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第1章 第四話ノ弐 Bounty Hunt ~はじめての野営~

I'm still alive.

気が付けば,またもや更新に2ヶ月以上もかかってしまいました。本業が忙しいというのが最大の理由なんですが,頑張ってぼちぼち書いていこうと思います。

Thank you for your understanding in advance!



ブンッッッ


 大きな風切り音を上げて,ワシの身の丈はあろうかという長さを持つ大剣が空を切る!

 ほぼ横薙ぎに抜けていく一撃目に対して身を翻して右手側に避ける。そんなワシが大剣を避ける前にいた位置に2体目のオーガが声を上げながら巨大なメイスを振り下ろす。


「ころォすゥ」


ゴッッッ


 特殊スキル“言葉を理解し,話し,そして書く力”のおかげで言葉が分かるのはいいんだか,悪いんだか。

 しかしながら,ワシはその場にはおらず,当のメイスは空を切って地面にめり込む。続く3体目と4体目は,若干距離が離れていたせいか,突撃するかのような勢いでこちらに向かってきている。


「微妙な連携をしてくるんだな。オーガって頭悪いって相場が決まってたはずなんだがっ」


 愚痴のような一言を吐きつつ,大剣を持つオーガが次の攻撃に入る前に素早くワシは斬りかかる! 2撃目に入ろうと大剣を振りかぶる姿を見て,頭部への一撃必殺ではなく,動きを止めるべく右足の膝あたりを狙う。MPを強く押し込まれたアーブは一際綺麗な青に輝いて,いとも容易く奴の右膝を上下に両断する。


「ギィヤァァァッ」


ドォッッッッ・・・


 悲鳴のような不快な叫び声を上げながら,ものの見事にその巨体は倒れ込み,何かを喚き散らしながら赤黒い血飛沫を噴出する右膝を押さえて転げまわる。

 そんな様子にかかずらうことなく,くるりと半回転をして,地面にメイスがめり込んだことから態勢を立て直そうとする2体目のオーガに向き直る。一瞬にして奴のメイスを足掛かりに飛び上がり,首元を守っている防具ごとその頸部を鋭く薙ぎ払う。切れ味が増したかのようなアーブは軽やかな風切り音を立てて,頭部と身体を斬り離す!


シュゥワンッッ

ッグッチャ・・・ドゥンッ


 悲鳴を上げる間もなく,首が落ちて転がる音とそれを追うように倒れた身体の音が響き渡る。

 3体目と4体目がワシに辿り着く前のほんの一瞬で仲間の2体が倒されるのを見て,奴らは表情を変える。って言っても,ワシにしてみればオーガの表情なんてうまく読み取れるわけではなく,なんとなく雰囲気が変わったのを感じるぐらいなのだが。


「ナニをしタ,ニンゲン!」


 ただ,叫びながら突撃してくるオーガたちは,その勢いが急に止まるわけでもなく,駆け込んできた勢いを乗せた太い丸太のような2つの棍棒で襲いかかってくる。これらを奴らの間を走り抜けるようにして回避。

 オーガ達の背後に出て,向き直るタイミングでパティの方を見る。

 鎧の隙間から腹部へと打ち込んだ短剣を足場にして飛び上がり,短剣の柄につながっている鋼糸のようなものを首元に巻き付けてその背後に飛び降りるところであった。


「いつの間にそんな小細工を短剣に施していたんだ・・・ってか,ありゃ暗殺術か?」


 ワシの軽い驚きのセリフが出るときには,そのオーガの頭部は表情が変わる間もなくボトリと落ちた。

 彼女は,その様子を確認することなく,次のターゲットに向かっていく。


「パティの援護に焦る必要はなさそうだけど,ちゃっちゃと片づけますか。頼むぜ,相棒・・・はああぁぁっ」


 気合を放ち,今一層MPをアーブに注ぎ込む。イメージするは,オーガが持つ大剣を凌駕するような刀身。そのワシの想いに答えて,アーブの刀身が瞬時に伸長する。

 そして,ワシが走り抜けたことがわからず,不思議そうに周囲を見渡すオーガ達が背後のワシに気づくときには,喜色である黄色に発光したアーブの長大な刀身がオーガの一体を身に纏う革製と思しき鎧ごと真っ二つに両断する!


ドォウッ・・・ベチャリ・・・


 振り抜いたアーブの勢いを止めず,同じくこちらに向きを変えたオーガに斬りかかる。振り向いた一瞬のうちに隣の仲間が両断され,混乱している様子が垣間見えるが,手にある棍棒でアーブを受け止めようと構え直そうとするのは流石の反射神経と褒めるべきか。

 しかしながら,その棍棒がまともに受け止めるような位置に来る前にその黄色に輝く刀身はオーガに到達し,あえなく両断される。その背後にあるオーガの身体もろとも。


ッシュッパァアッ!!!


「ゥグアァ・・・」


・・・グチャッ


 長大な斬馬刀のごとく伸びた刀身は,オーガの屈強かつ大きな胴回りをものともせず,刀身の1/3ほどをオーガの背後に突き出しつつ素早く振り抜かれる。断末魔の声を上げて両断されたオーガの向こう側では,吹き上がる血飛沫越しに,パティが1体を牽制しつつもう1体に攻撃を仕掛けている姿が見えた。ワシは大剣を支えに立ち上がろうとしていた最初の1体目を下段からの斬り上げで斜めに両断してから,彼女の援護へと走り出す!


 瞬く間に彼女の左斜め後方に位置取り,牽制された方のオーガが再度の攻撃の素振りを見せたその時に抜刀術を発動する。下段に構え直されたアーブは“加速する力”の効果も相まって,目にも止まらぬ神速で真下から斬り上げられ,メイスを持った太い腕が肩から分断される。その腕が身体から離れる前に,すかさず上段から斬り落しを加えて左腕も分断する。そして,飛び掛かるようにして長大な刀身でオーガの眉間に刺突を注ぎ込む!


『極狂刀流 抜刀術 四の型』


ボトッ・・・ドゥンッ


 オーガは声を上げる間も与えられずに絶命し,後方へと倒れる。ワシはアーブを引き抜きつつ軽やかに飛び退って,その巨体から離れる。

 パティの方は,相対したオーガが振りかぶる大剣をいなした後に,その腕を足場に駆け上がり,オーガの首元に鋭い拳撃を放つ! 拳撃からのダメージと頭部への衝撃で,オーガの動きがより鈍くなる。その隙を逃がさず,こめかみに短剣が突き立てられる。


ザンッッッ・・・ッズゥウゥンッ


「うグェぇエ・・・」


 倒れていくオーガからパティは器用に飛び上がり,綺麗な蒼い髪をなびかせながら倒したオーガの脇に優雅に着地する。所作が美しく見えるのは,彼女の容姿が優れていることだけが要因ではないのだろう。そもそもの仕草等々が洗練されているのだ。


「あらあら,結局,5対2の配分になってしまいましたわね。ふふ,残念」

「まったく残念そうに見えないのは何でだろうな? ま,何はともあれ,危なげなく倒せたな」


 会話をしつつも,周囲に脅威などの気配がないことを確認してから,オーガの討伐部位である耳の部分を斬り落としていく。パティは,死体を始末すべく,オーガたちを一纏めにして焼却用の油をかけていく。


「結局のところは,ご主人様とわたくしであればDランクあたりは多少の数がいたところで問題ないということですね」

「そうだな。余裕が無いというわけでもないし,もう少し上のレベルの魔物も相手はできそうだな。とは言うものの,ギルドの話だとこの界隈はそれほど高いレベルの敵は出ないらしいから,ワシらの力量を推し量りきるには向かないな」

「はい。わたくしもそう思います。一方で,先ほどのダイアウルフ以上の数が出てきた場合の対処がどこまでできるかという懸案が残ります」

「抜刀術や剣術を使った感触と身体の動かし具合を思い返してみても,少なくとも,あの倍の数が来てもスキルを使えば何とかなりそうな気がするよ。MPの残量にもよるけどね」

「倍,ですか。過信は禁物ですが,目安として覚えておくようにいたします。・・・こちらの焼却準備は完了しました」ワシの回答を受けて,その端正な顔に軽い驚きの表情を乗せる。

「ありがとう。じゃ,火をつけたら,ここから離れて,最後に検知したゴブリンらしき集団を倒したら,今日のところは店じまいとしよう」

「かしこまりました」


 パティは優雅にお辞儀をしてから,まとめたオーガに次々と火をつける。血生臭さの代わりに,魔物の肉を焦がす嫌な臭いとその煙が周囲に立ち込め始める。

 この臭いと煙から離れるようにして,ゴブリンと思しき集団がいたあたりに向けて,ワシらは移動を開始する。途中,再度パティの‘Sensor’にて位置確認をするも,その集団は南側に移動をしていたようで,‘Sensor’の範囲の南端の方でウロチョロしているのが分かった。


「集団の全てを捉えてきれていない可能性もありますが,索敵範囲内での個体数は約15」

「了解だ。木立のおかげで見つかりにくくなっているだろうから,相対距離200m程度まで近づいて,様子を見るか」


 こちらの気配に気づかれないよう接近していくと,やはりゴブリンの一団がいるのが見えてくる。ただ,少し様子がおかしい。ワシの中の“常識”に照らし合わせても,20匹程度のゴブリンが集まるのはそうおかしい話ではないのだが,妙に統率が取れているように見えるのだ。それに,見た目の雰囲気から弓術士やら魔術士のように見える風貌の者たちもいる。


「あのゴブリンの集団,妙にまとまった感があるんだが・・・こう,統率が取れているというかなんというか」

「ご主人様もそう思いましたか。最初に遭遇した集団と違って,近接戦闘以外の攻撃手段を持つような個体が複数おりますし,数体ごとに纏まって動いているように見えます」

「パティの経験から見ても異常か?」

「ゴブリンの上位種のようにスキルを有する個体がいないわけではないので,異常とまでは言いませんが,違和感は感じますわ。雑多な集団ではないとなれば,連携を取った行動をするでしょうから,見た目以上の実力を持っている可能性はあります。どうしますか?」

「どうもこうも,金を稼がねばならん状況だし,見逃すという選択肢はないな。少々手強いのならば腕試しに持って来いだ。ま,ヤバくなったら撤退するから合図は見逃さないでくれ」


 パティの頷きをもって,ワシらはゴブリンたちへの強襲を開始する。ゴブリンとはいえ,数は多く,上位種の恐れもある。迷わず,特殊スキルを発動させる。


“アクティベート・アクセラレータ”


 MPがほんの少し抜けていく軽い喪失感とともに身体が軽くなったような感覚を知覚する。パティはワシに合わせるかのごとく,‘Status up’のスペルを詠唱する。


「先行するから,フォローを頼む」

「仰せのままに」


 走り出すと同時にアーブを手に取りMPを注ぎ込む。フゥゥィィィインという音とともに無事(?)に青く輝く刀身が顕現し,柄を握る手元から嬉しくなるような陶酔感が伝わってくる。そして,ほぼ一瞬でゴブリンたちが集まっているエリアに到達し,敵の全容が確認される。

 戦士系が7,弓術士系が4,魔術士系が4・・・戦士系の中には,1体だけ金属製のブレストアーマーとヘルムといった他と異なる装備の個体がいる。たぶん指揮官相当なのだろう。

 統率が取れている可能性が高いなら,頭である指揮官から叩くのがセオリーだな。魔術士系からの攻撃が心配されるが,ワシの“加速された”動きなら,発動前には倒せるはず。

 奴らの背後に周りこんでから,集団の中心部にいる第一ターゲットの背後に向けて跳躍するっ。

 ターゲットを含めた何体かが,跳躍する際の踏み込みの音に気づいて振り向こうとする刹那・・・


ッッッシィィンッ!!


 甲高い,金属を断ち切る音が響き渡り,金属鎧に身を包んでいたゴブリンがワシの横薙ぎの一閃で上下に分断される。


「てキしゅう・・・?」驚きの表情を浮かべて,ベチャリと崩れ落ちるゴブリン。

「タ,たいチョう!・・・ナ,なンだ,キさまハ?」所々に金属で補強がされている軽鎧を着たゴブリンは,一瞬でリーダーが切り倒されたことに狼狽しつつも,突然現れたつまりワシのことだがに醜い顔を歪めて怒りをあらわにする。


 他のゴブリンたちも突然現れた敵に驚いているが,ゴブリンとは思えない機敏さで戦闘態勢を取っていく。少し離れたところにいた魔術士系と思われる奴らはワシから距離を取ろうとし,弓術士系のゴブリンは弓を捨てて,ショートソードを抜くといった判断をする。もちろん,軽鎧を着たゴブリンたちは剣を抜き放ち,構えを取る。


「立ち直りが早いっての戦闘慣れしているのか? 明らかにおかしいだろ。ただのゴブリンじゃなくて,やはり上位種の類なのか?」


 ただ,そんな奴らに戦闘行動へ移るような余裕を与えるつもりはない。詠唱を始めようとしているゴブリン魔術士どもをターゲットにして,近接戦闘をしようとする一団を迂回するように駆け抜ける!


「みズがつドいし・・・ギャッ」

「かノものにネムり・・・グゥェッ」

「モえさカるひのチカら・・・オォッ」

「つヨキいちジンのカぜよ・・・ウグゥッ」


 ゴブリン魔術士は詠唱を終えることなく,短い悲鳴と共にアーブの青く輝く軌跡に沿って,両断されていく。極狂刀流の基本である神速の斬り込みと強く注ぎ込まれたMPの効果,それとアーブの鋭利な刀身の性能が相まって,“加速された”剣閃はゴブリンたちにとっては一瞬の出来事となった。

 剣などを構えていたゴブリンたちはワシの動きについていけず,奴らの背後から聞こえた悲鳴に反応して,振り向くのがやっとであった。


「き,キさま・・・」悪態をつこうとするも,ものの数秒もかからないうちに仲間の1/3が殺されたことへの驚きで言葉が出てこない,というところか。


 今一度アーブを構えて,剣術を発動しようとしたとき,駆け込んでくる後ろからの気配に気づく。


「ご主人様,速すぎです」短剣を手にゴブリンに相対しつつ,声をかけてくる。

「すまない。ちょっと気張りすぎたかもしれない。けど,始めた以上は全力でやらないと,なっ」


 そして,そんな会話を隙と見たか,ゴブリンたちが襲いかかってくる・・・が,素早く突き上げたアーブの黄色く輝く刀身から斬撃が乱れ飛ぶ!


『極狂刀流 剣術 散撃烈風!』


「ッグギャァァァ・・・」


 全ての斬撃は余すことなく,ゴブリンたちに吸い込まれ,青黒い体液を吹き出しながら倒れ込んでいく。今回は,パティの教え(?)に従って,MPを力強く注ぎ込んだことで威力が増したようである。軽鎧ごとズタズタになったようで,見渡す限り1匹たりとも立ち上がる気配がない。


「結局,上位種かどうかがわからんまま,倒してしまったな」

「装備の様子を見る限りでは,一般的なゴブリンとみなすのは難しいかと。とはいえ,現状のわたくしたちの戦闘能力からしてみれば“格下”ですわね」

「ふむ。そういうことか。時間も時間だし,討伐証明をとって,さっさとここを退散しよう」


 ワシらは,ゴブリンリーダーと思われる個体が身に着けていた金属鎧(胴回りがアーブによって真っ二つになってしまっているが・・・)と長剣だけは確保して,他はまとめて焼却することにした。当然かもしれないが,僅かな銅貨の他に金目のものなどはほとんどなく,討伐部位だけを取って死体をまとめていく。

 例のごとく焼却用の油をかけて,火をつける。期待を裏切らず,嫌な臭いと煙が立ち込める。


「さて,時間は夕方4時近くって感じか。距離的にはレンティル村に帰れるんだけど,野営道具も購入したことだし,練習かねがね野宿をしようと思うんだが」焼却したところから足早に離れつつ,野宿を提案する。

「ご主人様がどうしてもわたくしと野宿をしたいというのであれば,奴隷の立場としては断る道理はありません」同意のしるしに頷くようにして答えてくる。

「まあ,パティと野外で一夜を共にしたいという意味では合ってるな」真剣な表情でパティを見つめる。

「・・・え? いや,そういう方向は,その,困るのですが・・・」若干顔を赤くして,しどろもどろになっているところがかわいらしい。多少はそういう部分も持っているのね。

「ナニを想像されてるんですかっ?

 無事に正式契約できたら,野営を組むことは多々あるだろうから,やり方をお互いによく理解しておいた方がいいだろうって意味なんだが」あきれ顔を浮かべて返すワシ。からかうつもりの彼女にやり返せたようでちょっと嬉しい。ま,大人げないけど。

「あ!そ,それはそうですわね。も,もちろん理解していましたわ。

 ‘Sensor’で確認できた範囲内には,脅威となる魔物の類もいないようですし,仮にいたとしてもこの界隈の魔物程度であれば対処は可能でしょうから,野営の練習には向いていますね」取り繕うように,キリリとした表情を浮かべている。

「かと言って,あえて危険を呼び込む必要はないから,街道が見渡せるような位置取りで野営するか」


 結局,木立が少なく,川からも少し離れた開けたところで野営の準備をする。

 クロノグラフ改から,野営道具一式に,テーブルやらランタンなど夕食に使うアイテム類を取り出していく。携帯食料を出したときに,ふと思いついた質問を投げかける。


「そういやパティは料理の類は得意なのか?」

「何をもって“得意”とするかに依りますが,一般市民レベルの食卓から貴族が食す晩餐レベルまで一通りは作れる技量は持っておりますわ」そう答えた彼女の綺麗なアーモンド型の目は,得意気な微笑を浮かべている。

「奉仕術というスキルを持っているくらいだから,もしや?と思ったんだが,期待しても良さそうだな」

「・・・道具も材料もないようなこの状況下では,残念ながらご期待には沿えそうにありませんが」

「え,ア,そりゃそうだな。んじゃ,パティの凄さ加減はまたの機会に譲るとして,今日はワシがやりますか」

「ご主人様が,ですか?」

「まあ,見てなって」


 既に起こされている火のところに,ゴブリンどもからせしめた武器の類を骨組みにして櫓にし,クロノグラフ改から取り出した鍋を火にかける。

 次に,同じくせしめた解体中の鹿的な獣を一瞬だけ取り出して,腿の部分の肉と脂の部分を少し切り出し,先に脂を鍋に放り込む。脂が焼ける匂いが出てくる間に,切り出した肉は水洗いし,購入した調理器具セットに付いている塩を擦り込む。そして,脂が回った鍋に大雑把に切った肉を入れて,軽く焼いていく。肉が焦げ付く前に水を投入し,煮込んでいく。

 次に,携帯食料に同梱されている薄い黄色(所々に緑や赤が見える)の棒状のモノを取り出す。こいつは茹でた芋類を潰して練ったものに乾燥させた野菜を混ぜて焼き固めたものなのだ。この世界では一般的な保存食のようで,ワシの中の“常識”にもあった情報だった。こいつの一部・・・特に野菜の部分・・・をナイフで削り出して,鍋に投入する。


「なるほど。ディレールのスープを作るというわけですね」パティが感心したように覗き込んでくる。

「大した調味料も香辛料もないから,野性味あふれる味になるとは思うけどね。携帯食料の野菜分がうまく仕事をしてくれれば,干し肉なんかをそのまま齧るよりはマシな食事になるでしょうよ・・・ん? あれって鹿じゃないのか?」

「都会では“鹿”と総称しているようですが,地方によって若干異なりますけど,わたくしの出身地ではディレールと呼んでおりましたわ」

「ふーん。方言とかそういうところか。ま,うまければ何でもいいさ」鍋の中をお玉でかき混ぜつつ,灰汁を取りながら返事を返す。よく鍋を囲んでいた仲間うちから,“灰汁代官”と呼ばれるくらいのこだわり派としてはきっちりやり遂げるべく真剣に鍋に向かう。


「あ・・・鹿といえば,ボブさんのシチューを食べそびれちゃってたな」

「ボブさん,とは?」

「レンティル村に来る前,王都にある“黄金の雄鶏亭”ってところに泊ってたんだけど,そこはメシがうまいところでね。とある日の夕飯が,そこの主人であるボブさん特製シチューだったというわけ。で,楽しみにしてた割に王都に戻りそびれて,食わずじまいってわけだ」

「ご主人様の拠点は王都だったのですか?」

「うーん,そういうわけではないけど,しばらくはそこを拠点しようかなとも思ってたけど,こだわってはないさ」


 鍋の様子を見つつ,沈黙を埋めるように,ワシの(設定された)出身などの話をしていく。そうこうするうちに日は暮れて,周囲に夕闇が広がるころにはスープが完成した。あっさり目ではあるものの,肉の味がうまく活きた味となり,料理への造詣が深いと思われるパティにも一定の評価をいただくことができた。よしよし。

 お互いに2杯目を取ろうかと椅子から立ち上がったその時に突然声が頭に飛び込んできた!


ショウってば,ヒドイなぁ。せっかくの鹿料理にわたしを誘わないなんて!)


「?@!=¥」ワシは声にならない何かを発して,びっくりしたように立ち上がり,キョロキョロと周りを見回す。

「どうかしましたか? 不審な気配は特に周囲にはないはずですが・・・」パティが不思議そうにこちらを見つめる。


 明らかに女神様の声だった。なのだが,周囲を見渡しても彼女の姿が見えない。気のせいとは思えないが,認識できなければどうしようもない。あきらめて2杯目を取るべく鍋に近づき,よそった器を持って振り返ると・・・場違いな深紅のドレスに身を包んだ女神様が,ワシの椅子に座って無邪気なほほ笑みを浮かべつつ足とその綺麗な濃紺の縦ロールの髪を揺らして,こちらを見ている。


「は・や・く,持ってきてー」前回に会ったときと異なり,今度は明らかに口元から声が出ているように聞こえた。


 ワシと一緒に鍋の近くにいたパティがゆっくりと器を地面において,身構える。


「気配もなく近づくなんて(暗殺術スキルのあるわたくしには気配遮断のスキルなどは効かないはず)・・・魔術? って,ご主人様?」戦闘態勢を取ろうとする彼女とは対照的に,呆れた表情を浮かべたワシを見て,怪訝な顔を向けるパティ。もちろん,視線は女神様から離していない,さすがである。

「あ,その,いや。何だ。警戒は解いていい。敵なんかじゃないから・・・」

「ということは,お知り合いってことですよね? こんなところにあんな姿で急に現れるなんて・・・それにどう見ても子供では」

「じつは「そういう話はあと,後!」彼女は・・・はぁ」被せるようにワシの言葉を止めた女神様を見て小さくため息を吐き,新たな器とスプーンを取り出し,彼女の分を持っていく。

「ありがとっ! やっぱりショウは優しいね。いっただきまーす」


 嬉し気な声を上げて食べ始める彼女を見て,ま,食ってから考えよ,と気持ちを切り替える。


「ほれ,パティも食べないと冷めちゃうよ」

「は,はぁ」毒気を抜かれたような顔をして,彼女もテーブルにつく。

「そうだ。自己紹介がまだだったね。私の名前は“フォルトゥナ”で,お仕事は女神やってます。信者はショウ一人しかいないけど,ふふふ。

けど,このスープ意外とイケるわね」

「ぶふぉっっ」


 いきなりで,それなのかっ!? あまりの驚きで吹き出すワシ。ご婦人たちがいない方向に瞬時に振り向けたのは,グッジョブと自分を褒めたい。っつーか,偽名だし,それってローマ神話における運命の女神のお名前ですよね。異世界の人たちにはわかる由もないでしょうけど。

 ここで,本当のお名前を明かさないということは,ワシらの委託業務内容も含め,まだ真実はパティに対して伏せておきたいってことか。


「・・・え? 女神って,いったい何を言って・・・?」パティももちろん面食らっている。

「んー,そっかパトリシアちゃんは信仰対象がないから,“神様”なんて言われても『何,胡散臭いこと言ってるんだか』なーんて思うわよね。それはそれでかまわないけど,少なくともショウに愛情を注いでいる存在であるってことだけは,ちゃんと覚えておいてね?」いたずらっ子のような声音と共に濃紺の瞳がパティを見据える。

「わたくしの名前だけでなく,信仰対象がないことも知っているなんて・・・(精神操作系の魔術による覗き見? だとしても,闇属性魔術であれば気づけるはず。いったいどうして)」

「神々にしてみれば,この世界に生まれし存在の“内容”を見ることなんて造作もないのよ。何だったら,あなたの復讐計画の背景になった事情をここでお話して差し上げましょうか?」

「え,いったい何を言って,いえ,その,けっこうです・・・」大きく首を振り,かろうじて否定の一言を発する。

「悲しい事件だったと思うし,パトリシアちゃんの絶望も理解できる。ただ,あなたのそれら否定的な事柄全てが解消した暁には,彼女をまた信じてあげて」

「彼女って,「それ以上は言わなくていいのよ」まさか・・・」パティの問いかけを制するように女神様が悲し気な微笑をたたえて首を振る。

「それはそうと,こちらへは何用で? まさか本当にこんな野戦料理のようなスープを味わいに来たわけでもないでしょうに」

ショウの手料理を楽しもうとしたのと,委託業務の進捗状況は大丈夫かなぁと心配になって聞きに来たのと・・・それに,アーブの様子も気になってるし,何よりも現身でのパートナー候補について話をしなくちゃ!と思って,がんばって顕現したのよ」


 艶やかな桜色の唇を尖らせて不平を言う姿は,見た目の少女に相応しく,言われた内容に対してというよりも,そんな表情をさせてしまったことに罪悪感を感じてしまう。おそろしい。


「ご心配をおかけして,すみません。言い訳がましいのですが,今晩あたりにはアーブで交信しようと思っていたんですよ!」なぜか微妙な脇汗を感じながら,即答かつ平謝りする“ザ・日本人”。

「ふーん。そうなんだ。かわいい女の子を前にして,いいトコ見せようと張り切っちゃってて,私のこと忘れてたとかじゃないの?」ジト目で意地悪なことをおっしゃってます。

「そんなこと微塵もありませんって。もう,ほんと勘弁してください。それはそうと,いろいろお話しするのは吝かではないのですが,パティがいても大丈夫ですか?」

「ご主人様,周囲の警戒を兼ねて,席を外しましょうか?」すかさず,気を利かせて立ち上がるパティ。

「あー,大丈夫,座ってすわって・・・どちらかというと一緒に話を聞いてほしいの。

 まずはパートナーの話からにしましょうか。現状のショウでは一人で何でもできるってわけではないから,やはりパートナーというか仲間のような存在は必要ということには賛成。だけれども,業務遂行の観点からおかしな方はご遠慮したいわけ。一方で,いい人材に巡り合ったときに,それと気づかずにスルーされちゃうのも困るわけで・・・」そこで,フォルトゥナはパティを“ずびしっ!”と指をさす。

「え,まさかわたくしが不適格とか・・・(確かに私怨にかかる計画に巻き込もうとしてるわけだし仕方ないか)」

「違うちがう。その逆。ショウ,パトリシアちゃんと出会えたあなたは運がいい。さる消息筋から聞いたところでは,若干訳アリだけど,この子は超優良物件よ。実際に“内容”を見てみて納得したわ。間違いなく委託業務遂行に有用な人材ね」


 腕を組みながら,したり顔でウンウンと頷いている。そこに,パティがおずおずと手を上げる。


「・・・その『訳あり』というのはわたくしの復讐の件ですよね? やはり問題なのでしょうか」

「概ねそれが該当するかな。まあ,問題ってわけではないけど,ショウが面倒に思うんじゃないかなーと心配する程度よ。どちらかというと,それを解決した方がパトリシアちゃんにとってもショウにとっても,ひいては委託業務完遂にとっても都合が良くなるような気がするわ。

 というわけで,彼女を逃がさないようにね♡」

「逃がさないようにって,拾ってきた動物じゃないんですから。そもそも契約するつもりでしたから,ご心配なく。彼女の『訳あり』の件についても,“歪”を探しながらで良ければ,積極的に協力してもいいと思ってましたよ」

「ご主人様っ! じゃ,ちゃんと正式契約してくれるんですね?」“ぬずいっ”とパティがテーブル越しに乗り出してくる。

「あ,ああ。さっき言ったとおり,契約するつもりにはなっていたし,女神さ・・・フォルトゥナ様のお墨付きが出たら,もう確定というか必須事項だよね。ははは。正式契約できるよう頑張って稼ぐことにするさ」

「ありがとうございます,ご主人様。もちろん,お口添えいただいたフォルトゥナ様にも感謝いたします」

「それはそうと,今までの進捗状況というか最近の出来事ですが・・・」


 感謝の意を示すようなお辞儀をするパティを見つつ,そう前置いてワシは報告しておいた方が良さそうなものをかいつまんで説明していく。理由が不明な刺客に襲われたこと,極狂刀流の力を発揮するものの若干言うことを聞かないアーブの様子,“歪”の一つかもしれないゴブリンの異常発生に端を発する大規模討伐依頼のこと,スペル習得の必要性・・・特に倒した魔物などの浄化スペルとか。

 話を聞きながらも,頷きつつ,スープを取る手を休めない女神様。ワシの手料理を楽しもうとしてたのは本当かもしれん・・・。時折,質問を交えながら,話を続ける。


「ゴブリンの異常発生の話なんだけど,200以上という数は多いと言えば多いけど,“歪”の影響かどうかを判別するほどの数ではないかもしれない。上位種や近親種が入り乱れていることはちょっと気にかかるけど,この世界では珍しい話ではないようだから,何とも言えないわね」顎に手を当て,思案気に首を傾げる女神様。

「“歪”との因果関係は不明かもしれませんが,大規模討伐なんてミッションは初めてですし,冒険者ランクを早く上げるためにも,これに参加することにします」


 そう。冒険者ランクを上げるためには,受諾した依頼を一定数連続で達成する必要がある。その際,通常の依頼と異なる“大規模討伐”のようなギルドからの特別な依頼の達成は,複数分の依頼達成に相当すると評価されるのだ。少しでも早くランクアップしたければ,そういった特別な依頼を優先して達成させていくのが近道であると言われている。


「それと,刺客の話。ショウの何が目的なのかわからないけど,あなたの居場所の想定が出来て,名前・・・それもフルネームを知っていたというのがあまりにも不可解よね。こっちで何かわかるか調べてみるわ。とにもかくにもそういう敵対姿勢を取る何かがいると思って警戒するようにしてて」

「ええ,それはもちろん。無事に稼げたあかつきにはパティと正式に契約できますから,教えてもらっている範囲の彼女のスペックを考えれば,警戒するにしても戦闘をするにしても期待できると思ってます。大丈夫だよ・・・ね?」

「どのような脅威なのかがわからないのは不安要素となりますが,わたくしと契約したことを後悔することのないよう尽力しますわ。

 まさか戦闘奴隷を探すこととなった背景にそういったことがあるとは思いもしませんでした。てっきりパーティメンバーを増やすためだけだと」


 そう言ったパティは会話の区切りと判断して,食器をテーブルから片づけて,カップ等を並べていく。そして,火にかけていた別の鍋から湯を取り出し,乾燥した葉を入れたポットに注ぐ。ポットからはミントのようなさわやかな香りが漂よい,薄緑色のお茶のようなものが各々のカップに注がれる。

 女神様は嬉しそうな笑顔を浮かべて,小さな手でカップを持ち香りを楽しむ。


「ふぅ。いい香りね・・・あと,最後に言っていたスペル習得の件は了解よ。まずは,浄化と治癒に関するスペルを準備するから,もう少し待ってて。

 きっと,他にも入用になるスペルも出てくるだろうから,そのあたりの対応も考えておくわ」

「ありがとうございます。ポーション類などの手段は準備してはいますけど,やはりそれ以外で対処できる手段を持つに越したことはないと思うので,助かります」そう言いつつワシがお茶を口に含んだときに,女神様の姿が揺らいだように見える。ん? 目が疲れているのか。

「・・・あ,そろそろ時間かしら。やっぱり安定して顕現するのはうまくいかないわね。アーブも一応仕事をこなしているようで安心したわ。じゃ,次はショウから交信してくれるの待ってる。じゃ」


 女神様のアーブにかかる話のところで,腰元からカチャンッという音がする・・・不機嫌そうな音に聞こえたのは気のせいだろう。


「はい。早いうちにまた。めが・・・フォルトゥナ様のご加護に感謝いたします」ワシはいつもの祈りの印を結び,祈りの言葉を捧げる。女神様が嬉しそうに頷いた表情が見えたときにはその姿は薄まってしまっていた。


「あ! アーブの取説にあった“懸案事項”の話を詳しく聞くを忘れてた!・・・はぁ。またの機会にお預けか」そんながっくりしたワシにパティが話しかけてくる。

「ご主人様は,その・・・フォルトゥナ様と言われる神と言葉を交わせるほどの高位の聖術を修めているのですね。なぜ,昨夜の打合せ時に話してくれなかったのですか?」

「持っている聖術のレベルは高いけれども,戦闘に使えるようなスペルを持っているわけではないから,言うまでもないかなーと」拗ねたような彼女の声音に少したじろぎつつ,返事をする。

「戦闘に使うようなものがないのでしたら,その通りですが,適切なサポートをしていくためにも,ご主人様のことはなるべく詳しく知りたいのですっ」

「あ,ああ。わかったわかった。“正式”契約(のスペルが発効した)後は守秘義務が働くから,そのときにもう少し詳しく話すことにするから。第一,パティの復讐計画にしても,そのつもりだったから,話をしなかったんだろ?」

「・・・そ,そうですわね。では,後ほどお互いに,ということで」

「話は変わって,夜の見張りなんだけど,2人しかいないからパティは先に寝て,早朝からの番を頼むってことでいいかい? ちょっとした仕込みもするから,多少は安全になるはずだし」

「‘仕込み’とは何でしょうか? それと,先ほどの会話の中でよくわからない言葉があったので,聞いても良いでしょうか?」

「そうだな。まだ寝るにはちょっと早いし,少し話をしようか・・・‘仕込み’については,あとで目の前で見せながら説明するからいいとして,聞きたいことって何?」

「‘委託業務’とおっしゃっていましたが,いったいどのような業務なのでしょうか? 察するにご主人様の優先事項であると思います。戦闘奴隷としてはご主人様の意向をよく踏まえた上でお仕えする所存です。そのため,お聞きしたい次第ですわ」パティは黒い瞳に真剣な雰囲気を乗せて,ワシを見つめている。


 さて,どうしたものか。女神様に会っていることから,彼女からの依頼であることを明かすのは良いにしても,この世界の崩壊に関わるような背景等々まで詳しく話して良いものか・・・女神様が真の名前を伏せていたことを考えると,たとえ奴隷契約の中で守秘義務をかけることができたとしても,パティへ全てを語るのは時期尚早ということなのだろう。となると,今のところは詳しい部分は濁しておくか。


「前にも言ったと思うけど,この世界で起きている異常事態・・・フォルトゥナ様とワシの間では“歪”と呼んでる・・・を収めること,だよ。ま,ざっくり言うと“世界を救う”ってことだな」

「その“歪”の定義はどういったものなのでしょうか? 異常事態と言っても大小いろいろありますし,この世界中で起きているであろう異常事態をすべからく対処することなど不可能ですよ」

「もちろんワシが全てに対処できるなんて思っていないさ。

詳細な定義というか尺度のようなものは聞いてなかったけど,‘異常事態’って認識されたものは片っ端から対処するしかないだろうな。つまり,できるところから手を付ける,というわけだ」

「現時点の状況としては理解しますが,次にフォルトゥナ様とお話ができる機会には,もう少しわかりやすい達成目標をお聞きになることを推奨します。今後の行動にも影響しますから」

「ご忠告に感謝するよ」


 “歪”の根本原因がわかっていないから,それを探りあてるまで手あたり次第に異常事態・・・“歪”を解決するしかたないから,聞くだけ無駄なんだけどねぇ。


「んじゃ,次の話題。‘仕込み’の話だけど,夜の見張りの補助になるようなもの準備しようと思ってね」そう言いながら,ワシはクロノグラフ改から数枚の布切れを取り出す。そして,取り出した布切れを正方形になるように切り整えて,折り鶴を作り始める。

「かわいい小鳥ですね。いったい何をされるのですか?」不思議そうな表情を浮かべ,ワシの手元を覗き込むパティ。

「監視をしてもらうのさ。んー,そうだな,名付けて『哨戒折鶴パトロール・クレーン』だ」


“アライブ・フォー・アス”


 出来上がった3羽の折鶴に手をかざし,特殊スキルである“意志なきものに意志を与えて操る力”を発動させる。そして,対象となる折鶴たちに果たすべき命令を設定していく。

 同時に,視界内にステータス板が現れ,命令内容を設定するたびに消費予定のMPが増えていく。所定のエリア内を飛び回り,ワシらに近づこうとするモノを索敵し,見つけた場合には監視を行う。加えて,一定の距離に近づいたらワシに警告を発するようにする。参考にイメージしたのは,スター・〇ォーズに出てくるような偵察ドローンだ。ここで,攻撃できるような機能をつけようとした途端,消費MPが急上昇したため,攻撃機能の付与は諦める。それでもMPの総量の3割近くを消費することになる。


「あ,そうだ。パティにも警告が届くようにしておいたほうがいいな。ちょっと,この折鶴に触れて,MPを軽く流し込んでくれ」


 パティが優しく折鶴たちを両手で持ち上げ,MPを流し込む。これで彼女が認識される。


「小鳥さんたち,よろしくね」


 彼女が優しく微笑み,放り上げる。哨戒折鶴たちは,飛び立つ一瞬だけMPの残滓のような燐光を放ち,静かに夜空へ飛び上がっていく。


「さて,と。夜番を始めようかと思ったんだけど,その前に,無属性魔術のスペルを一つだけでも教えてくれないか? 夜番の間に練習をしてみたいし」

「そうですわね・・・レベル2ではありますが,使用頻度が高い『Status up』が良いでしょうね。ご主人様もご存じかと思いますが,スペルの発動にはMPを発動させるイメージに合わせて,練り上げて形にするのが基本であり重要なポイントとなります。詠唱式の基本形は『我が内に眠りし力を呼び起こし,困難を乗り越えよ。Status Up』ですが,他の文言でも発動は可能です。あくまでイメージを強化するための呼び水ですので」

「まずは,MPを練るところからやりましょうか。わたくしの手をもって,MPを練り上げてください・・・」パティはそのほっそりした両の手でワシの手を掴み,実践を促してくる。

「あ,は,はい。こう,かな?」手を握られたことに,軽く同様しつつも,‘先生’の指導に従う。

「ちょっと,堅いですね。『Aura Blade』を発動させるような練り方とは異なってて,全身に行き渡らせることができるような柔らかさを持たせてください・・・そう,もう少しですね」


 そうして,彼女が寝るべき時間になるまで,練習が続く。


「では,先ほどのMPの練り上げを繰り返してみてください。この調子なら,きっとわたくしとの交代までには使えるようになるかもしれませんね」

「いやはや,パティの指導が的確かつ丁寧だからだよ。いい先生になれるよ」

「ふふふ。すべての仕事が片付いたらその線も考えておきますわ。

 それでは,おやすみなさいませ,ご主人様」丁寧なお辞儀とともに就寝の挨拶をして,パティはテントの中に入っていく。


 ワシはそんな彼女を見送りつつ,今一度MPの操作に意識を向ける。この分だと,長いはずの夜は案外短くなってしまうかもしれないな。



続く話の大まかなところは書けているのですが,細部を書き出すのに毎度毎度苦労しています(苦笑)。

次こそはちゃっちゃか書こう!


それではまた!


では,女神様を信じるみんなにご加護がありますように。

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