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器 -UTSUWA- 零  作者: 猿吉


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第三十章 時代の夜明け

遊は炉を見上げる。


炉を見るたびに思い出す。


あの日のことを。


今では当たり前のようにそこにある巨大な炉。


けれど、最初からそうだったわけじゃない。


昔は誰も見たことがなかった。


誰も知らなかった。


人類がずっと夢見てきたもの。


尽きることのない光。


終わらないエネルギー。


飢えも。


寒さも。


争いさえ終わらせるかもしれない力。


そんな夢みたいな話を、本気で追いかけていた時代があった。


そして。


その日が来た。


制御室は妙に静かだった。


誰も喋らない。


喋れないと言った方が近かったかもしれない。


計器を見る者。


祈るように手を組む者。


唇を噛む者。


額の汗を拭う者。


皆、同じ顔をしていた。


怖かったのだ。


ここまで積み上げてきたものが、もし失敗したら。


何十年もの研究が。


何千人もの人生が。


全部無駄になる。


だから誰も声を出せなかった。


「起動シーケンス開始」


機械音声が響く。


空気が張り詰める。


十。


九。


八。


数字が減るたびに心臓がうるさくなる。


七。


六。


五。


ひよりが端末を抱きしめるように持っていた。


玄堂は腕を組んだまま動かない。


鷹宮だけが静かに佇んでいた。


いや、固唾を飲んでいたのか?


四。


三。


二。


一。


そして。


スイッチが押された。


驚くほど軽い音だった。


拍子抜けするほど。


世界を変える音には聞こえなかった。


一瞬。


静寂。


本当に一瞬だった。


次の瞬間。


世界が震えた。


床が揺れる。


壁が唸る。


空気そのものが震える。


炉の中心。


その奥底から光が生まれた。


炎ではない。


雷でもない。


もっと静かで。


もっと強い。


白い光だった。


それはゆっくりと広がり。


やがて天へ向かって伸びていく。


誰かが息を呑んだ。


誰かが泣いた。


誰かが笑った。


言葉にならなかった。


皆ただ見上げていた。


光の柱を。


夜空を貫く巨大な光を。


街では歓声が沸き起こる。


人々が空を見上げる。


抱き合う者。


祈る者。


泣き崩れる者。


子供を肩車して見せる父親。


膝をついて空へ感謝する老人。


これで救われる。


誰もがそう思った。


もう大丈夫だと。


もう恐れなくていいのだと。


新しい時代が始まったのだと。


あの日。


誰も疑わなかった。


本当に。


誰一人として。


疑わなかった。


だからこそ、


今思い返すと少し怖い。


あまりにも眩し過ぎたからだ。


希望というやつは。


時々、未来を見えなくする。


炉はその後も光り続けた。


街を照らし。


人を救い。


文明を押し上げていく。


その光の中で。


誰も気付かなかった。


炉の奥深く。


誰の目も届かない場所で。


器はすでに炉へ接続されていた。


もう姿はない。


もう誰にも見えない。


人と炉を繋ぐための器。


その役目は終わっていない。


むしろこれからだった。


炉へ流れ込む無数の感情。


喜びも。


悲しみも。


願いも。


絶望も。


そのすべてを受け止め。


選び分けるために。


だが、誰も見ていなかった。


見えていなかった。


炉の影。


光の届かないその場所で。


何かが動いたことを。


最初は指先だった。


粘土をこねるように。


影が集まる。


形になる。


腕になる。


肩になる。


顔になる。


まだ誰も知らない。


まだ名前もない。


けれど読者だけは知っている。


その輪郭を。


その姿を。


その存在を。


光に祝福された時代の始まり。


その裏側で。


ひっそりと。


CUYONは人の形を取り始めていた。


まるで最初からそこにいたかのように。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。これら、新たな事実が次々に判明していきます。ご期待ください。

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