25話 師匠再び
この頭に直接響く不快感…そして背後に感じる存在感……これはまさに
「鹿師匠…」
【誰が誰の師匠だ…バカモノ。全く…イヌワシから緊急に呼ばれたと思ったら……イグニスの力を集約させてとんでもない物を作りおって…】
「あ、いります?コレ」
ここぞとばかりにあたしは鞄から布に包まれた結晶を鹿に渡そうと振り向いたところで……
「ぶふぉぉっ!!」
【突然どうした……】
リアルゆるきゃらのせ○と君がいるなんて思わないでしょっ!!
「何!?その格好!?鹿の姿はどうしたんですか!?」
【…属性獣の姿で人の世界に降り立つと騒ぎが大きくなるだろうが……なので獣人の姿をとったまでだ…】
ファンタジーの代名詞と言っていい獣人が居ることがわかったのは嬉しい……嬉しいけどそれ以上に……なぜに鹿獣人の姿がこんなにせ○と君なのですか!?
「……うぅ…せめて最初に出会う獣人は兎か猫が良かった……なぜに鹿……しかもイケてない……」
あれはゆるきゃらだから受け入れられるのであって……リアル坊主子供の鹿角付き、しかも坊さん姿なんて……シュールすぎてどうしていいかわからないーーーー!!
【容姿はお前の記憶から拝借したんだが……文句があるのか?】
あ、あ、あ、あたしの記憶のバカヤローーー!!!
どうしてカッコいい鹿獣人を記憶にストックしとかないんだーーー!!
「うぅぅぅぅーー」
ちらっと何度も鹿師匠を見て……泣けてくる。
【おい……大概お前の態度は失礼だぞ……】
鹿師匠……なぜそこは同じ獣人でも猫獣人とかを参考にしてくれなかったんでしょうか……それならきっとカッコいい姿を模って貰えたのに……そんな忠実に記憶の鹿獣人を参考にしなくてもいいじゃないですか……
「今から頑張ってカッコいい鹿獣人を想像しますので……どうかお姿を……」
【すでにここの人間にこの姿を見られておる…今更変化するとややこしいであろうが】
何て事!?すでに時遅しだった!?
【わしの格好などどうでも良いわ……それよりもお主が今陥ってる境地だろうが…】
全然その容姿は良くないけど……良くないけど、確かに今はそれどころじゃない。このお宿のオーブンを鹿師匠に託さなくては……その為の賄賂として結晶は差し上げよう。
「そうでした!!!これあげます!」
手の中にあったイグニスの結晶を布ごと鹿に押し付ける。
鹿が嫌そうな顔をしながら布に包まれた結晶を受け取り、そっと布から結晶を取り出す。
【…まったく。何と恐ろしい物を作りだすのだ…】
「え?」
………げ、やっぱりヤバイ代物だった?
【これを悪用すればこの村ぐらい軽く吹っ飛ぶぞ】
「どうぞどうぞ…持って帰っちゃってください!!すぐ持って帰って下さい!」
結晶は賄賂どころか………超危険物扱いで取り扱い注意な物だった。
しかしこんな小さな結晶でこの村が吹飛ぶって…そんなバカな……
【これは我が精霊界に持ち帰る……イグニスの御柱であれば上手く利用出来るであろう】
イグニスの御柱が誰か知りませんが宜しくお願いします!!
そして二度とそんな物は作りませんっ!!!今ここでその方法は封印しますっ!!
【しかし…これほどの力はイグニスの御柱に渡すだけで世界の力に偏りが出てしまうな】
「……分解とかしてなかった事にしますか」
多分…出来る……と思うんだけど……
【これほど純粋なイグニス魔石にありえないほどの魔力が注がれているのだぞ……自然に戻したところでイグニスの流れに多大な影響を与える事は間違いないのだぞ……確実にイグニスの噴出が起こる】
イグニスの噴出……つまり火の噴出………噴火みたいな物が起こるって事!?
どんどんあたしの顔色が悪くなっていくのを鹿師匠も感じたのか、緊張した空気をふっと笑って緩めてくれた。
【大丈夫だ…最近御柱の力が大量に失われる事があったのでな…今であれば喜んでこの力を上手く使われるであろう】
「よ、宜しくお願いします」
【うむ……だが力が失われたのはイグニスの御柱だけではない………なのにイグニスだけに力が戻ると今度はバランスが失われる…………お前に早急にやってもらいたいことがある】
「出来る事があるのなら…」
はい………自分がやってしまった事なのできちんと責任はとります。
【ならば……お前の全ての力を解放し、これと同じ魔石を全ての力で作るのだ】
今封印を誓った力なんですけどー!
しかも力の解放って……あの目から火が飛び出るやつですね………うぅ……
【出来るな?】
「……了解でっすー」
でもその前に……師匠、このお宿の問題を何とかしてもらえませんか…




