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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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第6話:その正体


「……あ、いや」


少しだけ照れながら。


それでも、言葉は止まらなかった。


「めちゃくちゃ好きで」


自分でも分かる。


少しだけ、早口になっている。


でも。


止められない。


「ストーリーの組み方がすごくて……伏線の回収も綺麗だし、キャラの感情の乗せ方も上手くて」


弓乃は、何も言わずに聞いている。


静かに。


ただ、まっすぐに。


「特に、あの序盤の積み上げから一気に感情持っていく感じが……」


言いながら、頭の中にシーンが浮かぶ。


「読んでて、気づいたら引き込まれてるっていうか……」


少しだけ、息をつく。


「……なんか、すみません」


我に返る。


「いや、その……語りすぎました」


「いいえ」


弓乃は、首を横に振る。


「もっと、聞きたいです」


「……え?」


思わず、顔を上げる。


「どこが好きなんですか?」


少しだけ、前に出る。


「その漫画」


距離が、ほんの少しだけ近い。


「……どこ、っていうか」


また、言葉が出る。


さっきよりも、少しだけ落ち着いて。


でも、熱はそのままに。


「キャラがちゃんと生きてる感じがするんです」


「生きてる、ですか」


「はい。ちゃんと悩んで、迷って、それでも進もうとしてて」


夜の空気の中。


言葉だけが、はっきりと浮かぶ。


「読んでて、なんか……応援したくなるんですよ」


自分でも、少しだけ驚く。


こんなふうに話すつもりじゃなかった。


でも。


止められなかった。


「……すごいですね」


弓乃が、小さく呟く。


「え?」


「そこまでちゃんと、見てるんですね」


「いや、そんな……」


少しだけ、照れる。


「ただ好きなだけです」


「……いいですね」


ぽつりと、言う。


「そういうの」


その声が、少しだけ柔らかい。


「……その人」


弓乃が、続ける。


「どんな人なんですか?」


「え?」


少しだけ、戸惑う。


「漫画家さん」


その言葉に。


少しだけ、考える。


「……分からないです」


正直に答える。


「顔も出してないし」


「そうなんですか」


「はい。でも」


少しだけ、間を置く。


「きっと、すごい人なんだろうなって」


「……どうして?」


「こんな作品、描ける人だから」


迷いなく、言う。


それが。


当たり前みたいに。


「……」


弓乃が、少しだけ黙る。


その沈黙に、気づく。


「……あ、すみません」


「いえ」


すぐに、返ってくる。


「……嬉しいです」


「え?」


一瞬、意味が分からない。


「その漫画家さん」


少しだけ、目を細める。


「……私なんですよ」


――時間が、止まる。


「……え?」


今度は、さっきよりも。


はっきりと。


思考が止まる。


「……え?」


もう一度、同じ言葉が出る。


理解が、追いつかない。


「……その」


弓乃が、少しだけ困ったように笑う。


「蔦谷弓乃です」


名前が、重なる。


さっきの。


自分の言葉と。


「……」


何も言えない。


頭の中で、全部が繋がる。


「……あの」


やっと、声が出る。


「ほんとに……?」


自分でも情けないと思うくらい。


間抜けな確認だった。


でも。


それしか、出なかった。


「はい」


静かに、頷く。


「……ほんとに」


もう一度、言う。


「……俺の好きな漫画家の……?」


「はい」


否定しない。


逃げない。


ただ、まっすぐに見てくる。


「……」


言葉が、出ない。


胸の奥が、うるさい。


さっきまでの距離が。


一気に、変わる。


(……え)


どうすればいいのか、分からない。


何を言えばいいのかも、分からない。


「……あの」


弓乃が、少しだけ様子を伺うように言う。


「引きました?」


「い、いや!」


反射的に否定する。


声が大きくなる。


「全然……!」


むしろ。


逆で。


「……」


言葉が、詰まる。


うまく言えない。


「……すごい、です」


やっと、それだけ出る。


「……さっきまで、普通に話してたのに」


自分でも、何を言ってるのか分からない。


でも。


それが本音だった。


弓乃は、少しだけ笑った。


「さっきまでと、同じですよ」


「……え?」


「私は、変わってません」


静かに言う。


その言葉が。


少しだけ、胸に落ちる。


「……」


確かに。


さっきまでと同じ顔。


同じ声。


同じ距離。


変わったのは。


自分の認識だけ。


「……」


少しだけ、深く息を吸う。


「……弓乃さん」


呼び方が、少しだけ変わる。


意識してしまう。


「はい」


変わらず、返ってくる。


そのことに。


少しだけ、安心する。


「……俺、さっきの話」


少しだけ、言いにくそうにする。


「本気です」


まっすぐ、言う。


「すごく、好きです」


今度は、迷わなかった。


弓乃は。


ほんの少しだけ。


目を細めた。


その表情は。


さっきよりも、少しだけ。


柔らかかった。

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