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器 -UTSUWA- 零  作者: 猿吉


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第四十三章 接続補正

空呑うつろのみ稼働まで、四週間。


研究棟の朝。


制御室には、低い機械音が響いていた。


遊は画面を睨んでいる。


炉。


空呑うつろのみ


そして、炉に接続された器。


表示される数値を何度も確認する。


「……」


器の処理記録。


異常なし。


接続も正常。


機能も問題ない。


原因はわかっている。


負荷だけが、少しずつ上がっていた。



「また難しい顔してる」


横から声が飛ぶ。


ひよりだった。


「朝から怖いって」


「うるせぇ」


遊は画面から目を離さない。


「何見てるの?」


「CUYON」


ひよりが覗き込む。


「とうとう、壊れたの?」


「んな訳、違げーよ」


「じゃあなに?難しい顔してさ。足でも生えてきた?」


遊は少し黙る。


「……処理量が多すぎんだよ」


「あらら、処理量?」


「ああ」



遊は記録を開く。


器の役割。


炉へ流れ込む感情。


そこには、人の願いだけではないものが混ざっている。


届かなかった思い。


行き場を失った感情。


言葉になる前に残ったもの。


器はそれを選別する。


必要なものと、そうでないものを分ける。


そして、流れを整える。


それが器の役割だった。



「今までは問題なかった」


遊が呟く。


「流れ込む量が、想定の範囲をかなり下回ってたからな」


研究員が画面を見る。


空呑うつろのみの影響ですか」


遊は頷く。


「まず間違いないねぇな」


遊は数値を指した。


「まあ、これ見りゃ分かる」


そこに表示されている値。


想定を大きく超えた流入量。


「ここまで増えるとはな……桁違いだ」


独り言のように言う。


全く想定していなかったことではないが、それよりももっと引っかかる事がある。


それは、遊に何かを暗示している。


しかし、手がかりが少なすぎる。



空呑は正常だった。


炉も正常。


問題は、どちらかが壊れたということではない。


流れ込むものの量だった。


人の感情を集め。


増幅し。


炉へ送る。


その力が、想定を超え始めている。



器は、ただの機械ではなかった。


感情を選別する中で。


処理されたもの。


残ったもの。


届かなかったもの。


そういったものが積み重なり、いつしか形を持った。


子供の姿。


ひとつの存在として。


炉のそばにいる。



「そこでだ。炉の外側に、新たな外部機器を追加する」


翌日、遊は新しい構造図を表示した。


研究員が確認する。


「負荷分散ですか」


「そうだ」


遊は短く答える。


「器だけに背負わせるには、量が多すぎる」


空呑うつろのみが生み出す流れ。


その全てを器だけで受け止める。


それはいつか限界を超える。


だから。


器を変えるのではなく。


器が処理する前に、負担を分ける。



ひよりが画面を見る。


「それで大丈夫なの?」


遊は肩をすくめる。


「分からねぇ」


「え?」


「まだ確認できてねぇからな」


ひよりは少し黙る。


「遊が分かんないって言うの、珍しいね」


「何でも分かっちまうほど俺の頭は良くねぇよ」


いつものぶっきらぼうな返事。


でも、その目は真剣だった。



取り付け準備が始まる。


稼働まで四週間。


まだ時間はある。


そう思っていた。



炉は動く。


空呑うつろのみも動く。


器も、そこにいる。


全ては正常に見える。


ただ。


増え続ける感情の流れだけが。


少しずつ。


器の限界へ近づいていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

二つの歪んだピースが噛み合う瞬間。

終わりの鐘の音が、あまりに美しい祝福の和音として響き渡る。

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