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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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第34話:重なるもの、すれ違うもの


「……」


タブレットの上。


コマが、一つ、また一つと埋まっていく。


「……」


昨日より、確実に描けている。


線も。


表情も。


流れも。


「……」


(戻ってきてる)


完全じゃない。


でも。


「……」


(ちゃんと描けてる)


それだけで、少しだけ安心する。


「……」


ペンを止める。


「……」


ふと、スマホを見る。


「……」


画面には、陽斗の名前。


「……」


(……昨日)


ベンチでの時間。


言葉。


距離。


「……」


「……会いたいのは、弓乃さんでした」


「……」


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「……」


(……ダメ)


小さく首を振る。


「……」


(今は仕事)


「……」


視線を戻す。


ペンを持つ。


「……」


そのとき。


――ピロン


通知音。


「……」


反射的に見る。


陽斗。


「……」


少しだけ、間。


「……」


開く。


――昨日の続きなんですけど

――もしよければ、また少し会えませんか


「……」


指が止まる。


「……」


(……どうしよ)


会いたい。


それは、はっきりしている。


でも。


「……」


黒崎の言葉が、浮かぶ。


――私情で、筆が鈍るのは感心しない


「……」


今、描けている。


少しずつ、戻っている。


「……」


ここで。


また揺れたら。


「……」


(……怖い)


正直な感情。


「……」


スマホを見つめる。


「……」


結衣が、後ろから覗く。


「……あ、来ましたね」


「……」


「陽斗さんでしょ」


「……」


何も言わない。


「……」


「どうするんですか?」


「……」


「……分かんない」


正直に言う。


「……」


結衣が、少しだけ考える。


「……」


「先生」


真面目な声。


「今、描けてますよね?」


「……」


「昨日より、全然いいっす」


「……」


「それって」


少しだけ間。


「止まってないってことじゃないですか?」


「……」


弓乃が、ゆっくり息を吐く。


「……」


「……」


スマホを見る。


「……」


(……どうする)


「……」


数秒。


「……」


指が動く。


――今日は少し忙しくて


止まる。


「……」


(……違う)


消す。


「……」


もう一度。


――少しだけなら、大丈夫です


「……」


送る。


「……」


すぐに既読。


「……」


――ありがとうございます


「……」


小さく息を吐く。


「……」


「……会うんですね」


結衣が言う。


「……」


「……うん」


小さく頷く。


「……」


「……でも」


「……」


「ちゃんと描く」


「……」


その言葉は、強かった。


「……」


結衣が、ふっと笑う。


「それなら大丈夫っすね」


「……」


弓乃も、少しだけ笑う。


「……」


ペンを持つ。


「……」


線を引く。


「……」


さっきより、少しだけ強い。


「……」


(……両方)


無理かもしれない。


でも。


「……」


(やってみる)


「……」


ペンは、止まらない。



夕方。


「……」


駅前。


人の流れ。


「……」


弓乃が立っている。


少しだけ、落ち着かない様子で。


「……」


(……来るかな)


「……」


そのとき。


「弓乃さん」


「……」


振り向く。


陽斗。


「……」


少しだけ、ほっとする。


「……」


「……来てくれたんだ」


「……はい」


陽斗が、少しだけ笑う。


「……」


二人の距離。


少しだけ、昨日より近い。


「……」


「……少しだけ、って言ってましたよね」


陽斗が言う。


「……うん」


「……そのくらいでいいです」


「……」


弓乃が、少しだけ驚く。


「……」


「……無理したくないんで」


「……」


「……弓乃さんも」


「……」


その言葉に。


少しだけ、胸が軽くなる。


「……」


「……ありがとう」


小さく言う。


「……」


並んで歩く。


「……」


昨日より、自然な距離。


「……」


でも。


「……」


完全に、迷いが消えたわけじゃない。


「……」


それでも。


「……」


二人とも、止まってはいなかった。



――重なり始めたものは、簡単には消えない。

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