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第1章 第四話ノ壱 Bounty Hunt ~大規模討伐の前に金とレベルを稼ぐのだ~

My apologies for too late uploading...

投稿した分を読み返しつつ,設定の見直しやらでちょくちょく修正を入れるような作業をしていたら,あっという間に2か月も経ってました(--;

考えていたところまで話が進まなかったので,またもや複数に分割しての投稿になります。(続きは早く上げたいのですが・・・年内中のアップに向け頑張ろうと思います)

いやー,ガンガン投稿できる方はほんと筆が速いんですね。感服します。


前回までのあらすじ

・異世界に来てから初めての友人?となるエドたちと夕飯を楽しむところで,刺客来襲。

・極狂刀流 剣術(アーブの力)と特殊スキル“加速する力”で格上の冒険者たちを返り討ちにし,最後の一人から情報を聞き出そうとするも別の襲撃者により命を絶たれ,口封じされる。

・思案した結果,奴隷の入手を検討し,とんでもない物件と仮契約。

・とにもかくにも正式に契約を結ぶためにはお金がいることから,資金稼ぎを決意。さて,出かけようかと思ったときに,一人の冒険者が慌ただしくギルドに飛び込んできた・・・。


Let's get started!!

バァンッッ


「エドたちがとうとう見つけたぞっ!!!」


 叫び声のような大声を上げて,一人のレザーアーマー姿の男が飛び込んできた。その勢いと,騒がしさで,ギルド1階ホール内から注目が集まり,一瞬静まり返る。彼は,ワシらがいたカウンターまで駆け込んでくる。走り通しだったのだろうか,息が上がっている。そんな彼を見かねたのか,受付嬢が水の入った木製のカップを差し出す。


「ん? あなたはパーティ“奇跡の水”のパルミジャーノさんでは?

 まずは,これを飲んで落ち着てくださいな」

「・・・はぁ,はぁっ。す,すまねぇ。昨日の夜から走りまくってて,さすがの俺も息があがっちまってな・・・んぐっ,んぐ・・・ぷふぁっ」


 男は人心地ついたのか,肩で息をしつつも,疲れた顔に得意気な表情を浮かべて一大ニュースとおぼしき情報を話し始める。


「エドのパーティと協力体制を取っているうちらのパーティが,数日前に異常発生の元凶とおぼしきエリアを見つけた。

 ただ,俺らの想像以上に規模が大きいみたいで,1, 2日程度調査しただけでは全容をつかむことができなくてな・・・で,さっさとギルドに一報を入れるべきということになって,俺が伝令役となったわけだ」

「“奇跡の水”はリーダーのライアンさん以外はDランクの方たちで構成されているとはいえ,ほぼほぼCランクパーティ相当の実力でしたから,そんな彼らが一緒にいても規模感がつかめないとなると大ごとになりそうな気がしますね」

「斥候役である俺がざっと見ただけでも,少なくとも200以上はいたと思う。シャルの精霊術の調査でも似たような結果だったから,大きく間違えることはないと思うぜ。

 加えて,通常のゴブリン種だけでなく,上位種のような存在が含まれているわ,オーガなんかも多数いて,とてもその場でどうこうしようって気にはなれないレベルだった・・・エドもライアンも調査と監視を優先しつつ,応援を呼ぶべく俺が来たってわけだ」

「取り急ぎ,支部長に報告したいので,お疲れのところ申し訳ないのですが,一緒に来ていただいても良いですか?」

「ああ,もちろんだ」


 二人は,そのまま建物の2階へと消えていく。

 そんな後ろ姿を見ていた,やじ馬の冒険者たちがざわめき始める。口々に「こりゃ大規模討伐の依頼が発生するんじゃねぇか?」「一稼ぎのチャンスか」「おいっ,ギルドの大口購入が始まる前にポーションとかの消耗品を押さえにいくか!」とテンション上げ気味のセリフが飛び交う。

 ワシは,“歪”にとうとう遭遇か!?と思い,近くの冒険者を捕まえる。


「“大規模討伐の依頼”って何ですか?」

「何だそんなことも知らねえのか?・・・大規模討伐ってのはな,通常のパーティ編成レベルじゃ手に負えないくらいの量の魔物がいるときに出される依頼さ。依頼主は領主とかの国の人間かギルドになるから,報酬が期待できるってもんよ」

「よくあることってやつですか」

「そうそう起きることじゃないが,年に何度かはそんな依頼が出ているって話だ・・・おっと,俺らもそいつに備えて準備しなくちゃなんねえから,じゃなっ」


 男は,そそくさと他の仲間とともに外へ飛び出していく。よく周りを見ると,ギルド内が慌ただしくなってきている。

 ふむ。どうするか。異常事態であるには違いないのだろうけれども,女神様からの依頼対象となる“歪”に関係するのかどうかわからんし,首を突っ込んでいいのか悪いのか・・・と思案しかけたところで,くいっくいっと袖を引かれる。


「で,ご主人様は道具とかの買い揃えはしなくても良いのですか?」

「へ?」

「“へ?”じゃありませんよ。ほどなくして大規模討伐の依頼が出るのですから,これに乗らずしてどうするんですか!? 奇しくも契約金を稼がねばならない時にこの好機。千載一遇と言わずしてなんといいましょうか!」

「そ,そんなに勢い込まなくても・・・けど,まあ確かにそうだよな。何事も経験だし,それにエドたちが困っているっていうならそれに協力するのも悪くないか。ただ,その依頼って直ぐに出ないだろう?」そう。ワシの中にある“常識”では,このような大規模討伐は時間がかかるもの,となっている。ただ,どのような流れで依頼などが出てくるのか等の詳細情報は記憶されていなかったが。

「大がかりな依頼となれば準備にも時間がかかりますから,今日の明日に出るとは思えませんが,緊急性が高いと判断されれば,人集めの先触れが1~2日以内,そこから1週間以内に依頼受諾者の選定,物資の調達、討伐対象への詳細調査と作戦立案を済ますってところではないでしょうか」

「ふむ,おおむね10日後に討伐作戦決行ってところか。それはそうと,やけに詳しいな。冒険者をやっていた経験でもあるのか?」

「真似事のようなことは少々・・・詳しくは正式契約後に♡」

「さいですか。んじゃ,必要な道具を揃えに行きますか。ま,その一大プロジェクトが動き出す前に出来る限りレベルアップに励んで,契約金の残金も稼いでおかなきゃならんな」

「はい。わたくしとしても,ご主人様のお力の全てを拝見したいですし,連携も確認したいですから。さっさと行きましょう」


 ワシの返事に対して,小首を傾げて綺麗な蒼い髪を揺らしながら笑顔を向けるパティ。

 まずは長丁場に必要になりそうなアイテム類の買い出しだ。そうして,ワシらはギルド内に貼りだされていた雑貨屋の広告を頼りに,ギルドを後にする。


<------------------------------------------------------------>


 一方,ショウたちが買い出しに向かった後のギルド内では,パルミジャーノを連れ立った受付嬢が“支部長室”と書かれた金属プレートが掲げられた魔術的な紋様が施された扉をノックする。


「パサロフ様,急ぎのご報告があります。入室してもよろしいでしょうか?」

「ああ,かまわんよ。お入りなさい」


 落ち着いたバリトンの声で入室の許可が出る。受付嬢は,丁寧かつ静かに扉を開けて中に入る。4m四方ほどの広さの部屋には,部屋の主の後にある窓付きの壁を除き,様々な書類や道具類で埋め尽くされた棚が所狭しと壁に備え付けられている。

 部屋の主である支部長は,男性用のギルドの制服・・・モスグリーンのビロード地で受付嬢と同様のデザインで,ガラハッド王国の紋章と銀の杯が胸元に刺繍されており,支部長を示すブローチ(剣と水晶をあしらったもの)が鈍く光っている・・・に身を包み,物憂げな表情で頬杖をついている。


「ポリーナ,後ろの男は? まさか急ぎの報告とは・・・もしやとうとう寿退所か!?」

「それは以前から熱望していますが,残念ながら違います。

 例のゴブリンの異常発生調査の件で進捗がありました。主たる受託者は,Dランクのエドガー・エドワード他2名なのですが,協力者であるパーティ“奇跡の水”のパルミジャーノが,拠点発見の一報を持ってまいりました。内容が内容なだけに,急ぎお耳に入れたく,伺いました。パルミジャーノさん,ご報告をお願いできますか?」パサロフの言を切って捨てたポリーナは,パルミジャーノに水を向ける。

「あ,は,はいっ。初めてお目にかかります“奇跡の水”で斥候役をしているパルミジャーノです。現地で確認した状況がかなりヤバそうな状況でして・・・」


 彼の説明を聞き始めたパサロフは,黒い瞳をもつ切れ長の目を細め,表情を険しいものに変える。


「少なく見積もって200以上の魔物で,その構成たるや,単なるゴブリンだけでなく,魔術士系やら戦士系のスキルを持っていそうなゴブリンの上位種や,オーガやトロルまでいるのか・・・ある程度のヒエラルキーか指示系統があることも疑った方が良さそうか。場所は,ここから東に向かって1~2日ほどの位置か。近いな。

 それで,エドたちはこれからどうすると?」

「俺が離れる時点では,ゴブリンたちの拠点の規模を詳しく把握すべく調査を継続しつつ,近隣の集落に被害が出ないよう,集落の防備を固めるか避難をするよう話して回るというようなことを言ってました。俺はギルドに報告した後,また戻って落ち合うこととしています」

「わかった。村の領主に相談の上だが,大規模討伐の依頼を出すことになるだろう。拠点の位置が近いから緊急性が高いな・・・それほどの規模なのに発見できなかったのは,シュバルツシルトの手前の丘陵地帯が災いしたか。

 まあ,いい。遠距離連絡用のスペルのスクロールを渡すから,調査状況の報告を定期的にしてくれ。こちらの準備もあるから,急いでも動き出すには1週間ちょっとはかかるな。それまでに応援が必要であるなら緊急依頼でパーティを派遣するようにしよう」

「では,俺は一息ついたら現場に戻ることにします。少しでも早く着きたいので,身体強化系の魔術をかけてもらえると助かるのですが・・・」

「そうだな。ポリーナ,支部内の魔術課のところに行って,複数枚のスクロールと移動用の支援魔術を融通するよう手配してくれ。あと,総務課に大規模討伐依頼の準備を指示。私は,領主殿に会いに行ってくるから馬車の準備も頼む。急ぎの用があれば,いつものやつで連絡を飛ばしてくれ」

「かしこまりました。それでは,これで失礼します」一礼をしたポリーナとパルミジャーノは,支部長室を退室していく。


 彼らが退室し,扉が閉まりきった際にパサロフが険しい表情で一言を漏らす。


「魔物どもめ。1匹残らず,殲滅してやる」


 そして,彼は領主との議論にあたって必要になりそうな情報を収めた書類を鞄に詰め,金ボタンがあつらえられた制服の上着を取って支部長室を出る。1階に降りると,ギルド職員の執務スペースエリアでは,先ほどの指示が飛んだためかいつも以上に慌ただしく職員が立ち回っている。

 パサロフに気づいた何人は会釈をし,彼も軽く手を挙げて答えて,カツカツと音を立てながら足早にギルドの玄関を出ていく。その前には,飾りなどは抑え気味であるが,造りがしっかりした二頭立ての馬車が既に待ち構えていた。彼が乗り込んだことを確認した御者は,小さな掛け声とともに軽く馬に鞭を当てて,一路領主の屋敷へと向かう。


<------------------------------------------------------------>


 ワシたちはギルド内にあった広告のおかげもあり迷うことなく,ギルド推奨店である『よろず屋12号レンティル村店』に辿り着くことができた。‘12号店’ってことは,どうやらチェーン店らしい。


「というわけで,雑貨屋に来たわけだが,野営道具とポーションくらいを買い足しときゃいいか」


 例の大規模討伐依頼がでるかもしれないという噂が先行しているせいか,広い店内には冒険者とおぼしき武装をした集団や個人がそこかしこで見受けられる。雑貨屋というだけあって,武器・防具以外は何でも置いているような雰囲気である。日本で言えば,イトー〇ーカドーな感じであろうか。


「そうですね。ご主人様の持ち物リストは存じ上げませんが,野営をする際に必要となる資機材のほか,糧食関係,必要に応じて調理器具類,戦闘時ないしは戦闘後に必要となるポーション類,ポーションが枯渇した場合の応急処置の道具あたりは押さえておくべきかと思いますが」パティが指折り数えて,必要最低限のアイテムを指摘する。

「携帯食料10日間分と寝袋はあるが,それ以外はないから,野営用のテントと火おこし関係の道具,調理器具類,HPとMPのポーションに解毒のポーションだな。ポーションが枯渇するほど無茶をする気はないから応急処置の道具は今回はパス。野営時に使うかもしれない雑貨類を買っておこう。

 あと,討伐した魔物とかを処分するための油類もあった方がいいな。寝袋はワシの分しかないから,パティの分を追加,と」

「経費節約のためにも一緒の寝袋を使おう,などという提案はされないのですか?」いたずら気なかわいらしい表情を浮かべて,小さな顎に人差し指を当ててパティが問いかけてくる。

「からかわないでくれますかね? 良識ある大人は,伴侶でもないような相手と同衾するような節操ないことはしないっつーの」

「ふふ・・・‘良識ある大人’ですか。よく覚えておくようにいたしますわ」


 “やれやれ”と呆れ気味の声を上げて,ワシは覗き込むようにこちらを見つめる彼女の顔をぐいっと押し返し,品定めに注意を向ける。そんなワシに向けて,パティが問いかける。


「水の生成,火おこし,照明の役割を果たすような魔道具類はどうされますか? あれば便利ですが,少々高価になりますから,予算次第ですけれども」

「そっち方面の魔術に適性がないからスペルで代用できないし,残念ながら今のところは懐も寒い。火口箱や大量の水を持っていけるような樽を複数とランタンを買っておくか」


 アイテムストレージ機能を持ったクロノグラフ改があるから,量を持っていくのは苦でもないし,時間停止の機能もあるから劣化も気にしなくていいというのはかなりありがたい。

 女神様のご加護に感謝!である。


 ポーション以外は,アイテムの種類に応じて陳列されていることから,それらを手に取りながら,中庸な品質と思しきものたちを選定していく。けっこうな量になりそうなので,店員を捕まえて,購入するから会計の場所まで持ってくるように,と言いつける。

 最後にポーション類を選ぶべく,薬師と思しき白衣を着た店員がいるカウンターに向かう。そこそこ広いカウンターでは,3名ほどの店員で客たちを捌いている。その中でちょうど手が空いたように見える男性店員に話しかける。


「いらっしゃいませ。どのようなポーションをご所望ですか?」

「すみません。回復系のポーションと解毒関係のポーションが欲しいのですが,これらの値段以外の違いを教えてもらえますか?」そう言って,ワシはカウンターの頭上の大きな黒板のような掲示板に書かれているポーションのリストを指す。

「回復系ですと,体力の回復と外傷の治癒の効果に違いがありまして,標準タイプですとHPの3~5割ほど回復し,外傷をある程度治癒します。一方,上級タイプですと7~9割ほど回復させ,外傷がほぼ完治します。残念ながら,部位欠損を戻すようなタイプは当店では扱っていません。あと,MPの方も似たような感じですね。標準が3~5割,上級が7~9割を回復させます」


 ワシの“常識”に照らし合わせても,値段と効果の関係はおおむね合っていることから,ぼったくりとかそういったことはなさそうである。


「懐具合を考えると,HPとMP向けについて上級タイプを2本ずつと標準タイプを5本ずつかな。あと,解毒関係は?」

「標準タイプですと,Cランク相当の魔物の毒性等を中和する能力があります。魔術的な作用が働いているような毒に対しては,聖術などの治癒系スペルのLv.5相当の解毒効果になります。まあ,いずれの場合も使用されるお客様の耐性に依存しますのでご注意ください。上級タイプですと,Bランク相当までの魔物の毒性等を中和します。魔術的作用への効果としては前述同様の治癒系スペルのLv.10相当の解毒効果となります。

 ただ,残念なことに上級タイプは現在入荷待ちとなっていまして,お売りできるのは標準タイプのみになります」

「ないもんは仕方ないな。それなら,その標準タイプを10本ください。あ,会計はまとめてほしいので,会計カウンターの方に回してください」そう言って,ギルドカードを提示する。

「えーと,お名前はショウ様ですね。了解いたしました。商品は回しておきます。お買い上げありがとうございました」


 ポーション類を確認したワシらは会計カウンターにて勘定を済ませ,カウンター脇に並んだ諸々の道具類をクロノグラフ改に触れさせて,次々と収納していく。店員が目を丸くしながらワシらを見ているのに気づき,話しかけられないようにそそくさと店を出る。


「アイテムストレージの機能のある魔道具は一般的だと思ってたんだけど,こんな村レベルだと珍しいのかねぇ」

「いえ,触れるだけで収納していくようなタイプはそうそう見ないと思います。かなり高価だと聞いておりますし。一般によく出回っているものは,わたくしが使っているような比較的小さいもので,かつ開けた口から入れなくてはなりません」そう説明するパティは自身が持つ腰元のポーチサイズの革袋をポンポンと叩いて見せる。

「あんまり人前で使うもんじゃないのか。今度から人目に注意しなくちゃならんな。それはそうと,道具はそろったんだが,パティの武器や防具類はどうしようか?」

「防具は既にありますし,わたくしの主な攻撃手段は格闘術ですので,手持ちのガントレットが魔術である程度強化されてますから,特には不要ですわ」

「とは言うものの,武器を全く持っていないのも気になるし・・・短剣術のスキルを持っているようだから,飛び道具にもなるような短剣の類を持っておくのはどうだ?」

「ご主人様がそうおっしゃるのであれば,ぜひ数本ほど準備いただければ幸いですわ」


 そんなやり取りのもと,よろず屋12号店の近くにある武具店にて,投擲にも適している比較的質の良い短剣を5本とそれを収める剣帯を調達し,いったん宿屋に戻って明日に備えることとした。

 宿屋のおやじとは交渉の末,大銅貨3枚を追加することで2人部屋に変えてもらうことにした。部屋を別々にしようとしたら,奴隷一人に部屋をあてがえないと取りつく島もなく却下されたのである。

 そして,明日以降の行動計画の確認も兼ねて夕食を取るべく,隣の食堂へと向かう。軽い挨拶とともに食堂に入ると,スザンナが目ざとくワシらを見つけて近寄ってくる。


「あら,昨日の騒ぎの張本人さんじゃないの。エド達と一緒じゃなくて,今度はこんな可愛い女の子と一緒かい。隅におけないねぇ。見た雰囲気は冒険者のようだけど,新しい仲間?」嫌味になる一歩手前のニヤニヤ笑いを浮かべて話しかけてくる。

「はい。ご主人様と契約しているパトリシアと申します」ワシが回答しようとするところの機先を制して,丁寧なお辞儀に笑顔を乗せて自己紹介をするパティ。

「・・・って,まだ“正式”契約はしてないだろうに。いろいろあって,冒険するためのパートナーとして戦闘奴隷を引き入れることにしたんです」‘奴隷’の部分で声が小さくなってしまうのは,仲間を見つけられない恥ずかしさというよりも,ワシの矜持の一部だと思いたい。

「こんな器量の娘との奴隷契約ができてるってのが驚きだよ。駆け出しの冒険者風情に用意できるような金額とはとても思えないし,もしかして,ショウはとんでもない金持ちだったりするのかい?」

「まさか。ちょっとした幸運もあったりして,何とか“仮”契約をしたくらいです。なので,正式契約のための資金稼ぎが急務ってわけです」

「そうかい。目標があるのはいいことさ。で,何にするんだい?」

「注文ですけど,肉料理とスープをお願いします。あとパンも。パティも同じものでいいか?」彼女の頷きを見て,スザンナが厨房に向かっていく。その後ろ姿に声をかける。

「あと,ワシにエールをジョッキで,彼女には適当な果実水を!」

「あいよ!」後ろ手で返事を返し,そそくさと厨房に向かうスザンナ。


 ワシは何とはなしに『ふぅっ』と一息をついて,テーブルにつく。飲み物はあっという間に給仕のおばさんが持ってくる。


「んじゃ,明日からいい稼ぎができますように乾杯!」

「乾杯!」

 陶器のジョッキをコンッと合わせて,ぐいっとエールを流し込み,ぷはーっと先ほどとは違う一息をつく。しばし幸福感を感じたのちに口を開く。

「さて,ギルドで聞いたところだと“川沿いを国境方面に向かったエリアの内,開けたところ”がそこそこの魔物が出没して,ワシのレベルとランクにちょうどいいらしい。まずはそこでお互いの戦闘能力の再確認やら連携の調整とかをするのがいいだろうな。例の大規模討伐の依頼に応募しなくてはならないから,2~3日以内には一度村に戻るようにしよう。何か質問は?」

「魔物との遭遇時における撤退の基準は? あと,連携の大まかな方向性はどうされますか?」

「HPもしくはMPが半分を切った時点で撤退だな・・・戦闘中でもポーションで回復させることは可能だとは思うけど,使えないくらい忙しくなっているかもしれんしな。あとは,連続戦闘により疲労が溜まった場合や捌ききれないほどの多数の魔物との遭遇でも撤退としておいた方がいいか。

 戦闘は,攻撃対象を取り合わないよう各個で対処する。連携が必要となりそうな強い個体や群体に出くわすようであれば,パティは積極的に戦闘には参加せず,支援攻撃やワシの撃ち漏らしを叩くことを主眼にしてくれればいい」

「ご主人様を前面に押し出すのは気が引けるのですが・・・」

「パティの戦闘力を疑うわけではなくて,ワシの力量を上げていくことも目的の一つだから,気にしないでくれ。それにパティには支援魔術をお願いすることになるだろうし,ワシの戦闘を分析してもらうことも期待しているんだから」

「そうおっしゃるのでしたら,今回はそのように対応するようにいたしますわ」

「よろしく頼むよ。道具類は基本的にはワシのクロノグラフ改に収納しておくけど,戦闘中に必要になる回復系のポーション類などは後で渡すから,そっちでも持っていてくれ」

「拝承いたしました」


 会話の区切りを見越したかのように料理が運ばれてくる。ワシらは,食事に手をつけつつ,戦闘中にポーションを使う場合の条件,使用できるスペル関係や使う際の条件などを議論し,連携の予習をしていく。その最中で,ワシ(というかアーブ)が持っている極狂刀流の剣技は念入りに聞かれる羽目となった。といっても,ワシとてすべての剣技の内容をそらんじて言えるほどまだ精通していないので,“修行中の身なので”という言い訳のもと,アーブを起動した際に目にしたことがあるリストの一部を説明するにとどめたが。

 パティ曰く,極狂刀流は後継者がいなかったことから失伝したと認識されており,使い手が存在することそのものが剣術の世界における衝撃のニュースに相当するとのことであった。

 そもそも,開祖であるS+ランク冒険者のアーヴル・ヴァッハウは“狂剣聖”の二つ名を持つ稀代の剣術狂いであり,剣術を生み出し,磨き上げることのみに傾倒する狂気に満ちた鬼女であったと言われている。彼女にまつわる逸話はあまりに荒唐無稽で作り話もかくやという伝説と化している。

 加えて,彼女の正義感の尺度で識別された『悪い者』は生きている価値がないと断じ,剣術の練習台として数多の『悪い者』が斬り飛ばされた。そのため,彼女が身に着けていた鈴の音が聞こえると,やましい何かがある悪人は逃げるようにその場を立ち去ったらしい。


 このあいだ見た取説で少しは知ってたけど,ヤバイ奴という世界的共通認識がある存在じゃねーか。面倒ごとにつながらないことを祈るばかりだよ・・・この会話の間で,ワシがアーブに触れながらため息を漏らし,それに反応したかのようにカチャリとアーブが揺れた気がした。


 スペル関係では,運よくワシが持つ適性がパティと同じ無属性であることから,時間余裕があるところで彼女が習得しているスペルを教えてもらうこととした。本来は,魔術ギルドから魔術書スペルブックを購入し,そこに封じられた魔術発動方法を取り込むことで習得するのが近道であるらしい。口頭や実践等により習得するのは,指導者側のコツや習得者側でのセンスが問われることとなり,時間がかかるのが一般的のようである。その代わり,うまくハマれば,魔術の本質的な部分の理解が進み,その後のスペル習得や開発が容易になるという利点もある。

 これらの議論から分かったことは,パティはワシの想像以上に戦闘・魔術に関する知識・経験が深いことであり,それらを得ることとなる背景は壮絶なものであるに違いないということである。加えて,彼女が渇望している復讐を取り巻く話がかなり面倒な方向に行きそうだという確信が強まってしまった。うええ。


 食事を終え,部屋に入り,購入した道具類の確認とポーション類の配分をしたところでさっさと寝ることとする。


「明日からよろしく頼むよ。おやすみ」

「おやすみなさいませ」


 とは言ったものの,どういう関係性にあるにしても,美少女と同室になるというのは緊張を強いられるわけで・・・微妙に寝付けない。困ったものである。イブラヒムから聞いていた話から推察するに,きっと前例にあったご主人様たちは良からぬ手出しをして,罰が下っていたのであろう。くわばらくわばら。

 緊張感に背を向けるべくパティに対して背を向けて,心を落ち着かせるように,枕元に置いているアーブに触れる。異世界に来てから数日程度しか経っていないわけだが,気持ち的に頼っている証左なのだろうか,幾分か気持ちが落ち着いてくる。

 どうせ寝られないならと極狂刀流の剣技リストを確認する。剣術側である技の名称と抜刀術側である型の名称が流れるようにステータスの情報と同じく視界内にリストアップされる。そして,剣技一つ一つの内容をつぶさに確認していく。

 そんな作業をしていると,ふと地球での業務を思い出す。例の国際機関で仕事をしていたときは,新規の業務に着手するたび,関連する情報に嫌というほど目を通し,それらが有機的につながって頭だけでなく反射的に情報が思い出せるくらいまで想定しうる可能性をあらゆる角度からシミュレートしていた。結果して,その業務に関連する情報に精通すると共にどうすれば最短かつ効率よく成果を出せるかが導き出すことができていたと思う。向こうに残してきた,身代わりというかコピー体はうまく仕事をこなしてくれているだろうか? まあ自分自身なのだから,いつも通り,堅実にやってるに違いない。

 今回の委託業務もある意味同じだ。委託業務に関連するあらゆる情報を自身の中に叩き込んで身につけていくのだ。そして,集まった情報が有機的につながってきたときに,“歪”の根本原因が浮かび上がってくるはずに違いないし,特殊スキルである“物事を理解し,解決する力”が助けになるだろう。そのためにも様々な異常事態を知る必要があるし,それを知る機会が得られる環境を整えるためにも冒険者としてのレベルを上げるという至近の目標設定は間違っていないと思う。

 ちょっとした回想から意識を戻し,リストアップされた剣技の内容を脳内で何度となく読み返していく。そして,読み返した内容の妥当性検証として剣技を使用するシミュレーション・・・戦闘を想定する。対象は,プリインストールされている記憶の中にある人型や獣型の魔物たちの挙動。脳内戦闘を何戦したのかわからなくなってきた頃にワシの意識は遠のいて,眠りにつく。


<------------------------------------------------------------>


「・・・さま,ご主人様,朝ですよ」


 遠くから声が聞こえる・・・気がする。意識が立ち上がってくる感覚と共に体に触れる柔らかな何かにビクッと反応して,跳ね起きる。


「ん?・・・!! あっ」


 反射的に枕元のアーブを掴みつつ,態勢を整えようとしてベッドから転げ落ちる。

 昨日の脳内戦闘シミュレーションが中途半端に残っていたせいか,パティに触れられただけだってのに,何かに襲われたと勘違いしてしまった。


「いっ・・・つう・・・」

「だ,大丈夫ですか!?」転げ落ちたワシの肩を抱えるようにパティが起こしてくれる。

「ああ。す,すまん。昨日は夜遅くまで起きてたから,すっかり寝坊してしまったようだ」手元のクロノグラフ改が9時を回った時間を指しているのを見て,頭を振る。

「そのようですね。まずは,おはようございます。予定よりは若干遅いですが,致命的な遅さというわけでもありません」

「子供じゃあるまいし,緊張感で寝つきが悪くなるとはな。恥ずかしい限りだよ。さっさと朝食をとって出掛けるとしよう」

「はい」心配げな表情を一瞬で引っ込めたパティは笑顔で返事を返してくる。


 ワシらは,簡単に装備と道具類を確認し,スザンナのところで軽く朝食をとり,当初の目的地である川・・・ガラハッド王国を東西に横断している『大水竜の道』という名前がつけられている・・・に向かう。川が視界に入ってきたところで,進路を東に向けて国境方面へと川沿いに歩を進める。茂みや林のような木立が増えてきたので,ぼちぼち魔物が出没しそうなエリアに入ったような雰囲気がある。


「昨日の打合せ通り,まずは索敵だな。それじゃ頼めるか?」

「はい。我が五感をあまねく広げ,すべてを知覚せんとす。Sensor」


 短い詠唱を終えたパティから全周囲に向けてMPが放たれるのが感覚的にわかる。

 この無属性魔術のスペルの一つである‘Sensor’は,MPによる知覚網を張り巡らすことで,術者の周囲(術者の技量やレベルに応じて範囲が拡大する)に存在する生物の有無やその大きさや形状の程度を把握することができる。効果の持続時間は数分程度ではあるが,索敵系のスキルを持っていない我々にとっては非常に有用なスペルとなる。

・・・と,パティに説明された内容を思い出す。


「最も近いところで,北方向の川の付近に小型の二足歩行の生物が6。たぶんゴブリンクラスでしょう。あと,東方向の索敵範囲ギリギリのところに四足歩行の中型レベルの生物が複数かすりました。今は範囲外に出てしまっていますが。

 知覚した範囲での結果なので,その範囲外にも魔物などの類がいるかもしれません。風向きが微妙なので,こちらの存在に気づいたかどうかは微妙ですね。ご注意を」

「了解。不意を打てるといいんだが,過度な期待は禁物だしな。まずは本日の第一戦目に向かいますか」


 ワシらは背の高い草むらに隠れつつ,極力気配を殺すよう留意しターゲットに近づいていく。近づくにつれて,血の匂いと思しき生臭さが鼻をつく。背の高い草むらから覗き込むと,パティの推測通りゴブリンが6匹いる。いずれも粗末な剣やこん棒といった武器と造りが粗い革鎧を身に着けているようだ。見たところ,仕留めた獣を捌いている最中のようだ。

 パティに目配せを送り,腰元の留め具からアーブを取り出し,戦闘態勢を取る。

 アーブにMPを注ぎ込むと,フゥゥィィィインという軽やかな音とともに綺麗な鋼色の刀身が形作られる。(よし,今回は言うことを聞いてくれたな・・・というより,大した敵ではないと見なしたか)

 無事に起動したアーブに満足するとともに,ゴブリンたちの立ち位置から攻撃を仕掛ける順序を頭の中で決めて,第一目標へと猛然とダッシュする!


ガサッッッ!!!


 飛び出しざまで一気に駆け寄り,下からの斬り上げで武器を持とうとした右腕を斬り飛ばす! そして,返す刀で胴を薙ぎ払う。粗末な革鎧と共に肉を深く斬り込む感触がアーブ越しに手元に伝わってくる。


「グギャッ」ぶしゃっと青黒い体液を撒き散らしながら悲鳴を上げるゴブリン。

「ナンだ!?」

「ニンげンか!? ドコかラでてキた?」

「てキだ,テきダ!!」


 ワシらが飛び出す際の音に驚いた隙に二撃を受けた1匹目は倒れ込み,痙攣を起こしている。そんな光景をものともせず,他のゴブリンどもは各々の武器を取り出し応戦してくる。

 パティが集団を挟んだ逆方向から襲い掛かったことで,2匹がパティへ,残りの3匹がワシの方へと向かってくる。

 ワシの方は,剣術スキルの効果のおかげか相手の動きを読み取り,2匹からの攻撃をいなしながら,次なるターゲットを上段から渾身の斬撃を肩口に振り下ろす。想定通り,骨と思しき堅い何かともども肉を深々と斬り込む感触を得たところで,蹴り飛ばす。


「ッグばァッッ」蹴り飛ばされたゴブリンはそのまま後方に転がり込んで動きが止まる。

「ゴろせェェェ!」

「ウオォォォ」


 殺られたであろう1匹を見て,恐れよりも怒りの感情を露わに2匹が拙い連携で同時に襲いかかってくる。ワシは左右からくる攻撃のうち,早く到達する方の攻撃を見切って,そちらの錆びついた剣をアーブで弾き返す形で突き飛ばして距離を取らせる。そして,その勢いで体を反転させて,遅れてきた方のゴブリンを横薙ぎに斬りつける!

 斬りつけられた方のゴブリンは盾による防御も回避もできず,ゴキャッという左腕が折れたような音を立てて,青黒い体液を吹き出しながら打ち倒される。

 突き飛ばしたゴブリンが態勢を立て直そうとしているのを視界の隅に収めつつ,素早く倒れたゴブリンの喉にアーブを突き立てて止めを刺し,向かってくるゴブリンに対してアーブを構え直す。その向こう側ではパティが危なげなく2匹目を蹴り倒し,黒い手甲を首元に叩き込んで首を折る姿が視界に入る。

 ワシの方は,走り込んでくる最後の1匹に対して抜刀術を選択する。最後の奴が錆びついた剣を振り下ろす瞬間,半身を取るように踏み込んで横薙ぎの刃が相手の胴元を往復する。その斬り込みにより押し戻され,止まったところに上段から斬り落としが襲い掛かり,鋼色の軌跡を残して首元から下腹部へと抜けてゴブリンを両断する。

 その間,まさに一瞬。


『極狂刀流 抜刀術 壱の型』


シュパァァッッッ・・・ドッ。


 紙を切るかのような軽い音の後に,両断されたゴブリンが崩れ落ちる。

 周りを見渡し,完全に動きがなくなったのを見て戦闘態勢を解く。アーブの起動を解いて,パティの方を振り返ると,満足気な笑顔で称賛の声を上げる。


「ゴブリン相手では当たり前の結果かもしれませんがお見事です。ご主人様。ただ,極狂刀流にしては,伝え聞いてるような威力とはちょっと異なるような気がします・・・もしかして手加減か何かをされていましたか?」

「手加減なんてしていないぞ? なんかおかしいのか?」彼女へ返事をしつつ,早速討伐部位を切り取っていき,ギルドカードに倒したゴブリンたちを触れさせて討伐数を記録する。

「おかしいというか,抜刀術を受けた最後のゴブリンは別にすると,斬り込んだ部分が粗い切断面になっているというか・・・それにご主人様のオーラブレードが粗末な剣を弾いているというのにも違和感が」

「違和感・・・どういうこと?」

「極狂刀流は独特の技術でMPが刃に籠められ,その斬れ味は鋭くかつ切断面は滑らかの一言に尽きる,と。また,その込められた力は攻撃対象に刀剣によるダメージ以上の損傷を与えると言われていました。

こと現在に至っては,高レベルの剣術を修めた者であれば,そのような流派の技術を習得せずとも,その刃にMPを籠めるような技は繰り出せますが。

 それに,ご主人様の剣術レベルからしてみれば,ゴブリンごときの武器や防具ごと断ち斬っても不思議ではありません」


 ワシは作業の手を止めて,パティに向き直る。目を向けられた彼女は黒目がちな瞳に心底不思議そうな色を浮かべてこちらを見つめている。

 パティの知見は,取説にある極狂刀流の基本コンセプトと同じだ。確かに,抜刀術を用いて倒したゴブリンたちは,線で分けたかのような斬り口となっているが,剣技を用いずに斬った方は比べれば確かに比較的粗い刀傷となっている。それはあくまで‘比較的な’という程度であり,ワシにしてみれば,どちらも十分に綺麗な切断面に見えるのだが。


「わたくしと剣を交えた際は,威力を抑えていらっしゃるのかと思ったのですが,そういうわけでもなさそうですし」

「アーブを使う以上はMPが確実に籠められることになるはずなんだが,なんかワシが間違っているのか・・・なぁ,相棒?」とワシは腰元に戻したアーブを軽くたたく。アーブはカチャンッと音を立てる。もちろん答えが返ってくるわけでもなく,疑問は解消されない。

「悩んでも仕方がないですね。まだ一戦しか交えていないわけですし,もう少し戦闘を重ねてみて意見を出すようにいたしますわ。それはそうと,やはり最初に索敵したときに索敵範囲をかすめるように反応があった存在は,その近傍を徘徊しているようです。先ほども‘Sensor’の効果が切れる前に反応がかすっていました。そちらに向かいますか?」

「そうだな。ここの後始末を終えたら,その反応があった付近に移動しよう」


 そうしてワシらは,ゴブリンの死体を一纏めにして,火をかける。奴らが捌いていた獣は食用にできるかもしれないということで,アイテムストレージに収納しておく。武器や防具の類はどれも価値がなさそうなものだが,鉄等の素材として売ることを考えて一旦収納しておく。

うーん。つくづく貧乏性な自分が恥ずかしいが,銅貨一枚いや鉄貨一枚でも多く稼ぐ必要があるのだから,こういった地道な取り組みが大切なんだ,と自分に言い聞かせる。


「それはそうと,アンデッドを増やさないためとは言え,こういう死体の処理は面倒だな。他になんかやりようはないもんかねぇ」

「聖術系の浄化に関するスペルならば,死体を灰にするものがあるそうですが,聖術を新たに身に着けるのは難易度やコストが高いので,そういうスキルを持つパーティメンバーを探す必要があるかと思いますわ」

(聖術であれば一応Lv.15まではイケるから,そのレベルまでのスペルにそういうのが含まれてるはず・・・たぶん。女神様に頼んでみるか。というか,こちらに来てからまともに交信(という名の報告)をしていなかった。今晩あたり一度交信をチャレンジしてみるか)


 彼女の意見に頷き,後始末を再開する。後始末を兼ねた休憩を経て,次なるターゲットを追うことにする。ワシらは川沿いに東方向に移動しつつ,南側の木立の中へと入っていく。パティの示した方向に移動をしていくと,ほどなくして彼女が突然立ち止まる。そして,姿勢を低くし,近寄るよう合図を送ってくる。ワシが近づくと,耳元に桜色の小さな唇を寄せて小声で話しかけてきた。


「ブラックダイアウルフですね。数は4・・・いや5。群れの一部であった場合は,増援が来ることも警戒する必要があります。どうされますか?」

「単体ではランクはEだけど,群れた状況によってはDの上位ないしはCにもなり得るってところか。街道の旅人などへの被害の元凶の一つとも聞いているから,放置という選択肢はないな。行くぞ」

「拝承いたしましたわ」


 パティには,増援の存在を確認次第,身体強化の支援魔術のスペルを彼女自身に使うよう指示し,戦闘態勢を取る。そして,彼女には聞かれないような小声で特殊スキルの起動キーワードをつぶやく。(まだ,いろいろと開示するには時期尚早だからな)


“アクティベート・アクセラレータ”


 MPがほんの少し抜けていく軽い喪失感とともに身体が軽くなったような感覚を知覚する。パティの方は態勢を整えて,こちらに合図とばかりに顔を縦に振る。


「さっきと違って多少距離があるし,向こうの嗅覚とかを考えれば不意打ちは不可能そうだが,ワシがちょっとした小細工で先手を打つ。ほんの少しの間をあけて追っかけてきてくれ。あと,周り込んでくる敵や増援に注意してくれ」

「どのような小細工であるか楽しみにさせていただきますわ」彼女は蒼い髪を揺らしながら,これから戦うとは思えないようなふんわりとした笑顔を向けてくる。

「よしっ,行くぞ!!」


 ワシのかけ声と共に2人して木立の陰から飛び出して,ブラックダイアウルフがうろついてる方向に走り出す。案の定,こちらの物音などに気づいた奴らが即座にこちらに向き直って同じく走り出す。相対距離はおおむね200mくらいか。

 しかしながら,特殊スキルである“加速する力”を発揮したワシは走り出したその瞬間にはパティをあっという間に置き去りにして,ブラックダイアウルフの集団の先頭に斬りかかっていた!


ザシュッッッ!!!


「オゥウォォンッッ・・・」


 悲鳴を上げた先頭のブラックダイアウルフは,顔の脇から尾の根本付近まで一直線に斬り裂かれ,走り出した勢いで前のめりに転がる。他の4頭は一瞬にしてワシが現れたかのように見えたことだろう。

 そして,残りの奴らがそれを認識して,それぞれが鋭い牙を向けるべく身体を捻ろうとしたときには,ワシが素早く回り込んで横薙ぎにアーブを繰り出して,それぞれの右側ないしは左側の前後脚を斬り飛ばしていく。


「ギャンッ」

「ギャウゥゥッッ」

「ウォオンッ」

「ガァッウッッ」


 ブラックダイアウルフたちの足と血が飛び散った頃,パティがその場に辿りつく。

 ワシはパティに向き直ることなく,立ち上がってくる最初の1頭目にアーブを構える。奴の身体の左側面からは斬り裂かれた部分から血が流れ出しているが,そんなことはお構いなしのような雰囲気で,ワシらを咬み切ろうという意志をあらわに唸り声をあげる。


「グルルルゥゥウ・・・」


 こちらに飛び掛かってくるか?という予測の下,飛び出すタイミングを推し量る・・・その時,奴は咆哮を上げた。


「ウォォォーーーーンッ」


 そして,襲いかかることなく,低い唸り声をあげながらこちらをにらみつけてくる。


「ま,まさか!?」ワシの後方に控えていたパティが驚きの声を上げる。

「どうしたっ?」

「あの咆哮は群れの仲間を呼んだのではないかと・・・」

「くっそ,マジかよ。さっさと止めを刺しときゃ良かったか。とにかく目の前の敵の始末だっ」


 ワシが“加速する力”による全速力で間合いを詰めて,襲いかかるような時間を与えず,極狂刀流 剣術を繰り出すべくMPをアーブに注ぎ込む。選択した剣術が発動し,アーブに導かれるように動いて正確な刺突をブラックダイアウルフの額に滑り込ませる。鋼色の刀身が半ばまでブラックダイアウルフの頭部に埋まり,刀身から奴の体内に向かってMPによる力場が炸裂する!


ッブッッシャアァァ!!!


『極狂刀流 剣術 一閃華燦いっせんかさん!』


 体内で暴れまわった力場によりズタズタとなった骸がベチャリと地面に広がる。

刺突の態勢を解くとともに,アーブも一旦起動を解除する。そして,カチャンッという小気味良い音とともに腰元の定位置に取り付ける。

 パティの方を見れば,四肢の半分を失って満足に動けなくなったブラックダイアウルフ達に止めを刺し終わるところであった。驚かせないよう通常の速度でパティに走り寄る。


「残敵の始末,ありがとう。討伐部位を取って回りたいところだが,さっきの咆哮の影響が気になるな。索敵はできたか?」心なしか,取り囲む空気が嫌な雰囲気を出しているような気がしてくる。

「はい。再度‘Sensor’を使ってみたのですが,残念ながら囲まれつつあります。大きさが似ているので,ブラックダイアウルフの群れで間違いないでしょう。確認できた個体数は18です」

「むう。そこそこ数が多いな。この木立が彼らの庭だとすると,ここで囲まれるのはイマイチだな。開けた場所で有利になるとは思えないが,さっきのゴブリンたちと戦った場所あたりまで退いてから迎え撃つのが良さそうな気がするな。と,その前に討伐部位を取っておかないとな」

「この後に及んで討伐部位って・・・ご主人様,囲まれますよ?」

「大丈夫。さっきのワシの速さを見ただろう? 金稼ぎも目的の一つなんだから,取るもの取っておかないと」

「・・・確かに先ほどの戦闘の動きには驚きました。あれが先ほどおっしゃっていた‘小細工’ってことなんですね。少なくともわたくしの動体視力では捉えきれない場面がありましたし。眼には自信があったので驚愕の一言につきますわ」

「その動体視力で捉えられないワシの一撃とやり合ったのはどこの誰やら」ワシが呆れ声で返すと,パティは綺麗な黒い瞳に微笑を浮かべる。

「それは,企業秘密ですわ」

「さいですか。じゃ,パティは先に移動を開始してくれ。あと,身体強化はしておくように」

「拝承いたしました。ご主人様。

 我が内に眠りし力を呼び起こし,困難を乗り越えよ。Status Up・・・それでは後程」


 Status upのスペルを唱えたパティは,言うやいなや,ヒュオッという音を立てて,黒いドレスを翻して彼女が駆け出す。身体強化スペルの効果が効いているとはいえ,速えぇ。

 彼女の後姿に見惚れかけて,頭を振り,意識を切り替える。ブラックダイアウルフの討伐部位である尾を取ろうとして,ふと考えなおす。


「死体をそのままにしておくと,後から来る者たちや近隣に何か悪影響を及ぼすかもしれないか・・・クロノグラフ改の容量にはまだ余裕があることだし,一旦収納して,討伐部位採取はあとでゆっくりやるとするか」


 そう一人ごちて,あたりに散らばった死体をクロノグラフ改に収納していく。その際に,迫ってくる複数の存在に気づく。


「そろそろお出ましかな。それなりの距離が開いても気づけるということは,気配察知のスキルが上がったかな? あとでステータス情報を見るのが楽しみだ。んじゃ,パティを追っかけますか・・・頼むぜ相棒」


 再度アーブを取り出して起動させる。ワシの潜在的な意識なのか,はたまたアーブの機嫌が良いのか,フゥゥイィィィンという微かな音とともに顕れた刀身はうっすらと黄色の光を発している。そして,いつでも応戦できるよう軽く切っ先を下げた状態で構えつつ,パティを追いかけ始める。

 “加速する力”が効いているおかげで先ほど感じた存在をすぐさま引き離し,数秒もかからずにパティの後ろ姿に迫っていく。そこで,追い越したりしないよう,彼女に並ぶよう速度を落とす。ワシの存在に気づいた彼女は,ほんの一瞬だけ驚きの表情を浮かべるが,すぐさま真顔に戻ると軽く頷き,正面に顔を戻して走り続ける。ほどなくして,先ほどゴブリンと戦った若干開けたエリアにたどりつく。

 その時,パティの表情が思案気な表情に変わる。


「どうした?」

「思ったよりも,知恵が働くようです。前方には既に小集団が来ていて,どうにも囲まれたようです」立ち止まった彼女が目線を向けた先には確かに獣のような何かが複数こちらを伺うようにしている。

「向こうさんには地の利があるからな。速度で優っても振り切れないってことか。追いかけてくる個体を各個撃破しようと思ったんだか,そうもいかないか」

「・・・ご主人様,敵の数が増えています。現状の索敵範囲内にいるだけでも25。ブラックダイアウルフの群れとしては多すぎる気がします」

「まさか,異常発生の影響が出ているのか?」

「関連づけられる情報はありませんから,何とも」

「そうだよな,予断は禁物だ。まずは確認した分を確実に倒すとするか。パティはワシが撃ち漏らした敵だけ相手してくれればいい。あとは任せろ」


 ワシは今一度気合を入れ直して,敵を見据える。全周囲から迫ってくるような気配が感じられる。目視できる正面側だけでも数頭。視界外の周囲も含めれば10数頭はいるか。

 アーブを中段に構え,剣技リストを呼び出して,対多数に有効な一手を選びだす。

 じりじりと包囲を狭めてくるブラックダイアウルフ達があと10mという距離に迫ったところで,一息に近づくがごとくの跳躍を見せて,一斉に飛び掛かってきた!


「ガウゥゥッッッウォッンッ!!!!」


その威容に一瞬びくりとするが,“加速する力”が効いている状態においては,それから動いたとしても対処する時間は十分にある。ワシは剣技を発動すべく,黄色の発光が一段と強くなって金色こんじきに輝いた刀身を上空に突き上げる!

 果たして,高く突き上げられた輝く刀身から無数の金色の斬撃がすべてのブラックダイアウルフを一頭も残さずに斬りかかる。


『極狂刀流 剣術 散撃烈風さんげきれっぷう!』


「フギャッッゥウッ・・・」

「ギャンッ・・・」


 断末魔のようなブラックダイアウルフの悲鳴が周囲に響き,何頭かが倒れていくが全てではない。ただ,致命傷を避けた奴らも無事ではなく,飛び掛かろうとした位置で打ち据えられた形となり,地面にうずくまる。

 すかさず,パティに目線を向けると「わかった」とばかりに,ワシの後方・・・つまり彼女の正面側で動きが鈍くなった敵を確実に仕留めるべく,綺麗な蒼い髪をなびかせて鋭い拳撃を打ち込んでいく。打ち込むたびに悲鳴ではなく「ゴギャッ」という堅い何かが打ち砕かれるような音が立ち上がる。

 こちらは,“加速する力”を全開にして走り出し,残りのブラックダイアウルフどもに態勢を立て直す間を与えず,首元にアーブで力任せに斬りつけていき,残りすべての息の根を止める。最初に取り囲んできた群れを倒したと思ったところで,複数の気配を感じて見回せば,増援とばかりに現れたブラックダイアウルフが視界に入る。

 血生臭い匂いが立ち込める中,パティに指示を飛ばす。


「次が来てるっ! 一旦,元の位置に戻れ!」

「はいっ!!」


 ワシの指示に反応して,身体を引いていくパティを視界の隅に捉えると,今一度『散撃烈風』を放つべく,襲い掛かる態勢に入ろうとしているブラックダイアウルフ達の目の前に飛び込んでいく。

 尋常ではない速さで目のまえに現れたワシを認識するその一瞬のうちに,再度アーブが力強く金色こんじきに輝き,斬撃を周囲に放つ。

 やはり前回と同様に致命傷を避けた個体が数頭いる。それを目にしたパティがサポートに回ろうとするのを手の合図で制止してから,それらに止めを刺すべく,ワシが斬りかかる。数秒程度で全ての息の根を止めたものの,その間に次の集団が近づいてくる気配が感じられる。その集団に狙いをつけ,再度走り出す。

 こちらへ飛び掛かろうとする集団に,次なる剣術を選択して,走り込んだ勢いで攻撃をしかける!

 飛び込みざまの最初の1頭目に対して,アーブがフウゥゥゥンッという軽い振動音のような音を立てつつ,MPを籠めた刺突がブラックダイアウルフの肩口に突き立つ。そして,注ぎ込まれたMPの力場が奴の体内で炸裂する!

 攻撃はそこで終わることなく,振り返りざまに右手側にいるブラックダイアウルフに刺突を間髪入れずに見舞う。同じくして,そのブラックダイアウルフも内側から爆散していく。その屍に視線をくれることもなく,周囲の攻撃対象に次から次へと刺突を放っていく。

 ブラックダイアウルフ達にとっては襲おうと思っていた人間が瞬間移動したかのごとく現れたように見え,目にも止まらない速さで刺突が襲いかかられることになった。奴らは痛みを感じる間もなく体内で急激に暴れる力場により内側から爆散していく。10秒もかからずして,さらにブラックダイアウルフの死体が増えていく。


『極狂刀流 剣術 多閃華燦たせんかさん!』


 最後の1頭を仕留め,剣術名を奏上する。そう,これは刺突により相手の内部にMPの力場を送り込み内側から破壊する『一閃華燦いっせんかさん』を神速で繰り出して,瞬時に多数を葬る剣術である。 一度に多数を相手にすることから『一閃華燦いっせんかさん』よりも威力は落ちるが,『散撃烈風さんげきれっぷう』に及ばないものの確実に複数の対象に強烈な一撃を送り込めるものである。結果して,ブラックダイアウルフ相手には十分であったわけだが。


「散撃烈風ほど,多数は相手にできないが威力は高かったな。ふぅっ,これで終わり・・・なわけないか。ちっ,もう次が来るか?」目前の敵を倒しきったにも関わらず,更なる数の気配が周囲を囲おうとしている。

「気配の感じから,あと15頭以上はいますわ。やはり群れの数にしてはおかしいです。既に倒した分も含めると50頭以上は少なくともいることになります。ブラックダイアウルフの群れとしては,尋常ではありません」パティが神妙な面持ちで分析する。確かにワシの“常識”に照らし合わせても違和感を感じる。

「じゃ,退くか?」ワシは会話をしつつ,ブラックダイアウルフの死体をクロノグラフ改に回収していく。その動きについて来ながら,返事をするパティ。

「ご主人様もわたくしもまだ余力がありますから,致命傷を負うような心配はなさそうですが,このままでは血の匂いを嗅ぎつけた他の魔物が近寄ってくる恐れも出てきます。そうなると魔物のレベルが低かろうとも最終的に数で押し切られるリスクが高まるかと」

「そういうリスクは理解するが,こいつらを引き連れてレンティル村まで戻ったら迷惑千万だしなぁ。怒られるというか処罰されそうだ・・・それに,当初の撤退ルールには抵触していないし,数を倒して稼いでおかないと。身の危険を感じたら,先に離脱してかまわんよ」いつの間にワシってこんなに好戦的になってるんだろう?と若干の疑問を感じつつも,これまでの戦闘でアドレナリンでも出まくってるんだろうと無理やり結論づける。

「ご主人様がそう決められたのであれば,戦闘奴隷としては従うまでですわ」したり顔で答える彼女。それに向けて苦笑いで返す。

「仮契約の相手にそれほどの義理立てはいらんと思うんだけどな。ま,少なくともこんな美少女に大怪我をさせるような状況にはしないさ」

「ええ。ぜひともお願いいたしますわ」


 そうこうするうちに集まってくる気配の数が安定し,じわじわと包囲を狭めてくるのがわかる。視界にも数頭以上のブラックダイアウルフの姿が入ってくる。


「そろそろ‘Sensor’の効果が切れそうです。確認した最終的な個体数は21。比較的大きい個体が南東方向の奥にいるので,きっとリーダー格かと」

「了解。普通の考え方ならリーダーを堕としに行くんだけど,掃討戦にするからには引き付けて多数を一度に叩く。パティは引き続きワシの付近で撃ち漏らしを叩いてくれ」

「わかりましたわ。でも,次の戦闘に入る前に一つだけ。ご主人様の戦闘の様子を見てみて,MPの使い方が甘いのではないかと思います」

「‘使い方が甘い’とは?」怪訝な表情を浮かべて,その次を促す。

「お使いの剣術にしても,オーラブレードにしても,より多くのMPを‘押し込める’のではないでしょうか? MPを使う際には,ごく一部のスペルやスキルは必要量以上にMPを注ぎ込むように・・・実際には消費しないのですが・・・MPを制御することでより高い能力を発揮するということを聞いたことがあります。ご主人様のお持ちのオーラブレードや極狂刀流剣術はそのごく一部に相当するのではないかと。感覚的には,革袋を目一杯膨らませる感じでしょうか。

 ただ,常識ではスペルやスキルは必要量以上のMPを注ごうとすると破綻するものなので,破綻する前にMPの流入を止めるよう注意が必要ですが」

「うーん,わかったようなわからないような・・・まずは意識してみるよ。ご指摘感謝するよ」

「どういたしまして。では,行かれますか?」

「ああ。相棒,行くとするか」アーブを腰元から抜き放ち,柄を握る際の嬉しくなるような陶酔感とMPを流し込む感覚と共に刀身を顕現させる。やはりというべきか,黄色の淡い光を発している。そして,既に効果時間が切れてしまった特殊スキル“加速する力”を再度起動させる。


“アクティベート・アクセラレータ”


 戦闘態勢を整えたワシらは互いに目線を交わして頷いた後に,最もブラックダイアウルフの数が多いと目視と気配で確認した方向に走り出した! ワシらの動き出しに反応して奴らが襲いかかろうとするが,“加速された”速さには言うに及ばず,‘Status up’で身体強化されたパティの動きにも一拍以上遅れている。

 一瞬で目標にした集団の先頭に辿り着いたワシは,先ほどのパティの助言を頭に入れつつ,選択した剣術を発動させる。意識的に今まで以上にMPを注がれ一際輝いたアーブは光の軌跡を残すかのごとく,飛び出してきた戦闘のブラックダイアウルフの腹側から鋭く斬り上げる。その斬れ味はそのまま敵を両断する!

 その斬り上げた流れから,こちらに振り向こうとしている左側にいた敵を上段から斬り落としを浴びせて,こちらも両断し,その2頭の後方に位置していたブラックダイアウルフの眉間に刺突を飛び込ませる! アーブの刀身は半ば以上まで差し込まれ,引き抜くと同時に,どうっと倒れ込む。それぞれの断末魔の叫びが重なるように響く。


「ギャアウッッ!」

「ッアォンン」

「ガァッッッ」


『極狂刀流 抜刀術 四の型!』


 一瞬で3頭のブラックダイアウルフを仕留めたその直後に左右から迫ってくる10頭以上に狙いを定める。パティがワシの背後に取りついたことを確認したところで,今一度アーブにMPを注ぎ込み,さらなる剣術を発動させる。力強く黄色に輝くアーブを上へと突き上げ,斬撃を放つ!


「フギャッッゥウッ」ほぼ同時に叩き込まれた斬撃は,その悲鳴もほぼ同時に響き渡らせる。


『極狂刀流 剣術 散撃烈風さんげきれっぷう!』


 狙い通り,すべての斬撃は余すことなく迫りくるブラックダイアウルフに吸い込まれる。攻撃の精度が上がったのか,致命傷を与える数が多くなった気がする。先ほどと同様に,致命傷を免れた奴らに止めを刺すべく,パティと2人で動きの鈍った一瞬を逃さずに,止めの一撃を加えていく。

 そして最後の集団とおぼしき7頭がこちらに向かってくる。確かに最後方にいる1頭は他の個体に比べて1.5倍ほど・・・体長で2.5m以上はあろうか・・・の大きさがある。


「あれがリーダーか。単体でもDランクは超えそうな雰囲気だな。リーダーの方はワシが向かうから他の奴らを頼んでいいか? 倒さずとも,こちらに寄せないようにするだけでもいいから」

「ええ。存分にリーダーとやり合ってくださいまし」感謝の意を込めて,彼女の手甲にワシの手甲を当てて,カチンと打ち鳴らす。


 打ち鳴らした音を契機に,リーダーと思しき個体に向けて駆け出していく。“加速された”速さでの移動は一瞬で接敵することとなり,ワシは間髪入れずに馬と同じかそれ以上の大きさの足元に向けて横薙ぎの一撃を放つ!

 先ほどの助言を踏まえ,必要量以上にMPを籠めた一撃としたためか,その威力は今までと異なっており,奴の右前脚の根本付近を易々と深く斬り込んでいく。体格が大きいためか斬り飛ばすには至らなかったが,素早い動きをできなくさせるには十分だろう。


「ガァッ・・・グルルゥゥッ」


 一瞬の悲鳴のような声を低い唸り声に変えて,こちらを睨みつけて,襲いかかるタイミングを見計らう素振りを見せる。

 取り囲んで襲うつもりが,群れのほとんどが返り討ちに遭い,苛立っているのもあるのだろうか不機嫌そうな雰囲気が伝わってくる。ここは抜刀術を選択するか?と考えた矢先に,パティの叫び声と共に左側から1頭が飛び掛かってくる!


「そちらに1頭がっ!」

「グゥワゥッ!!!!」


 パティの一声と“加速された”知覚力により,不意の一撃を避けつつ姿勢を下げてからの斬り上げを見舞い,正確に首元にアーブを送り込む! 結果して,その首はほぼ両断されることとなる。

 そのときのワシの動きを隙と捉えてか,リーダー格の奴は右前脚が不自由であるとは思えない速さで飛び出して噛みつこうとしてくる。

 しかしながら,そのあぎとがワシを咬みちぎる前に先の斬り上げからの斬り落としが奴の肩口を襲う! アーブの切っ先はその肩口を深く抉り,奴の突撃を一瞬抑える。ただ,奴は攻撃を諦めず,鋭い牙がそろった口元を振り下ろすように首を回してくる。その一撃を避けるようにアーブを抜いて,後方に飛び退る。

 奴は,怒りの表情を湛えた目でこちらを睨みつけて,さらなる攻撃の瞬間を伺う。


「次で終わりにしてやるよ」そう言うと,ワシは選択した剣術が必要とする以上のMPをアーブに押し込んでいく。それに応じるかのように刀身は輝きを増していく。そして,裂帛の気合の声とともにアーブを振りぬく!


「こぉぉおんのやろおうぅっっっ」


 その刀身からは,刀身の2倍の長さはあろうかという光輝く斬撃が目にも止まらぬ速さで,瞬時にブラックダイアウルフのリーダーの眉間に吸い込まれる。


「グルゥ?・・・ガアゥッ」


 奴は何をされたかわからないという表情を浮かべてから,飛び掛かろうとしたその瞬間!

 その巨体は縦に真っ二つに分かれて崩れ落ちる。


ドシャャアァァッッッ・・・


『極狂刀流 剣術 死相顕現しそうけんげん!』


 剣術名を奏上して,パティの方に視線を向ければ,危なげなく残りのブラックダイアウルフ達を相手どっており,応援に向かおうとするワシを視線で制して,それらを打ち倒していく。

 やはりStatus upで向上した身体能力で繰り出される格闘術はLv.10相当というのは伊達ではないようだ。ほどなくして,すべてのブラックダイアウルフを絶命させる。

 ワシらは戦闘態勢を解いて,お互いに歩み寄る。もちろんアーブは腰元の定位置に戻り,歩くリズムにあわせてチャリチャリと喜んでいるかのような軽やかな鈴の音のごとき音を立てている。


「結果的には,問題なく倒す・・・いや,狩ることができましたね。さすが極狂刀流剣術というところでしょうか」

「剣術もさることながら,パティの指摘は効果的だった。確かに,言われたようなMPの籠め方で威力を増すことができたよ」そう言って,アーブに触れつつ,倒したブラックダイアウルフを見ると綺麗な切断面が確認できる。

「あのような指摘だけで,MPの制御をものにするとは,ご主人様はセンスが良いですわ」

「・・・うーん,それはちょっと違うと思う。たぶんだけれども,先ほどのMPの押し込んだ感触では,アーブにしても剣術にしても破綻にはほど遠い感じがする」

「え? まだ先があると?」丸に近いアーモンド形の目を真ん丸にして驚くパティ。

「ああ,そんな気がする。剣術はまだ修行中だし,アーブは企業秘密の塊だ。追々確認していくとするさ。さて,討伐部位の採取はもう面倒だから死体をそのまま取り込んで,次なるターゲットを探すとするか」そう言いながら,回収を始めたところで,パティが今一度‘Sensor’を詠唱して索敵を開始する。


「我が五感をあまねく広げ,すべてを知覚せんとす。Sensor・・・そうなってしまいましたか。ご主人様,休憩はもう少し先になってしまいそうですわ」

「ん? どうした?」微苦笑を浮かべながら残念そうな声を上げる彼女に問いかける。

「結局,これだけのブラックダイアウルフの血の匂いが更なる魔物を呼び寄せてしまったようです。川沿いの西側から,比較的大型の二足歩行の生物が7体,こちらに向かってきます。あと,南東側の木立に小型の二足歩行の生物の反応が複数かすっています」


 言われた方向に目を向けると,川から少し離れたエリアに生えている背の高い草むらから,濃い緑色の肌を持ち,落ちくぼんだ目に口元から牙を覗かせた凶悪な人相の魔物・・・ワシの‘常識’によれば,オーガ・・・が肩あたりから上を覗かせて,近づいてくるのが目視できる。


「次はオーガか。休憩なしで次のタスクになるとは,ひどい仕事だな」

「ふふ。まったくです。では,南東側からの敵の襲来を気にしつつ,オーガをさっさと倒すという流れでしょうか?」

「もちろん。オーガは単体でDランク下位から中位に相当するはずだが,数はさっきよりは少ないことだし,ブラックダイアウルフ達とやり合ったときと同様の戦術で行けば問題ないだろう」

「わたくしもそう思います」そう言って,パティは‘Status up’のスペルを詠唱する。ワシの方は特殊スキル“加速する力”を起動させる。


 オーガたちはブラックダイアウルフの血の匂いに誘われて来たようだが,ワシらの姿を見ると,邪悪そうな笑みを浮かべて周囲の仲間と何か話しながらこちらを指さしている。きっと,魔物の血の匂いで来た割に生きた人間の獲物を見つけてラッキー,とでも言い合っているのだろう。ワシらにしてみれば,討伐報酬が得られてラッキーというところなんだが。

 奴らは,見た目の姿に似合わない素早い動きで散開し,ワシらを包囲するように近づいてくる。こちらは,パティと背中合わせに立ち,奴らと相対する。


「基本的には,ワシが4でパティが3。状況によっては5と2の配分になるかもしれないけど」アーブを起動しつつ,声をかける。冷静に考えているためか,刀身はうっすらと青く輝いて顕現する。

「後者の配分にならないよう頑張りますわ。では,参ります!」


パティの最後の掛け声で,二人一斉に敵に向かって駆け出す!


戦闘シーンを描写するのってほんと大変です。敬愛する隆慶一郎先生は,チャンバラシーンを書くとものすごく疲労したという感想を述べられていたと聞いたことがあります。まさにその通りと痛感。

(趣味レベルで書いてる私が本業のプロの方の言いっぷりに同感というのはおこがましい限りですが)


それではまた!


では,女神様を信じるみんなにご加護がありますように。



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