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第42話:近すぎる距離
「……」
改札の前。
人の流れが、絶えず動いている。
「……」
少しだけ離れた場所に、弓乃が立っている。
スマホを見ているふりをして。
でも。
「……」
ちらっと、周りを気にしている。
「……」
(……なんか、落ち着かない)
昨日までと同じ場所。
同じ時間。
なのに。
「……」
(……違う)
自分でも分かる。
「……」
「弓乃さん」
「……」
声をかけられて、顔を上げる。
陽斗。
「……」
一瞬、視線が合う。
「……」
すぐに逸らす。
「……来たんだ」
少しだけ、ぎこちない声。
「……はい」
陽斗も、少しだけぎこちない。
「……」
一瞬、沈黙。
「……」
何を話せばいいのか。
分からない。
「……」
昨日までは、普通に話せていたのに。
「……」
(なんで)
「……」
陽斗が、少しだけ咳払いする。
「……あの」
「……うん」
「……帰ります?」
「……」
弓乃が、小さく頷く。
「……うん」
「……」
並んで歩く。
「……」
距離は、近い。
でも。
「……」
触れない。
「……」
(……意識しすぎ)
「……」
ふと、手が揺れる。
「……」
陽斗の手も、少しだけ動く。
「……」
触れる。
「……」
すぐに離れる。
「……」
「……」
二人とも、少しだけ固まる。
「……」
「……ごめん」
「……いや」
同時に言う。
「……」
少しだけ笑う。
「……」
でも。
ぎこちない。
「……」
「……なんか」
弓乃が、小さく言う。
「……はい」
「……変」
「……」
陽斗も、苦笑する。
「……ですね」
「……」
「……昨日までは、普通だったのに」
「……」
「……付き合った途端、これっすか」
「……」
弓乃が、ふっと笑う。
「……」
「……なんか、距離近い」
「……」
「……ですね」
「……」
「……でも」
弓乃が、少しだけ視線を上げる。
「……」
「……嫌じゃない」
「……」
その一言で。
少しだけ、空気が変わる。
「……」
陽斗が、ゆっくり手を動かす。
「……」
今度は、止めない。
「……」
弓乃の手に、触れる。
「……」
少しだけ、力を入れる。
「……」
弓乃が、わずかに息を呑む。
「……」
でも。
離さない。
「……」
「……これくらいなら」
陽斗が言う。
「……」
「……いいかも」
「……」
弓乃が、小さく頷く。
「……」
「……うん」
「……」
手を繋いだまま、歩く。
「……」
少しだけ、ぎこちなさが残る。
でも。
「……」
(……慣れてくのか)
「……」
弓乃が、ふと口を開く。
「……」
「……今日」
「……はい」
「……あんまり描けなかった」
「……」
現実。
「……」
「……時間、取れなくて」
「……」
「……」
陽斗が、少しだけ考える。
「……」
「……無理しなくていいと思います」
「……」
「……いや」
弓乃が首を振る。
「……」
「……無理しないと、無理」
「……」
その言葉は、重い。
「……」
「……でも」
少しだけ間。
「……」
「……ちゃんとやる」
「……」
陽斗が、ゆっくり頷く。
「……」
「……俺も」
「……」
「……邪魔しないようにします」
「……」
弓乃が、少しだけ笑う。
「……」
「……それはそれで寂しい」
「……」
「……どうすればいいんですか」
「……」
「……分かんない」
「……」
二人で、少しだけ笑う。
「……」
答えはない。
「……」
でも。
「……」
探していくしかない。
「……」
手は、繋いだまま。
「……」
少しずつ。
慣れていく。
⸻
――近すぎる距離は、少しずつ形になる。




