!」と答える。
ヒョウさんは呆気に取られながらも、どこか嬉しそうに「これは……辛口か?」と軽口を叩く。
「いいから早く、ふぅってして!」と急かす私。
ヒョウさんはローソクを吹き消し、思わずよだれを垂らしてしまった。
「で、なんで一本なんだ?」
「それは、この異世界焼肉で初めての誕生日祝いだからですよ」
そう告げると、ヒョウさんの顔に本物の笑みが浮かんだ。
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その場に残っていたお客たちも感動したらしく、後日「私の誕生日にもやってほしい」と頼まれるようになった。
そこから誕生日祝いは評判を呼び、毎日のように誰かが「誕生日」と名乗り出ては肉ケーキを注文する。
商売的には大成功。だが、お母さんは「誕生日は1月1日でしょ」と渋い顔。お姉ちゃんは「?」マークを浮かべていた。
それでもお姉ちゃんはちゃっかり「龍しゃぶのくらした代は請求するからね」とヒョウさんに言い放つ。
ヒョウさんは「嬉しいからいいよ」と笑顔で払ってくれた。やっぱりお姉ちゃんは商売上手。
けれど、少しだけ私もお店に貢献できた。
やがて、この「誕生日を祝う」という風習は他の店にも広がり、やがて国全土に定着していく。
――けれど、その始まりが自分だったことを、私はまだ知らない。
こうして今日も歴史的な一日が幕を閉じる。
異世界焼肉クローズです。
第13話、お読みいただきありがとうございます!
今回はルミの小さなひらめきが「誕生日祝い」という文化を作り出すお話でした。
異世界に新しい習慣が生まれる瞬間を描けて、私自身もとても楽しかったです。
次回は、この“誕生日ブーム”がどんな騒動を呼び込むのか……?
どうぞご期待ください!




