【第10話】「空気を読む看板犬」
異世界焼肉に、新しい日が訪れる。
今日は、看板犬ポムの不思議な一面が見られる朝――。
ほんの些細な仕草が、家族のような温かさをより強く感じさせる一日になる。
今朝は、いつもの朝とは少し違っていた。
なぜなら――お姉ちゃんと寝ていたはずのポムが、私の布団の中に潜り込んでいたからだ。
ぬくもりと柔らかな毛並み。ふと目が合うと、小さな瞳がきらりと光って尻尾を振る。
お姉ちゃんはまだ眠っていて、そのことには気づいていない。
私はそっと「可愛いなぁ」となでながら、束の間の癒しの時間を楽しんだ。
お姉ちゃんが見たら、きっと嫉妬するだろうから……お母さんの足音が聞こえるまでは、このままでいよう。
すると、廊下からパタパタと軽快な足音が近づいてきた。
「あ、もうすぐお母さんが来るな」と思った瞬間――ポムはするりと布団から抜け出し、お姉ちゃんの方へ帰っていった。
……この子、もしかして空気読んでる?
やがて、お母さんの「起きなさいよー」という声が聞こえ、ドアが半分だけ開いた。
普段なら勢いよくガバッと開けるのに、今日は妙に慎重だ。
お姉ちゃんはポムを抱きしめながら「ふぁ〜」と眠たげに起き上がる。
その瞬間、ポムはお母さんの元へ小走りに駆け寄った。
お母さんは思わず黄色い声をあげ、ドアの隙間から覗き込みつつも、やっぱりポムを意識している。
――やっぱりこの子、空気読んでるわ。
そんな朝のひと幕を経て、新しい一日が始まった。
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今日は仕入れがない日。
三人と看板犬一匹で、店の仕込みをする。
包丁の音、鍋の煮立つ音、香辛料の香り……その合間に、ポムがちょろっとお母さんの近くへ寄っていく。
甘えるそぶりを見せるけれど、決して距離を詰めすぎない。
お母さんも、まだまだビビっているはずなのに、口元には少し笑みが浮かんでいた。
その様子を眺めながら、姉も私も、なんだか幸せな気持ちになる。
仕込みが終わり、今日の一品も完成。
七輪に炭を入れ、暖簾をかければ――本日も異世界焼肉オープンです!
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開店と同時に、いつもの喧騒。
肉の焼ける音、エールの泡立つ音、そしてポムの存在が場を和ませる。
看板犬は新しいスタッフのように、お客さんの笑顔を引き出していた。
そんな中、今日もより坊がやって来た。
席に着くやいなや、姉と夫婦漫才のような掛け合いが始まる。
「お前、今日も結婚しない話かい?」
「うるせぇ、今日は焼酎にレモンだ」
お客さんたちも笑い、店内の空気はますます温かくなる。
私はふと思った――結婚できない男と、気を使わず対等にやり合える姉。ひょっとして、この二人、相性がいいんじゃ……?
そんな考えを胸に、より坊のグラスが空になるたび、新しいレモン焼酎を運んだ。
やがてより坊は、ドワーフのようにお腹をパンパンにして、千鳥足で帰っていった。
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閉店後。
今日も忙しくも楽しい一日が終わった。
お母さんは自家製の干し肉を手に持ち、腕をしっかり伸ばしてポムへ差し出す。
それを受け取るポムの姿に、姉と私は大爆笑。
――今日もいい一日をありがとう。
第10話、お読みいただきありがとうございます!
今回は、ポムの「空気を読む力」が光った朝から始まり、日中はお母さんとの距離を少しずつ縮める様子を描きました。
より坊と姉の夫婦漫才も健在で、店はいつものように笑顔でいっぱい。
ポムの存在は、異世界焼肉の雰囲気をさらに柔らかくしてくれるようです。




