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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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第32話:戻らない線


「……」


朝の光が、部屋に差し込む。


タブレットの画面。


白いキャンバス。


「……」


弓乃は、しばらくそれを見つめていた。


「……」


(やるしかない)


小さく息を吐く。


ペンを持つ。


「……」


線を引く。


「……」


止まる。


「……」


(……違う)


一発目の線で分かる。


昨日とは違う。


でも。


「……」


(逃げないって決めた)


もう一度、引く。


「……」


今度は、少しだけ粘る。


消さない。


「……」


(ズレててもいい)


そのまま進める。


「……」


顔の輪郭。


目。


口。


「……」


形になる。


「……」


(……あ)


少しだけ、しっくりくる。


「……」


昨日より、迷いはある。


でも。


「……」


(描けないわけじゃない)


「……」


ペンを動かし続ける。


「……」


そのとき。


ふと、思い出す。


「……」


ベンチ。


夜の空気。


陽斗の声。


「……」


――会いたいのは、弓乃さんでした


「……」


手が、少しだけ止まる。


「……」


胸が、じんわりと熱くなる。


「……」


(……ダメ)


小さく首を振る。


「……」


(今は仕事)


「……」


もう一度、ペンを走らせる。


「……」


さっきより、少しだけ強い線。


「……」


(……でも)


完全には、切り離せない。


「……」


その感情が、線に乗る。


「……」


(……これ)


さっきより、自然だ。


「……」


(感情、乗ってる)


昨日とは違う。


迷いはある。


でも。


「……」


(嘘じゃない)


「……」


ペンが止まらない。


「……」


数十分。


集中する。


「……」


一コマ。


完成する。


「……」


「……ふぅ」


小さく息を吐く。


「……」


少しだけ、肩の力が抜ける。


「……」


「先生」


後ろから声。


「……」


振り向く。


結衣。


「……おはようございます」


「……おはよ」


「……」


結衣が、画面を見る。


「……」


「……あ」


小さく声を出す。


「……」


「……戻ってきてますね」


「……」


弓乃が、少しだけ目を細める。


「……」


「……まだ、完璧じゃないけど」


「……」


「……でも」


少しだけ笑う。


「……描けてる」


「……」


結衣も、ふっと笑う。


「……いいじゃないですか」


「……」


「昨日より、全然いいっす」


「……」


「……そっか」


小さく頷く。


「……」


でも。


「……」


完全じゃない。


「……」


(まだ、揺れてる)


「……」


結衣が、少しだけ様子を見る。


「……」


「……連絡、したんですか」


「……」


一瞬、止まる。


「……」


「……した」


「……」


「……会った」


「……」


結衣が少しだけ目を見開く。


「……」


「……どうでした?」


「……」


少しだけ、考える。


「……」


「……分かんない」


正直に言う。


「……」


「……でも」


「……」


「……逃げてない」


「……」


結衣が、ふっと笑う。


「……それで十分じゃないですか」


「……」


「……」


弓乃も、少しだけ笑う。


「……」


そのとき。


スマホが震える。


「……」


視線が向く。


「……」


画面。


陽斗。


「……」


一瞬、止まる。


「……」


結衣がニヤッとする。


「……出ないんですか?」


「……」


「……出る」


小さく言う。


「……」


通話ボタンを押す。


「……もしもし」


少しだけ、声が柔らかくなる。


「……」


「……はい」


「……うん」


短いやり取り。


「……」


少しだけ、笑う。


「……」


「……大丈夫」


「……」


「……うん、描けてる」


「……」


「……ありがと」


「……」


通話を切る。


「……」


少しだけ、息を吐く。


「……」


「……いい顔してますよ」


結衣が言う。


「……」


弓乃は、何も言わない。


「……」


でも。


「……」


ペンを持つ手は、もう止まらなかった。



――揺れても、戻らないものもある。

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