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憧れの漫画家さんが、なぜか僕にだけ距離が近い  作者: 優未緋


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第13話:朝と、はじまり


「……ん」


ゆっくりと、意識が浮かぶ。


重かった体が、少しだけ軽い。


頭の奥に残っていた熱も、昨日ほどではない。


「……あれ」


視界がぼやけたまま、ゆっくりと部屋を見渡す。


見慣れた天井。


見慣れた部屋。


でも。


少しだけ、違う。


「……」


視線を横にずらす。


そこに、いた。


椅子に座ったまま、眠っている人。


「……陽斗くん」


小さく、名前を呼ぶ。


返事はない。


静かな寝息だけが、規則的に聞こえる。


「……ほんとに、いる」


ぽつりと、呟く。


昨日のことが、ゆっくりと思い出されていく。


コンビニ。


走ってきた結衣。


引っ張られて、家に来て。


扉を開けたら、そこにいて。


名前を呼んで。


泣いて。


「……っ」


思い出した瞬間、顔が熱くなる。


(なにあれ)


(なにしてるの、私)


布団の中で、少しだけ顔を埋める。


でも。


もう一度、そっと顔を上げる。


「……」


やっぱり、いる。


逃げてない。


帰ってない。


「……帰らなかったんだ」


それだけで。


胸の奥が、少しだけ温かくなる。


(……ずっと、いてくれたんだ)


自分のために。


その事実が、静かに沁みてくる。


「……」


ゆっくりと、体を起こす。


まだ少しだけ、ふらつく。


でも、昨日ほどじゃない。


「……」


陽斗の方を見る。


眠っている顔。


いつも見ていた顔とは、少し違う。


力が抜けていて。


無防備で。


「……こんな顔、するんだ」


思わず、口に出る。


真面目で、どこか硬い印象だったのに。


今は、ただの男の人みたいで。


「……」


じっと、見てしまう。


時間が、ゆっくり流れる。


「……」


気づけば。


手が、伸びていた。


「……」


少しだけ、止まる。


(なにやってるんだろ)


そう思うのに。


引っ込められない。


「……」


そっと。


触れる。


髪に、軽く。


本当に、軽く。


「……」


柔らかい。


思っていたよりも、ずっと。


「……」


指先が、少しだけ動く。


撫でるみたいに。


(……やば)


(これ、やばい)


頭では分かってるのに。


やめられない。


「……」


そのとき。


「……ん」


小さな声。


「……っ」


手が止まる。


ゆっくりと、目が開く。


「……え」


目が合う。


近い。


距離が、近すぎる。


「……」


時間が止まる。


「……」


「……おはようございます」


先に、言われる。


「……おはよ」


少し遅れて、返す。


でも。


手はまだ、髪に触れたまま。


「……」


「……」


数秒。


完全に止まる。


「……見てないで」


慌てて、手を引っ込める。


視線を逸らす。


「見てましたよね?」


「見てない」


「触ってましたよね?」


「……」


言葉が詰まる。


「……寝てたから」


苦しい言い訳。


「関係ないですよね?」


「……うるさい」


少しだけ、拗ねたように言う。


「……」


沈黙。


でも。


嫌じゃない。


「……」


ふと、昨日のことを思い出す。


「……」


(泣いた)


(会いたかったって言った)


(いかないでって言った)


「……っ」


一気に、顔が熱くなる。


「……忘れて」


ぽつりと、言う。


「……あれ、ノーカウントで」


「無理です」


即答だった。


「……なんで」


「言ってましたし」


「……」


「ちゃんと」


「……」


「覚えてます」


「……最悪」


布団に顔を埋める。


「……」


少しだけ、笑われる気配。


「……」


でも。


嫌じゃない。


「……水、飲みますか」


「……うん」


体を起こす。


少しだけ、ふらつく。


「……あ」


すぐに支えられる。


「……」


近い。


昨日と同じ距離。


でも。


昨日より、意識する。


「……ありがとう」


「いえ」


水を受け取る。


一口、飲む。


「……」


そのまま、少しだけ寄る。


無意識だった。


「……」


袖を、軽く掴む。


「……」


自分でも気づいてない。


「……もうちょっと」


小さく、呟く。


「……」


言ったあとで、気づく。


(なに言ってるの、私)


でも。


離れたくない。


「……」


陽斗は、何も言わない。


ただ、そのままいる。


「……」


静かな時間。


「……」


「おはようございまーす」


ガラッと、扉が開く。


「……」


「……」


一気に現実に戻る。


「え」


結衣が止まる。


「なにその距離」


「違う」


「違います」


同時に言う。


「いやいやいや」


ニヤニヤする。


「付き合ってます?」


「違う!」


また同時。


「息ぴったりすぎでしょ」


「……」


言い返せない。


「……」


少しだけ、間。


「……あの」


声が出る。


自分でも驚くくらい、自然に。


「……帰る前に」


視線を逸らす。


少しだけ、間を置く。


「……連絡先、教えて」


空気が、少しだけ止まる。


「……いいんですか?」


「……うん」


小さく、頷く。


スマホを手に取る。


少しだけ、手が震える。


「……」


画面を見せる。


「……」


登録される。


名前が表示される。


「……」


その瞬間。


胸が、少しだけ鳴る。


「……これで」


小さく、呟く。


「……また、会えるね」


自然と、笑っていた。


――ちゃんと、繋がった。

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