出会いの前に①
今回から作中の人間が出て来ます。評価等お願いします。
ーカルク歴1238年 アメリゴ王国王都アルクスにて
教会の鐘が鳴る音が、私の意識を叩き起こした。もう少し寝ていたい、と思いつつも今日がとても大切な日だということを思い出して飛び起きる。
私のお母さんも、お父さんも、近所のメリアおばさんも体験してきた日。その日が来たことを実感して胸に喜びが湧き上がる。今までは何も考えず、大人たちの言うことをただ聞いているだけの子供だった。けれども今日から私は、自分の役割を知って国に奉仕することができるようになるのだ。どんなに嬉しいことか。もちろん、今まで私を育ててくれたお母さん達や国に対しての恩返しができるようになることに対しても喜んでいる。けれどもそれ以上に、ヘブンへ行けることに対する喜びが最も大きいのだ。自分を犠牲にして、他人に奉仕した者だけが行くことができる死後の世界。それがヘブン。
いつもの服ではない、国から支給された正装に袖を通しながらそんなことを考える。下の階に降りると、お母さんが熱々のスープとパンをテーブルに置いている。
「おはよう、ジェシカ。今日は適性検査の日よね?」
「うん、そうだよお母さん。私とっても嬉しいんだ。やっと奉仕ができるって考えたら。」
「ジェシカはいつも、『私、大きくなったら国に頑張ってご奉仕する』って言ってたものねぇ。お母さんもジェシカがこんなに信心深い子に育ってとても嬉しいわ。」
「お父さんがいつも奉仕することの大切さを教えてくれたからだよ。本当にお母さん達には感謝してる。」
そんな会話をお母さんとしていると、玄関からお父さんが帰ってきた。どうやら手紙を受け取ってきたみたい。
「ジェシカおはよう。いよいよジェシカも自分の役割を知る日になったんだな。」
「お父さんもおはよう。ずっと待ってた日が来て嬉しいんだ。」
「お父さんも適性検査の日は楽しみに待っていたよ。」
「やっぱりお父さんも楽しみにしていたんだね。」
そんな会話をしながら、朝ごはんを食べていく。完食した後、「ごちそうさま。」と言って私は通知書の入った鞄を持って教会へと向かった。
教会には私と同じぐらいの歳の人たちが、自分の役割を早くしろうと押し掛けていた。
友達と話している人もいるけれど、私は通知書に書かれている「適正検査」の内容を読むことにした。
適性検査。私たちの住むアメリゴ王国独自の素晴らしい制度。
他の国の人たちは、この制度を強く批判しているけどそれは彼らが存在しない神を讃えて生きる愚か者だから仕方ない。
18歳の誕生日に私たちは奉仕のための役割を教えられるのだ。
教会の牧師さんが私たちの相をという物を使って見る。その相の形や色によって私たちの適正を知り、最も適した役割を教えられるのだ。役割を教えられた後は、役割に応じた奉仕学校へと行き、卒業した後に奉仕を行う。これが適性検査の内容だ。
「通知番号1167、ジェシカ・アウリ。直ちにくるように。」
自分の名前が呼ばれたので、牧師さんのいる部屋へと行く。道中で役割を教わった後であろう女の子とすれ違う。その時、彼女が何かを落とした。すぐに拾って見てみると「適正奉仕:農家」と書かれていた。
彼女が、「あ、すいません。」と私の方に振り向く。落としたものを渡すと「ありがとうございました。」と言いながら彼女は教会の出入り口への方へと向かっていった。
農家か。国に住む人たちのために食べ物を作る仕事だからしっかりと奉仕することができる。
人口増加に伴う農地拡大によって、奉仕者が足りなくなってるからとても良い奉仕になると思う。
いい役割だな。いや、全部の役割がいい役割なんだけど。そんなことを考えていたら、牧師さんのいる部屋についた。アメリゴ様の姿が描かれた扉を開けて、部屋の中に入る。
「通知番号1167、ジェシカ・アウリです。役割を教えてもらうために来ました。」
「うむ。そのことは分かっている。相を見る前にいくつか質問させてもらっていいかな。」
「構いません。なんなりとお聞きください。」
それから私は牧師さんの質問に答えていった。住所や初等学校の確認。病気の有無などなど。生まれた時に国に決められる許嫁のことについても聞かれたけど、「盗賊に襲われて命を落としました。」と答えたら、「そうか。それは大変だったな。」と言われた。牧師さんからも改めて聞いたけど、許嫁がいなくなった人は、奉仕学校に入ってからまた新しく許嫁が決まることになっている。
「では、質問も済んだし、君の相を見ていこう。」
そう牧師さんが言うと、命翠玉に手をかざして目を瞑る。
何分かと経つと牧師さんは目を開いて「君の役割が分かった。」と私に言った。
私が18年間待ち望んだ言葉だった。一言一句聞き漏らさないために、牧師さんに集中する。
「いいか、君の役割はー書記官だ。」
書記官。その響きが頭の中に入ってくる。
公的文書に載る言葉を、一言一句間違えずに聞いて写す仕事。
喜びを噛みしめながら、牧師さんから役割証明書をもらい、教会の出入り口へと走って行く。
書記官。書記官。書記官。いい響きだ。
すぐに家に帰り、お母さん達に結果を報告する。
「私の役割を教えてもらって来たわ。」
「なんの役割なの?ジェシカ。」
「書記官よ!とっても嬉しいわ。やっと自分の役割が持てて。」
「書記官か、うん、とてもいい役割だ。父さんの友達にも書記官の人がいてね、彼もまた、奉仕して国役に立つ実感を感じているよ。」
「そうだ!今日はお祝いとして、マイクさんの店で食べましょうよ!」
「マイクさんのお店かぁ。私あそこのお料理大好きだからいくらでも食べられちゃう!嬉しいなぁ。」
「よし、それじゃあそろそろ父さんたちは奉仕に行ってくるよ。帰って来たらマイクさんの店に行こう。」
「分かった。その間に奉仕学校の手続きを進めておくね。」
そしてお父さんたちを見送った後、私は書類を整理して、必要事項を記入し、隣地区にある書記官奉仕学校にむかう。
受付の人に書類を渡し、「ジェシカさん。これから奉仕のために頑張っていきましょう」と言う言葉と共
に入学証明書と日程表を受け取った。
その日の夜、お母さん達と一緒にマイクさんの店に向かう。
「おっ、アウリさんいらっしゃい!そういえば今日はジェシカちゃんの適正検査の日だったね。そのお祝いできたのかい?」
「ええ、マイクさん。そうなのよ。この子もやっと役割を持てたと思うと本当に嬉しくれて。」
「ちなみに、ジェシカちゃんの役割はなんだったんだい?」
「書記官よ。やっと役割を持てて嬉しいの。」
「書記官か。いい役割だ!僕も最初は料理人という役割に疑問を持っていてね。けれども奉仕のために頑張って勉強したんだ。その結果、料理人という役割に自信を持てるようになったんだ。だからジェシカちゃんも頑張りな!」
マイクさんに配給権を渡して、料理を作ってもらう。
いつもと同じぐらいの速さで、マイクさんがご馳走を持って来てくれた。
プレートにはスライスしたパンが、ソースをかけられた状態で載せられていて、その隣には大きなハンバーグが載っている。少し子供っぽいと思う人もいるかもしれない。けれどもこれが私の好物なのだ。
料理に舌鼓を打ちながら、これからの奉仕についていろいろなことを家族と話している私だった。
主人公が出てくるまでもう少しかかります




