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第38話:線を引く理由
「……」
コール音が、続く。
呼び出し中。
「……」
陽斗は、スマホを耳に当てたまま、動かない。
(……出ない)
もう分かっている。
さっきの着信も、折り返しもない。
「……」
(無理か)
小さく息を吐く。
でも。
切らない。
「……」
数秒。
「……」
通話を切る。
「……」
画面を見つめる。
弓乃さん。
既読はついていない。
「……」
(……仕事中か)
そう思おうとする。
でも。
「……」
(違うな)
なんとなく分かる。
「……」
(無理してる)
「……」
スマホをポケットに入れる。
「……」
(……会いに行くか)
一瞬、考える。
でも。
「……」
(今じゃない)
止まる。
「……」
無理に踏み込んでも、崩すだけだ。
「……」
(……待つ)
小さく決める。
「……」
そのとき。
「陽斗さん」
「……」
振り向く。
紗季。
「……」
いつもの軽い顔。
でも。
どこか、真っ直ぐ見ている。
「……どうした」
「ちょっといいっすか」
「……」
頷く。
⸻
外。
少しだけ人気のない場所。
「……」
紗季が、先に口を開く。
「……例の人」
「……」
「今、やばい感じっすよね」
「……」
一瞬で、核心。
「……」
「……なんで分かる」
「分かりますって」
「顔っす」
「……」
「完全にそっち見てる顔してます」
「……」
否定しない。
「……」
「……まあいいっす」
紗季が、軽く息を吐く。
「……」
「で」
「……」
「アタシのこと、どうするんすか」
「……」
逃げ場がない。
「……」
「……」
少しだけ、間。
「……」
「……ちゃんと話そうと思ってた」
「……」
正面から言う。
「……」
紗季が、じっと見る。
「……」
「……」
「……俺」
言葉を選ぶ。
「……」
「……弓乃さんが好きだ」
「……」
空気が、止まる。
「……」
「……」
「……だから」
「……」
「……中途半端なこと、したくない」
「……」
「……」
紗季が、何も言わない。
「……」
数秒。
「……」
それから。
「そっすか」
軽く言う。
「……」
あまりにも、あっさりしている。
「……」
「……」
「……まあ」
肩をすくめる。
「分かってましたけど」
「……」
「……でも」
少しだけ間。
「……」
「ちゃんと言われると、普通にムカつきますね」
「……」
苦笑い。
でも。
目は、少しだけ揺れている。
「……」
「……悪い」
「謝んなくていいっす」
即答。
「……」
「……」
紗季が、ふっと笑う。
「でも」
「……」
「ちゃんと選んだのは、偉いっす」
「……」
「……」
「逃げてたら、殴ってました」
「……怖えよ」
「冗談っす」
「……半分な」
「半分っす」
「……」
少しだけ、空気が緩む。
「……」
「……」
紗季が、ゆっくり息を吐く。
「……」
「……負けたなー」
ぽつりと。
「……」
その言葉は、軽くなかった。
「……」
「……でも」
顔を上げる。
「……」
「アタシ、後悔してないっす」
「……」
「……」
「ちゃんと好きだったし」
「……」
「ちゃんと取りに行ったし」
「……」
「……だから、いいっす」
「……」
強い。
「……」
陽斗が、少しだけ目を細める。
「……」
「……ありがとな」
「……」
紗季が、少しだけ笑う。
「……」
「……で」
急に、いつものトーンに戻る。
「……」
「ちゃんと行ってあげてくださいよ」
「……」
「今、あの人一番しんどいときっす」
「……」
陽斗の目が、少しだけ変わる。
「……」
「……分かってる」
「……」
「ならいいっす」
軽く手を振る。
「……」
「じゃ、アタシ戻るんで」
「……」
歩き出す。
「……」
数歩。
「……」
「……陽斗さん」
振り返らずに言う。
「……」
「幸せにしないと、許さないっすよ」
「……」
止まる。
「……」
「……ああ」
短く答える。
「……」
紗季が、そのまま歩いていく。
「……」
背中が、小さくなる。
「……」
「……」
陽斗は、その場に立ったまま。
「……」
空を見上げる。
「……」
(……行くか)
スマホを取り出す。
「……」
弓乃さん。
「……」
指が、迷わない。
「……」
――今から行ってもいいですか
送る。
「……」
一歩、踏み出す。
⸻
――選んだなら、進むしかない。




