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第15話:はじめてのデート
(……これでいいか)
鏡の前で、少しだけ立ち止まる。
シンプルな服。
無駄のないシルエット。
体のラインが綺麗に出る。
それだけで、印象が変わる。
「……」
視線を上げる。
自分の顔。
普段より、少しだけ丁寧に整えたメイク。
目元も、唇も。
ナチュラルなのに、確実に違う。
「……」
(やりすぎてないよね)
少しだけ、不安になる。
「先生」
後ろから声が飛ぶ。
「それ、服もメイクもガチじゃないですか」
「違う」
即答する。
「いや違わないです」
結衣が笑う。
「今日の先生、“普通に可愛い”じゃなくて“ちゃんと可愛い”です」
「……なにそれ」
「気合い入ってるって意味です」
「……入ってない」
「入ってます」
「……」
言い返せない。
「相手、びっくりしますよ」
「……別に」
視線を逸らす。
でも。
「……」
もう一度、鏡を見る。
(……大丈夫)
小さく息を吐く。
「……行ってくる」
⸻
待ち合わせ場所。
弓乃は少し早く着いていた。
「……」
人通りは多い。
その中で。
ちら、と視線を感じる。
すれ違う人が、ほんの一瞬だけ振り返る。
意識しているわけじゃない。
でも。
確実に目に入っている。
「……」
慣れている。
こういうのは、昔から。
だから、気にしない。
ただ。
「……」
少しだけ、落ち着かない。
(……来るかな)
スマホを見る。
まだ時間はある。
(……ちょっと早すぎた)
そのとき。
「……」
視線を上げる。
少し離れた場所。
陽斗が、立っていた。
「……」
こちらを見ている。
でも。
動かない。
「……?」
首をかしげる。
(どうしたの)
そのまま、数秒。
動かない。
「……陽斗くん?」
声をかける。
「……っ」
ハッとしたように動く。
「……あ」
少し慌てて、近づいてくる。
「すみません」
「ううん」
「……」
少しだけ、沈黙。
視線が合う。
すぐに逸らされる。
また戻る。
また逸らす。
分かりやすい。
「……どうしたの」
少しだけ、笑う。
「……いや」
言葉に詰まる。
「……その」
少しだけ迷って。
「……その服、似合ってます」
「……」
一瞬、止まる。
それから。
「……ありがと」
小さく、返す。
少しだけ、照れる。
「……」
また、少し沈黙。
でも。
さっきとは違う。
(……見てた)
(見惚れてた)
その事実が、じわっとくる。
(……嬉しい)
自然と、少しだけ笑う。
「……?」
陽斗が気づく。
「どうしました?」
「……なんでもない」
首を振る。
「……」
並んで歩き出す。
少しだけ、距離が近い。
「……」
隣を歩く陽斗を、ちらっと見る。
さっき。
止まってた。
「……」
(そんなに、違った?)
少しだけ、気になる。
でも。
悪い気はしない。
「……」
カフェに入る。
席に座る。
「……」
最初は少しぎこちない。
「体調、大丈夫ですか?」
「うん、もう平気」
「よかったです」
「……」
少しずつ、会話が続く。
仕事の話。
どうでもいい話。
でも。
「……」
自然に、笑える。
「……」
ふと、手が触れる。
グラスを取るとき。
「……っ」
一瞬だけ、止まる。
すぐに離れる。
でも。
さっきより、意識する。
「……」
弓乃は、少しだけ陽斗を見る。
話している顔。
真面目で。
優しくて。
「……」
(こういう顔、するんだ)
コンビニでも、看病のときでもない。
今の顔が、一番自然だった。
「……」
気づけば、見ていた。
「……どうしました?」
「……見てた」
素直に言う。
「……え」
少し困る顔。
「……なんでもない」
軽く笑う。
「……」
時間が、ゆっくり流れる。
「……」
店を出る。
外の空気。
「……」
少しだけ、名残惜しい。
「……」
並んで歩く。
最初より、少しだけ近い距離で。
「……あの」
陽斗が言う。
「……はい」
「……また、会えますか」
「……」
一瞬、止まる。
それから。
「……うん」
自然と頷く。
「……会いたい」
小さく、続ける。
「……」
陽斗が、少しだけ笑う。
「……よかった」
その一言で。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
「……」
少しだけ、間。
「……今日は、ありがとうございました」
「……こちらこそ」
軽く頭を下げる。
「……」
そのまま、少しだけ見つめ合う。
それから。
「……また」
「……また」
背を向ける。
歩き出す。
「……」
数歩進んで。
少しだけ、振り返る。
陽斗も、振り返っていた。
「……」
目が合う。
自然と、笑う。
――次も、会いたい。




