第1章 第四話ノ参 Bounty Hunt ~討伐報酬やら返り討ちの成果やら~
How's your golden week going?
Me? There is no GW for me...
またもやだいぶ日が開いてしまいましたが,ようやく第四話がまとまりました。
今更ですが,この小説は宵の視点・一人称で進めていくことにしています。ですが,登場人物の関係上,宵がほとんど出ない場合などは,他の登場人物視点で表現することになります。
それでは,ご覧くださいませ。
焚き火を前にして,ワシは今一度自身の内側に意識を向け,MPを練り上げて全身に行き渡るよう・・・自分の身体を構成する細胞一つ一つを活性化させるようイメージしていく。
「我が内なる力よ,その全てを秘することなく現し,更なる力をも発揮せよ! Status up!」
特殊スキル“加速する力”とは違った雰囲気で,身体が軽くなったような感覚が満ちてくる。軽く跳ねると,スペルを唱える前よりも簡単に高く・・・少なくとも3m以上だろう・・・飛び上がれている気がする。まるでトランポリンの上で跳んでいる感じだ。
「よっしゃ! やっと使えるようになった。練習して使えるようになるってのは地味に嬉しいよなぁ。バイクで膝スリできたとき以来の感動である。うんうん。
さて,身体能力は向上しているっぽいけど,他に効果を確認できる方法はないかなっと。何か重いものでも持ってみるのもいいんだが,さすがにそんな丁度いい岩なんかないか」
あたりを見回しても,少し先に木立がまばらに見えるくらいだから,そんなものはあるわけがない。と,そこではたと気づく。ステータスを見てみればいいのだ。ステータスを確認すべく,意識を向けると・・・
レベル;53
身体パラメータ;
HP 1805/1805
MP 1619/2184
STR 230(368)
INT 217
WIS 280
DEX 217(347)
AGI 224(358)
CHR 229
REG 610
視界内では,強化されたパラメータとおぼしきSTRとDEXとAGIが光りつつ,割り増しになった数値が併記されている。
よくよく見れば,最初にステータスを見たときはレベルが歳と同じで44だったから,その後の戦闘などで9レベルも上昇したってことか!? モンスターの類はそれなりに倒したかもしれないけど,そんなに上がるのか?・・・あ! あれだ。例の刺客を倒したのが効いたに違いない。確かにエドとかが『Cランク』なんて言っていたから,刺客たちのレベルは相当高かったんだろう。
そういやスキルの方はどうなってるんだろ? そう思って,スキル表示の方に意識を向けると・・・
スキル;( )内 – 基本兵装Ultimate Aura Bladeによる加算・追加
・剣術 Lv.5(+10)
・極狂刀流 抜刀術 Lv.2(+10)
・極狂刀流 剣術 Lv.2(+10)
・気配察知 Lv.3
・危険察知 Lv.3
・見切り Lv.2
・速習 Lv.1
・気配遮断 Lv.1
特殊スキル;
-「加速する力」;Lv.10
-「物事を理解し,解決する力」;Lv.5
-「意志なきものに意志を与えて操る力」;Lv.3
-「言葉を理解し,話し,そして書く力」;Lv.10
およ!? 新しいスキルが増えてるし,極狂刀流の抜刀術と剣術が新たに追加されてる・・・? これって,アーブ経由とはいえその技術を使うことで身に着けた,ってことなんだろうなぁ。それにしても,そんな簡単に習得できるものなのか?
あ,そうか! 速習ってスキルが影響しているのだ。あとで,一通りスキルの内容をよく見てみておいた方がいいな。それに,最初に見たときの剣術スキルからレベル上がった・・・気がする。うーん,最後に確認したときのスペックをメモっておけば良かった。とりあえず,今の分だけでも書き出しておこう。
クロノグラフ改から筆記用具を取り出して,現状のスペックを記録する。もちろん,記録したときの日時もちゃんと書いておく。これ,ビジネスの基本。
手元の時計を見ると,午前3時半を過ぎようとしている。パティとの交代は4時だからそろそろか。結局,要警戒となるような情報は,哨戒折鶴から1つもなかった。今一度,彼らに意識を繋げてみる。
(こちらの野営地に何か影響を及ぼすような存在は確認できたか?)
(クレーンアルファ,カクニンデキズ)
(クレーンベータ,カクニンデキズ)
(クレーンガンマ,カクニンデキズ)
無機質な声音と共に異常がないことを各個体が報告してくる。
「日中よりも夜の方が落ち着いているなんて,皮肉なもんだな。じゃ,パティを起こすとするか」そう独り言を漏らして,テントへと足を向ける。
腰元のアーブから,チャリチャリという軽やかな鈴の音のような音がしたためか,テントに手をかけようとしたときに,中からパティがするりと出てくる。
「おわっ! お,起きてたのか?」何もやましいことはないはずなのに,ちょっと動揺したような声を上げてしまった。
「元来の性格なのかスキルのせいかわかりませんが,近づいてくる気配には敏感なので。ふふ,もしかして,わたくしの寝顔を見ることを期待されておりましたか?」綺麗な蒼い髪を掻き上げて,寝起きとは思えない笑顔を向けてくるパティ。
「な,何を言ってるんだか。起こそうと思ったら,既に起きてる姿をみてびっくりしただけだよ。というわけで,交代時間だ。
特に哨戒折鶴からの警報がなかったから分かってると思うけど,異常なしだ」
「わかりました。ご主人様のスキルを疑うわけではありませんが,『Sensor』も併用して,警戒にあたるようにしますわ。
ところで,『Status up』は使えるようになりましたでしょうか?」
「ああ,おかげさまでね。苦節数時間の悪戦苦闘の結果,つい先ほどスペルがようやく発動できたよ。確かにこのスペルでの地力の底上げは,ワシのような物理攻撃が主体となっている奴にとっては重宝するな」
「ええ,その通りですわ。無属性魔術への適性があるならば,比較的習得しやすいスペルに分類されますので。それにしても予想通りとは言え,ご主人様の習得スピードは速い方だと思いますわ。やはり,無属性魔術への適性が高いということなのですね」
「お褒めの言葉をいただき,光栄でございます。お嬢様」おどけたようにお辞儀をしながらワシが言葉を続ける。たぶん,さっき見えた“速習”のスキルの効果が出てるんだと思うけど,あらためて言うようなことじゃないか。
「あとはよろしく頼む。ふぁ~あ,さすがに眠いや。哨戒折鶴の警報で起きられると思うけど,念のため,何か異常があったら起こしてくれ」
「かしこまりました。ごゆっくりおやすみなさいませ」彼女は,ワシの雑なお辞儀とは比べものにならない,丁寧かつ綺麗な所作のお辞儀でワシを送り出す。
ワシはテントに入ると,そそくさと寝袋に入り込み,スイッチが切れるように意識を落とした。
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ショウがテントに入ったところを確認し,パトリシアは先ほど食事をしていた椅子に座る。
「ご主人様の小鳥たちからは特に警報は出ていないようですが,念のため,『Sensor』をかけておきますか・・・我が五感をあまねく広げ,すべてを知覚せんとす。Sensor!」
拡張されたパトリシアの感覚には脅威になりうるような生体反応は返ってこない。得られた結果に満足した彼女は,今一度ポットに湯を注ぎ,お茶を淹れる。心を弛緩させつつも,気配察知のスキルも用いて緊張感を維持し,警戒を続ける。
日中はそれなりの気温ではあるが,日が暮れればさすがに気温は下がる。香草茶の香りとカップから伝わる温かみを感じつつ,思考を巡らせる。
(ご主人様・・・ショウ・ヒノカラス,それほどレベルが高い魔物としたわけではないけれども,さしたる怪我もなくあれだけの数の魔物を倒したということは,教えてもらったレベル以上の力量があると言えそうね。少なくとも,あの速度に特化した身体能力向上のスキルと極狂刀流剣術に,からくり術のスキル・・・そして,神と思しき存在と交信できるほどのレベルの聖術があるなら,わたくしの復讐を達成するための助けになりましょう)
彼女はお茶を脇において,武具類を改める。各短剣の刀身や柄に異常がないかチェックし,結わえた鋼糸とともに清掃していく。鋼糸の巻取り部の可動具合を確認し,剣帯にしまいこむ。
(それにしても,職業柄,武器の類には詳しいつもりでいましたが,刀身の色やら大きさやらが変わるような能力を持つAura Bladeの魔道具は見たことのないタイプですわ。それに,あのアイテムストレージはかなりの高性能と思われますし・・・信じがたい高レベルの聖術を駆使できるにもかかわらず,自己申告とはいえ,それほどレベルは高くない。大司教のような高位の聖職者でもないようですし,背景が想像できませんわ)
「さて,と。久しぶりの“実戦”ですから,もう少し感覚を呼び戻す機会が欲しいところなのですが・・・」
そうひとりごちたパトリシアは,時折パチッとはじける焚き火の音と夜闇の中から聞こえてくる虫の音をBGMにして,防具の手入れに着手する。
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時間は少し遡り,ショウがようやく『Status up』のスペルを習得する少し前。
とある一団がショウたちの野営地へと向かっていた。
「お頭ぁ,ホントにヤるんですかい? 情報があるとはいえ,2人程度のルーキーなんざ大した金にもなりませんぜ」革製の軽鎧に身を包み,2本のショートソードを下げた男が,併走する馬に乗っている男に声をかける。
「ただの2人ならな。あのショウとかいう駆け出しの冒険者が持ってたアイテムストレージはかなりの高性能のものだ。売れば金になる。加えて,連れの奴隷はかなりの容姿だ。主人を殺して,はぐれ奴隷になれば,合法・非合法のどちらにしても高い値がつくだろうよ。もちろん後者の方が儲けは大きいけどな。
何にせよ,スタンレーが偶然に実物を見ていたのが大きい。その裏づけがなけりゃ,オレもこの依頼は無視したな」‘お頭’と呼ばれた武骨な容姿の男は,彼の疑問にぶっきらぼうに答えていく。
「キュスクの言う通りだぜ,ジャック。よろず屋での様子を見るに,ありゃかなりの値打ちもんだ。触れるだけで収納できるタイプなんて早々お目にかかるもんじゃない。うちらで使ってもいいが,アイテムストレージに困ってるわけじゃないからな,売って金に換えた方が有効活用できるってもんだ」お頭・・・キュスクの説明に同意するようにうなずきながら言葉を続けるローブ姿の男がすぐ後に続く。
「そりゃそうだ。分不相応の高性能なアイテムなんて悪目立ちの大看板みたいなもんだ。へッ,それよりも今回の仕事でたんまり稼がせてもらって,しばらくはゆっくりさせてもらいてえな。酒をかっくらって,女を抱いてな」ジャックと呼ばれた男はいやらしい表情を浮かべて,走り続ける。
「お頭。そろそろ,ヤツらの索敵範囲の想定される限界付近にたどり着きます。どうされますか?」弓を背負った男が注意を促す。
「いったん止まって,態勢を整える」
キュスクの返答を受けて,弓を背負った男が制止の合図をし,一団が立ち止まる。
「そこまで改まらなくても大丈夫ですぜ。しょせんFランクの冒険者だ」
「だからジャックは二流どころか三流なんだよ。どんなに力量差があろうとも確実に仕留めるようにするのが仕事だ。そんなだからこの間のような足元をすくわれるようなミスをするわけか。くっくっく」チェインシャツで細身の身体を包んだ金髪の男があざ笑う。
「うるせぇ。ありゃたまたまだ。そういうベンガは女にうつつを抜かして死にかけたくせに」
「なんだと!」ベンガと呼ばれた男は,いらついたような声を上げてジャックを睨みつける。
「いい加減にしろ。二度と口が利けないようにしてやってもいいんだぞ。貴様らの代わりはいくらでもいる」お頭と呼ばれる男が殺気を込めた冷ややかな視線を飛ばす。
「わ,わかったよ。そんな顔して怒ることじゃないだろうに・・・」
「わかればいい。では,スタンレーは攻撃スペルの準備,ベンガは支援スペルをかけろ。ジャックとベンガは俺と一緒に初撃で見張りを殺して,そのままテント内で寝ている方を襲うぞ。ジョンの弓とスタンレーの攻撃スペルは初撃のタイミングに確実に合わせろ」
彼の指示に従い,馬を下りてテキパキと準備を始める男たち。先ほどの下卑た表情は霞と消え,真剣な表情が浮かぶ。
そして,そんな彼らのはるか上空に一羽の折鶴が舞っていることには,彼らの誰も気づくことはなかった・・・。
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一方,野営地にいるパトリシアやショウ(の脳内)に哨戒折鶴からの警報が響きわたる。
(クレーンベータヨリ,ケイコク! ケイコク! ホクセイホウコウ,ケイゾクシテセッキンスル,セイブツヲ,カクニン。ソウタイキョリ450m。ケイコク! ケイコク!)
(あら,小鳥さんが敵を見つけたようですね)
(クレーンベータヨリ,Tracking modeキドウゴノ,オンセイキロクヲ,カクニンシマスカ?)
(音声記録? まさか,彼らの会話まで記録しているの?・・・もちろんお願いしますわ)
(リョウカイ。サイセイシマス・・・)
パトリシアは彼らの会話から作戦内容を確認し,落ち着いて装備を整える。加えて,接近してくる存在の様子を哨戒折鶴につぶさに質問していく。哨戒折鶴には鑑定などに類する能力は付与されていなかったため,装備類や容姿といった外見上の情報のみが共有されるわけだが。
「なるほど,一気呵成に叩く作戦ということですか。
構成は・・・戦士系が3人で内1人は聖術士の可能性がありそうですわね。加えて,魔術士系が1人,弓術士が1人という構成ですか。冒険者くずれの野盗というところでしょうか。動きからですと,Cランクくらいでしょうか。
ふふふ,わたくしの手柄になるべく,いらしてくださいませ」年齢にあまりふさわしくない妖艶な笑みを浮かべて,独り言を放つパトリシア。
彼らが到着するまでの時間の予想がついたことから,装備を整え終えた彼女は,少し時間を調整してからスペルを詠唱し始める。
「我が内に眠りし力を呼び起こし,困難を乗り越えよ。Status Up・・・我を守りし強靭な鎧よ,我が力を糧に顕現せよ。Aura Armor・・・さて,おもてなしの準備はできましたわ。それと,小鳥さんに伝言ってお願いできるのかしら?」
彼女はそう言い残して焚火から離れて闇夜に紛れ込んでいく。
ほどなくして,襲撃の火蓋が切って落とされた。
ヒュオッ・・・ドグゥオォォンッ!!
カカカ・・・カッ
火属性魔術のLv.4スペルである,Fire Ballが野営地内のテーブルや椅子・・・つまりパトリシアが先ほどまで居たところに着弾し,付近を炎で包み込む。その周囲に向かって,複数の矢が降りかかる!
そして,炎が上がったところに向けて,闇から飛び出してくる三方から攻撃の手が向かう・・・が,ジョンの矢が刺さったであろう標的を襲うつもりで飛び込んできたにもかかわらず,標的が付近にいないことに戸惑う男たち。
「ンだぁっ!? 誰もいないぞ!」双剣で斬り込んだジャックが叫ぶ。
「おかしい・・・。ジョンの気配察知では明らかにここに一人いたはず。ちッ,気づかれたか? テントの方へ向かえッ」
「了解だ,お頭!」キュスクの怒声に呼応して,ジャックとベンガが素早く応答する。
そして,燃え盛るテーブルなどの炎から一旦離れて,他の2人がテントに向かおうとしたその時・・・
ヒュゥゥンッ・・・シュパァッ
ベンガという名前だったモノの頭が,何かきらめく光の線と共に胴体から離れていく。
「あら,お客様方,おもてなしの会場はこちらで間違っておりませんわよ」
スゥッという音が似合う動きで首のないベンガの背後からパトリシアが浮かび上がる。彼女の両手に握られた短剣同士を結ぶ鋼糸から血がポタリと滴る。
「き,貴様っ,よくもベンガを!」双剣を振りかざし,軽い身のこなしでパトリシアに急接近して異なる2方向からの斬撃を加えようとするジャック。
「気をつけろっ,あの身のこなしは暗殺術のスキルを習得している奴の動きだ!」
チィンッ・・・キンッ・・・
パトリシアは,舞を踊るがごとく,ジャックが繰り出す鋭く多彩な斬撃のことごとくを弾き返していく。
その攻撃と攻撃のわずかな合間に,キュスクが幅広の刃をもつロングソードで斬り込み,突きを放ってくる。彼女は,その攻撃を紙一重でかわしていく。
そのような攻防が数瞬繰り返され,一旦お互いに間合いを取り直したときにパトリシアの頭上から多数の矢が降りかかってくる。しかしながら,彼女は蒼い髪を靡かせつつ,笑顔さえ浮かべてそれらをかわしていく。
「うふふ。実戦のリハビリには持ってこいのお客様方ですね。嬉しい限りです!」そう言いつつ,鋼糸が付いていない短剣を投げて牽制する。
「ジョン,こっちに構わず,スタンレーと一緒にテントの方にいる奴を殺れ!」
「おうよっ!」弓からショートソードに持ち替えたジョンはテントへと向かう。その彼から少し遅れて,もう一人の男が追随していく。
「暗殺術を習得しているとはな。だが,一旦姿が確認されてしまえば・・・気配さえ捉えてしまえば,オレの剣術の敵ではない。ベンガがやられたのは不運だが,それだけだ」
「暗殺術だけであればその通りですわ。それはそうと,テントに向かわれた方々は不運極まりありませんわ。お可哀そうに。さて,どうにもレベルが高いお客様のようなので,それに見合った力を出させていただきましょう」
「ぬかせっ!」
今一度,キュスクとジャックがパトリシアに斬りかかっていく。その瞬間,彼女は両手の短剣を素早く剣帯に戻し,炎の照り返しの中,構えをとる。
『帝式格闘術 白虎』
そう呟いたパトリシアの黒い手甲と足甲からうっすらと白い靄が立ち上がる。そして,打ち込まれる斬撃たちを両手両足で受け流し,白い靄が残像になるがごとくの速さで,拳撃と蹴りを繰り出していく。その中の渾身の一撃がジャックの腹部に滑り込む!
ゴキャッ
「グフゥエッ・・・」
硬いものが砕けるような音を残して,体をくの字にしたジャックは数mほど吹っ飛び,動きが止まる。一方,キュスクの方は,バックラーと言われる小さい盾でパトリシアの攻撃を受けつつも,攻撃の勢いを殺し,ダメージをいくぶんか軽減させる。
「帝式格闘術だと!? 貴様,帝国の軍人か!?」
「さあ,どうでしょう。あの手の技術はどこにでも流出するものですから,そのような技術が使えたとしても帝国軍人とは限りませんよ」黒い瞳にうすら笑いを浮かべて答えるパトリシア。
そのとき,テントの方で大きな炎が上がるともに轟音が響き渡ってからほとんど間を置かずに,断末魔の悲鳴が上がる。
「お仲間は既に葬られたようだ。どうだ,ほどなくして魔術士を含めた加勢が来る。降参するなら命だけなら助けてやるが」後方で起き上がろうとするジャックを一瞥しながら,キュスクから降伏の打診が出る。
「あはは。面白い冗談ですわ。誰の声が上がったかもわからないなんて,ねぇご主人様?」
ザッ!
そう言ったパトリシアの脇に,瞬時に現れたかのようにショウが強い黄色の光を放つアーブを構えて立つ姿がキュスクたちの目に飛び込んでくる!
「そうだな・・・って,哨戒折鶴経由で事前の指示があったとは言え,起き抜けに全力起動はつらいんだが・・・。まあ,何はともあれ,燃やされた調度品たちとテントの弁償はしてもらわないとな」
「そちらにいらっしゃる頭目の方はなかなかのレベルをお持ちのようですので,お仲間も含めればおつりが出るくらいの資産をお持ちでしょう。期待をされてもよろしいかと」
「どうせ,こんな野盗じみた真似をする連中だ。身ぐるみはがされても文句は言わんだろ。っつーか,頭目以外は生かしておく気もないがな」
「な,何を言うかと思えば・・・貴様らごときFランクのルーキーなんざ,何人束になってもBランクにも相当する力を持つオレが負けるわけがない。レベルの低いあいつらを倒していい気になるなよ」キュスクからの鋭い眼光がパトリシアを射抜かんばかりに彼女に注がれる。
「・・・じゃあ,パティ,ワシの割り当て分はこなしたから,あとは本当に任せていいんだな?」アーブの起動状態を解き,腰元に戻すショウ。そして,キュスクたちから目を離さないようにしながら,パトリシアたちに対して距離をとっていく。
「はい。もちろんですとも。ここでわたくしの力量の高さをアピールしませんと」
「くそ,ふざけるな。ジャック,やれるな?」双剣を構え直すジャックに声がかかる。
「もちろんでさ。さっきはちょっと油断しただけだ。今度はそうはいかんぞ」
そうして,今一度,ロングソードと双剣による間断ない攻撃が開始される。白い靄に包まれた手甲と足甲でそれらの攻撃を受け流しながら,徐々に拳撃や蹴りの速度を上げて,攻撃を当てていくパトリシア。
しかしながら,高ランク冒険者のためか,決定打になるような一撃は受けなくなっていく。一方で,彼らの攻撃が少しずつ彼女に当たり始める。致命傷になるような血飛沫は上がらないまでも,切り傷が増えていく。『Aura Armor』で守られているとはいえ,高レベル冒険者の攻撃を完全に防ぐには至らず,小さなダメージが積み重なっていく。
ガキィンッ・・・チィィィンッ・・・ゴッ・・・キンッ
夜闇の中,剣戟の音が響き渡る。
「そらそらっ! さっきの大口はどうした? あ,お嬢ちゃんよ!」
右手のショートソードを振り抜いた位置を逆方向から塞ぎ込むように,別の方向から左手のショートソードが斬りかかり,パトリシアの左足をかすめていく。彼女は寸でのところで身体を引き,致命傷を避けていく。まるでギリギリの距離を確かめていくかのように。
そして,流れるような動きをしていた身体が,ロングソードの切り払いを受けて,態勢が一瞬だけ崩れる。
「もらったぁッ!」
その隙を逃さず,素早い手の返しで,ジャックの双剣が吸い込まれるように両肩口に飛び込んでいく。それを追いかけ,かつ標的が回避していく方向へ半拍の間をおいてキュスクのロングソードが斬り上げる形でパトリシアに襲い掛かる。
しかしながら,そのような隙に食いついた彼らは,パトリシアの口元に笑みが浮かんだことに気づくことができていなかった。彼らの刃が彼女に当たった瞬間,手ごたえのなさに彼らの表情がゆがむ。特にジャックの顔は,違和感による表情の歪みから驚愕のそれへと変わっていく・・・。
ズシュゥッ!!!
湿った何かを貫くような音と「がはぁっ!」という悲鳴とともにジャックが血を吐き出し,剣を取り落とす。
そのジャックの胸元からは,いつのまに彼の背後に回ったパトリシアの白い靄を纏った貫手が飛び出している。スルリと抜いた手甲から血が滴るが,ブンッと素早く振られて血飛沫が綺麗に払しょくされる。
一方で,血が吹き出す胸元を押さえながらジャックが倒れこみ,ごぼごぼという声にならない悲鳴を漏らす。
「お二方とも素晴らしい集中力ですが,それゆえに切り分けた気配に気づきにくくなりますわね」
「ばかな!? ジャックはともかく,オレの剣術は確実に本体を追っていたはず!」
「確かに,高レベルの剣術スキルであれば,本体・・・つまり濃い気配を嗅ぎ取っての攻撃が可能ですね。逆に,その気配の濃さをいじられると勘違いしてしまう,というのが問題になるのですが。暗殺術と格闘術の組み合わせによってできる技ですからあまり見かけないのも無理ありませんけど」
「気配を使って欺くとは,老獪な暗殺者のようだな。では,全ての気配を相手にすればいいわけだ・・・くくっ,次で終わりにしてやる」
ロングソードを構えなおすキュスク。その刃がうっすらと輝き始める。それに呼応するようにパトリシアは半身の態勢を取り,まるで弓矢を引くがごとく,引き絞るように右腕を後方に引いていく。じりじりと位置を変えながら,自身にとって好ましい間合いを探っていく二人。
調度品たちを燃やした炎は彼らを照らしていたのだが,その勢いが小さくなり,逆にキュスクのロングソードの輝きやパトリシアの手甲・足甲が纏う靄の白さが際立つ。そして,勢いが弱くなってきた炎がフッと消えたときに二人が同時に動き出す!
ギィィィンッ・・・ゴッ
パトリシアの右拳がキュスクのバックラーごと彼の左半身に叩き込まれる! その衝撃を利用して高速で体を捻り,切り払いを放つキュスク。ロングソードは,引き戻されるパトリシアの右手より先にその二の腕に到達する。
ザシュゥッ
『Aura Armor』の効果を凌駕したキュスクの一撃はたやすく彼女の二の腕を・・・その黒いドレスの袖を当て板ごと切り裂く。ただ,引き戻しの動きが早かったからか,切断するようなことには至らない。
その攻撃を起点に,以前よりも速くかつ重い一撃が,屈強な身体から間断なく繰り出されていく。彼のロングソードの動きは,目前のパトリシアだけでなく,まったく違う方向にも振り出される。
そう,パトリシアの気配が時折分散するため,それぞれに攻撃を向けているのである。
そして,応酬がこう着状態になってきたと思われた矢先に,パトリシアが大きく飛び上がり,上空からの一撃を加えようとする。
「ふんっ! だまされんぞ! 本体はこっちだッ」
そう言って,一瞬で逆手に持ち替えたロングソードを背後に向けて突き出す。手元から伝わる,相手を貫いた感触に笑みを浮かべるキュスク。果たして,上空に飛び上がっていたように見えていたパトリシアの気配が薄れていく・・・が,ザンッという音とともにキュスクが口から血を吐き出す!
ゆっくりと首を後ろに回した彼が見たものは,淡く輝くロングソードが刺さったジャックの死体とそれを貫いてなお自分に貫手を突き刺し,満足げな笑顔を浮かべているパトリシアの姿であった。彼女はジャックの死体をキュスクに押し付けるようにして,素早く手を引き抜くと,白い靄を立てながら構えをとる。
「っう,ぐ・・・いつの間に・・・」
「残念でした。気配には気づいていたでしょうけれども,お仲間の亡骸のそばまで近づいていたことには気づけなかったようですわね。まさかアレを使うと思ってもみませんでしたか?
ふふ。それでは仕上げといたしますか」
「そうは・・・いくか・・・」
ヨロリとふらつきながらもジャックからロングソードを引き抜き,今一度剣先をパトリシアに向ける。しかしながら,背中に受けた傷の影響か,動きは精彩を欠いている。加えて,輝いていたロングソードは,その光を徐々に失っていく。
斬りかかる刃は以前の勢いを失い,ことごとく避けられていく。一方で,彼女は打撃を四方八方から打ち込み,鎧越しに肉体を打ち据える鈍い音と骨を砕くような音を立てていく。
ゲフォッ!!!・・・ドッ
而して,更なる血を吐き出して,キュスクは膝をつく。
「く,くそっ。なんなんだ,貴様・・・」
「ただの戦闘奴隷でございますわ。さて,ご主人様。お約束通り,頭目とおぼしき者を除いて野盗のお片付けが終了いたしました。いかがいたしましょうか?」
「いかがも何も,パティは大丈夫か? だいぶ斬られただろう?」戦闘が終了したことを確認したショウが瞬時に移動し,パトリシアの脇に立つ。
「致命的なものはありませんので,ご心配には至りませんわ。ポーションは使わせていただきたいと思いますが」先ほどまで激しい戦闘をしていたようなそぶりも見せずに涼やかな表情でパティが答える。
「もちろん,手当てが優先だ。そうしたら,パティが暴れた結果の後始末をして,次にこの頭目さまからお話を聞かせてさせてもらうことにするかね」
「“暴れた”は心外ですけど,そんなにも心配してもらえるのが嬉しいですわ。ふふふ。
それはそうと,こちらの方は縛り上げておきますか?」
「な,何をする気だ?・・・もう,抵抗は,しないから,い,命までは,と,取らないで,くれ」パティの冷ややかな視線を向けられたせいか,はたまた流石に戦闘が継続できないほどにダメージを受けたためか,キュスクは息も絶え絶えに命乞いの言葉を発する。
「縛ってはもらうんだけど,変ないたずらをされても困るからな,その前にこうするさ!」
そう言ってショウは今一度アーブを起動する。そして,青い色で淡く輝く刀身を顕現させるやいなや,攻撃を防ごうと挙げたキュスクの両腕に鋭い薙ぎ払いを放つ!
シュッバッッ・・・ボトッ!
ほぼ一瞬で,キュスクの両の二の腕から下が,青い輝きによってキュスクの手甲ごと斬り飛ばされる。
「っあがぁっ!!」悲鳴とともに両腕から鮮血が吹き出す。
「HPポーションの標準品の方を使って,死なないように止血だけはしておいてくれ」
「オ,オレの,う,腕がぁぁ・・・」
「かしこまりました。ご主人様」キュスクの涙まじりの悲鳴なぞ聞こえないかのごとく,パトリシアが静かに答える。
ショウに向かって綺麗なお辞儀をした彼女の蒼い髪が揺れる向こう側は,うっすらと白み始めており,日の出を迎えていた。
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「はてさて,どうしたもんかなぁ・・・」
ため息交じりにそう呟いたワシの前には,襲撃してきた野盗たちから引きはがした装備やら所持品が並べられている。その陳列の左わきに,野盗の頭目であったキュスクが猿轡をされ,両足が縛り上げられている。与えたポーションが効果を発揮し,切断された腕からは血は出ていないものの,キュスクの顔色は良くない。
「どうもこうもありませんわ。野盗の所持品は金銭も含めて,討伐した者に所有の権利があるのですから,わたくしとの契約金に資するべく全て接収すれば良いんです」
「まあ,そりゃそうなんだけど。野盗のほとんどはパティが倒したのだから,その戦利品に相当するものもパティに権利があると思うんだが」
「ご心配なく。仮とは言え,奴隷契約を結んでいたのですから,ご主人様が所有することに疑義はありませんわ。わたくしを適切に養っていただくためにも必要な財でしょうから」
「“適切に養う”ねぇ,高くつかないことを祈るばかりだよ・・・。では,パティがそれでいいなら,一応全てを預からせてもらうよ。
でもって,最後にこの頭目,どうしてくれようか。命を取らなければ,貯め込んだ財宝を明け渡す,なんて言ってたけど。どこまでホントだか」そう言って,細い目を更に眇めた目をヤツに向ける。
「ほへがっ,うほふがはいっ,ふが,ほご・・・」一生懸命何かを訴えかけているようだが,あいにく何を言っているのかまったくわからない。聞く気もないけど。
ふと,国際機関にいたときに担当した紛争地域で,略奪行為を止めるミッションに携わったことを思い出す。略奪のために人殺しも躊躇わないような奴等は命乞いしてくる人たちを容赦なく殺すくせに,掴まるやいなや命乞いをしてきていた。そんな不平等はまったく頭にはなく,許されると思っているのだ。勘違いも甚だしい。同行していた連合軍の連中は捕縛・連行が面倒だからと殺そうとしていたっけ。国際機関の職員としては一応止めたけど,個人的には処分に賛成だ。この野盗どもはそんな人道もへったくれもない連中と同じ・・・つまり生かしておく意味がないってことだ。
おっと,思わず回想にふけってしまった。
ワシはキュスクに向き直り,詰問するようににじり寄るとアーブの柄をギリギリと首元に押し付けつつ,片方の手で猿轡を取り払う。
「ワシもちょっと入用でな。貯め込まれた財宝に関心がないと言えばウソになるが,そんなことよりも何故ワシたちを襲ったのか理由を聞きたい。情報が得られないなら,貴様が居てもいなくても状況は変わらんから,即座にこいつを起動して貴様の首は永遠に胴体とお別れだ」
「わ,わかった・・・いう,言うから・・・村でお前らの情報を買ったんだ」
「情報? いったい誰から?」ワシが怪訝な表情を浮かべる。
「名前は知らねえが,よくいる情報屋みたいな奴だ。雰囲気からして女性だとは思うが,ローブで全身を覆っていたから顔や体つきもわからないし,筆談をもちかけてきたから声も聞いていない。ただ,オレたちが裏で殺しを請け負っているのを知ってて近寄ってきたのだから,裏の世界にある程度は通じている奴に違いない・・・と思う」
「裏の世界か。どの世界でもそういうモノがあるんだろうけど,面倒だよなぁ。やれやれ。んで,その情報屋はどんな情報を提供したんだ?」
「低ランク冒険者にもかかわらず,高性能なアイテムストレージを持ってるって聞いたのさ。最初は半信半疑だったが,その前に村のよろず屋で仲間がたまたまおまえたちを見かけていたから,その情報に確信が持てたのだ。売ればかなりの儲けになるし,お前らはFランク程度だからちょろいルーキー狩りと思ったのさ。それにそこの女もかなりの金になると期待できたしな」下卑た表情でパティを見るキュスク。
「そんな目でパティを見るな。ち,早々にクロノグラフ改が悪目立ちしてしまったってことか・・・」
苛つき気味に奴のこめかみに裏拳を叩き込み,地面に顔を押し付ける。ぐぇっ,という呻き声をキュスクが上げる。
「わたくしたちを殺すよう,けしかけたようにも見えますわ。ご主人様を襲った例の襲撃者と関係があるのでしょうか?」
「わからん。ただ単に金になりそうな情報を流しただけかもしれん。村に戻って探すにしても手掛かりがなさすぎるな。魔物の討伐証明とか換金もしたいし,大規模討伐の招集状況も気になる。まずは一旦村に戻るか」
「は,話はしたんだ。ざ,財宝も渡すから,助けて・・・くれるよな?」キュスクがすがるような視線を向けつつ声を出す。
「財宝っつったって,略奪品だか盗品の類だろ? 何かの拍子に本来の持ち主が現れて,面倒な騒ぎになるのは御免被る・・・が,いや待てよ。冒険者ギルドに突き出して,お礼をいただくってのはいいな。くく」思わず笑いをこぼすワシは,何か言い出そうとしたキュスクに再度猿轡を咬ませてだまらせる。
「何故でしょうか,何か悪いことを思いついたような邪悪な笑みに見えますわ」
「気のせいだよ,気のせい。さっさと仕度して村に戻ろう。あと,奴らが乗ってきた馬も回収しないとな」
ワシらは,野営地の後片付けをして(といっても野営道具のほとんどが破壊されてしまったので,陳列していた野盗どもの装備品や所持品を回収しただけ),キュスクを引き連れて奴らの馬を回収すべく移動を始める。早朝の心地よい日差しを受けていると散歩気分になりそうだ・・・そうならないよう気を引き締めるのだが。
そして,周囲を警戒しながら,思いついたようにパティに話しかける。
「それにしても,昨晩というか明け方の野盗を返り討ちにしたのは見事だったな」
「わたくしの能力の一部をご理解してもらえたようで嬉しいです。
実際,十分余裕をもって対処できたのは,ご主人様の小鳥たちのおかげですわ。あの警戒網に感謝です。小鳥たちの能力に驚きましたが,あれは今も付近を監視しているのですか?」
「いや,設定した役割を終えたので今は飛ばしてはいないよ。あれを継続的に使うには,今のワシのスペック・・・MP総量に対して,消費MPが大き過ぎるからね。何はともあれ,役に立って良かった。
あと,パティの戦闘能力・・・というか格闘術?には驚いたよ。まさかあれほどとは」
「『帝式格闘術』ですわ。身につけた経緯などは例の計画に関係するお話なので,別の機会をいただければ」そう言って,パティは視線を外す。
「そっか,わかった。少なくとも二人っきりのときに話をした方がいいだろうしな」
邪魔者に一瞥を投げてから,頷き返し,歩みを進める。
話題に上がった『帝式格闘術』・・・ワシの中にある”常識”にはなかった知識だ。かいつまんで教えてもらった情報だと,ガラハッド王国に隣接するサルコジア帝国で発祥した近・中距離の戦闘術で,自らの身体とMPを用いた格闘技術に限定せず,様々な武器を活用した戦闘技術が取り込まれている。そのため,基本的な武器類を用いた技術が確立しているものの,一方で,特殊な武器類を用いる流派も少なからず存在しているらしい。
本人は詳しく語らなかったが,察するに,パティの場合は暗殺術と組み合わされた“特殊な”流派の方だろう。
腰元のアーブから聞こえるチリンチリンという鈴の音のような音を聞きながら,歩き続けること小一時間,キュスクが示す方向に5頭の馬がつながれた木立が見えてくる。
「ふむ。運よく生き残っていたようだな・・・ん? これは護符か?」
馬がつなげられていた木に通常の言語とは異なる文字・・・たぶん魔術的な文字と思しき文様が書き込まれた紙が貼り付いているのが見える。キュスクがふがふがと何かを言いながら頷いている。
書かれている文字は理解できないが,魔物が近づかなくなる効果を示す詠唱なんかが刻まれているのであろう。
一方で,馬の様子を一通り見てきたパティが駆け寄ってくる。
「ご主人様,どの馬も異常ありませんわ。特に気性に問題があるような子はいないようですし,わたくしが3頭を引きながらついて行きますわ」
「よろしく頼むよ。じゃ,こいつは引いていく馬にでも乗っけるか」
ワシはキュスクを縄でぐるぐる巻きにすると,引き連れる対象となる馬に荷物のように縛り付ける。
馬をあやしながら,昔々,恋人の趣味に合わせるべく乗馬の練習をしてたことを思い出す。うわー,10年以上前の話だよ・・・乗れるかなぁ。ま,地球の馬とあまり違いが感じられないし,たぶん乗ればなんとかなるだろう。ワシの“常識”内にある馬の知識とほぼほぼ一緒みたいだし。
「反省会はレンティル村に無事戻ってからでいいんだけれども,振り返ってみれば,野営も含めて,昨日今日と良い経験が出来たな。これなら,もう一声ランクが上の魔物討伐もイケそうだ。ギルドにこいつを突き出すついでに討伐系の相談をしてみるか」
「わたくしは多少の怪我をしてしまいましたが,致命傷ではありませんし,ご主人様とわたくしのコンビであれば,こと戦闘に関してはCランク上位の冒険者パーティ相当にはなれると思いますわ」
「その評価が正しいことを祈っているよ」
「ふふ。わたくしの過去の経験から申し上げておりますので,信じていただきたいところですわ」
「“過去の経験”なんて言うほど歳じゃなかろうに」
「あら,レディに歳の話題を出すとは,ご主人様は命知らずのようですね」
「冒険者なんて,多かれ少なかれ命知らずなんじゃないの?」
「確かに。そうかもしれませんわ」
そうしてワシらは顔を見合わせる。どちらからともなく二人して笑い合いつつ,一路レンティル村へと向けて馬を進める。
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比較的開けた街道沿いを選んだおかげで,面倒な魔物に遭遇することなく,すんなりとレンティル村の外壁に辿り着く。朝方の普通の風景なのだろうか,村に入ろうとする列がそれなりに伸びているのが見える。
ワシらが馬から降りて,その列の最後尾につけたところで,門番から声がかかる。
「お! ショウじゃないか。おーいっ,ショウ!」
槍を持った手をブンブン振っている門番・・・カルロスが大声を上げるやいなや,彼は近くにいた同僚に村への来訪者のチェックを押し付けて,こっちに駆け寄ってきた。
「やっぱり外に出てたのか。アンドリュー隊長が探してたぞ。たぶん例の返り討ち騒ぎの件だろうな。今頃だとギルドで打合せをしているだろうから,急いでいけば会えるぜ」
「そりゃちょうどいい。こっちもギルドに真っ先に行くつもりだったし。んじゃ,先にギルドカードをチェックしてくれるか?」
「順番を守ってくれ,と言いたいところだが隊長が探していたからな,今回は特別だぞ。ほら,カードを貸しな」
ワシはポケットから出す素振りで,クロノグラフ改からギルドカードを呼び出して,カルロスに渡す。彼はカードをチェックしながらパティと馬たちを見渡す。
「冒険者は辞めて,馬の商売でも始めるのか? っつーか,そっちのエライべっぴんさんは何だ!? それに,後ろの馬に載せてある荷物・・・じゃなくて,ありゃ人か?」
「彼女はパトリシアと言って,戦闘奴隷として仮契約をしたんだ。まだ冒険者ギルドに登録していないからカードはないけど」ワシの言葉に合わせて,軽く会釈をするパティ。
「戦闘奴隷って,おいおい,お前ってそんな金持ちだったのか?」
「いろいろ訳ありでね。んで,荷物の方は,野盗どもをやっつけた成果物さ」
「ははは。また“返り討ち”ってヤツか? すげえな」
「パティのおかげでなんとかね。奴がギルドカードなんかを持っているかどうかは確認していないんだけど,どうすればいい?」
「ふんじばった犯罪者だけど,一人って数えなくちゃいかんから・・・お代はパトリシアちゃんと合わせた2人分で銀貨1枚だ」
「了解」
ワシは銀貨1枚をカルロスに渡し,チェックが終わったギルドカードを受け取る。そして,パティ共々,再度馬上の人となり村の中へと馬を進める。パティは通り過ぎるときにふんわりとした笑顔とともに彼に再度会釈をする。そんな笑顔に見惚れてしまったのか,カルロスは固まったまま言葉もなくワシらを見送る。確かに,今のパティからは今朝方の激しい戦闘で見せた雰囲気は微塵もなく,彼女が持つ美しさだけが漂っていた。そりゃ見惚れるわな。
馬を進めていくと,ほどなくして『冒険者ギルド レンティル村支部』の看板が見えてくる。さっそく馬留めの場所に馬たちを繋ぎ,荷物と化したキュスクを担いで,ギルドの建物内に入っていく。朝方ということもあり,ギルド内のカウンターや掲示板前はそれなりに混みあっている。どの列も同じような長さだったのだが,何とはなしに見覚えのある受付嬢がいるところを選ぶ。
「あら,ご主人様,あの受付嬢がお気に入りですか?」とパティがジト目気味の視線を向けてくる。
「ば,ばかっ,何言ってるんだよ。な,なんとなくだよ何となく。見知った顔の方が話し易いだろうな,って思っただけだ」何も後ろめたいことがないのに,なぜか動揺するワシ。
「ふーん,そうですか。特に他意がないようでしたら,それはそれでよいでのすが,思わせぶりな態度はお控えしたほうがよろしいかと」
「何言ってんだか。受付嬢に色目を使うほど,若くないわっ」
「長命種のご主人様にしてみれば,今の見た目とおりの若さをお持ちと思いますけど・・・あ,順番が回ってきましたわ」
そんなやり取りなんかをしているうちに,ほどなくして順番が回ってくる。受付嬢の方もワシのことを覚えていたようで,こちらを見て,少し相好を崩して話しかけてくる。なぜか後ろから温度の低~い視線が刺さってきている気がする。
「おはようございます,ショウさん。推奨したエリアでの討伐はうまくいきましたか?」
「あ,ああ,おはようございます。こんな駆け出しの名前をまさか憶えてもらえるとは・・・ありがとうございます。え,えーと,ポリーナ・・・さん?」運よく名札を身につけてくれていたので,かろうじて名前を呼び返すとともにギルドカードを提示する。
「はい。人相と氏素性を記憶するのもギルド受付嬢の重要なスキルですので。それでなくとも,ショウさんはちょっと注目されてましたからね。支部内では憶えがいいんですよ。ふふ。
それでご用向きは?」ポリーナは好奇心をのぞかせたような笑いを浮かべている。
「あはは,憶えがいいというより悪目立ちしただけじゃ・・・それはそうと用事はですね,そこそこ魔物を倒したので,その討伐報酬と素材として買い取ってもらえるのかの相談と,捕まえた野盗の頭目の処分について相談をしに来た次第です」
ワシは,担いでいるキュスクをどさりと床に落とす。抗議とばかりに,何かを言おうとしているが,もちろん猿轡をされているから,ふがふが・ふごふごという音しか出てこない。さりげなくパティが蹴りつけ,それを誤魔化すようにワシが猿轡ごと奴の顔を踏みつけて黙らせる。見目麗しい美少女なのだから,そういう行為はあまり露見しない方がいいのである。イメージは大事。
「犯罪方面でしたら,衛兵隊の詰所に相談に行ってもらうことになるのですが・・・アンドリュー隊長が朝の打合せでこちらに来ているはずなので,たぶんここでお会いできますよ。
ジーナ! アンドリューさんに帰りしなにカウンターに寄るように言ってくれる?」
「はーいっ!」ポリーナの呼びかけに元気よく答える声がカウンターの奥から聞こえてくる。
「それはちょうどいい。門番のカルロスから隊長殿がワシを探していると聞いていたので,好都合です。で,討伐してきた魔物の件。討伐部位だけ取った魔物だけでなく,倒した状態そのままで持ってきたものもあったりするのですが,ここで出しても大丈夫ですか?」
「ショウさんは,先日の月下草の件もありますから,先にお聞きしますけど,何をどれくらい持ち込むご予定ですか?」
「えーっとですね・・・討伐部位だけなのはゴブリンが21,オーガが7,ブラックダイアウルフが1です。
それと,死体のままのものはブラックダイアウルフが57ってところでしょうか。
あとついでに,ゴブリンが持ってた武器・防具の類に,野盗どもの装備品とか馬とかも買い取って欲しいんですけど・・・」
「はいはい。ゴブリンが21に,オーガが7,それとブラックダイアウルフが1,と。Fランクにしては,短期間でこの成果はすごいですよ。
で,未解体のブラックダイアウルフが57・・・って,え!? え?57体!? うそ。ありえないでしょ」ポリーナがメモを取っていた手を止めて,頓狂な声を上げ,ギルドカードをかざした魔道具を二度見,三度見する。
「ですよねぇ。ギルドカードの記録があるにしても,出して見せなきゃ信用してもらえませんよね。ここで出すとけっこう場所,取っちゃいますけどいいですか?」
「いやいやいや,そうではなくてですね。魔物の出現エリアを教えてから,たった2日ですよ! それもブラックダイアウルフって,群れていればCランク冒険者で対応しなくちゃいけない場合があるのに・・・Fランクの冒険者が,それも57体だなんて!」
「え,ええ,まあその,パティと一緒にがんばったんです,としか言いようがないのですが・・・」
軽くウェーブのかかった金髪を振り乱しながらにじり寄るポリーナにびっくりしつつ,ワシが答える。ちなみに,後ろに控えたパティは『当然ですわ』という表情を浮かべて立っている。
「がんばった,って言ったって,Fランク冒険者がやればできるようなレベルじゃないと思うんだけど。ちょっと,あとで支部長に報告しとかないといけないわね」ポリーナがぶつぶつ言いながら,あらぬ方向を見ている。大丈夫かなぁ,と心配したときに,後ろにいたパティが冷ややかな声を投げかける。
「村程度のギルド職員ですと,まともな受付業務もできないのでしょうか。ご主人様,さっさとここを出て,王都に移動されてはいかがでしょうか」
「・・・はっ! な,何を言っているのですか,レンティル村はただの村とは違いますから!
買い取り等々は問題ありません。ただし,数が多いようですからこのカウンターではなく,査定対象の品は裏手の倉庫の方に持って行ってください。査定の担当者が対応します」
「わかりました。そっちに回ることにします。その間,この野盗はここに置いといてもいいですか?」
「いや,さすがにそういうのを預かるのは,ちょっと困るのですが・・・あ,アンドリュー隊長が来ましたよ!」
ポリーナが困ったような表情をしたときに,ちょうどアンドリュー隊長がこちらに来たようである。振り向くと,向こうもワシに気づいたようで,手を振って近づいてくる。
「ちょうどよかった。先日のマンウたちの襲撃について検分が終わったから,詰所に来てもらうよう伝言しようかと考えてたところだったんだよ」
「カルロスからワシを探しているって話と今ならギルドで会えるって情報を聞いたので,急ぎ立ち寄ったんです」
「結論から先に言うと,特にショウを狙った原因になるような情報は得られなかったよ。君たちのやり取りを見た村の人たちからも,明らかに襲われた様子だったことが聞き取れたからお咎めなし,だ。
そういうことだから,彼らの所持品を引き渡すから後でもいいから詰所に寄ってくれると助かる」
「やはりわからずじまいでしたか・・・所持品引き渡しの件は了解です。それはそうと,昨夜襲撃してきた野盗を討伐して,その頭目を連れてきたんですけど,“犯罪者関係は詰所に”ってポリーナさんに言われたので,このまま連れてってもいいですか?」
足元のキュスクがもごもご言っているが,今一度踏みつけて黙らせる。
「なんだい,今度は野盗討伐か! すごいな。じゃ,ひとまず一緒に詰所まで行くか?」
「ちょっとギルドに査定をお願いするものがあるので,それを渡したらすぐ向かいます。では後ほど!」
「わかった。詰所で待ってるよ」
そうして,ワシらはいったんアンドリュー隊長と別れ,ギルド裏手の倉庫に討伐部位やら魔物の死体やら入手した装備類やらを馬とともに持ち込んで,査定が終わる時期の見込みを聞いておく。もちろん,いい機会だから全部の馬は売らずに,パティの見立てに基づいて選ばれた2頭は移動用として確保。そんな2頭を馬留めに残して,ワシらは一路詰所へと向かう。
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詰所に着いてからは,いくつかの質疑事項(といっても先日聞かれたことの再確認程度だったが)とマンウやコーネリアの装備品や所持した金品の受領に関わる書類へのサインをするといった事務手続きを経て,奴らの装備品等々を受領した。受領書を見てみると,
-武器類;ミノタウロスの戦斧(物理攻撃力補正(中),戦意高揚),高精度短剣(投擲時命中補正(中),高度上昇効果),獣狩りのショートソード(対獣,獣人,魔獣への攻撃効果(大))
-防具類;PM強化レザーアーマー(物理防御効果(中),魔法防御効果(小)),MSI強化レザーアーマー(魔法防御効果(大),耐刃性強化,耐衝撃性強化),膂力の手甲(STR上昇効果(中)),工匠の手袋(DEX上昇効果(中)),駿馬の脚甲(AGI上昇効果(中)),俊足の脚甲(AGI上昇効果(小))
-金品;金貨22枚,銀貨49枚,大銅貨73枚,銅貨31枚,鉄貨56枚
-その他;サイドバッグ(アイテムストレージ機能付(中)),HP/MPポーション類,防御の指輪(回避能力向上),戦士の指輪(恐怖耐性向上),スペルスクロール(未封入),野営道具,湧水の水袋,解体道具
となっていて,効果などの情報まで記載されていた。
きっと,鑑定のスキルか何かを使ったのだと思うが,その費用として,マンウ達が所持していた金品の10%が徴収されていた。この徴収に同意することにより,ワシらの正当性をレンティル村の衛兵隊が保証することになるのだと説明があった。
「Cランク冒険者の割には,あまりアイテムを持ってないんだな」
「高ランク冒険者でしたら,拠点を持ってるでしょうし,一切合切持ち歩くようなことはしないと思いますわ」落胆気味に漏らしたワシの言葉を拾って,パティが答えてくれる。
「なるほど,そういう可能性があるわけか・・・とそれはそうと,このキュスクはここに置いて行って良いですか?」
ワシは足元に転がしたキュスクを指して,アンドリュー隊長に尋ねる。
「もちろんだ。ひとしきり,今までの悪行を吐き出させて,取り戻せるお宝の類は,元の持ち主に戻せるように努力させてもらうよ。それが終わったら,奴隷行きだな。両手がない奴隷なんて買い手がつくかわからんが,世の中いろんな需要があるらしいからな」
「どういう需要かは聞かないことにしますよ。じゃ,ワシはこれで退散いたします」
「おう。おつかれさま。あ,そうだ。こいつから出てきたお宝とかはどうする?」
「どうせ,盗品だか略奪品だかの類でしょうから,処置はお任せしますよ。もちろん,お礼の類は大歓迎ですので,連絡はお待ちしています」
「わかった。まだしばらくはレンティル村にいるんだろ? 何かあったら,『栄光の物語亭』に伝言かなんかで連絡するからよろしくな」
「ええ,しばらくは。大規模討伐の依頼を受けるつもりなので」
そうしてアンドリュー隊長の言葉に一礼をし,詰所を後にする。査定作業が終わるのは昼過ぎになると聞いていたので,冒険者ギルドに戻る前に昼食を取る。
いくつかの選択肢はあったのだが,結局,宿を押さえるのも兼ねて,『栄光の物語亭』の隣にある食堂に立ち寄る。宿屋のおやじは相変わらずの不愛想ぶりを発揮しつつも,特に文句を言うこともなく部屋を提供してくれた。またもやパティと2人で1部屋というのにドギマギしたのは内緒である・・・。
腹ごしらえをしたワシらは,野盗の襲撃で破壊されてしまった道具類,消費したポーション類を『よろず屋12号レンティル村店』で補充し,ギルドへと向かう。
建物に近づくと,心なしか先ほど訪れたときよりも慌ただしい感じがする。
「もしかして,とうとう大規模討伐の募集がかかったか?」
「ええ。可能性は高そうですわ」
パティの肯定に頷き返し,急いで建物の中へと入っていくと,予想していたとおりの大規模討伐の募集が掲示板にでかでかと貼り出され,その周りに人だかりができている。近づいて,募集要項を見てみると・・・
・依頼内容;ゴブリン・オーガ・トロル・サイクロプスの同時異常発生への対処(大規模討伐)
・募集期限;王歴517年8月30日
・応募方法;冒険者ギルド レンティル村支部受付カウンターにて申請。
・実施日;応募者に直接通知。
・拘束期間;最低4日間(移動時間を含む。また,討伐状況に応じて変動有)。
・依頼受諾人員;上限なし。
・応募可能レベル;制限なし。
・報酬;冒険者ランクに応じて金貨6~20枚+討伐時に得られた金品の加重配分(功労による)
・依頼主からの支援内容;救護班の設置,拘束期間中の糧食等の提供。
・その他;
-得られた素材やアイテム類については,原則として依頼主(レンティル村領主;ジャックマイン・レンティル子爵)に帰属する。ただし,討伐参加者には,格安で譲り渡す予定。
-大規模討伐のため,子爵の下に構築される指揮命令系統に従うこと。
というようなことが記載されている。兎にも角にも,お金を稼がねばならないのだから,是も非もなく‘応募する’の一択だよなぁ。たぶんFランクのワシだと報酬額は金貨6枚だな。討伐内容で報酬が増えるようだから,そこを期待して頑張るか。実施日が明記されていないのは,集まった冒険者の内容に応じて調整するのか,はたまた討伐時期についての情報漏洩を懸念したのか・・・。
いろいろと考えが頭の中を巡ってきたところで,ぐいっと腕を引かれて,意識が戻る。
「ご主人様? 何をぼーっとされているのですか? さっさと応募の申込をしませんと!」
「お,おう。ゴメン,ちょっと考え込んでた。もちろん応募するさ。査定結果の件もあるし,ポリーナのところに行ってみるか」
パティの返事を待たずにポリーナが受け持っているカウンターに向かう。パティは,一瞬だが不満気な表情を浮かべてから,ワシのあとに続いていく。カウンターの列は,大規模討伐の依頼発出の影響か,既に各カウンターの列が長くなっていく様相を見せている。
「では,次の方・・・と,ショウさんでしたか。査定なら終わっていますよ。
討伐報酬とブラックダイアウルフの毛皮や持ち込まれた武器防具類と馬3頭で,総額は・・・金貨38枚,銀貨2枚,大銅貨7枚,でした。毛皮の状態が良ければもう少し買い取り額を上げられたんですけど,というのは査定担当者からの伝言です」
「おお! そんなに!? 素晴らしい」ジャリンッという音とともに置かれた袋を見て,あからさまにほくほく顔をするワシ。
「Fランクにもかかわらず,この短期間での討伐実績はかなりのものです。歴代のトップとまでは言いませんが,記録するに値する結果だと思いますよ。将来Aランク冒険者になれる可能性もありそうですね! うふ。ショウさんからは有望株の匂いがしてきました」
にこやかな笑顔を向けてくるポリーナであったが受付嬢的営業スマイルだけではない笑顔が含まれている気がする。誰だ,‘スマイル 0円’なんて言ってた奴。これは高くつくパターンの笑顔だって・・・。
加えて,後ろから温度の低い視線も感じていることから,適当にごまかす方針を採用する。
「あ,いや,別に記録なんて追い求めておりませんので,大丈夫です。はい。
それはそうと,大規模討伐の依頼が出たようなので,パティともども応募したいのですが」
「そういえば拠点はどちらでしたっけ? いっそのことレンティル村を拠点にされますか?」話聞いてないし・・・と思った矢先に後ろから感情のこもってない言葉が投擲用短剣のごとく飛んでくる。
「ご主人様は,大規模討伐の応募についてお尋ねをしているのですが,聞こえていらっしゃらないのでしょうか?」
「あら,そうでしたわね。では,この話はまた後日。
それでは,大規模討伐への応募ですが,依頼の条件等は既にご理解いただいていると思いますので説明は割愛いたしまして,こちらの用紙にお名前とお持ちの移動手段と村内での連絡先として宿泊先を記入してください。あと,戦闘奴隷をお連れになるのでしたら,その旨も追記してください」
ポリーナは,パティの物言いをさらりと受け流して,討伐依頼の申し込み手続きを説明していく。ワシは必要事項を記載しつつ,ギルドカードを添えて手渡す。彼女は,記載内容を一通りチェックし,問題なし,とばかりに自身のサインを入れて受領する。ギルドカードが,彼女の手元の魔道具にかざされ,一瞬だけ光る。
「はい。これで依頼受諾の処理は完了です。カードをどうぞ」
「あ,どうも。それはそうと,討伐実施日って,直接通知されることになってましたけど,いつ頃になるのか教えてもらえないんですか?」
「それほど先にはならないと思いますが,募集期限の2日後・・・9月1日頃には決まるかと。そこそこ緊急性が高いようなので,それほど間を置かずに実施されると思ってもらえれば」
「わかりました。まずは連絡をお待ちします。それはそうと,もう少し魔物の討伐で経験やら討伐報酬やらを稼いでおきたいところなのですが,前回教えていただいた魔物よりも高いランクが出るようなエリアを教えてもらえたりしますか?」
「少し上のランクとなるとC~Dランクとなりますが,ショウさんってどれくらまでレベルは上がったのでしょうか? その内容によっては,お教えするのは控えさせていただくこともありますが・・・」心配げな表情と声音でポリーナが問いかけてくる。
「えーっと,ワシが58で,パティが57ってなっています」
「!? 討伐実績から50は超えているとは思っていましたが,60レベル近くまで上がってるなんて・・・ちょっと,早すぎません? 疑うわけではないのですが,ステータスをチェックさせていただいてもいいですか?」
「いや,そこ十分疑っているでしょ。まあ,別にいいけど」
ワシがそう答える背後から何となく威圧感のある雰囲気を感じる。あう,パティの機嫌がだだ下がりしている・・・。そんな空気を無視したかのように,ポリーナはエッジのギルドで見たのと同じ水晶球を差し出してくる。ワシは,早く終わってほしい一心でさっさと手をかざす。
「・・・ホントだ。え,だって,ここ2~3日で10レベル以上も上がるって・・・早すぎだわ」
「あのー,疑いも晴れたことですし,魔物出現エリアの情報をいただけませんか?」
「は,はい。先ほどご紹介しようとしたところは,村から南東方面へ馬で1日ほど移動したところの森林地帯で,『小水竜の道』と言われる河が近くを流れているはずで,国内最大の湖でもある『深き藍の湖』の南端近傍でもあります。
ただし,そのあたりはワイブル領との境界付近でもあり,以前にバジリスクやワイバーンといったCランク上位のような高レベルの魔物が出現したとの情報が出回ったこともあるので,ご注意ください」
「了解しました。じゃ,明日にでも遠出してみようと思います。もちろん討伐関係の通知が来るであろう9月1日頃には村に戻るようにします。それでは,またー」
手を振りながら,そそくさとカウンターを後にする。ギルドを出ようとしてから,ふとホール内で立ち止まる。昨日の野盗どもからせしめた所持金や装備なんかの換金に,マンウたちからの金品とさっき換金した討伐報酬やらで,けっこうな金額がたまったのではないか?
「どうかされましたか?」急に立ち止まったワシにパティは怪訝な表情を向ける。
「なあ,パトリシアさんや。昨日の野盗からいただいた所持金やらマンウたちの所持金,それに本日換金したもろもろの総額はかなりの額になってると思われます。それも正式契約に必要な白金貨10枚を超えるくらい!」くわっと目を見開くワシ。
「え? 本当ですか!・・・けど,そう言われてみれば,野盗やご主人様を襲った輩の所持金,野盗やゴブリンたちの装備品に,ブラックダイアウルフの素材の換金を考えれば,金貨100枚は超えそうな気がしますわ!」
そうして、ワシはクロノグラフ改の収納リストを確認する。視界内に各硬貨の枚数を見ていくと・・・金貨・銀貨・大銅貨がそれぞれ100枚以上になっているではないか!
「よっしゃ! 達成したぞっ!」思わずガッツポーズをとって飛び上がるワシ。
「ご主人様なら必ずできると信じていましたが,まさかこんなに早くに達成されるとは」
「いやー,襲撃者といい野盗といい返り討ちにしたことでこんなに稼げたとは。ありがたやありがたや。さあ,目標金額を達成したとなれば,さっさと正式契約だ!」
ワシはパティの手を握り,脱兎のごとく走りだしたのである。そのため,彼女が顔を赤らめていることにまったくもって気づくことができていなかった・・・。
無事?に金稼ぎやらレベルアップやらが出来ました。
次は大規模討伐・・・といきたいところですが,もう少しだけ討伐イベント前のお話があったりします。
お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
では,女神様を信じるみんなにご加護がありますように。




