第1章 第二話ノ弐 Start-up ~冒険者ギルドとはじめてのおつかい~
連続投稿したと思ってたら,最後のクリックを忘れていました。。。不覚。
申し訳ありませんでした。
というわけで,前回の続きです。
「上司殿が聞いてくださったお願いがいい方向で叶ったようで,良かったよかった。
それに,“加速する力”は範囲が限られるけど,あらゆる方向・・・全天に向けて加速できる装置みたいなスキルってことか・・・全天加速装置,か,いいなそれ。世界最速になっちゃう?」
元来のスピード狂が表に出ようとしたかのごとく笑みを浮かべて,厨二病を発症しかけたが,大人なワシはここで頭を振る。
「いやいや,異世界には伝説的な存在やら勇者的な存在とかいるか。ワシごときの速さが5000倍程度になったからって,そういうわけにもいかないか」
(んー,まあそんなことはないんじゃないかなー)
女神様,目線が明後日の方向を向いて,セリフ棒読みですよ。ワシのジト目に,居住まいを正して言葉を続ける女神様。
(確かに伝説級のステータスを持つ人たちはとんでもない速さを持っているでしょう。
ただ,“加速する力”は異世界の誰も持っていない,言うなれば付与されたことがないスキルだし,類似の力を発揮する補助魔術のようなスペルは存在していても,今の宵と同等の力を発揮させるスペルは現状では存在しないわ。今後も開発されることもないと思うけど)
「・・・ってことは?」
(ってことは,宵のスキルレベルとREG値の上昇状況によっては,アーブと合わせると世界最速で剣術や剣技を発揮することはイケそうな気がするわ)
マジかいな?と無言で驚愕の表情を浮かべているワシの心中を察したかのように,女神様が長いぬば玉色の艶やかな綺麗な黒髪を揺らしつつ,いたずらっぽく笑う。そこから,急にそわそわし始める。
(・・・で,そろそろ,ここに居られる時間の期限が近づいてきたみたい。新しい担当箇所だし,顕現するってことに慣れていないから,うまく長居ができないの。
そうそう,軍資金は,金貨・銀貨・大銅貨・銅貨・鉄貨をそれぞれ5枚ずつアイテムストレージに入れてあるけど,そんなに大金ってわけじゃないから,早いところ,仕事をしてお金を稼ぐように。
“歪”にかかわる揉め事は大抵冒険者に依頼されることが多いみたいだから,冒険者ギルドで情報を収集する伝手も確保する必要もあるわね。じゃ,何かあればアーブで連絡を頂戴)
女神様はそこまで言うと,ワシの返事を待つことなく姿を薄めるようにして消えていった。
残るのは,なんかよくわかんない形で若返ったワシと机の上に鎮座したアーブに説明書類,そして簡素な調度たち。書類の表紙には,でかでかと『委託業務内容説明書』とある。ご丁寧に最後のページには,『様式三号 委託業務着手報告書』と着手を報告する様式が添付されていた・・・まずはこれにサインか? で,どこに持ってくんだ?
ワシは,まずはクロノグラフに意識を向けて,異世界での一般的な服装やブーツを取り出し,着替える。合わせて,アーブの端部にあるリング状の吊り具を使って,腰のベルト通しにひっかける。カチャカチャという音は,なぜか喜んでいるような音に聞こえた。
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業務内容やら附随情報やらを反芻し終えたワシは,アイテムストレージに入っていた筆記具(この異世界には鉛筆があるらしい)で,着手報告書にサインと日付・・・王歴517年8月25日を書き込んで,アイテムストレージに収納し直す。
「署名したのはいいけど,いつ渡せんだろ?・・・ま,いっか。口頭で委託業務受託は伝えてあるわけだし。まずは,“歪”がどんなもんかわからないけど,とにもかくにも行動開始,だな」
ワシは,腕時計を見て,時計の針が10時過ぎを指しているのを確認しつつ(異世界でも24時間制で,1年365日。ご都合主義バンザイ),宿を出て一路冒険者ギルドに向かうこととした。アイテムストレージ機能がある腕時計があるから,アーブを除けばある意味手ぶらである。
扉を開けて出たことで,廊下の先にある階下に向かう階段を見つけ,「ここ2階だったんだ」と再認識。踏むたびに軋む階段を下りて,階段のたもとにある宿屋の受付で店番をしている女の子を見つける。
あ,えーっと,誰だっけ・・・そうだ,ローラだ。
「おはよう。ローラ」
「おはようございますっ。ショウさん・・・ようやく日差しに負けて起き上がりましたか」
ローラは肩口まである明るい栗毛を揺らして,快活な声で返事をしつつ,明るく皮肉を言うが嫌味に感じることはなく,どちらかというとかわいい。好奇心旺盛そうなクリクリした黒目を向けてきた彼女に,即座に返答する。皮肉は受け流すに限る。
「負けてなんかいないさ。今日もちゃんとお天道様がしっかり出てきてくれることを確認するまで寝っ転がって待っててあげたの」
「やだ,もう言い訳ばっかり。で,きょうはどちらへ?」
「いろいろと準備も整ったことだし,ギルドに行って仕事を探してくるよ」
「どんな仕事をされるかわかりませんが,夕飯時までに戻れば,鹿のシチューにありつけますよ」
「おお。ボブさんのシチューか,そりゃ外せないな」
彼女と話ながら,この宿屋に来ることとなった基本設定を思い出す。ワシは,王都エッジの東方面に遠く離れた森林地帯(この世界では,シュバルツシルトという地名になっていた)から冒険者になるべく街に出てきた,ルーキーということになっている。そして,中堅どころの宿屋“黄金の雄鶏亭”に厄介になっている,と。
黄金の雄鶏亭は,ボブさんと娘のローラの2人で切り盛りしている宿屋兼居酒屋であり,夜の掻きいれ時には,近所のおばちゃんや子供たちが給仕の手伝いに現れる,アットホームな雰囲気の良いところである。
ワシは,背中越しに彼女へ手を振りながら宿屋を出ると,目の前の大通りを中心方向,つまり立派な王城に向かう形で歩き始める。さすが,人間種の大国のひとつであるガラハッド王国だけあって,王都の道は石畳で整備されており,歩きやすい。あまり裕福な国でないと,大通りですら,土むき出しの道になっているらしいから,国家間の貧富の差は大きく,そして確実に存在しているというわけだ。
黄金の雄鶏亭は城下町を取り囲む市街地の外壁寄りに立地しているため,ギルドが設置されている城下町と市街地の境界点までは,にぎやかな大通りを歩いていくこととなる。
大通りには,路面店となる商店が点在しつつ,道端に絨毯のようなものを広げて,露天商が商売をしている。プリインストールされた知識から,売られているものが魔道具類や装飾品関係,武具や防具の中古品などであることがだいたい分かる。物珍しそうに,陳列された品々を遠目に見つつ,ちょっと気になるところは寄ってみて冷かして回る。確かに,女神様が言っていたような,元の世界の電化製品に似た便利グッズが魔道具として流通しているようだ。この先の冒険で入用になるアイテム類は概ね見当がつくけれども,最新情報を調べて,一式そろえないとな。
道中で,屋台のようなところで,ケバブ屋のように何かの肉を丸焼きにしつつ,それをこそぐ形で細かい肉をパンのような何かに挟んで売っているのを見つけ,思わず購入。銅貨3枚(3ユーロ相当)で購入できたそれは(なぜか何度聞き返しても,ケバブと言っているようにしか聞こえなかった。きっと翻訳系の特殊スキルが仕事しているんだろう,きっと),薄い塩気での味付けであるが肉の下ごしらえがいいのか,けっこうおいしい。
異世界に来てから,鏡なんかを見ていないからよくわからんが,ケバブを頬張るワシをほほえましく見つめるおばちゃんたちが多数いらっしゃることから,少年くらいの見た目に若返ってるんだろう。うーん。早く今の様子を見てみたい!
そうこうしているうちに,冒険者ギルドの石造りの建物が見えてきた。さすが王都のギルドだけあって,大きい建物である。周囲の建物がせいぜい3階ないしは4階建て程度であるのに対して,ギルドはちょっとしたビルのごとく6階建てくらいはありそうだ。建物の装飾も凝っており,幾何学模様を織りなしたような紋様が壁面や柱に彫り込まれている。それに紛れるようにワシが理解できない文字・・・つまり,異世界のどこかの言葉ではなく,結界とか防御系か何かのスペルなのだろう・・・が刻まれているのが見えた。
「人間種の大国のひとつであるガラハッド王国のギルド本部だから,そりゃ立派なものになるわな。どこの世界でも権威やら権力を持つモノに威厳的なものは必要ってことか。でもって,いわゆるセキュリティには力を一応入れている,と」
独り言をつぶやきながら正面入り口に近づき,背の高い両開きの扉のそばに立つ。掲げられている看板を見上げると,人間種の標準語の武骨な文字(アルファベットとキリル文字が混ざったような文字)で『冒険者ギルド ガラハッド王国 本部』と表示してある。
そして,ワシが見上げているそばから,扉が開閉し,冒険者と思われるいでたちをした人たち(獣人やエルフなどの他種族も含め)が出入りしている。彼らは,他の者には関心がないのか,ワシの姿が興味を惹くような出で立ちではないからか,視線を向けることもない。
「とにかく中に入って,まずは登録だな」
さっそく正面に向かい,扉を開けると,途端に外とは異なった喧噪が漏れ出してくる。地上階は,予想通りホールのような構造となっており,正面のほとんどを銀行のようなカウンターが占めている。カウンターには数名の受付嬢が立っており,冒険者たちの応対をしている。
カウンターの奥に目をやると,作業台やら書棚やら,事務手続きに必要となるようなものが所狭しと並んでいる。どの机も書類が山積みになっているのが見えるのは事務仕事をする机の宿命か。こういうところに目が行くところがある意味,職業病なのかもしれん・・・やれやれ。
カウンターが途切れる右側の方には,立ち飲みスペースと思われるフードコートのような場所が設けられていて,いくつかある2~3人程度のグループが昼間っから酒をあおっている。
ワシだって呑みたいわいっ,という気持ちをぐっと抑えて,当初の目的を果たすべく,カウンターに向かう。いくつかあるカウンターの一つに並び,順番を待つ。とうとうワシの番となり,カウンター越しの彼女から声を掛けられる。
「はい。お次の方,どーぞー。今回の受付を担当するクリスティーナです。今日は何用で?・・・って,見かけない方ですね。ここは初めてですか?」
「ご丁寧にどうも。ええ,ちょっと遠方にある森林地帯のシュバルツシルトから来た,田舎者のショウです」
「あはは。エッジからちょっと離れればどこも田舎みたいなものだから,そんな言い方しなくても。確かにシュバルツシルトは遠いけどね」
クリスティーナは,太い三つ編みでまとめられた濃い藍色の髪を静かに揺らしつつ,ころころと笑う。見たところ,美人系にカテゴライズしていいと思う綺麗な顔立ち。足元は見えていないのでよくわからないが,身長は比較的高そうである。ワシが170cmそこそこだから,そのワシと目線が合うくらいだし。って,分析してる場合じゃないか。
「今日は,冒険者の登録と初心者に見合った依頼を受けたくて」
「登録と依頼の斡旋ですね。じゃ,ちょっと時間がかかるから,他のカウンターに移動しますか。こちらにきてください・・・イオアナ! これから新規登録の手続きに入るから,こっちのカウンター頼むわよ」
「はーい。すぐ行きまーす」
クリスティーナは,後方にいる同僚にカウンターを任せ,端にある誰も立っていなかった予備と思われるカウンターに移動する。
「それでは,この登録用紙に名前と主なスキルとスキルレベルを記載してください。あ,あと得意な武器も。特にスキルの欄は自己申告とはいえ,正確に記載することをお勧めします。依頼を受託する際の条件になったりしますので」
「ん? 登録用紙には,種族,職業,レベルの欄がありますけど,書かなくていいんですか?」
「書いてもいいですけど,後でステータスチェックの魔道具に掛けるので,その情報を私の方で転記するので書かなくても良いってことですよ。もちろん,無用な詮索はしないというギルドの主義がありますので,閲覧されるのはあくまで,名前・種族・職業・レベルだけです」
ワシは,今一度,ステータス確認の意志を自意識内に向けて,情報を視界内に表示させて,間違いないように名前と主なスキルとして,剣術士と剣術のレベル,聖術と無属性魔術を記載する。魔術系のレベルはさすがに聖術のレベルは記載できないから,無属性魔術のレベルの記載でごまかす。聖術絡みで依頼を受ける気はないし,それ絡みで依頼が来ても困るからな。武器については,アーブを書くわけにはいかないから,一般名称でもあるオーラブレードを書き込む。
別にごまかす気もないので,種族などの転記対象の欄も一通り記載して,クリスに差し出す。
「ふんふん。・・・って,ショウさんは44歳っ!? 私の倍の年齢? その見た目で!?・・・まさか長命種の方ってことですか。その割にレベルが44とは低い,かな。」
しまった。そこでひっかかったか。長命種は多くはないもののそんなに珍しい進化種ではないと,プリインストールの記憶にはあったから,種族名は人間としか書かなかったよ。
「えぇ,まあ。ちょっといろいろありましてね。運の良さや家系の関係もあって,比較的若いうちに長命種が顕れましてね,そういう方向で生きています。レベルの方は,上げる機会がなかったというか,後で上げようと思っていたというか・・・」
言い訳にもならないような言葉を重ねながら,変な追求がないことを祈る。
祈りが通じたのか,無用な詮索をしないというギルドの美徳(別の見方では不干渉とも言える)からか,それ以上の追求は出てこなかった。・・・が,違うところに食いつかれることになった。
「確かにこの界隈にいるような長命種と言えば,シュバルツシルト出身が多いものね。あそこには,若さを保つ秘訣というか秘術があるって聞いたことがあるんだけど,ホント? こっそり教えてほしいなぁ」
女性経験の少ない男子であれば,コロッとイきそうな笑みを浮かべて,カウンターを乗り出すように覗き込まれる。ギルドの制服を押し上げているかのような,大きくせり出した胸元に視線を奪われる。
ワシの現状の見た目はどうかわからんが,中身はいい歳ぶっこいた,ナイスミドルである。そんな小技への耐性はもちろんあります。・・・ええ,ありますとも。視線を奪われようとも。
「あー,その,えーと,そんなのあったかなぁ。すみません,そういうのに詳しくなくて。森に行ってもらうのが一番かな」
「うーん残念。やはり男の子に聞いてもわからないか。女子しか知らない情報か,それとも門外不出の秘術なのかもしれないし・・・やっぱり一度あそこに行くしかないか。それにしても遠いから旅費とか護衛依頼料もかかりそうだし,あ,そうかショウさんが出身地に帰省するときに一緒に連れてってもらうとか・・・」
「もしもーし,クリスティーナさーん。すみませんが,登録を進めてもらえませんか」
「あ,ああ,ごめんなさい。じゃ,この水晶球に手を置いた状態でステータス確認をしてください」
カウンター下から取り出した,直径20cmほどの透明な水晶球に手を置くように促される。言われた通りに手を置いて,ステータス確認をすると,クリスティーナの方に向けて情報板が現れる。確かにその情報板には,ワシの種族,職業,レベルが表示されている。
なるほど,こうしてステータス内容は自分以外の者でも見ることができるわけだ。この魔道具では,種族等の限定された内容だけが表示されているが,他の項目がマスキングされている保証はないし,確認のしようもない。つまり,ワシのステータス情報は全て冒険者ギルド側で抜かれているとみるべきだな。特殊スキルは秘匿が効いていると信じるとして,レベルに見合わないと思われるREG値と聖術のスキルがちょっと悪目立ちする可能性がありそうか。
「はい。確かに既に記載していただいている内容と同様ですね。手間を省いてくれてありがとう。それと,わたしのことはクリスでいいですよ・・・ミリア,これの処理をお願い。そう,新規登録のやつ。すぐできるわよね?」
クリスは記載された登録用紙をチェックすると,後ろを振り向き,同僚を呼んで処理を促す。
「ギルドカードはほどなくしてできますので,それまでに依頼の斡旋の話をしましょうか。
ギルドの掲示板に依頼が貼り出されるので,それを取って,受付に持ってきてください。窓口で受託可能かどうかをチェックの上,契約します。受けられる依頼は必要な力量に対して分類されてまして,AからFまであり,必要な力量という観点で冒険者のランクないしはパーティのランクとリンクしています。Aランク依頼は大抵が指名依頼になりますけどね。
あと,常時依頼については特に受付に持って来る必要はありません。採取物や討伐証明部位にて,依頼達成を確認しますので」
「ランク外の依頼って,受けられるんですか?」
「自分より下位のランクは一応受けられますけど,Cランク以上の方はマナーの観点から受ける方はほとんどいませんね。一方で,自分より上位のランクは,支部長の承認があれば受けられます。ショウさんは初心者・・・Fランクですので,採取系の依頼を受けるのがいいと思いますよ。エッジの周りは高ランクの魔物はそう多くありませんから安全でしょうし」
確かにワシの意識内の記憶に触れても,エッジ周りに出る魔物はEやFランクばかりであり,ごくたまにDランクが出るくらい,とある。これなら,しばらくは一人でなんとかなるか。
「そうこうしている間にギルドカードができたみたいですね・・・ん,ありがと,ミリア」
先ほど声をかけた同僚から青銅製のカード(元の世界でよく見た会員カードとかクレジットカードほどのサイズ)をクリスが受け取り,ワシに差し出してくる。
「これがギルドカードになります。Fランクは青銅製ですが,ランクアップ時にランクに応じた素材のカードに変更できます。有料ですが」
「有料ですか・・・(ちょっとせこいな,っつーかがめついのか?)」
「ギルドの運営にはいろいろとかかりますからね。ご協力ください。もちろん寄付は大歓迎です!」
「冒険者ギルド初心者に寄付をたからんでくださいよ・・・それはそうと,ギルドカードは単なる身分証という理解でいいですか?」
「ええ。ただ,他にも機能はありまして,所持者の基本情報(登録用紙に記載した,名前,種族,職業,レベル,自己申告されたスキルとカード更新時期と受託中の依頼物件,討伐した魔物等の実績など)が記録されます。記録情報は,MPが残っている状態でステータス確認と同様の意識を向けると,表示されますので,あとで確認してみてください。
次に,常時依頼以外で受託した依頼は,こちらで受託案件として登録いたします。複数の依頼を受けることは可能ではありますが,あまりお勧めしていません。
それと,討伐した魔物の実績ですが,討伐後に魔物等の体液を触れさせると記録されます。ただし,冒険者ギルドで認識されている魔物に限るのですが。
登録や斡旋に関する説明は,これくらいですね」
「えっと,最後に1点。ギルド員に対する罰則規定などってどうなっていますか?」
「そうですね,基本ルールとしては,受託した依頼の履行義務,違約時の罰則・・・罰則内容は受託内容に応じて決まります・・・,一般市民に危害を加えない,ギルド運営や維持・発展に協力すること,冒険者間の私闘の禁止・・・決闘などを宣言して行う場合はその限りではありませんが・・・といったところでしょうか,一部の支部のエリアではローカルルールがあるらしいですが,ここエッジ本部には特にありません。
あ,それと,罰則というわけではないのですが,カードの更新時期があまりに古い場合・・・たとえば10年以上未更新とかになると,ギルドから事情聴取を受けたり,ペナルティを受けたりすることがありますのでご注意ください」
「丁寧な説明ありがとうございました。んじゃ,さっそく常時依頼の方から何かを探してみようと思います」
「はい。お気をつけて。・・・っと,忘れてた。ギルドへの登録料とカード発行手数料として,大銅貨5枚をいただきます」
アイテムストレージの存在はしばらく伏せた方がいいと考え,ポケットから出す振りをして,大銅貨5枚(50ユーロ相当)を手渡す。
「ありがとうございます。何か気になることがあれば,いつでもお尋ねくださいね。あ,聞き忘れてましたが,エッジでの拠点はどこになりますか?」
「しばらくは,黄金の雄鶏亭に厄介になると思います」
「黄金の雄鶏亭ですね。了解しました」
クリスの営業スマイルに対して,こちらも愛想笑いを返して,カウンターの対面にある掲示板に向かう。昼近い時間帯のせいか,掲示されている依頼はそれほど多くない。ざっと見渡して,常時依頼の薬草採取の依頼をやってみることにする。
この異世界では,薬草などをベースにポーションが製造されており,効果が高いものになると聖術や魔術が施され,高価になっていく。
採取対象の薬草は,複数あり,種類に応じて報酬額が異なるのだが,初めてのことなので,比較的報酬額が低い(つまり,見つけやすいはず)ものを狙うこととする。
「ふむ。この“月下草”ってやつを探すか。場所は・・・エッジ近郊の水辺付近か」
依頼書には,採取対象物の名称とその特徴を表した絵,採取可能エリアの参考情報,報酬額10束で銅貨12枚,と。まあ,はじめてのおつかいだし,日が暮れるまでには帰れそうな依頼が望ましいからね。
ワシはアイテムストレージ内の収納物を確認し,特に追加は不要と考えて,街の外へと向かうこととした。
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冒険者然とした格好(ギルドを出る前にお手洗いにて,アイテムストレージから革製 胴鎧と革製グローブ,そして革製のバックパックを取り出して装備)で,街の東西南北にある出入り口のうち,東の出口である守衛所にて手続きをする。
ワシより頭一つ以上大きい強面の衛兵が,ワシのカードを何かの魔道具と思しきプレートにかざし,チェックをしている。
「お,ブロンズのギルドカードか。ん? ショウ? 新顔のようだが,聞いたことない名前だな」
「ええ。たぶん初めて会ったんじゃないかと。えーと,お名前は?」
「お,初めてだったか? 新顔はきっちり覚えるようにしてるんだがな。すまんすまん。俺はジョンだ。東守衛所の取りまとめをしている」
そりゃそうだ。宿屋スタートなんだから,守衛所でのやりとりは初めてだってば。
「ジョンね。よく覚えておくようにします。ところで,最近変わったことってありますか? これから薬草採取で水辺に向かうんですが,何か気をつけることがあれば」
「うーん,そうさなぁ,ゴブリンの発見報告が増えていることくらいか。まあ,冒険者のはしりならそれなりに武器が使えるだろうから,問題にはならんが,注意することに越したことはない。やつらは徒党を組んでくるから,一人で対処するのが厳しい場合もあるからな」
「了解しました。数が多かったら逃げることにしますよ。なにぶん初心者ですからね」
強面ジョンの見送りで,外に出たワシは,さっそくギルドの情報を踏まえて,真っ直ぐ東に向かう街道を少し歩いてから,“加速する力”を試してみるべく街道を離れて,木が林立する中へと入っていく。
川が見えてきたところで,周囲を見渡して人目がないことを確認し,特殊スキルを発動させる。とりあえず,お試しということで10倍くらいか。
“アクティベート・アクセラレータ”
デフォルトでは,最大まで加速してしまうことから,意識的に10倍程度まで抑えるようにする。
川沿いに軽く走り出すと,景色が流れるように過ぎていく。時速にして大体100km/hくらいか。認識能力も同様に加速されているため,障害物を避けるのも苦にならない。
ん,こりゃ速い。長時間動くと疲れるのか? という疑問を解消するまでもなく,加速スキルの範囲境界と思われる,淡い水色の薄膜のようなものが見えてくる。範囲を抜けると同時に,疲労感の影響を確認したいがために,再度スキルを発動する。
結果して,新しい肉体のおかげか,1時間程度に至るまで連続で加速しつづけたが疲労は感じなかった。おいおい限界を確認した方が良さそうだな。
「っと,そもそもの依頼を達成しないと」
立ち止まって周りを見回すと,街から大分離れたせいか,月下草が群生しているのが見つかる。さっそく,採取を始める。採取といっても,いわゆる草取りである。根の部分も使われることから丁寧に抜き取るわけだが。
ここで,試しに加速レベルを最大限でスキルを発動し,採取をしてみる。50m四方の範囲を刈り尽くしたのだが,手元の時計で数秒もかかっていない。さすが5120倍速!
ワシは山のように積みあがった薬草をクロノグラフに収納し,街に戻ることにした。
・・・とそのとき,人などではない何かの叫び声とともにガチャガチャと金属音を立てながら駆け込んでくる醜い小人のような集団が視界に入る。数にして10匹ちょっとってところか。
「調子に乗って,街から離れすぎたか。あのくすんだ緑色の肌に醜い容姿・・・はゴブリンだな」
一般的な魔物だったおかげで記憶の中の情報で相手を判別することができた。距離が100m以上はあったと思うので,接触するまで数十秒はあるはず。まずは,アーブの剣技とやらを試してみるか。
そのため,“加速する力”抜きでの戦闘を試みることにする。
「プリインストールされた常識のおかげか,剣術士の職業のおかげか,あんなものに近づかれても変な恐怖感が出ないのは幸いだな」
独り言をつぶやきつつ,アーブを右手で握り込んで起動させる。フゥィンッ,という軽やかな音と共に刀身が顕現する。これからの戦闘を予期しての興奮なのか,アーブの感触からくる陶酔感なのか,顕れた刀身は薄らと黄色を発色している。
ゴブリンの数は多いから,対多数の剣技を探すことにする。意識をアーブに向けると,対多数への攻撃が可能な剣技が視界内にステータス情報と似たような表示板に提示される。
「え,一個しかないの? 」
思わず口をついて出てしまう一言。理由はわからんが,『極狂刀流 剣術-散撃烈風』のみしか表示されていない。記憶の中では,極狂刀流には複数の対多数の剣技があったはずなんだけど・・・まるで,“つべこべ言わずに,これ使え”と言っているかのように表示内容が明滅している。
アーブを相手に文句を言っている場合ではない。ゴブリンどもがすぐそこまで来ているのだ。聞こえる叫び声がどんどん大きくなってくる。そして,とうとうヤツラと遭遇する。
「ナンだ,オマエワ,アイヅラのナがーマカ?」
「ナカマ? 何言ってんだ。こちとら一人だぞ」
翻訳系のスキルが効いているようだが,何とも聞きとりづらいし,うまく理解ができない。だが武器を構えて,攻撃してこようとする意志だけは理解できた。
あっという間に13匹ほどのゴブリンに囲まれる形になるが,心は比較的落ち着いている。数はいようとも矮小な体躯しかないことから威圧感を感じないのかもしれない。持っている武器も,お世辞にも質がいいとは言えそうにない剣や槍だし,鎧や盾などの防具も大したものではなさそうだ。
こちらは,アーブを正眼に構える。刀身は変わらず薄ら黄色を発色したまま,光が少し揺らめいているように見える。
「モウいイ,ゴロしデジまエ」
ゴブリンどものリーダーと思しき比較的体格がいい個体が号令を出す。意外と統率がとれた動きで,叫び声を上げながら,一斉にワシに向かってくる。ワシは明滅している剣技に発動の意志を向けた。
『極狂刀流 剣術-散撃烈風』
剣技が発動するのと同時くらいに自らの口から剣技の名称が自然と発せられる。そして,アーブに導かれるように刀身を天空に向けて突き出す。MPが吸い出されるような感覚に続いて,黄色に一際発色した刀身から,その残像のような無数の斬撃が全方位に飛び散る。
斬撃の速度はかなりの速度であり,ゴブリンの回避を許すようなものではなかった。斬撃たちは余すことなくゴブリンどもに吸い込まれていく。そして,それらはゴブリンどもをその粗末な盾や鎧ともどもズタズタに切り裂いていく。
「グギャ,ぎャ,ゲェブフゥゥっ」
「ッぎャッギょぉうッ」
「がブぅぅぅ」
襲いかかろうとした雄叫びを断末魔の叫びに変えて,ほぼ全てのゴブリンが倒れる。残るはリーダーと思しき個体だ。剣技発動後の余韻なのか,言い知れぬ快感が体を駆け抜ける。すっごく気持ちがイイ。思わずイきそうになる。そんな感覚に突き動かされるように,アーブを水平に構えて,ゴブリンリーダーを睨み付ける。
ゴブリンリーダーは,全身のそこらじゅうから青黒い血を流しつつも,戦斧を構えてこちらを襲うタイミングをうかがっている。ゴブリンにもかかわらず,逃げ出さないのはリーダー格だからか。
「汚い血を見せびらかしてないで,かかってこいよ」
この些末な挑発にやすやすと乗ったゴブリンリーダーは,戦斧を振りかぶって,突っ込んできた。
特にスキルなどがあるわけでもなく,闇雲に戦斧を振り回している。あと残り2mかそこらの距離になったときに自然に体が動く。
戦斧をかいくぐり,腰を落とした状態で横薙ぎの一閃を鋭く放つ。アーブの切れ味が鋭いのか,はたまたワシの剣術スキルがいい仕事をしているのか,何かを切断した感触もないままアーブを素早く振り抜ききる。
ズシャァッ
ゴブリンリーダーは上下で真っ二つとなって,崩れ落ちる。振り抜かれたアーブは,少し強い黄色の発光を揺らめかせている。・・・ワシ,そんなに喜んでる? 確かに,初戦闘をそつなくこなしたのは喜ばしいけどさ。戦闘狂ではない・・・と信じたい。
戦闘後の血の匂いに気を悪くしつつ,周りを見て,どのゴブリンも動いていないことを確認する。
ようやく安心して,アーブの起動を解く。刀身が消えると同時に,刀身に付着していただろうゴブリンの体液が地面に撒かれる。
そっか,刀身がなくなりゃ,血や脂も簡単に除去できるのか。常に清潔,手入れいらず,素晴らしい!
そんな女神様への感謝の気持ちをいただきつつ,戦闘が終わったことに安心した矢先に,新たな集団が駆けてくるのが見える。が,今度は魔物等ではなく,人間の冒険者のような出で立ちの3人組である。
「はぁ,はぁ。くっそ,逃げ足が意外と速い。って,やっと追いついたかと思ったら,既に終わってたか。おまえさんがやってくれたのか?」
リーダーと思われるブレストアーマーを身につけた剣術士のような男が,全滅したゴブリンどもの様子を見てから,息も絶え絶えに話しかけてくる。そして,後続の2人が少し遅れて到着する。こちらは,ローブを着た魔術士然とした男と革製の鎧に身を包んだ女性が長弓を携えてこちらを見据える。
「あ,ああ。月下草の採取をしていたところで,急に襲われて,返り討ちにしたってところだ」
「ゴブリン程度とはいえ,リーダー格も含めた10匹以上を相手に全滅させるとは。こっちに近づいてくるときに大きな光が見えた気がしたが・・・見たところ剣術士のようだし,剣技か」
「まあ,そんなところだ。もしや,あなたたちの何かしらの依頼仕事を邪魔したことになってしまったか?」
「ゴブリンの集落調査と可能な範囲での討伐だから,依頼仕事といえばそうだが,ゴブリン一匹ずつを追いかける仕事じゃないから,討伐証明をよこせ,なんて言わないさ」
「ふふふ。そうね。そんな小さい男だったら,次からのパーティ契約は考えさせてもらわないとね。あ,そもそも小さいか・・・そうそう,私は弓術士のシャル。そこのリーダーがエド。ローブ姿の魔術士がカインよ」
シャルの軽口で,張り詰め気味だった雰囲気が和らぐ。確かに彼女の言うとおり,エドの身長は少々低い。ワシよりちょっと低いくらいか。その代わり,がっしりした体格は頼もしさを感じる。
「そう言ってもらえると助かるよ,エド。申し遅れたが,ワシはショウといって剣術士をしている。
こっちはエッジに来てからの初仕事・・・といっても採取の仕事だが・・・が失敗に終わらなくてよかったと思っているよ」
「こんなところで採取だと? エッジから大分離れているし,割に合わないんじゃないのか」
「ま,世の中,いろいろ工夫する手段があるってことさ」
エッジから100km以上も離れたところで薬草採取なんて聞けば怪しまれるか。我ながら,ごまかしがイマイチであると痛感。変に会話を続けて,ぼろが出る前に退散することにした。
「日が暮れる前に帰りたいから,ワシはお暇するよ。おたくらの依頼仕事がうまくいくことを祈っているよ」
「ん?帰る? なんだショウもレンティル村を拠点にしていたのか?」
「・・・あ,まあ,そんなところだ」
やっべ。失言した。“加速する力”でちゃちゃっと戻るつもりだったけど,そもそも徒歩でさらっと帰れる距離じゃなかった。
「だったら一緒に戻ろうぜ。俺たちも引き上げようとしていたところだし」
適当に言葉を次いだ自分をぶん殴りたい。今日中にさくっと帰って,ボブのシチューを楽しもうとおもったのだが,“加速する力”はもう少し周辺動向がわからないと,人前で使うのはヤバそうだし,ついていくのが得策か。情報収集もできそうだし。
「こちらは一人だったし,それは願ったりかなったりだ。道中でエドたちの武勇伝でも聞かせてもらうか」
「へへ,何言ってやがる。そんな大層な話なんてないぞ」
エドの照れ笑いに,笑顔で返し,ワシはゴブリンの討伐部位である右耳を斬りおとして小袋に収納していく。装備品はどれも粗末なものなので,そのまま打ち捨てることにする。
亡骸の類は,アンデッド発生防止のためにも焼却しておく。これは,カインが火属性魔術で処分してくれた。
そして,ワシは,エドたちと共に一路レンティル村に向かう・・・。
なろうの操作方法がちゃんと理解できておらず,失礼しました。
ようやく,ギルド登録も終わり,初依頼も着手。
次回で,ヒロイン(チョロイン?)やら小説タイトルのサブタイトルに触れたいところです。
戦闘シーンの描写は,まだまだ納得できていないので,頑張りたいですね。
では,女神様を信じるみんなにご加護がありますように。




