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第16話:余韻と違和感
(……なんだこれ)
ベッドに仰向けになりながら、天井を見上げる。
目は閉じているのに。
全然、寝られない。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
理由は分かっている。
(今日のこと、か)
頭の中に浮かぶのは。
カフェ。
向かいに座っていた弓乃。
笑った顔。
少し照れた顔。
そして――
「……似合ってます」
自分の声まで思い出す。
「……っ」
思わず、顔を覆う。
(なに言ってんだ俺)
でも。
(……本当に、そう思ったしな)
あの瞬間。
確かに、言葉が出た。
考えるより先に。
「……」
目を開ける。
スマホを手に取る。
トーク画面を開く。
弓乃の名前。
やり取りは、まだ少ない。
でも。
「……」
指が、少しだけ止まる。
(……送るか)
迷う。
でも。
「……」
打つ。
――今日はありがとうございました
一度、止まる。
(……固いな)
消す。
もう一度打つ。
――今日は楽しかったです
少しだけ、迷って。
送信。
「……」
すぐに画面を見る。
既読は、まだつかない。
(……そりゃそうか)
時間を見る。
遅い時間だ。
(……寝てるか)
スマホを置く。
でも。
数秒後。
また手に取る。
「……」
(……来ないな)
分かってる。
でも。
気になる。
「……」
目を閉じる。
そのとき。
――ピコン
「……っ」
すぐに画面を見る。
既読。
そして。
――私も、楽しかった
「……」
少しだけ、息が止まる。
「……」
(……よかった)
それだけで。
変に安心する。
「……」
スマホを見たまま。
少しだけ、笑う。
「……寝るか」
そう言いながら。
もう一度、画面を見る。
(……ほんとに、また会えるんだよな)
その実感が、少しずつ湧いてくる。
――翌日。
「……」
編集部。
いつも通りの朝。
いつも通りの仕事。
なのに。
「……」
少しだけ、気分が軽い。
「おはようございます」
「おはよう」
挨拶を交わす。
デスクに座る。
パソコンを開く。
「……」
でも。
少しだけ、スマホを見る。
「……」
通知はない。
(……まあ、そうだよな)
自分から送るか。
少しだけ、考える。
「……」
そのとき。
「陽斗さーん」
軽い声。
振り向く。
「紗季」
「おはようございまーす」
にこっと笑う。
いつも通り。
距離が近い。
「原稿、持ってきました」
「ありがとう」
受け取る。
「……」
パラパラと確認する。
「……」
「どうです?」
「……いいと思う」
「ほんとですか?」
「うん」
「よっしゃ」
ガッツポーズ。
「……」
少しだけ、笑う。
「……」
そのとき。
「……?」
紗季が、じっと見てくる。
「なんだよ」
「いや」
少しだけ、首をかしげる。
「陽斗さん」
「なに」
「今日、機嫌よくないですか?」
「……は?」
「なんか、柔らかい」
「……いつも通りだろ」
「いや違う」
即答だった。
「なんかあったでしょ」
「ない」
「ある」
「ない」
「ある」
「……」
言い合いになる。
「……」
「……ふーん」
紗季が、少しだけ笑う。
「まあいいですけど」
「……」
少しだけ、視線を逸らす。
「……」
(分かりやすいのか?)
自分では、普通のつもりだった。
「……」
そのとき。
スマホが、震える。
「……」
無意識に、視線が落ちる。
画面が光る。
「……」
一瞬だけ、止まる。
(弓乃さん)
名前が表示されている。
「……」
すぐに手に取る。
「……」
その動きを。
紗季は、見ていた。
「……」
メッセージを開く。
――おはよう
短い一言。
「……」
それだけで。
少しだけ、気持ちが上がる。
「……」
すぐに打つ。
――おはようございます
送信。
「……」
すぐに既読がつく。
「……」
(早いな)
少しだけ、笑う。
「……」
「……」
その様子を。
紗季が、じっと見ている。
「……ねえ」
「……なんだよ」
「今の誰ですか?」
「……仕事」
「嘘ですね」
「なんでだよ」
「顔で分かります」
「……」
言葉に詰まる。
「……」
「……へぇ」
紗季が、少しだけ目を細める。
「そっか」
「……なにが」
「別に?」
笑う。
でも。
ほんの少しだけ。
いつもと違う。
「……」
「まあいいです」
軽く流す。
「仕事しましょ」
「……ああ」
画面を閉じる。
でも。
「……」
気になる。
また、見てしまう。
「……」
(やばいな)
完全に、意識してる。
「……」
その様子を。
紗季は、見逃さなかった。
(……あー)
心の中で、呟く。
(これ、完全にいるやつだ)
「……」
少しだけ、視線を逸らす。
でも。
また、戻る。
陽斗を見る。
さっきまでと、少し違う顔。
(……そっか)
「……」
小さく、息を吐く。
「……」
「陽斗さん」
「なんだよ」
「……」
少しだけ、間。
「なんでもないです」
にこっと笑う。
いつも通り。
でも。
少しだけ、違う。
「……」
その空気の中で。
仕事が進んでいく。
でも。
どこか。
少しだけ、ズレていた。
――近づいたはずの距離の中に。
別の何かが、入り始めていた。




