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第1章 第三話ノ壱 First Encounter ~刺客に遭う資格とはこれいかに~

Long time no see. ご無沙汰しております。本業が忙しくなってしまい,ぜんぜんお話を進めることができていませんでした。これを読んでくれているあろう皆様,ごめんなさい。

何とか書けた分は,2回に分けて投稿します。


前回までのあらすじ

・ショウ,異世界に転移。異世界の情報をプリインストールされつつ,異世界での委託業務受諾。アーブをはじめとしたアイテムを入手し,特殊スキルの説明を受ける。

・異世界にて委託業務に着手。冒険者ギルドに登録して薬草採取にチャレンジ。

・“加速する力”を試したら,エッジから離れすぎ。ゴブリンの集団に遭遇するも,アーブの力である『極狂刀流 剣技』を発動させ殲滅。

・ゴブリンの集団を追ってきたエドたちと最寄の村であるレンティル村に一緒に行くことに。


Let's get started!

 エドたちと一緒に移動すること2時間少々。陽が暮れる前に,レンティル村の外壁にたどりつくことができた。

 時間はかかったが,帰る道中で,世間話とばかりに最近の動向などの情報を差障りない範囲で交換できたことは良かったのかもしれない。友達とまで認識されたわけではないかもしれないけれども,話をした範囲では悪い人たちではないと分かったし,この異世界に来てからのまともな知り合いが早々にできたのは幸運と言ってもいいかもしれない。

 エドたちは,最近異常な増え方をしているゴブリンを根本的に退治するための事前調査として,集落の捜索・調査を請け負っているらしい。そして,ここでしばらく活動しているせいか,門番とも既知の仲となっているようで,楽しく会話を交わしている。


「よっ。今日もなんとか生きて帰ってきたぜぇ」

「ん,エドたちか。無事で何よりだ。成果がなかろうとも命あっての物種さね」

「上を目指している冒険者としては,成果なく帰ってくるのはツライところなんだがな」


 門番は,そんなエドの返しに苦笑をうかべながらギルドカードをチェックする。ここでもエッジの衛兵と同じようなプレートをギルドカードにかざして確認をしているようだ。エドに続き,カインやシャル,そしてワシの分のチェックをする。


「ん? ショウ? 聞かない名前だが,坊主はレンティル村は初めてか?」

「(坊主って・・・今度は子供扱いか?)ああ。エッジを出て,薬草採取をしながら東に向かっていたら,大分足を延ばしてしまってね」

「エッジから!? そりゃだいぶ流れてきたな。それもそんな軽装で・・・普通はこんなところまでは来ないぞ」

「そうなんだよ。俺も驚いたぜ。エッジ周りでの薬草採取で,こんなところまで来るなんてあり得ない遠征だって。馬とかで移動してきたわけでもないのにな」

「アイテムストレージもあるし,物見遊山気分で移動してきたから・・・まあ,気にしないでくれ」

「そんな若いのにアイテムストレージなんぞ持っているのか?」

「大したものは入らない,安いヤツだよ」


 門番やエドが改めてワシの無謀な遠征ぶりに驚く。加えて,カインが,はたと気づいたように質問をする。


「・・・ん? レンティル村を拠点にしてたんじゃないのか?」

「拠点にしてた,というか,これから拠点にしようとしてたというか,いろいろ事情があるんだ」

「事情ねぇ・・・」


 適当にごまかしていたことのボロがさっそく露呈しそうになり,これ以上のツッコミは勘弁いただきたい,という思いと共に言葉をしどろもどろに返す。そんな思いが通じたのか,カインは不審げな表情を浮かべたが,特に食い下がることはなかった。

 門番とエドたちは,ワシの無謀ぶりを笑いあってからワシらを解放する。


「ショウって言ったか? ルーキーの冒険者はいろいろ苦労があると思うが頑張れよ」

「ありがとう。この髭面のおっさんに絡まれたことを本日の不運の打ち止めにしてほしいところだけどね」

「はっはっは。そりゃそうだ。エドはなかなかゴブリンの集落が見つけきれないほどの悪運の持主だからな」

「・・・カルロスさんよ。後輩に変なことを吹き込まないでくれよ・・・これでもCランク目前のDランク冒険者なんだぜ」

「おお,これは失礼しました。Cランク冒険者候補のエドワード・エドガー様」


 慇懃に頭を下げる門番もといカルロスに,お手上げとばかりに肩をすくめて,ギルドカードを返却してもらい,一路宿屋へと向かう。ワシはもちろん初めてだから,土地勘などは何もない。そのため,エドの後をついていく。

 すると,ほどなくして,ちょっと(いや、かなり)老朽化が進んだ宿屋の前に到着する。看板には『栄光の物語亭』と書かれている。村の宿屋とはいえ,栄光は栄光でも“過去の栄光”じゃないのか?という感想を抱きかねないほどのレベルの建物を前に立ち尽くす。


「ここが私たちの一時的な拠点です。見くれはイマイチかもしれませんが,部屋と食事はしっかりしていますから安心してください。それとも,もともとの宿泊先でもありましたか?」


 ワシの硬直ぶりを見たカインがフォローの一言を入れてくる。おまえ,宿屋の回し者か。


「あ,ああ。大丈夫だ。宿泊先のアテはなかったから,短い期間かもしれないけれども,ここで厄介になれれば願ったり叶ったりだ。先輩の意見は聞くに限るからな」

「そうだそうだ。面倒見のいい先輩冒険者に遭えたことに感謝しろよ」

「そういう恩着せがましいセリフで,いかにエドがちっさいのかってことがバレるのよねぇ。ぷぷぷ。・・・あ,そうか,見てくれからしてちっさいのは既にバレてたか!」

「ええーい,ちっさいを連呼するんじゃないっ」


 シャルとエドの夫婦漫才のような掛け合いを尻目に,ワシは宿屋の中へと入り,年配の親父がキセルから煙を上げながら座っている受付に歩み寄る。


「とりあえず1泊頼む」

「素泊まりなら大銅貨4枚。朝晩の飯をつけるなら,大銅貨1枚追加だ。飯はこの宿のとなりで食える」

「飯はつけてくれ」


 ぶっきらぼうな親父に銀貨を渡し,釣りと一緒に鍵と木札をもらう。


「一応鍵はあるが,気休め程度だから,自分の身と身の回りのものは自分で守んな。部屋は上に上がって目の前の部屋だ。あと,その木札を見せれば飯を食わせてくれる」

「ありがとう。置きに行くような荷物もないことだし,さっそく飯をとることにするよ」


 親父がワシから視線を外したタイミングでバックパックをクロノグラフに収納し,夕飯を取るべく宿をいったん出た。案の定というべきか,まだシャルとエドがやりあっており,カインがちょっと引き気味に様子を見ている。彼らはワシが出てくるの見ると早速エドが声をかけてくる。


「ショウ。どうせ飯だろ? せっかくだから一緒に呑むか? 一応見てくれは綺麗なお姉さんもいるしな」

「なーに,その“一応”ってのは,失礼じゃないの! それに,子供に酒を勧めるもんじゃないよ。これだから呑兵衛のドワーフってやつは・・・」

「ドワーフじゃねぇし。・・・ん,そういやショウの歳を聞いていなかったな。見たところ10代か? そうだとしても,俺が10代のときは既に酒は飲んでたから大丈夫だろ」

「いや,一応これでも44歳なんだが」

「「「えええぇぇっっ!?」」」


 ここで3人は絶妙に息の合ったタイミングで驚愕の表情を浮かべる。やはりパーティを組むだけあって,さすがのコンビネーションというところか。


「んじゃ。酒を酌み交わすのは問題なしだな。さっさと行こうぜ」


 エドの一言で皆が我に返り,宿屋の隣の食堂というか居酒屋のような店に入っていく。

 店の中は,日が暮れきってもいないのに,多くの人でごった返しており,にぎやかな喧噪で満たされている。冒険者のような人だけでなく,近隣の住民とおぼしき人も見受けられ,地元でも良いお店の部類に入ることが伺い知れる。

 そこそこ広い店内は,空きテーブルがまだ少し残っており,ワシたちは無事にテーブルにつくことができた。そんなワシらのテーブルに恰幅のいいおばちゃんが,キレのいい身のこなしで酔客を躱しながら近づいてくる。


「あら,エドと愉快な仲間たちじゃないか。・・・ん? 新顔を引き入れたのかい?」

「ちょっと待ってよ。わたしは“仲間”じゃなくて,今回の依頼のための臨時のパーティメンバーなんですけど。スザンナも変なことを言わないで。・・・で,彼は今日の仕事の最中に出会った,ショウよ」

「はじめまして。エッジから来たショウです。長居するかどうかもよくわからないけど,よろしくお願いします。スザンナさん」

「あらあら,礼儀正しい,かわいい子じゃないかい。いいねぇ」

「くくっ。“かわいい”ねぇ。ショウはこう見えて44歳なんだぜ。がははは」

「ええぇぇっっ!?」


 スザンナは,目を見開いて最大級にびっくり加減を表現している。このネタはいつまで続くんだろうか・・・。

 たっぷり数秒フリーズしたスザンナは,その後何とか仕事を思い出し,人数分のエールと肉料理とサラダの注文を受けて,厨房に戻っていく。ほどなくして,エールだけがさっさと給仕され,ワシたちは乾杯をする。そんなに日は経ってないはずなのに,すんごく久しぶりのお酒な気がする(泣)。


「じゃ,今回の出会いが幸運をもたらすことを祈って,乾杯!」

「「「乾杯っ!!!」」」


 木製のジョッキに注がれた琥珀色の液体は,いわゆるビールのようなものであった。そして何よりもびっくりしたのは,冷えていたのである。異世界でも冷えたビールを呑めるとは感涙である。


「んぐっ,んぐっ・・・っぷふぁー。冷えててうまい!」ワシは思わず感想を漏らす。

「だろ? ここで出る酒は魔道具で冷やされているから格別なのさ。ショウ,おまえいい呑みっぷりじゃねぇか」

「なんか子供に酒を飲ませている悪いオヤジの図式だな」


 カインの若干の呆れたような声音に,シャルが頷いている。そんなシャルもいい呑みっぷりを見せているのだが,美女が景気よく飲む姿は様になっていて嫌味がない。

 って,今さらだが,よくよく見るとシャルは綺麗な顔立ちをしている。黄色が強めに出た金髪は,後ろでポニーテール状に束ねられており,サラサラという音が聞こえそうなほどの軽さで揺れている。碧眼でアーモンド型の輪郭をもつ目には泣きボクロがアクセントとなり,えも言われぬ色気を漂わせていて,薄い唇はリップを塗ったかのごとく綺麗な桜色を呈している。そして極め付けは,ほっそりとした小顔の脇にある少し長めで尖った耳と木の葉をあしらった銀色のピアスが幻想的な雰囲気を出す一助となっている。エルフか・・・さっきまではフードをかぶっていたから気づかなかった。

 確かにエドが言う“見てくれは綺麗”の一言はあっている・・・というか,それ以上だろ。もっと上質な表現をすべきじゃないのか,このちっさいおっさんは。


「どうしたの? 急にわたしのこと見つめちゃって。ふふふ。ようやくこの美貌に気がついたのかしら?」

「え,あ,いや・・・ちょっと酔いが回っただけだよ」


 我ながら,残念な言い訳をしどろもどろで吐き出しつつ,言葉を飲み込むがごとく,再度エールを流し込む。


「で,ショウは冒険者なんだよな? 目標はあるのか?」エドはジョッキを傾けながら,ワシを見つめる。

「目標ってほどではないけど,異常事態が多発してるって,地元でも聞いていたから,それを収めることでみんなのためになれば,と思ってね。もちろんそれ以前に,そんな異常事態を収めるような仕事を依頼されるような冒険者になるのが先だけど。それに,金を稼いでいい生活をしてみたいっていうのも小さな目標かな」苦笑を浮かべながら答えるワシ。

「がはは。そりゃ,まずはランクを上げなきゃならんな」

「そういうエドは何を目標にしているのさ?」

「あ? 俺か? そりゃ,パーティを立ち上げて,その規模を広げてクランにして,そのトップに立つことさ」

「・・・また世迷いごとを。大志というか野望もけっこうですが,まずは正式なパーティ立ち上げですよね?」


 カインのツッコミにエドがばつが悪そうな表情を浮かべて,エールをあおる。


「そこはさ,シャルが正式にパーティメンバーになってくれれば解決だって,言ってるじゃねぇか。シャルなら弓による攻撃と精霊魔術,至近距離では剣術が効くという中/近距離が任せられるからな。そして,俺の接近戦闘とカインの後方支援で完璧だろ」

「そうなんですけど,シャルさんは乗り気ではなさそうですよ」

「ごめんなさいね。わたしの本来の使命からすると,エドたちと長期的に行動を共にするわけにはいかないのよ」


 シャルは本当に残念そうな表情を浮かべて,言葉を返す。


「本来の使命?」思わず聞き返すワシ。

「ああ。シャルには最優先事項の宿題があるのさ。俺らと一緒に居ても達成できるだろって口説いているんだがな」


 エドから目線を向けられたシャルは,一瞬だけ申し訳なさそうな表情を浮かべたあとに,真剣な表情で口を開く。


「見ての通り,わたしはエルフなんだけど,わたしの出身である氏族に必要な人材を探すべく旅に出ているの」

「どんな人を探しているんだ?」

「詳しく話すことは許されていないのだけれど,最初の条件は“REG値が高い人”ってところかしら」

「最初ってことは,他にたくさんあると?」

「たくさんってほどではないけれど,ま,それなりにあるのよ。そのあたりの条件は,わたしの経験に基づいた直感で最初の条件をクリアした人にしか教えられないわ」


 ワシの不思議そうな表情を見て,カインやエドが苦笑いを浮かべる。つまり,ここにいる2人は候補者足りえなかった,というわけだ。ワシの本来業務からは関係ないところだな。


「そうなんだ・・・。条件の詳しいところはわからないけど,話をしている表情の真剣さ加減から,大変そうであるってことはわかったよ。駆け出しの冒険者のワシとしては手伝えるようなことはなさそうだけど,何か力になれそうなことがあれば言ってくれ」

「そうね。もし機会があるならば,ね? ふふふ」


 手持無沙汰とでもいいたげに,耳元のピアスを触りなら怪しげな笑いを浮かべている。

ワシのREG値は高いから,最初の条件はたぶんクリアできるだろう・・・だが,人探しに付き合う余裕があるのかどうかわからないし,生活とか仕事とか身の回りのことが確立していないから,力になるとかそういう状況じゃないか。


「ショウの第一印象は問題ないようだけど・・・」

「第一印象が良くてもね。ワシは,そんなすごい信心はもっていないから条件に合わないだろうし。そりゃもう,神なんて面倒なものは信じてませんから」


 言い繕うワシの背筋が一瞬ゾクっとするほど冷えた気がした・・・なんか怖~い視線が刺さった気がする。って,まさか,女神様はこんな些末な話までモニターしてるとか!? マジ勘弁してください。

 そんなワシの心の機微を知る由もなく,シャルは一瞬だけ厳しい視線をワシに向けた後に,話を続ける。


「ふーん。世の中,無神論者はいるのは分かっているけど,ショウもそっち側の人なんだ」

「無神論者ってわけじゃないんだけど,あまり人に言うような教義じゃないし,期待されるようなREG値は持ってませんから・・・」

「そっかそっか。ショウについていく必要はなさそうだぜ,シャル。ここはやはり俺らと一緒になった方がいいじゃねぇか?」

「エドたちとの連携は,ここ数十年来の中では,しっくりくるから良い申し出なんだけど,宿題を達成させるにはちょっと・・・いや,かなり足りないかな。あは」


 ウィンクをかまして,申し訳なさそうな表情を浮かべたシャルを見て,文句を言える人がいるんだろうか? 少なくとも,このテーブルにはいないことは明らかだった。ただ気になったのは,その表情の中でワシを見る目が鋭かったことである。だが,たぶん気のせいだろう。

 そんな会話を聞いていたのかどうかわからないけど,会話が途切れた絶妙のタイミングでスザンナが料理を持ってくる。


「本日おすすめの肉料理と新鮮なサラダだよ!」

「「「「おおぉぉっっ!!」」」」


ドンッ,ドンッ,ドンッ!


 いい勢いで,大皿がならべられていく。確かに大きな塊肉がいい色に焼けており,食欲をそそる匂いを漂わせながら給仕される。その脇には,洗面器か!?という大きさのボウルに山盛りの野菜とドレッシングと思しき液体がかかっている。

 ワシらは,欠食児童のごとく,肉と野菜にとりつく。シャルは,エルフであるからか,野菜にのみ手を伸ばしたあと,少しだけ肉に手をつける。みな空腹だったのか,料理が旨いのか,一心不乱に無言で肉を食らうこと十数分。料理の山が半分以上切り崩されたころに,面倒ごとがやってきた。


「おう,エド。だいぶ羽振りがいいようじゃねぇか」


 身長は2mもないだろうが,前後左右に密度の高そうな筋肉を纏ったデカい男がだみ声を発しながら近づいてくる。隣には,嫌味しか吐き出さないのではないか?と思うような表情を張り付け,縮れた茶髪を掻き上げている小柄な女性がいる。彼女は,一般的なレザーアーマーを身に付け,これ見よがしな凶悪な棘を配したウィップを腰に携えている。プリインストールされている予備知識が,彼女がドワーフに特徴を示していることを告げる。

 ちなみに男の方は,部分的に金属プレートを配したレザーアーマーを装備し,見てくれにマッチした大きな戦斧を背負っている。


「これはこれは,マンウ先輩とコーネリア先輩じゃありませんか。こんな小童たちの食事に何か御用ですか? あいにく席は埋まっておりまして,相席は難しそうです」

「ふんっ。おまえたちの食事につきあうほど暇じゃねぇよ。用があるのは,そっちに座っている黒髪の坊主だ」


 へ? ワシ? こんなやばそうな人は知り合いにもちろんいないし,いきなり追われるシチュエーションなんて考えてなかったんだけど・・・。

 そんなワシの混乱気味の思考には,お構いなしの会話が続く。


「彼は,今日レンティル村に来たばかりだから,マンウ先輩のご厄介になるようなことをする時間すらなかったと思うんですがね」

「お前の意見なんかいらないんだよ。坊主,いいから顔貸しな」


 マンウが睨み付ける中,コーネリア先輩と呼ばれた小柄な女性がワシを外へと促す。

 えーっと,テンプレだと,こんなとこで絡まれる展開はないと思ってたんだが・・・エドが下手に出ていることから,彼らはそれなりのレベルにいると推察される。こじらせて,エドたちや店に迷惑をかけるわけにもいかんか。

 気が付けば,店内は静まり返り,ワシらの動向に視線が集まっている。


「ワシにどういう用があるのかわかりませんが,お店の中では他のお客さんやお店の人にご迷惑がかかりますので,出ますよ・・・あと,一口サラダをいただいてから」


 ワシは言った通り,サラダを一口頬張ってから,店の外へと向かう。エドたちは驚いたように追ってくる。


「ショウ・・・おい,ちょ,ちょっと待てよ」・・・エド,お前にキム○ク的なセリフは似合わんぞ。

「そうよ。そんなならず者の言うこと聞くことないし」


 シャルの“ならず者”発言に,コーネリアが反応する。


「Cランク上位の私たちをならず者呼ばわりするとは,大層なご身分じゃないの」

「食事中の若人に難癖つけて,外に連れ出すなんて,ならず者以外に何がいるのよ? ランクなんて関係ないわ」

「人間様の国まで出張って,稼ぎに来ているようなエルフに言われる筋合いはないね。だまってな」

「おい,うちのパーティメンバーに粉つけようってか?」エドがいきり立って言葉を放つ。

「いや,パーティメンバーっていっても臨時だし・・・」


とシャルがツッコミを入れるところにかぶせるように,振り向いたコーネリアから短い詠唱が紡がれる。


「ふんっ・・・常闇からくる冷気『あまねく存在する大気よ,脅威を排除せよ! エア・ウォール!』に基づき,彼の者を貫きたまえっ,アイスアロー!」


 その詠唱にカインの詠唱がかぶさる。結果して,顕現した数十cmの氷状の槍はエドに突き刺さろうとするも,直前で進行方向がそらされて,すぐ脇の床に突き刺さる。


ズゥァシュッ。


「な,何しやがるっ!? 殺す気か!」

「言ってわからない輩には,実力行使が一番だろ?」

「コーネリア,やつらの礼儀がなってないからって,スザンナの店に傷をつけるのはよくないな」

「粗末な風魔術で邪魔されなきゃ,“店”に傷をつけずに済んだんだがねぇ」


 黒い瞳に薄ら笑いを浮かべて答える彼女をカインとエドが凝視している。そして,厨房の方から鋭い視線を向けているスザンナが見えた。ありゃ,確かに怒ってる。


「ほら,坊主。お前がさっさと店を出ないから迷惑がかかっているだろうが,さっさと出ろ」

「店の修理代は,ギルドに付けとくよ!」スザンナが怒気を込めた一言を投げつける。

「何とでも言え。この依頼が終われば,そんなはした金は叩きつけてやるさ。」

「・・・わかったよ。エドもカインも,ワシは大丈夫だから」


 根拠も何もない気休めの言葉を投げて,店の外へと出る。気を落ち着かせるようにアーブに触れると,明らかに歩いていることによる揺れ以上に,揺れてカチャカチャと音を立てている。

 アーブって,変な機能があるのか? 取説をよく読んでおけば良かった・・・。

 そんなワシの疑問をよそに,店先の大通りで,ワシを挟むように立つ二人。

 通りを行き交う人々は,ただならぬ雰囲気を感じとって,ワシらを避けるように離れていく。


「確認だが,お前の名前は“ショウ・ヒノカラス”でいいな?」


 なぜ,ワシのフルネームを知っているんだ!? 異世界に来てから,誰にも語ってないのに。沈黙を肯定と取ったのか,言葉が続く。既に二人は,臨戦態勢であり,戦斧とウィップが今にもワシに襲いかかろうとしている。明らかに格上の相手にどうするか・・・そりゃ,使える力は何でも利用するでしょ。


「ちっとした依頼があってな,この村に来る,黒髪で短髪,黒目で細目の少年。そして,腰にオーラ・ブレードを下げている・・・条件はバッチリだ。お前を切り倒して,証拠を持ちかえれば依頼達成だ」

「ワシは命を狙われるような覚えはないんだけどな・・・“アクティベート・アクセラレータ”」


 身体の軽くなったような感覚を知覚し,特殊スキル“加速する力”の発動を確信する。そして,左足を引いて半身の構えをとって,両者を視界に入れる。同時に腰のアーブに手を添えて,意識を向けMPを注ぐ・・・が,意に反して,刀身が顕れない!


「おいっ,こんなところで動作不良なんてボケはいらないからっ」

「なんだ,そのオーラ・ブレードは不良品か。歯ごたえがない仕事だが,儲け仕事だったなっ」

「おいしい仕事はいつでも大歓迎だよっ」


 一瞬の躊躇を好機とばかりに,一斉に二人が襲いかかってくる。は,速いっ!

 自らに迫る光り輝く戦斧と凶悪な棘が密集したウィップに対し,加速された思考の中で『アーブが動かないならとにもかくにもまずは回避か』と考え,行動に移そうとしようとした刹那,ワシの手を引っ張るかのごとく,信じられない速度で勝手にアーブが動き出す!


フィィィンッッ,チィィィンッッ


 アーブを握る手は閃くように右方向への横薙ぎを放ったかと思うと,瞬時に顕れた刀身が振り下ろされてくる戦斧を弾き,勢いを落とさせる。すかさず次の横薙ぎが右から左へと逆方向に一閃しつつ初撃の位置と寸分たがわぬ位置に振るわれ,今度は戦斧の動きが止まった・・・ように見えた。その刹那に上段から斬り落としが振るわれてマンウの戦斧を持つ右の二の腕を易々と切断。

 次に,流れるように振り向いてからの下段からの斬り上げでこちらに迫る凶悪な棘が密集しているウィップの先鞭を斬り飛ばし,返す形の斬り下げでウィップの半ばから両断。そして最後にアーブの刺突がコーネリアの額をやすやすと貫く。

 刀身の走りがあまりに速いからかワシの“加速する力”の効果からか,一連の動作はほぼ瞬時になされ,鈴の音のような綺麗な金属音が一音だけ響き渡る。

 襲いかかる瞬間の勝利を確信したような薄ら笑いの状態で額を貫かれた彼女は,その表情のまま時が止まる。後頭部から刀身の一部が突き出るほどに決まった刺突の状態から,鋼色の刀身をすぐさま引き戻し,マンウからの次の攻撃に備えて,再度半身の構えを取る。この間,1秒足らず。


ドシャッ・・・ゴトリ。

バサッ。


 鈴の音のような音からほんの少しのライムラグをもって,戦斧を握っていた右腕が落ち,それが持っていた戦斧が地面を打つ音と,コーネリアが地面に崩れ落ちる音とが重なったような音が周囲に届く。その音に続くように,無意識下から浮かびあがる剣技名をつぶやく。


『極狂刀流 抜刀術 四包み壱の型』


 たぶんヤツらにしてみれば,襲いかかって初撃が決まると思った瞬間に腕を切断され,眉間を貫かれるなんてことは認識することはできなかったろう。


「ぐあぁぁぁっっ,お,俺の右腕が!! っう,うぐうぅっ・・・いったい何が? コ,コーネリア?」

「で,まだやるのか? あいにくと相棒は既に返事ができないようだが」

「こ,このガキッ・・・最低ランクの冒険者のくせに,極狂刀流の使い手だと!?」


 右腕をおさえつつ,巨体に見合わない俊敏さで飛び退り,ワシを睨み付けるマンウ。この状況下でパニックにならずに怒りを表して,こちらを見つめるほどの胆力を持っているのはさすがCクラス上位冒険者ってところなのか。

 目の前に血臭とスプラッタな惨状があるというのに,仄かに輝くアーブを突き付けつつ,ワシは冷静に思考を巡らせる。

 未だ戦意を喪失していない目の前の脅威を排除するのが先決だけれども,奴には聞きたいことがいくつもある。さっきは考える間もなく,(アーブが勝手に)一人倒してしまったから,残った方は殺すわけにはいかないし・・・はて,どうしたものか。

 そんな思考をしている短い間に,いつの間にやらポーションと思しき薬品を右腕にかけて止血し,ワシとの間合いを取り直したマンウは左腕で腰元から短剣にしては少し長い武器を取り出して襲いかかってくる。この短剣も光り輝いていることから,相応に威力の高い武器なのだろう。

 気が付けば,アーブの刀身は最初の鋼色から黄色に変色し,揺らめくように輝いている。


「こちとら近代技術で成り上がってきてんだ。時代遅れの古くさい剣技なんかに惑わされねぇぞ」


 素早い踏込で間合いを詰めてくるっ,と理解し,間合いを確保すべく下がろうとしたワシは勘違いに気づく。

 ヤツはその短剣を投げてきたのだ! 加えて,器用に次の短剣を取り出して斬りかかってくる。

 通常であれば,投擲された短剣への対処で隙が生まれ,そこにヤツの巨体を生かした膂力で斬りかかられただろう。短剣といえども致命傷を受けたかもしれない。しかしながら,加速がかかった身体能力はテイクバックし始めた身体の進行方向を左側に弧を描くように易々とベクトルを変えて,あっさり躱す。ふはは。ザ○とは違うのだよ,ザ○とはな!

 そして,高速の斬り上げで左腕を斬りにかかるが,切断にはいたらず。ヤツの手甲に斬り込むにとどまる。だが,ヤツの左腕を上にかち上げて攻撃の流れを途絶えさせることには成功する。

 アーブによる剣術レベルの底上げが効いているはずなのに斬りきれないとなると,特殊な防具でも着けているのか?

 マンウは今一度短剣を構えて,再度間合いを取り直して攻撃の機会をうかがいつつ,言葉を放つ。


「何をどうしているんかはわからんが,速さだけは一丁前ってとこか。俺の攻撃を躱すだけでなく,切り返してくるとはな。だがな,さっきとは違ってだいぶ軽い一撃だ。警戒して損した気分だ」


 今一度,アーブの力を頼るか・・・視界内には剣技がこれ見よがしに羅列されている。堅いものでも斬れる技が欲しい。そんなワシの希望に合致する剣技名が明滅し,これならば!と思い,それに意識を向ける。


「それは失礼した。次で最後にしてやるよ」

「古臭い剣術をちっと使えるくらいで,思い上がるなよ,ガキがっ!!」


 マンウが走り出す! こちらの剣技を警戒しているのか,フェイントを混ぜながら,間合いを詰めてくる。速い動きなのかもしれないが,加速された知覚力の前では,全てがよく見える。最後のフェイントが終わったのか,斬りかかると見せかけた短剣が刺突に切り替わると同時に短剣を包んでいた淡い光が伸長する!

(ヤツもオーラ・ブレードを使うのか?)

 驚きも束の間,額を狙ってきた刺突してくる短剣をかいくぐり,ここぞとばかりに剣技を発動させる。いつの間にか纏う光を赤い光に変えたアーブをもって,MPが籠った斬撃を素早く二度繰り出す。一つ目の斬撃はヤツの手甲を上から易々と切り裂き,その切り裂いた隙間の位置に寸分たがわずに二つ目の斬撃が叩き込まれる。


バシュゥッッッ!


 果たして,二つ目の斬撃はマンウの左腕を破裂させるように斬り飛ばす!

 破裂音とともに,短剣を握っているマンウの腕が宙を飛ぶ。


『極狂刀流 剣術 仁鋼剛斬にこうごうざん


 ワシは剣技名を奏上しつつ,アーブの切っ先をヤツに向ける。極狂刀流 抜刀術で斬られた綺麗な切断面の右腕と違い,左腕は破裂をしたような・・・いや,引きちぎったかのような切断面を露わにし,夥しい血を流し始めている。


「な,また,剣技かっ・・・う,腕がぁ。し,止血を・・・」

「襲いかかってきたヤツを介抱するような,おめでたい性格はしていないんだがな」

「俺らは,頼まれて仕事をしたに過ぎねぇ。依頼業務は破棄するから助けてくれ!」

「んじゃ,依頼主の話をしっかり聞かせてもらおうじゃないか。そうしたら助けてやらんでもないぞ」

「・・・わ,わかった。・・・わかったから,だれか治癒をしてくれる人を寄越してくれ,頼む」


 出血の量が多いのか,出血する速度が速いのか,ヤツの顔はみるみる青白くなっていく。

 どうしたものかと思考を巡らせるまでもなく,思いつく知り合いはエドたちしかいないわけで,遠巻きにワシらを見ている野次馬に紛れそうになっているエドたちに視線を向ける。


「こんなならず者を助ける気は全く進まないけど,わたしなら精霊術で助けられるかな」冷やかな一言とともにシャルが進み出る。

「は,早くしてくれ・・・意識が朦朧としてきた・・・」

「シャル,ちょっと待ってくれ。術を使うのは依頼主の内容を聞いてからだ。治った途端に『はい,さよなら』じゃ困るからな。さっさと言え」

「た・・・すかる・・・保証が・・・なけ・・・れば,言え・・・ない。早く・・・処置を・・・」

「どっちが生殺与奪権を持っているのか考えてほしいんだけど」と言いながら,アーブの切っ先をマンウの顔に近づける。フゥゥゥゥンと微かな音を発しながら,黄色く発色した刀身がヤツの頬を切っていく。

「わ,・・・わかった。・・・言う・・・から・・・依頼し・・・てきた『ぐふぁっ』」


 ヤツが息も絶え絶えに言葉を続けようとしたときに,後方からかなりの速さで飛んできた短剣がマンウの左目に深々と突き刺さり,事切れてしまう。

 急いで振り向こうとした,そのとき,


ガボッッゥ


というくぐもった音と共に煙が,エドたちや野次馬たちも含めた付近一帯を包みこむ。


「くっそ,誰だっ!」

「ゥウッ、ゲェッホッ」

「なんじゃ,こりゃ?」

「ゲホッゴホッ」


 ワシは“加速する力”を発揮して高速で走り出し,野次馬たちにぶつかる直前の一瞬で避ける,という芸当を繰り出しつつ,煙の範囲を一瞬で抜ける。しかしながら,突然の煙に周辺は騒然としており,短剣を投げてきた襲撃者の姿をはっきりと見ていなかったこともあり,誰がそうなのかがまったくわからない。

 襲撃者は完全に見失われてしまっていた。


「してやられたか。まさか監視と口封じの役割を持ったやつまで配備していたとは・・・ターンダウン・アクセラレータ」


 ワシは“加速する力”を解除し,アーブの起動状態を解く。そして,周りを警戒しながら,『栄光の物語亭』の前にいったん戻ることにする。

 時間の経過とともに煙が霧散し,マンウとコーネリアの死体が転がっているのが見える。そして,騒ぎが大きくなってしまったためか,門前の衛兵に似た出で立ちをした男たち数人がガチャガチャと音を立てながら近づいてきて,マンウたちの死体のあたりで歩みを止める。


「騒ぎが起きていると聞いてやってきてみれば,冒険者同志の喧嘩にしちゃ酷い有様だな。関係者はいるのか?・・・ん,エド? お前たちがやったのか?」

「いやいや,俺たちは被害者だぜ。ひ・が・い・しゃ,わかります?」

「通報を受けて来ただけで,事情もわからんのだから知るわけがないだろ。・・・となると,襲われたことへの返り討ちか。誰が相手だ?」


 衛兵の誰何にエドがワシの方に視線を向ける。


「・・・ふむ。君のような少年が相手だったとは。何にしても事情を聴かせてほしい。ギルドまで一緒に来てくれるか?」

「無下に断るわけにもいかないですな。ショウ,いいか?」

「ああ,了解した」


 エドの仕切ってる感に,若干の不満を感じつつも,土地勘も何もないところでは先人に従うのが一番と判断する。

 その後,死体などの後処理をしている衛兵たちを後にし,リーダー格と思しき人に連れられて,村のギルド支部へと向かう。今さらだが,ここレンティル村は,村というよりも街に近い規模を持っているようで,人も多く,建物なども比較的まともな造りをしているのが見て取れた。そんなふうに周りを観察しているうちに,『冒険者ギルド レンティル村支部』という看板が見えてくる。


「仕切りたがっているエドはともかく,シャルもカインも別に付き合わなくてもいいと思うんだが」

「何言っているの。パーティリーダが決断したことには,よほどの不合理がなければついていくものよ」

「ふむ。一応パーティメンバーの自覚はある,と」

「“臨時”のパーティとしてね」カインの返しに,正式なメンバーではないことを強調するシャル。


 シャルのそんな一言を聞きつつも,たぶん他に理由があるのだろう,と深読みをする。ま,彼女に対して深読みをしようとしたところで,大した情報を持たない今の状況では問題になるのかどうかすら判別がつかない。なるようになるか。

 ギルドの建物に入ったあと,エドをはじめとしたワシら一行は,会議室と思しきエリアに通される。夕飯時をとっくに過ぎた時間帯だからか,ギルド内はあまり人気がなく,わずかなカウンターに受付嬢が配されていた。

 会議室内には椅子とテーブルは多数あることから,そこからテーブルの一つを選び,椅子を人数分並べる。


「あー,自己紹介が遅れたが,私はアンドリューといって,このレンティル村の衛兵隊の隊長を務めているものだ。エドたちは知っているが,そちらの少年は?」身長180cmはあろうかというアンドリューはワシを覗き込むように青い目を向けてくる。

「少年って,ワシのことかい・・・ワシはショウといってしがない冒険者稼業をしているものです,といっても登録したのは最近ですが。何なら新品同様のギルドカードを見ますか?」そう言いながら,青銅色が縁どられたカードを渡す。彼は,門番が持っていたのと同様な道具で内容を確認する。

「ふむ。間違いないようだ・・・って,44歳!?」

「ああ,その,えーと,いわゆる長命種でして」

「おお。そういうことか。若い身空で長命種になったような人を見たことがなかったのでな。驚きすぎたようだ。それに私よりも年上になるようで・・・これは失礼しました」

「いや,別にお気遣いなく。若返ったような気がするので,それほど悪い気はしませんので」

「そう言ってもらえると助かる。それでは,騒ぎの顛末を聞かせてもらおうか」


 ワシは,わけもわからず因縁をつけられ襲われたことを説明し,もちろんマンウたちとの面識がないことを付け加える。エドたちは,その説明が正しいことを主張してくれる。また,彼らが何かしらの依頼を受けてワシを襲ったらしいことは話したが,裏付けも証拠も何もないことから,話として聞き置いたというスタンスで落ち着いた。

 そして,どういう戦闘状況だったかを話すに至り,明らかに格下のワシが無傷でマンウたちを倒したところに関心が集まってしまったのである。やむなく,ワシが極狂刀流の剣技使いであることを明かしたのだが,不審気な目で見られるのがオチであった。

 なぜならば,アンドリュー(と途中で口をはさんだエド)の話によれば,多種多様な剣技が合理的に剣術に融合される流れができている現代では,扱える者が限定されてしまうような剣技を好き好んで使うのは古い格式を追いかける酔狂なヤツということに他ならないのである。


「一通りは,確認できたか。協力に感謝する。追加で聞かねばならないことができるかもしれないから,数日は村からは出ないでほしいのだが,いいか?」

「まあ,急ぎの用は何もないので,この村を拠点に仕事ができるようなら,数日の滞在はやぶさかではありません」

「そう言ってもらえると助かる。あとで掲示板を見てもらえればわかるが,レンティル村近傍なら仕事には困らないはずだ。な,エド?」

「そこで俺に振りますか? まあ,結果が出にくい調査を請け負った俺が言うのもなんだが,アンドリューの言うとおり,それなりに仕事はあるぜ」

「わかりました。それならば,しばらくはこの村に滞在させてもらおうと思います。今晩は『栄光の物語亭』で宿泊するので,そういうことなら同じ宿にしばらく逗留することにします」

「うんうん。それがいい。加えて,俺らの仕事を手伝ってくれるなら大歓迎だ!」

「・・・エド。要は人出が欲しいってことだろ?」

「まあ,そういう側面もないことはないが,討伐などが合わせてできるいい依頼にありつけるとも言う」概ね図星を突かれたエドは,ばつが悪そうな表情を浮かべつつ,自慢げな声音で言葉を紡ぐ。

「自分で言うかなぁ・・・」


 その後,少し細かな質疑応答をした後,夜が遅いこともあり,解散することとなった。


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「ふえぇ・・・つ,疲れた」


 宿である『栄光の物語亭』に戻り,部屋にあるベッドに身体を投げ出して,ようやく一息をつく。

 今日は冒険者ギルドへの登録とちょっとした依頼を試しに受けるくらいが目標だったはずなのに,よくわからん外乱が入り,あわただしい一日になってしまった。

 今日の出来事を反芻して,明らかに気にすべき点をあげつらう,


(1)なぜワシが刺客に狙われなくてはならんのか?

(2)アーブの不可思議な挙動は何なのか?

(3)特殊スキルが発揮されていようとも,通常の能力(剣術のスキルも含む)はレベル差の影響を受けてしまうのか?

(4)やはりソロ活動は厳しいのか?


(1)については情報が無さ過ぎて,狙われる理由なんてわかるわけもない。狙われるような資格を取得した記憶もないぞ。

 ただ,ワシを狙っている依頼主は少なくともワシの名前と容姿は認識している。居場所を確定していたのかは不明だが,マンウを殺した襲撃者は監視役であろうから今日の顛末が依頼主に報告され,居場所が特定されてしまったとみなすべきだろう。次の一手はわからないが,とにもかくにも用心するしか選択肢はなさそうだ。

 この手の被害を回避するためのスキルは剣術士にはないもんなのかね?・・・と思い,自身のステータスを何の気なしに開けてみる。すると,最初に見たときから少し様子が変わっているじゃないか!

 視界内に映し出されているステータスの中で,以前はなかったスキルが追加されている。


― 気配察知 Lv. 1

― 危険察知 Lv. 1


 どういう仕組みで追加されたのかはわからな・・・くはない? 例の過去の記憶的なところから情報が湧きあがり,思い出す。スキルを必要とするような経験をすると増えるのだ。あとは,これを活用するような経験を繰り返せば,スキルレベルが上がる,と。こいつらのレベルを早々に上げなくてはならんな。こんなスキルが必要になるような状況に身を置かねばならないというのがツライところだが。


 んで,次に(2)のアーブのことだ。マンウたちとの戦闘では,アーブは明らかにワシの意志での発動ではなく,勝手に動いていた・・・危機意識による剣術スキルの発動に反応してアーブ内の剣技が発動したってことなのか?

 やはり取説をよく読まなきゃな。

 まずは,アイテムストレージの機能が付与された,愛用のクロノグラフ・・・もといクロノグラフ改か・・・から取り扱い説明書を取り出す。取説は分厚い冊子となっており,表紙には『Users’Manual for Ultimate Aura Blade powered by your Goddess』と手書き風の書体で書かれており,ハートマークまでついている。加えて,ご丁寧に,“Proprietary Information - Restricted to disclose -”と開示制限のスタンプまで押されている有様である。


「手が込んでいるというか,遊び心が躍っているというか・・・ま,いっか」


 ワシは一人ごちてから冊子を開けてペラペラとめくり始める。関連しそうなページを斜め読みしつつ,アーブの発動条件や使用方法,製作経緯的な記述を見ていき,ようやく答えに該当しそうなページに辿り着く。そこを読み込むやいなや頓狂な声をあげてしまう。


「何じゃそりゃっ!?」


 その“答え”は,『発動条件』の注記(6ptくらいの非常に読みにくい大きさで書かれていやがった。保険証書の約款じゃねぇんだから,読む気を削ぐような努力とかしないで欲しい・・・)と『製作時に確認された懸案事項』という不安を煽っているとしか思えない記述の中にあった。書かれていたことを整理すると・・・;


 アーブの発動条件は‘基本的には’使用者の‘意志(とMP)’による起動シーケンスで発動することとなっているが,厳密には異なる。実際のメカニズムとしては,意志により指向性を持たされたMPがアーブへと流入し,流入したMPがアーブの刀芯を象る‘魂の力’を起動させることで,発動することとなる。女神様から説明してもらった剣技などについてもその‘魂の力’が紡ぎだす力を顕現させたに過ぎない。

その‘魂’とは,極狂刀流の開祖であり剣聖である『アーヴル・バッハウ』その人である・・・取説内で触れられているその人となりを見るに,まさに剣に狂った剣の達人。己の技術を磨き上げることに最大限の関心を寄せ,その修練のために‘悪’とみなしたすべてを練習台として斬り捨ててきた鬼女。

 最後にひっかかったのが,懸案事項として挙げられた点。それは,使用者の精神力・・・INT/WIS/REGが低くなったとき,つまりアーヴルの‘魂の力’に圧倒されるときに何が起こるかわからない点である。


とまあ,こんなところか。

 これならば,高い剣術スキルやら極狂刀流の剣技がすべてアーブの中に内包されているのも理解できるし,‘魂’が内包する想いのようなものがあるのだろうことも分かる気がする。だからこそワシの意志に先じて戦闘を見ていたし,ワシなんかそっちのけで“喜んで”反応するような動きもしたということか。きっとアーブの刀身の色はワシよりも‘アーヴル’の感情が出やすいのかもしれん。

 これ,本当にワシが扱っていけるんだろうか? にわかに出てきた疑問で先行きに不安を感じる。こと戦闘に関しては悪いようにはならないと思うものの,自分の意志(精神力)でのコントロールができなくなる可能性が存在するのは危険な気がするんだが・・・今のところ頼れる武器・・・相棒はこれしかないし,うまく付き合うしかないな。


 次に(3)だ。特殊スキル‘加速する力’で高速度の斬り込みをしたにも関わらず,マンウの左腕を切断するには至らなかった。極狂刀流の剣技を使わなかったからなのか,高い剣技スキル(アーブによる底上げだが)があろうともレベル差を覆すことができなかったのか,はたまた高性能の防具を着けていたからなのかがよくわからない。今後確認していく必要があるが,スキルレベルも上げていく必要もあろうから,自身のレベル向上による地力の底上げが急務だな。


 そして(4)。特殊スキルとアーブの力で今回は切り抜けられたが,一対多数となることを考えるとやはり支援要員というか仲間が必要な気がしてきた。もし仲間がいたならば,襲撃者を追う等で命を狙われる要因に近づけたかもしれん。エドたちに混ぜてもらうというも選択肢としてありうるが,ワシが自由に動けなくなるのは,当初の委託業務を遂行していく上で障害になってしまうかもしれない。

 採取依頼の成果物の買取をお願いすべく,ギルドに行くことになるから,そのときにでも仲間の融通について相談してみるか。


 一通りの反省を終え,明日の予定も決めたワシはアーブを一叩きし,カシャンッと音を立てる。


「頼むぜ。相棒」


シィィンッ


 アーブからの返事のような,余韻のような音を聞きつつ,ワシは眠りに落ちた。


というわけで,その弐に続きます。たぶん明日投稿するかと思います。よろしくお願いします。

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