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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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第23話:すれ違いのはじまり


「……」


キーボードを叩く音が、やけに遠い。


画面は開いている。


作業も進んでいる。


でも。


「……」


(頭に入ってこねえ)


佐伯は小さく息を吐いた。


黒崎の視線が、頭から離れない。


あの一瞬。


あの空気。


「……」


(完全にバレてたな)


苦笑にもならない。


「……」


ふと、スマホを見る。


通知はない。


(……まあ、そうだよな)


さっき別れたばかりだ。


「……」


それでも、指が動く。


トーク画面を開く。


蔦谷。


「……」


打つ。


――さっきはすみません


止まる。


(違うな)


消す。


もう一度。


――昼、また今度


「……」


違う。


何か違う。


「……」


全部消す。


「……」


(何送ればいいんだよ)


スマホを伏せる。


「……」


何もできない。



「……」


打ち合わせ室。


弓乃は椅子に座ったまま、少しだけ視線を落としていた。


「……蔦谷」


黒崎の声。


「……はい」


すぐに顔を上げる。


「今日の分は以上だ」


「……ありがとうございます」


「……」


黒崎が資料を閉じる。


そのまま、弓乃を見る。


「……」


ほんの少しの間。


「……あの男」


「……っ」


心臓が、跳ねる。


「編集部の人間だな」


「……」


一瞬、迷う。


でも。


「……はい」


小さく答える。


「……」


黒崎が軽く頷く。


それだけ。


それだけなのに。


「……」


逃げ場がない。


「……」


黒崎が続ける。


「私情で、筆が鈍るのは感心しない」


「……」


言葉が、静かに刺さる。


「……」


「お前は、それで食っている」


「……はい」


小さく返す。


「……」


黒崎はそれ以上は言わない。


「戻れ」


「……はい」


弓乃は立ち上がる。


ドアに手をかける。


「……」


一瞬、止まる。


でも。


振り返らない。


そのまま、部屋を出る。



「……」


廊下。


少しだけ、静か。


「……」


歩きながら。


頭の中に浮かぶのは。


黒崎の言葉。


――私情で、筆が鈍るのは感心しない


「……」


(……鈍ってる、のかな)


自分の絵。


さっきの原稿。


「……」


否定できない。


「……」


でも。


「……」


スマホを取り出す。


トーク画面。


佐伯。


「……」


(……どうしよ)


少しだけ迷う。


「……」


打つ。


――今日はごめんね、急に


指が止まる。


「……」


これでいいのか。


分からない。


でも。


「……」


送信。



「……」


――ピコン


スマホが震える。


「……」


佐伯がすぐに反応する。


画面を見る。


蔦谷。


――今日はごめんね、急に


「……」


少しだけ、間。


(謝ることじゃねえだろ)


そう思う。


でも。


「……」


どこか、距離を感じる。


「……」


打つ。


――いえ、大丈夫です


一瞬、止まる。


(これでいいのか)


分からない。


でも。


送る。


「……」


すぐに既読がつく。


「……」


それ以上、続かない。


「……」


スマホを見つめる。


「……」


(こんなもん、か)


胸の奥が、少しだけ重い。



「……」


弓乃も、スマホを見ていた。


既読。


返信。


――いえ、大丈夫です


「……」


それだけ。


「……」


(……そっか)


小さく息を吐く。


「……」


もう一度、打とうとする。


でも。


指が止まる。


「……」


何を送ればいいのか、分からない。


「……」


画面を閉じる。


「……」


胸の奥に、少しだけ違和感が残る。



「……」


それぞれの場所で。


同じように。


スマホを見つめて。


同じように。


動けない。


「……」


言葉にすれば、きっと簡単なのに。


「……」


その一歩が、遠い。



――近づいたはずの距離が、少しだけ遠くなった。

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