【第11話】「ソムリエと空気の読めない男」
異世界焼肉に看板犬ポムがやって来てからというもの、朝の光景は少しずつ変わってきた。
空気を読む犬、ビクビクするお母さん、マイペースなお姉ちゃん――そして、相変わらず現れる常連客たち。
今日もまた、笑いとドタバタの一日が始まる。
また新しい朝の始まり。
目を覚ますと、ポムが当たり前のように私の布団の中に潜り込んでいた。
ふわふわの毛に顔を埋め、温もりを感じる幸せなひととき。
だが、お母さんが部屋の前に来て扉を半分ほど開ける前には、必ずポムはお姉ちゃんのところに戻る。そして、お母さんの前にちょこんと座り、「ワン」と短く挨拶するのだ。
お母さんは相変わらず少しだけドアを開けたまま「起きなさいよー」と声をかける――これが最近の毎朝のルーティンになっていた。
今日は私が市場への買い出し当番。
お姉ちゃんはベッドの上で四つん這いになり、その背中にポムが同じように四つん這いで乗っている。まるで応援しているみたいで、ちょっと笑ってしまう。
そんな光景を横目に見ながら外へ出ようとすると、厨房の奥から「ちょっと」とお母さんに呼び止められた。
「これを向かいの飛脚屋のタッさんに出してきておくれ」
手渡されたのは、お母さんのお兄さん宛の小包だった。
買い出し前に飛脚屋に寄ることにする。
飛脚屋の店先は、荷物や帳簿でごった返している。タッさんはぶつぶつと独り言を言いながら忙しそうに動き回り、こちらに全く気づかない。
時間が惜しい私は、つい強めの声で「タッさん!」と呼んだ。
「わぁっ!」と大げさすぎる反応に、心の中で(びっくりしすぎじゃない?)とツッコむ。
その後も説明が長く、途中から話の意味が分からなくなりそうだったが、なんとか無事に小包を預けられた。
(もっと簡潔に話せばいいのに……)と呟きながら市場へ向かう。
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買い出しから帰ると、店内からお母さんとお姉ちゃんの言い争う声が聞こえてきた。
慌てて止めに入ると、二人は同時に言葉をぶつける。
お母さん:「この子が勝手に好きなお酒を頼むから、ここのケースはもう並べられない」
お姉ちゃん:「たくさんある方がお客さんが喜ぶじゃない!」
確かに、お姉ちゃんは収集癖があって、面白そうなお酒を見るとすぐに仕入れたくなる。
私は間に入って提案した。
「気持ちは分かるけど、一旦整理して、よく出るお酒はケースに並べて、変わったお酒は奥から“ソムリエ”として選んで出してあげれば喜ばれるんじゃない?」
するとお姉ちゃんは「ソムリエか……いいね、それ」と納得。お母さんもまだ少しむすっとしていたが、渋々了承してくれた。
やれやれ、一件落着だ。
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今日の一品が出来上がる頃、七輪に炭を入れ、暖簾をかければ――本日も異世界焼肉オープンです!
店内はいつもの喧騒。肉の焼ける香り、エールの泡立つ音、そして時折響く笑い声。
そんな中、またしてもあの男、より坊がやってきた。
閉店間際、姉は「ソムリエ」の言葉がすっかり気に入ったのか、より坊に「あなたに合うお酒を選んであげたわ」と得意げにグラスを差し出した。
だが、より坊は酔いもあって空気を読めず、「俺は焼酎にレモンだ」と口にしてしまう。
次の瞬間――バシーン! 姉の手がより坊の頭を叩いていた。
「痛ぇ!」と叫ぶより坊。理由も分からず叩かれた彼は呆然。
姉は「今日はもう閉店!」と勝手に暖簾を下ろしてしまう。
そんなんだから…結婚…これは、私の心の中の気持ち。
他のお客は大笑いだが、まだ飲んでいた客たちは「そりゃないよ、アーちゃん!」と不満顔。
「より坊、お前のせいだ!」と総ツッコミを受け、より坊はしょんぼりと店を後にした。
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片付けが終わった後、お母さんはいつものように腕をしっかり伸ばし、ポムに自家製の干し肉を差し出す。
そろそろ慣れればいいのに……と思うのは、たぶん私だけだ。
今日も笑いと賑わいに包まれて、異世界焼肉クローズ。
第11話、お読みいただきありがとうございます!
今回は朝からポムの“空気読み行動”で始まり、昼はお酒の陳列を巡るお母さんとお姉ちゃんの口論、夜はより坊の空気の読めなさ炸裂……という、まさに三本立てのドタバタ回でした。
回を重ねるごとにキャラクターの関係性が見えてきて、店がますます賑やかになっています。
次回は、より坊がちょっと挽回する場面が見られる……かもしれません。お楽しみに!




