坑道に咲く泥雲花
「いいか、道は狭くて一人しか通れねえ。つまり先頭の奴が一番危険ってことだ」
「確かに、お、俺は嫌だぞ」
「私がやる」
ルーレットの挙手により一番危険な役目は決まった。オギュエも側に着く。自ら危険な役目を買って出る新入りは、一揆の旗頭にまで成り上がっていた。一人、卑屈な顔つきの痩せた男がしゃしゃり出た。
「あのぉ。俺は後ろの方でいいですか」
怯えを隠さないその要望に周囲から非難の声が上がる。
「お前はいつもそうやって一番安全な場所をとろうとするよなぁ!きたねえぞ」
「悪いかよ。他人の物を奪うわけでもないのに文句を言われる筋合いはねえよ!」
「危険は皆承知の上で立ち上がろうってんだ、一人だけ助かろうってのは虫が良すぎる」
「別に協力しねえとはいってねえだろ」
掴みかかろうといきり立つ男たちはオギュエとルーレットに宥められた。不満げにそっぽ向いていた痩せぎすの男も一言、「すまねえ」と言った。皆、これから来る決起の時に気が立っているのだ。武器は鶴嘴、兜代わりに粗末なヘルメット。これだけでは心もとないのでまずは採掘用の発破火薬が貯蔵されている場所を襲撃する計画だ。吹き抜けのように縦穴が穿いているせいで風通しが良く、山の中で唯一湿気と無縁の場所だ。当然警戒は厳重で、槍を提げた兵士や雇われの用心棒もいるという噂だ。用心棒は魔法も使うらしいから一分の油断もできはしない。
「ここは比較的広い空間がある…」
「長い槍を相手にする時は何とか懐に入り込むんだ…」
「悲鳴は仕方ないができるだけ静かに行動してくださいね……」
打ち合わせを眺めながら、さっきの発言で少し疎外されていた痩せぎすの男は、壁に立てかけられた薄板の裏に白い花が咲いているのを見つけた。泥雲花という、太陽の光も綺麗な水も必要としない、苦界に咲く花である。別名【躵花】、サリアラとは悲恋で有名な女神の名である。
女神様とは比ぶべくもないが、王都に残してきた子供たちの顔が浮かんでどうにもやるせなくなった。
「……ラゼ、ミール。ああ、くそっ」
逃げるなら、逃げ通してやる。どこまでも、逃げ通してやる。そして、きっといい女になった娘に会って、思いっきり殴られて。その痛みを感じるまでは死ぬわけにはいかない。卑怯者だろうが、たとえ仲間を盾にしてでも生き延びてやる。
大山鳴動まで、あと二日。




