表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/47

8

第8話:会えない時間


(……会いたいな)


ぽつりと、心の中で呟く。


タブレットの画面には、描きかけの原稿。


ペンは動いている。


はずだった。


(陽斗くん)


名前を思い出す。


その瞬間。


手が、止まる。


いや。


止まっていなかった。


「……あ」


気づいた時には。


画面の上に。


見覚えのある顔が、描かれていた。


(……また)


黒髪。


少しだけ不器用そうな表情。


どこか真面目で。


どこか、優しい顔。


(なんで……)


無意識だった。


完全に。


仕事の原稿のはずなのに。


いつの間にか。


全然関係ない人の顔を描いている。


「……だめ」


小さく、首を振る。


「今は仕事」


ペンを止める。


でも。


目が、離れない。


(……陽斗くん)


もう一度、名前をなぞる。


そのとき。


「先生」


後ろから声が飛ぶ。


「……結衣」


三神結衣が、腕を組んで立っていた。


「完全に止まってますよ」


「……止まってない」


「止まってます」


即答だった。


「というか」


タブレットを覗き込まれる。


「これなに?」


「……え?」


一瞬、理解が遅れる。


「原稿じゃないですよね」


「……」


言葉が出ない。


「え、誰ですかこれ」


ニヤッと笑う。


「……」


黙る。


「てかこれ」


じっと見られる。


「めちゃくちゃ丁寧に描いてません?」


「……」


逃げ場がない。


「先生」


顔を上げられる。


「完全に恋してる人の絵ですよ、これ」


「……違う」


反射的に否定する。


「違わないです」


即断だった。


「で?」


腕を組む。


「誰ですか、陽斗くん」


「……」


固まる。


「口からも漏れてたし、絵にもなってるし」


「……」


「アウトです」


「……」


何も言えない。


「なに、助けてくれた人?」


図星だった。


「……」


「え、なに」


結衣が身を乗り出す。


「進展あり?」


「……ない」


「嘘だ」


即断。


「その顔は絶対あるやつ」


「……ない」


「ある」


「……」


押し負ける。


「……ちょっとだけ」


「ほら」


満足そうに頷く。


「で?」


「……名前、聞いた」


「それ進展って言うんだよ」


「……」


「で?連絡先は?」


「……」


一瞬、固まる。


「……聞いてない」


「は?」


空気が止まる。


「……え?」


結衣の顔が、真顔になる。


「聞いてない?」


「……うん」


「は?」


もう一度。


「いやいやいや」


頭を抱える。


「それはないわー……」


心底、呆れた声だった。


「先生」


真剣な顔になる。


「奥手すぎるって」


「……」


何も言えない。


「てか」


じっと見られる。


「この前、違う違うって言ってたの誰?」


「……」


「めちゃくちゃ好きになってんじゃん」


「……っ」


言葉が刺さる。


否定、できない。


「……」


少しだけ、視線を逸らす。


「……好き、とかじゃ」


弱く、言う。


「じゃあ何ですか」


「……」


答えられない。


「会いたいって思ってる時点でアウトです」


バッサリだった。


「……」


反論できない。


「で?」


結衣が、少しだけトーンを落とす。


「最後に会ったの、いつ?」


「……」


記憶を辿る。


「……1ヶ月前」


「は?」


今度は、本気で驚かれる。


「うっそ」


「……」


「先生」


真顔で言われる。


「それはやばいよ」


「……」


自分でも、分かってる。


「1ヶ月会ってないって」


「……うん」


「その間、何してたの?」


「……」


少しだけ、間を置く。


それから。


ぽつりと、こぼす。


「まこっちゃんにさ……」


「うん」


「早く原稿出せって言われて……」


「うん」


「打ち合わせも詰まってて……」


「うん」


「イベント用の挿絵とか、イラストとかもあって……」


言いながら。


少しずつ、重くなる。


「……ずっと煽られてて」


「……うん」


「それどころじゃなくて」


ペンを握る手に、力が入る。


「……全然、行けなかった」


ぽつりと、落ちる。


「……はぁ」


小さく、息を吐く。


「……陽斗くんに、会いたい」


本音が、零れた。


「……」


結衣は、少しだけ黙る。


それから。


「……重症ですね」


「……」


否定できない。


「でも」


少しだけ、優しく言う。


「それ、もう会えなくなるパターンだよ」


「……っ」


胸が、締め付けられる。


「偶然頼りでしょ?」


「……うん」


「じゃあ普通に終わる」


淡々と、言われる。


「……やだ」


小さく、漏れる。


「……会いたい」


今度は、はっきりと。


「……」


結衣は、少しだけ目を細めた。


「じゃあ行けばいいじゃん」


「……行けない」


「なんで」


「……仕事」


当たり前の理由。


でも。


今は、それが壁だった。


「……はぁ」


結衣が、大きくため息をつく。


「めんどくさい大人だなぁ」


「……」


否定できない。


「……でも」


少しだけ、間を置く。


「先生」


「……なに」


「その人、絶対また会うよ」


「……え?」


思わず顔を上げる。


「なんで?」


「だって」


少しだけ、笑う。


「そんな顔してるし」


「……どんな顔」


「恋してる顔」


「……違う」


反射的に否定する。


「はいはい」


流される。


でも。


「……」


少しだけ、考える。


(……会えるかな)


不安と、期待が混ざる。


タブレットに視線を戻す。


そこには、まだ残っている。


無意識に描いた、陽斗の顔。


そっと、指でなぞる。


(……陽斗くん)


名前を、もう一度。


――すれ違いは、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ