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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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22

第22話:交差点


「……」


昼前の編集部。


少しだけ慌ただしい空気の中で、佐伯はパソコンに向かっていた。


キーボードを叩く手は動いている。


でも。


「……」


(集中できてねえな)


自分でも分かる。


頭のどこかで、別のことを考えている。


「……」


スマホを見る。


通知はない。


(……さっき送ったばっかだろ)


分かっている。


それでも。


「……」


ため息が出そうになるのを抑える。


そのとき。


「すみません」


入口の方から声がした。


女性の声。


聞き覚えがある。


「……?」


ふと顔を上げる。


「……あ」


思わず声が漏れる。


そこにいたのは。


「弓乃さん?」


「……あ」


弓乃が振り向く。


一瞬、目が合う。


それから。


少しだけ、柔らかくなる。


「陽斗くん」


自然に名前を呼ばれる。


「……」


胸の奥が、少しだけ跳ねる。


「どうしたんですか?」


佐伯が立ち上がる。


弓乃が軽く笑う。


「ちょっと家の端末が調子悪くて」


「メールで原稿送れなくてさ」


「データ、直接持ってきたの」


「あー、そういうことですか」


納得する。


「……」


少しだけ、距離が近い。


自然に会話が続く。


「大変でしたね」


「まあね」


弓乃が肩をすくめる。


「こういうときに限ってって感じ」


「分かります」


「でしょ?」


軽く笑い合う。


「……」


その空気が、心地いい。


「……」


少しだけ、間。


「……このあと」


佐伯が口を開く。


「時間、あります?」


「……」


弓乃が少しだけ首をかしげる。


「ありますけど」


「じゃあ」


少しだけ、迷ってから。


「昼、どうですか」


「……」


一瞬、間。


それから。


「いいですよ」


弓乃が、ふっと笑う。


「行きましょう」


「……」


その一言で、少しだけ安心する。


「じゃあ——」


言いかけた、そのとき。


「……随分楽しそうだな」


低い声が落ちてくる。


「……っ」


空気が変わる。


振り向く。


黒崎が立っていた。


「……」


いつの間にいたのか。


気配がなかった。


「……黒崎さん」


佐伯が少しだけ姿勢を正す。


「……」


弓乃も同じように。


「……お疲れ様です」


「……」


黒崎が、ゆっくりと視線を動かす。


佐伯。


それから。


弓乃へ。


「……」


一瞬、止まる。


ほんのわずかに。


「……」


何も言わない。


でも。


見ている。


「……」


その視線が、少しだけ重い。


「……蔦谷」


黒崎が口を開く。


「わざわざ来たのか」


「……はい」


弓乃が頷く。


「データ、直接持ってきました」


「……そうか」


短く返す。


「……」


それから。


もう一度、二人を見る。


「……」


間。


ほんの少しだけ。


「……なるほど」


小さく呟く。


「……?」


佐伯が反応する。


「……」


黒崎は答えない。


ただ。


静かに言う。


「……知り合いか?」


「……」


一瞬、空気が止まる。


「……」


弓乃と佐伯。


ほんのわずかに、目が合う。


「……」


その一瞬で。


全部、伝わる。


「……はい」


佐伯が答える。


「……」


黒崎が、わずかに目を細める。


「……そうか」


短く言う。


それだけ。


それだけなのに。


「……」


何かを、見抜かれた気がする。


「……」


黒崎が、視線を外す。


「……蔦谷」


「……はい」


「打ち合わせ、先に済ませるぞ」


「……」


弓乃が一瞬、佐伯を見る。


「……」


少しだけ、迷う。


でも。


「……はい」


頷く。


「……」


「悪いな」


黒崎が言う。


誰に向けた言葉かは、曖昧なまま。


「……」


そのまま歩き出す。


弓乃も、その後を追う。


「……」


すれ違う瞬間。


「……また」


小さな声。


「……はい」


佐伯が返す。


「……」


弓乃が去っていく。


「……」


残るのは、少しだけ冷えた空気。


「……」


(……バレたな)


確信に近い感覚。


「……」


黒崎の視線。


あの一言。


「……知り合いか?」


「……」


ただの質問じゃない。


「……」


完全に、見抜かれていた。


「……」


スマホを見る。


弓乃の名前。


「……」


さっきまでの距離。


さっきまでの空気。


「……」


少しだけ、遠くなる。


「……」


小さく息を吐く。


「……」


(簡単じゃねえな)


ぽつりと、思う。



――交わった瞬間から、関係は変わり始めていた。

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