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第1章 第三話ノ弐 First Encounter ~蒼い髪~

2回に分けての投稿の2つ目でございます。

 ショウが眠りに落ちたのと同じ頃,とある屋敷の一室にショウを襲った襲撃者の姿があった。もしショウが見ていたならば,その濃い茶色の厚手のローブに身を包んだ姿を認識していただろう。ただし,ローブが体形を隠しており,男女の区別がつかず,フードを深く下げていることから顔の部分は外部からはほとんど見えない。そして,その一室には,豪奢な装飾をもつ調度品が備えられており,大きな机を前に多くの書類を検分してる壮年の男が襲撃者の報告を聞いている。濃い茶色の髪はきれいに撫でつけられ,身に着けている質の良い服から,裕福な背景を持っているのだろう。しかしながら,それらは贅沢というような嫌味はなく,彼の品の良さを引き立てている。引き締まった体躯は日ごろから身体を動かしている証左と言える。

 彼は書類から視線を前方に向け注意を向けているという姿勢を見せる。


「御館様,マンウ達によるショウ・ヒノカラスの拿捕は失敗に終わりました。やはり,こちらが直接手を下すのが良いのではないかと愚考しますが」柔らかな声音が室内に響く。声質は高くもなく低くもないため少年か少女か判別がつかない。

「我等が信ずる神の御託宣では,信者による動きは悟られてはならないとある。そのため,我等と所縁のない者を活用する方針は変えてはならない。引き続き,監視を継続しつつ,代替の駒を探せ」書類から一瞬だけ目線を外し,彼の者に注意を向ける。

「仰せのままに」


 襲撃者は下げていた頭をさらに下げて応答する。その刹那に,ローブの開口部から蒼い一房の髪がこぼれる。襲撃者はそれを掻き上げることもなく,そのまま下がりつつ,音もなく退室する。

 報告を聞いていた男は,暗紫色の果実酒が入った杯を煽り,独り言を放つ。


「ショウ・ヒノカラス。この世にあらざる神の信徒。異教徒と呼ぶことすら,あたらない世界の異物・・・本当なのだろうか。神の御託宣とはいえ,にわかに信じがたいな。司教殿の前で口に出して言えることではないが」


 男はまた書類に目を落とし,検分を再開する。


<------------------------------------------------------------>


 翌朝。陽が上がって間もないにも関わらず,ギルド内は混みあっていた。そして,その喧噪を遠巻きに見たワシは呆れ声を上げる。


「いくら日の出とともに活動を始めるにしても,朝方6時の段階でこの混みようはないだろうよ・・・」


 カウンター数が少ないせいかどれも長蛇の列となっており,逆に依頼が張り出されている掲示板の前はほとんど人だかりがない。つまり,新規依頼を取るにしては出遅れたことを意味している。


「待っててもしょうがないから,さっさと並んで順番待ちをするか」


 ワシは誰に言うでもない言葉を吐いて,列の進みが速そうに見える一番右端のカウンターの列に並ぶ。

 ほどなくしてワシの順番が回ってきたので,ギルドカードを提示する。


「おはようございます。・・・“ショウ”さんですね,本日はどのような御用でしょうか?」

「レベルアップに適したエリアを紹介してほしいってことと,仲間探しの方法についての相談の2件です。あっ,採取依頼の成果物の買取もお願いしたいので3件ですね」

「では,まずレベルアップに適したエリアですが,ショウさんは今44レベルでランクF・・・ソロで活動されているようですので,川沿いを国境方面に向かったエリアの内,開けたところがいいかと思います。あそこなら比較的低レベルの魔物が出現しますから。ただ,対多数の戦闘になる恐れもあるので,パーティを組まれるもしくは入れてもらうことを推奨します」

「むう。やはりソロ活動は厳しいか。とは言っても,ちょうどいい仲間がおいそれと見つかるとは思えないし・・・」

「で,仲間探しの方法についてですが,


・追加メンバーを募集しているパーティに入れてもらう,


・パーティ結成を呼び掛ける,


・戦闘に耐える奴隷と契約する,


の3つがあります。パーティに入れてもらうには,募集条件に合致しなくてはなりませんし,ショウさんの条件に合う募集案件は,残念ながら今のところありません」手元の冊子をペラペラとめくりながら嬢が説明をしてくれる。

「ふむ。エドがワシのこと誘っていたけど,募集していることそのものはギルドに出していなかったのか?・・・ま,いっか。で,他の方法はどうなんですか?」

「パーティ結成を呼び掛ける・・・つまり募集する側になるというものですが,どんな仲間をお探しですか?」

「あまりこれといった条件を考えていなかったんですが,できれば索敵系や治癒系のスキルがあることと戦闘に直接参加できる人で,ランクが高ければ高いほどいいってところでしょうか。“人”といっても人種は問いません。ちなみに報酬等はレベルに応じた配分でいいと思うのですが,応相談です」

「募集をかけることそのものは基本的に無料です。ただ,人となりはよく見た方が良いと思うので,ギルドでの事前面談をかけることをお勧めしています。有料ですが。身元を保証するわけではありませんが,悪質な冒険者を排除することができますよ。

 募集条件によって集まり具合が変わりますし,相性もあるでしょうから,正式なパーティメンバーを確保するには時間がかかるかと思います」

「ダメ元で募集をかけておいて,見つかったらラッキーくらいでやってみるか・・・ちなみに事前面談の費用はおいくらですか?」

「1面談あたり,銀貨1枚ですね。面談で確認できるのはレベル・ギルドランク・自己申告されたスキル・ギルド罰則規定適用実績の有無です。これに加えてギルドからコメントが提供されます」

「高いか安いかイマイチよくわからないけど,事前に様子を見てもらえるのは助かりますね。募集をかけるときはお願いしたと思います。あと,最後の選択肢だった奴隷の方は?」


 奴隷という響きには現実世界での常識から嫌悪感を感じるものの,プリインストールされた異世界での常識の観点から,その嫌悪感が薄れ,感覚的には受け入れることができている。ただ,人を買うってのは,やはり抵抗を感じるんだよなぁ。


「求める条件により高価にはなりますが,戦闘に耐えられる奴隷と契約し,冒険者として登録。それを使役するというものです。先の2つの場合と異なり,奴隷契約を結ぶことから裏切りなどの心配もありませんし,衣食住の最低限のルールを守るならば,報酬額の分け前で揉めることもありません」

「なるほど。で,レンティル村には奴隷商人っているんですか?」

「ええ。西側の村はずれに奴隷商人組合のエリアがありまして,そこに誰かしら商人がいるようになっています。行かれるのであれば,ギルドの紹介状をお渡しします」


 定型の様式があるのだろう。カウンター下から取り出した書類に受付嬢がサインをしたものが渡される。


「ありがとうございます・・・あと最後に採取依頼の買取ですけど,月下草になるのですがここで出しても大丈夫ですか?」

「ええ,大丈夫ですよ・・・て,こんなに大量に!? ちょ,ちょっとー,誰か手伝ってー!!」


 受付嬢の了解を得たので,クロノグラフ改に意識を向け,採取した月下草一式をカウンターの上に出す・・・そうとして,カウンターから溢れて下にも,わっさわっさと月下草が広がる。

 あちゃー,集めた量の規模感をすっかり忘れていた! たぶん数千束はくだらなかったはず。

 嬢の叫び声に周りの注目が集まる。そして他のギルド職員が駆け付け,また驚きの声を上げる


「おわっ,なんて量の月下草だよっ!? 内容確認するけど,時間かかるよ!」

「あ,はい。すみませんが,よろしくお願いします。ワシはちょっと外の用事を済ませてから,あとで報酬を取りに伺いますー。すみませーん」


 最後は逃げるようにカウンターを離れ,ギルドをダッシュで出る。

 その勢いのまま,受付嬢から聞いた奴隷商人組合のエリアに向かう。あまりに早く逃げ出したいがゆえに途中でこっそり(?)“加速する力”を使ったのは内緒である。

 奴隷ねぇ。裏切らない存在ならそれに越したことはないんだけど高そうだしな。けど,まずは一度見てみるか。


 ここで奴隷について,復習してみる。

 そもそも,経済格差や犯罪者の処罰などの背景から,この異世界では奴隷制度が定着している。基本的には,国家等で認められた奴隷商人(不適切な手段等で奴隷を入手しない,得た奴隷は丁寧かつ大事に扱う等の諸条件を満たすことができるもの,またその条件を維持できるもの)のみが,奴隷の売買を行うことができることになっている。彼らの許可証は,魔術的に管理されており,奴隷束縛の魔術行使ができる魔道具も兼ねている。ただし,定期的に資格確認を受けなければ,その許可証が使えなくなるような仕組みになっている。なお,闇魔術には類似の束縛系スペルが存在しているが,その習得・行使は非常に難しいこともあり,国家等での管理下でばれるリスクを負ってまで奴隷商売をするのは割に合わないというのが通説である。

 一方で,奴隷と契約する者への制限や条件はない。ただし,契約時の条件(大抵はデフォルトである“食事を与えること,危害を加えないこと”)が守られない場合は,束縛魔術(麻痺や睡眠,疑似的な苦痛による行動制限などといった,奴隷が主人の命令を履行しない時に発動する魔術)が起動しなくなる。とはいうものの,その主人の元から不適切な手段で離れた場合(脱走等)は,はぐれ奴隷の表示(首輪が青く発光する)が出て,許可証のある奴隷商人に引き渡すと報奨が得られる制度ができている。代わりに契約者には罰則(準犯罪履歴が付与され,今後の奴隷契約に支障をきたし,少額ではあるが当局へ差し出すことで報奨が得られる)がつく。


 奴隷の一般常識を確認し終える頃には,村外れに到着し,奴隷商人を示す首輪のマークを象った看板が見えてくる。看板の下には,案内係だろうか,初老の男性が椅子に腰かけて番をしている。身なりは比較的小綺麗で,茶色の外套を羽織っており,看板同様の奴隷商人を示すマークが入っている。目立たないように速度を落としつつ,ゆっくりと近づいて話しかける。腰元のアーブが,自己主張するがごとく,カチャカチャと軽やかな音を立てる。


「こんにちは。ギルドに紹介されて来た,ショウって言います。ここが奴隷商人組合のエリアで合っていますか?」受付嬢からもらった紹介状を提示する。紹介状を見て,いくぶん警戒を解き応対してくれる。

「ええ。そうですよ。これはこれは・・・ずいぶんとお若いお客様でしたか。見たところおひとりですし,お金に困っている風でもない。となると契約対象をお探しですかな?」

「はい。パーティを組めるような,戦闘に耐えられる奴隷を探しているのですが・・・」

「なるほど。詳しい条件は,奥の応接でうかがわせていただきます。ささ,こちらにどうぞ」


 看板の向こう側は複数の天幕が並び,キャラバンの様相を呈している。

 その中でも比較的きれいに飾られた天幕に初老の男はワシを丁寧に迎え入れる。


「レンティル村 奴隷商人組合出張所にようこそ。私はイブラヒムと申しまして,今期の当該エリアの張り番を受け持っております」

「え? 一人でやってるんですか?」

「ええ,まあ。護衛の奴隷が幾人かおりますので,無駄に商人を配置していないのですよ。で,ご用向きは戦闘に耐えられる奴隷とのことでしたが,どのような条件をお探しですか?」

「すみません。あまり詳しくは決めていなかったので,どんな人がいるのかを見せていただきつつ,お値段と相談かなぁ・・・と考えていました」

「はっはっは。身なりがだいぶ軽装なので,もしやとは思いましたが,駆け出しの冒険者ですかな? パーティに入るにせよ,募集するにせよ,自身のスペックが心もとないから,奴隷での補充を考えた,というところでしょう。まあ,よくあるパターンです」

(うぅ,ず,図星すぎて,ぐうの音も出ない・・・)

「即時での契約は難しいかと思いますが,ギルドの紹介状もありますし,ご説明くらいはいたしますよ。

現時点でご紹介できる案件は,そうですね・・・」そう言いながらイブラヒムは冊子を取り出し,ワシの前でめくりながら候補を説明してくれる。その内容とは;


候補(1);

・性別―男

・年齢―19歳

・健康状態―良好

・レベル―18

・職業/保有スキル―戦闘奴隷/剣術士,剣術Lv.2,精霊行使術(水)Lv.2

・契約金額―白金貨12枚


候補(2);

・性別―男

・年齢―38歳

・健康状態―良好(犯罪歴アリ)

・レベル―31

・職業/保有スキル―戦闘奴隷/盗術士,盗術Lv.4,索敵Lv.4,気配察知Lv.2,危険察知Lv.2,剣術Lv.2

・契約金額―白金貨8枚


候補(3);

・性別―女

・年齢―29歳

・健康状態―良好

・レベル―29

・職業/保有スキル―戦闘奴隷/盗術士,盗術Lv.3,索敵Lv.3,気配察知Lv.2,短剣術Lv.3

・契約金額―白金貨10枚


候補(4);

・性別―女

・年齢―16歳

・健康状態―良好,ただし呪い(封印)あり

・レベル―43

・職業/保有スキル―戦闘奴隷/拳術士,格闘術Lv.5,無属性魔術Lv.4,短剣術Lv.4,気配察知Lv.4,危険察知Lv.4

・契約金額―白金貨100枚(条件をクリアした場合,値段は応相談)


となっていた。パッと見た感じでは候補(1)か(3)が有力か。ただ,若い(幼い)わりにスペックが高い,訳ありの(4)が気にはなる。べ,別に若い女性だからじゃないぞ・・・たぶん。

 興味が湧いて,見てみたいと思ったというのが正直なところなの。


「んー,犯罪歴があるのは今後の心配の種になりそうだからパス。候補(4)は気になるけど,金額が高すぎて検討の余地がない。となると,候補(1)か(3)か」

「・・・そうなりますよね。

 候補(1)はお値段が高いものの,精霊行使術が使えることや若いことから今後に期待ができます。

 候補(3)はレベル等の条件のバランスが良いので,もっともお勧めです。

 候補(4)は,条件さえクリアすれば非常にお得なのですが・・・」

「ちなみにこの契約金額は何で決まっているんですか?」

「あ,金額ですか? これは彼らの借金額と増えた利子に相当してまして,契約金額から手数料を差し引いたお金が返済に充てられます。といっても,借金は日が経つにつれて増えていきますから,残れば残るほど,契約締結後での働きに応じた稼ぎで返済しなければならない金額が増えることになります。これは奴隷契約者の義務でもありまして,奴隷が都度返済するために奴隷商人の元に訪れるのが面倒な方は一括で残債を払うことが多いですけれども」

(白金貨1枚なんて,10,000ユーロに相当するから,とんでもない借金額じゃねーか! っつーか候補(4)は桁違いすぎるだろ)

「イブラヒムさんのご推察通り,今の手持ちではいずれにしても契約は不可能ですね。頑張って稼いでくることにします。ちなみにこの奴隷たちはいつまでレンティル村にいるのですか?」

「あと半月程経っても契約先が見つからない場合は,他の土地に回されます。その代わり新規の物件が到着しますが。で,候補(4)はいかがですか?」

「半月で白金貨100枚以上稼げってか,ハードル高いって。そんな割のいい依頼あるのか・・・というか候補(4)をえらく推しますね?」

「実は,契約先が見つからなければ彼らを維持する費用が私共に掛かるわけでして,なるべく早く契約先を見つけた方が良いのです。特に候補(4)は契約できた実績はなくはないのですが,契約した先で“必ず”発生するトラブルで,契約者が長生きできないというジンクスができてしまっていて,ついたあだ名が『蒼き死神』・・・」

「ちょっと,何それ,ヤバイ案件じゃないですか。・・・ん? 契約できた実績がそれなりにあるのなら,既に借金なんて完済してるのではないですか?」

「あ,気づかれましたか。そうなのです。候補(4)は借金ではなく,本人の目的のために奴隷として並んでいるのです」

「じゃあ,クリアすべき条件というのが本来目的に相当すると。その条件とはいかに」

「それはご本人に聞いてください」

「わかりました,わかりましたよ。一度面談させてください。条件を聞いて飲めるかどうかそれから考えますから」


 確かに,提示されている分のスペックだけでも,将来性も含め,ピカイチの候補である。ただ,金額はとてもじゃないが早々に用意できるレベルではない。提示される条件がどうなるかによるか。

 ワシは,イブラヒムの案内で,別の天幕へと案内される。大きさ的には先ほどの応接用の天幕と大差がなく,非常に広い。もしかしたら空間魔術が施された魔道具なのかもしれない。

 天幕の中央付近で待つよう言われ,イブラヒムが奥の暗がりに入っていく。どういう人を連れてくるんだろうか?と思いに耽ったその時!


ヒュゥゥォォォオッッ


 風切り音と同時に何かが奥から飛び出してくるのが‘知覚’できた。“加速する力”をターンダウンし忘れていたのが幸いし,最大限の速さで飛び退る。すると目の前を黒ずくめの服で蒼い髪をなびかせた小柄な人物が縦回転をしながら蹴りを投じてきたところであった。


「!? な,何なにナニッ!?」頓狂な声を上げつつ,ワシはアーブに意志を向け,構えを取る。こんな切羽詰まった状況にも関わらず,柄の感触に言い知れぬ快感を感じつつ,刀身を出すよう意識を向けるも,今回も(・・・)また刀身が出てこない!

「くっそ,またかよ!? 確かに,ありゃかなりの使い手だという雰囲気はわかる。“加速”してなけりゃやられてた・・・」


 ワシは,その人物が出てきた方向とは逆の方の暗がりに半身を向ける。きっと,アーブの判断では抜刀術を選択しているのだろう。これまた格上相手かよ。ここは相棒に任せるしかないか。けど殺すのはナシだぜ。

 一瞬の静寂の後,上からの気配を感じて振り仰ぐと黒い手甲に包まれた右腕の貫手がワシの頭に突き刺ささる直前だった! 知覚した瞬間が遅くとも気づきさえすれば,速さなら負けない。と思うやいなや,アーブが斬り上げるように一閃し,貫手を弾き,斬り下げる一閃で相手を撃ち落とそうとするも,左手で受け流され,最終撃となる刺突は肩部を突き飛ばすにとどまる。この一連のやり取りにはコンマ何秒もかかってないだろう。


『極狂刀流 抜刀術 四の型』


 ワシの想いがアーブに通じたのか,はたまた相手の力量が高かったのか,瞬殺するのは避けることができた・・・というか,“加速された”抜刀術に反応しているのが異常すぎる。ワシとのレベル差が大きいということなのか? それとも,何かしらのスキルが発動しているのか? わけわかめ。

 結果して,相手は衝撃を殺すためか勢いよく後方に回転しながら数mは後退し,着地する。ある程度のダメージは入ったのか,右手で左の肩口を押さえている。よく見ると,膝下までの黒いドレス上の服の要所要所に金属製と思われる黒色の保護プレートが配されており,服というよりは鎧であることがわかる。

 ワシは油断をせずに,刺突の状態の残心からすぐさま,フゥィィィンという振動音のような音を出している刀身をもって下段で構えを取る。アーブの刀身を出したままにするというワシの意志が今度こそは尊重される。そして,またもや黄色に輝いている。こういうシチュエーションで喜ぶって・・・。


「運が良かったな。いきなり殺しにかかるとは,返り討ちで死んでも文句は言えないぞ」

「こちらは寸止めができる用意はありました。それに対応できずに剣技を繰り出す方が未熟。とはいうものの,初撃のみならず二撃目も躱して,反撃できたのは素晴らしい。まずは第一段階合格ですね」


 肩口を押さえながら歩み寄ってくる人物の顔がはっきりと見え,色白のほっそりとした少女であることがわかる。その少女はショートボブの蒼い髪を揺らしつつ,その姿に似合うかわいらしい声で返してくる。先ほど感じていた殺気が霧散したことから,ワシも構えを解き,アーブ,そして“加速する力”も解除する。腰元に戻したアーブはカチャリと音を立てて収まったが,不満げな音に聞こえたのは気のせいだろう。


「ふむ。反撃までできた方を見たのは初めてですな。珍しく一発で第一段階合格とは。オーラブレード持ちであるにもかかわらず,持っている雰囲気から判断した私の見る目も悪くはないというところでしょうか」顎を撫でながら,イブラヒムが背後の暗がりから姿を現す。声音には喜びが含まれているように聞こえたが,表情は笑っていない。

「え,何? 二人してワシを試したんですか? 命がけの面談なんて聞いてませんよ。それに“オーラブレード持ちにもかかわらず”って,どういうことですか?」

「これが条件の一つ。パトリシアさんが認めるほどの強い者であること,です。

 オーラブレード持ちの方を軽んじているわけではありませんが,昨今の高レベル剣術士や剣聖と呼ばれるような方々でオーラブレード持ちはおりませんからね。おのずと見る目が変わるというものです。ただ,ショウさんはそのような常識では測れない方のようですな」

(昨今と言ったが,ワシの“常識”にはなかった話だ。プリインストールの情報も万能じゃないってことか。マンウの話といい,剣術の動向を調べた方がいいのかもしれん)

「で,そのパトリシアさんは・・・って。え,じゃこの子が候補(4)なんですかっ!?」


 目の前の美少女を見て,驚きの声を上げるワシ。そう。目の前に佇むは,黒瞳がちで丸に近いアーモンド型の目で見つめてくる蒼い髪の美少女パトリシアであった。その彼女が,ワシの驚きをよそに口を開く。


「細かい取り決めは別途相談するとして,奴隷として契約することについての条件は次の2つのうちどちらかです。それは,わたくしめが掲げる復讐に積極的に協力してくれるならば,白金貨10枚。復讐を積極的ではないにせよ協力してくれるのならば,白金貨50枚で契約をいたしましょう。この復讐の内容に関しては他言無用です。いかがですか」

「いかがですか,って言われたって,即答は出来かねますよ。なんせ白金貨10枚ですら持ち合わせがないのに・・・」

「は? 契約する気もないのに,わたくしに面談しようとしたのですかっ!?」いや,そこワシに怒られても。イブラヒムがぜひって言うから来ただけなのに・・・。という恨めし顔を向ける。

「ショウさんは,契約する気満々でしたよ。ただ,資金が足りないようですので,これから半月以内に契約代金を稼ぐおつもりのようでしたから,お引き合わせをした次第です」

「(こやつ,いけしゃあしゃあと!)ええーと,まあ,条件はよくわかりましたので,契約に向けて前向きに考えさせてください。では,また来ますので」


 むんず。踵を返して,颯爽と立ち去ろうとしたワシの裾を握る手が。


「契約するする詐欺はよくありませんわ。適切に契約が完了するまで監視させていただきます」

「へ? いや,それって,契約の押し売り?」

「何を失礼な。こんなにも良好な条件の契約を無駄にしないよう,気遣っているだけです」くりくりした目で下から覗かれ(身長は彼女の方が幾分か小さい),たじろぐワシ。そこに助け舟を期待して,イブラヒムを見ると,果たして・・・

「そうですな。お客様が損をしないようにするのも商人の務め。それでは,手付金として金貨を5枚ほどいただければ,お試しかねがねパトリシアさんを仮の契約関係としておつけいたしましょう」

(彼女の復讐劇に単純にワシの戦力を当て込もうとしているだけだろうよ。とはいうものの,条件が飲めるならば,彼女のスペックは確かに他に類を見ないだろう・・・ワシの“常識”の観点からも明らかに凄いといえる。あの年齢でこのスペックとなるような背景にヤバそうな雰囲気を感じるが,逆に異世界での生活等々にかかるサポートが期待できると考えてもいいかもしれないし。これもまた女神様の巡り合わせの運命なのだろう。ここは流れに乗ってみるか)

「・・・では,ありがたく,その申し出を受けるようにしたいと思います。それじゃ,手付の金貨5枚,と」


 ワシから金貨を受け取ると,イブラヒムは奴隷商人の許可証と思しき認識票のような小さな金属プレートを掲げて詠唱を行い,血を要求してくる。ワシは渡されたナイフを指に軽く当て,血を出す。それをパトリシアの首輪に触れると一瞬金色に輝いたのちに,元の黒いチョーカーの様相に戻る。


「仮の契約ですので,半月以内に残金とパトリシアさんをお連れください。さもないと首輪が青に発光し,はぐれ奴隷扱いとなりますのでご注意ください」

「はあ。がんばって稼いできます・・・」


 力なく返事をしつつ,ワシはギルドに戻るべく歩きだす。そして,すぐ後ろをパトリシアが嬉しそうについてくるのであった。


<------------------------------------------------------------>


 ギルドに戻る道中にて,パトリシア・・・もといパティ(と呼べと言われた)の情報をいくつか聞き出す。復讐の関係や背景については,正式契約するまでは話ができないとのことだったので,話をしてもいいものだけを聞き取る。基本的にはステータスにかかわるところだが。結果を要約すると;


種族;人間(女性)

年齢;16歳

レベル;43(無属性魔術で身体能力を向上させた上でのレベルは70超相当)

職業;戦闘奴隷/拳術士/(闇魔法師;封印中)

身体パラメータ

 HP; 1012/1012

 MP; 1008/1008

 STR; 122

 INT; 118

 WIS; 108

 DEX; 114

 AGI; 103

 CHR; 134

基本兵装;

 ― ナシ(慣れている武器は短剣系)

 ― 魔術Lv.4

  > 無属性;身体能力向上系スペル他

  > 闇属性等のいくつかが封印中

防具類;

 革製鎧(耐刃性強化,魔法防御効果大),黒曜の手甲(DEX上昇効果(小)),機敏なる脚甲(AGI上昇効果(小)),跳上のショートブーツ(跳躍力上昇)

スキル;

 ― 格闘術(拳術の上位版)Lv.5(身体能力向上と合わせることでLv.10相当に引き上げが可能)

 ― 短剣術Lv.4

 ― 気配察知Lv.4

 ― 危険察知Lv.4

 ― 暗殺術Lv.4

 ― 社交術,交渉術,奉仕術等


「はぁっ!?」一通り聞き終えたワシは,驚きの声を上げる。っつーか,今日始まったばかりで,何度驚けばいいんだよっ。

「驚くのも無理ありませんわ。これほどの力量を持った冒険者等はそうそうおりませんから。

 ただ,仮の契約関係とは言え,ここまで正直にお話ししたいと思うほどの力を持った方に会うのは初めてですけど」


・・・そこ。‘初めて’のくだりで頬を赤められても,リアクションに困るんだが。


「まあ,きっと,話をしてもらえていないキミ・・・もといパティの情報は多々あるんだろうけど,例の目的にかかわることだろうから深くは聞かない。というか聞きたくないので,ここで質問タイムは終わりにしたいと思います」“キミ”のくだりで睨まれてしまい,思わず愛称で呼びかけなおす。なぜにこんなプレッシャーを受けねばならんのだ。不可解である。

「あら,わたくしの“初めて”をいろいろと聞きたいのではないのですか?・・・まあ,なければこちらからお聞きしてもいいですか?」小首を傾げながら問いかける姿が堂に入っていて,かわいらしい。

「ん? 別に構わないけど」

「ご主人様は,何を目的にして冒険者をしているのですか?」

「目的ってほどではないけれど,世の中の異常事態を収めること,かなぁ。至近の目的は,そのようなことが成せるほどの高レベル冒険者になることだけど・・・って,契約しきれていないところで“ご主人様”はないだろ?」

「いえいえ。わたくしとの正式契約を前提に仮契約をされているのですから,当然の呼び名です。

 目的の具体性が欠けている気がしますが,まあ良しとします。次に,既に廃れ・・・失礼,失伝したと言われる極狂刀流の剣技はどのように習得されたのですか?」

「そこは企業秘密だよ」この答えに対し,歩きの揺れに合わせて出たアーブからのカチャンッという音は不満気な音のように聞こえた。

「企業・・・秘密,ですか。企業といわれるほどの組織をお持ちのようには見えませんが」

「言葉の綾だよ,あ・や。細かいことは気にしない。それに冒険者ギルドに到着だぞ」


<------------------------------------------------------------>


 数時間ぶりにギルドに戻ったわけだが,カウンター周りの雰囲気がなんか変である。確かに,大量の月下草の買取を頼むわ,その割に逃げ出すわ,挙句の果てに戻ってきたら女連れ(それも美少女)とくれば,好奇の目に晒されるのはわかる。

 ・・・が,それ以上の何かがあるように見えるのは気のせいではないだろう。


「えーっと,ショウさん,でしたよね。持ち込んでいただいた月下草ですが,非常に新鮮な状態で持ち込んでいただきありがとうございました。良質なポーションの材料になること間違いないです!」

「いや,そんなに褒めなくても・・・で,結局おいくらになったのですか?」

「ほんと,数えるのが大変でした。総数は約10,000束相当になりましたので,金貨12枚となります」チャリンという小気味良い音とともにおかれた金貨を見て表情をほころばすワシ。

「おお。けっこうな量はあったと思ったんだけど,そんなになりましたか。よかったよかった」

「それはそうと,ショウさんがお持ちのアイテムストレージはどちらで入手されたのでしょうか? あれだけの量を収納しつつ,鮮度が変わらないということは,時間の流れが止められる高級品とお見受けしますが」

「(やっばぁ。そんなところで不審がられるとは思わんかった)・・・あ,ちょっとした家宝的なものでして,ワシが冒険者になるということで餞別として渡されたものなんですよ。あはは」


 イマイチな理由ではあるものの,受付嬢のジト目に対して,ひきつった愛想笑いで切り抜けることにする。そんなものが効果を発揮したとは思いにくいが,受付嬢は追及をあっさりと諦め,他の話題を切り出してきた。


「それはそうと,ショウさんはあのマンウとコーネリアを倒したそうじゃないですか。ランクFという駆け出しの冒険者にもかかわらず,Cランクの二人をたった一人で倒すなんて,驚きです。

 かてて加えて,剣技まで駆使されるとか? そんなの高レベル剣術を有している証拠としか言いようがないんですけど,まさかステータス偽装をしているわけではないですよね~?」


 気が付けば,ワシがいるカウンターに周りに軽く人だかりができており,方々で「え,あの若造がたった一人でマンウたちを倒したって?」「んな,ばかな。あれはエドたちがこっそり支援してたんじゃないのか」「いやいや。聞いた話じゃ・・・」といったひそひそ声が聞こえてくる。(聞こえる時点で“ひそひそ”じゃないけど)


「(今度はそっちかよ)・・・あ,あれはたまたまですよ,たまたま。知っている数少ない超古~い剣技がうまくハマったというかなんというか。そんな偽装なんてだいそれた真似なんてしませんよ」たじろいだワシの腰元でカチャカチャとアーブが揺れる。まさか怒ってるわけじゃないよね。

「“普通”はそうでしょうね。まあ,いいです。とにもかくにも良質の採取物を持ち込んでくれる冒険者は大歓迎ですので,今後ともよろしくお願いしますね」


 結局のところは,少々悪目立ちしてしまったってことなのだろう。ギルドに変に目を付けられるのは本意じゃないんだが。既に知られてしまったのはどうにもならん。

 と考えたところで,ゴブリンの討伐証明を提出し忘れていたことを思い出す。


「あ,ついでで申し訳ありませんが,先日の採取をしている最中に倒したゴブリンの討伐証明があるのですが,これも買い取ってもらえますか?」

「ええ。いいですよ。まさか何百匹ってわけじゃないですよね?」

「もちろん。せいぜい13匹ですよ」


 受付嬢は,手際よく討伐証明部位である右耳を確認していく。


「しめて,銀貨6枚と大銅貨5枚ですね。こちらをどうぞ。ゴブリンは異常発生している状況でもあるので,ぜひ一匹でも多く討伐してください。早く異常発生の調査が完了して,完全討伐の作戦に移行できればいいのに・・・」


 最後は愚痴のような一言をまぜつつ,受付嬢が今度はジャリンという金貨に比べて鈍い音とともに銀貨たちをカウンタに乗せる。ワシは丁寧に拾い上げて,服のポケットに入れるふりをして,ポケット内でクロノグラフ改に収納する。んじゃ,お暇するか,と思った瞬間に,受付嬢からの最後?の一撃が飛んできた。


「で,そこの女性はどなたでしょうか? 見たところ奴隷のような雰囲気ですが」

「(あう。そこには触れてほしくなかったのに・・・)あ,その,パーティを探すのが困難ということで奴隷契約をとろうかと思いまして。手持ちが厳しいと言ったら,気前の良い商人さんのおかげで“お試し契約”をしているだけです。いかがわしい理由はありませんっ」


 何か言い訳がましい返事となってしまったが仕方があるまい。美少女であることは認めるが,下手したら(いや,下手しなくても)ワシよりも明らかに殺傷能力が高そうな人ですよ。そんな対象にしようものなら,この首が落とされますって・・・。


「お試し契約・・・ですか。正式契約することが前提ですから,そのような契約金をご用意できる,もしくは見込みがあるってことですよね。ますます怪しい」

「冒険者ギルドは無用な詮索をしない,紳士的な組織とうかがっておりましたが,知らないうちに品位が落ちてしまわれたのでしょうか?」


 抑揚が感じられないパティの指摘が入り,場の雰囲気の温度が数度下がる。


「あら。失礼いたしました。今の一言は忘れてください。ただ,その方を戦闘奴隷として使われるにしても冒険者としての登録は必要となりますので,正式に契約されましたら,またギルドに来てくださいね」

「ええ。ほどなくしてまた参上いたしますので,よろしくお願いいたしますわ」


 さすが受付嬢は大人である(年齢は知らんが,少女ではないことは確かだ)。挑発?に乗らずにニッコリと営業スマイルを浮かべてやり過ごす。こういう女性同士の微妙なやり取りって,関わらないで済むならば,ホントそうしたい。

 捨てゼリフとともに冷ややかな視線を受付嬢に向けるパティに,ワシは気疲れを感じつつ,ギルドを後にしようとした。そのとき,扉が勢いよく開けられたのである。


バァンッッ


「エドたちがとうとう見つけたぞっ!!!」


 叫び声のような大声を上げて,一人のレザーアーマー姿の男が飛び込んできた。

 これこそがワシが最初に出会う異世界の“歪”になるとは,この時点ではわかるはずもなかった。


ようやく,委託業務の重要ポイントでもある“歪”の登場のとっかかりまで来れました(汗)。

一応,ヒロイン候補的な何かを出すこともできました・・・。しかしながら,そこらじゅうにバラまいた伏線たちは拾われなければ意味がありませんので,早々に回収できるよう頑張ります!


では,女神様を信じるみんなにご加護がありますように。



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