表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/55

十五.兎耳騎士団長の実力

 翌日、レイ達は風の国(ウイングシルビア)の王の下へと向かっていた。

 聳え立つ山の中腹、風の谷全体を見下ろす事の出来る場所に、その大きな宮殿はあった。


 かつての兎耳(ラビオリ)族の祖先が建てたというキャロット宮殿。広い宮殿の敷地内に、

 兎耳族の王族や貴族、兎耳騎士団(ラビオリウイング)、王宮関係者が暮らしている。


 風の勇者リーズ、元騎士団長の筋肉兎デラウェアに連れられ、広い宮殿の中を歩いていくレイとアン。細かな装飾が施された石柱、回廊の途中にシャンデリアや絵画、精霊を模した石像。宮殿と離宮の間には清浄な水が流れる庭園や王宮の者達が食べる野菜を作る農園まで併設されている。


 時折すれ違う兵士が敬礼する様子を見て、レイは、風の勇者が有名人である事を改めて実感する。当然、勇者の隣に歩く筋肉兎を見て、脊髄反射のような面白い動きをする者もたくさん居た訳だが。


 長い回廊を進み、重厚な扉を開ける。王の間へ入ると、兎耳族の王が出迎えてくれた。


「よくぞ来た。話は聞いておる。余は風の国(ウイングシルビア)現当主、ランス・シルバニア・グレイスフィールド七世だ」


 風の王は、レイが想像していたよりも若い王だった。


 宝石が散りばめられた冠の中から飛び出た兎耳と紅い宝石のような兎の円らな瞳。王家を彷彿とさせる豪華なマントに中央に翼を施した紋章の刺繍が施されたチュニック。王の隣に控える兎耳白髪の騎士も身分を感じさせる格好をしている。


「お初にお目にかかる。冒険者のレイ。戦闘スタイルは暗黒騎士だ。よろしく頼む」


「待て! 風の王の前だぞ! 言葉を慎み給え!」


 いつもと変わらぬ口調のレイに、隣に立っていた騎士が怒号する。


「まぁまぁ、ティラミスちゃん(・・・)。彼はこう見えてあの闇精霊ルシアと契約した存在。実力は本物よ~ん」

「なっ、なんだとっ!」


 筋肉を動かしつつ片目を閉じるデラウェアの言葉に驚愕の表情となるティラミスと呼ばれた男。どうやら、レイが謁見する詳細を聞かされていなかったらしい。


「ティラミスよ。そういう事だ。リーズが契約しておる精霊シルフ殿の推薦もある。魔族進撃の防衛戦へ備え、彼を加えようと思うのだが、どうだ?」

「なっ、こんな素性も何も分からぬ男を信用しろと言うのですか!?」


 彼の言い分は正論だ。実力も素性も分からない相手を信用しろと言う方が間違っている。通常なら、王の間へ通される事自体が稀なのだ。


「あんたの言い分は分かるさ。なら此処で、俺の力を披露してもいいんだぜ?」

「お前……正気か? 私は現兎耳騎士団(ラビオリウイング)隊長、ティラミス・ウイング・アルバフィールドだぞ?」


 (成程、相手の実力は申し分なしって事だな)

 【やる気ね、レイ】


「じゃあ、こうしましょう。レイちゃんが三分間、ティラミスちゃんの攻撃を全て受け切る(・・・・・・)事が出来たならば、防衛戦へ参加するってのはどう?」

「マ……いや、デラウェア。流石にそれは大丈夫か?」


 デラウェアからの提案に驚いたのは風の勇者リーズだった。その場に居る誰もが目を丸くし驚いている。一人の青年を除いて。


「俺はその条件で構わないよ」

「レイ様……大丈夫ですか?」

「嗚呼、心配ない」


 レイの横でそれまで黙っていたアンが心配そうに彼を見つめるも、レイの揺るぎない表情に安堵する。


「では、この場に居る者が立会人として、レイ殿へ試練を与えるものとする」


 かくして、現兎耳騎士団(ラビオリウイング)騎士団長による試練が始まった。



 ◇◆◇


(まさか……これほどとは思わなかったな)

【ほら~。ワタクシの目に狂いはなかったでしょ~?】


 風の勇者リーズは、心の中でシルフと会話していた。王へ被害が出ないよう風による結界を張った状態で、戦いを観戦すること一分。漆黒の魔剣を顕現させたレイは、騎士団長が繰り出す剣戟全てを受け止めていた。


 風精霊と契約していないとは言え、騎士団長まで登り詰めた男。ランクにして金色のAランク。銀色の剣から繰り出される彼の剣戟は一撃一撃が重みを帯びていた。刃がぶつかり合う度に巻き起こる風。


(まずは小手調べとは言え、中等級(ミドルランク)程度の魔物ならあれだけで真っ二つになっているな)


 リーズは二人の一挙手一投足を具に観察する。シルフの力を扱う事で変則的な動きを加えた攻撃を繰り出すリーズと違い、騎士団長の攻撃スタイルは直線的だった。ただし、力で気圧されるレイの身体は、だんだんと後退していく。


「重いな。流石騎士団長」

「まだまだこんなもんじゃないぞ!」


 力で魔剣を押し上げたところ、足許を掬うように払う一撃。飛び上がりレイが避けたところを狙って横から薙ぐ回転斬り。先程より明らかに変化を加えた動き。しかし、レイも感覚を研ぎ澄ませ、その動きへ喰らいつく。返しに闇闘気(ルーンオーラ)を纏わせた剣戟を放ち、無理矢理彼の身体を引き剥がす。


「残り一分よ!」


 デラウェアの声が王の間へと響く。距離を置いたところで呼吸を整える騎士団長がマントを脱ぎ捨てる。何やらレイへ仕掛けるつもりらしい。


「次で終わりだ。行くぞ」

「嗚呼。来い!」


 刹那、騎士団長ティラミスを纏う空気が変わる。兎耳が立つと同時に白髪が靡く。そして、銀色の剣へ風を纏わせた騎士団長は、その剣をレイへ向かって投げた(・・・)


(投げただとっ!?)


 風を纏った刃は高速回転しつつレイへと迫る。魔剣の刀身へ左手を添えた状態で、刀身を受け止めるレイ。剣に纏った真空の刃は漆黒の軽鎧によって防がれている。しかし、刃を受け止めた状態で、彼は考えていた。


(確かに強力な攻撃だ。だが、この程度なら俺は受け切れると奴なら予測済なのではないか……ならば、本命は……)


 レイはティラミスの本質を見抜く。魔剣に力を籠め、投げつけられた剣を弾く。剣が宙を舞った瞬間、既に眼前へと迫っていた騎士団長。彼の顔を捉える事は出来なかった。なぜなら彼は大盾で視界を隠していたのだから!


「これは」

「そのまま潰れるがいい!」


 ――チャージアタック


 そう、彼はマントで背負う大盾を隠したまま銀色の剣のみで戦っていたのだ。騎士団長ティラミスは、片手剣と大盾による戦闘を得意としている。片手剣のみで仕留められない場合、敵の強力な攻撃が発動される場合、背負う盾が初めて登場するのである。


 魔剣も軽鎧を纏う闇闘気(ルーンオーラ)も関係ない。背後に迫る壁。このまま力で押されては、押し潰される事は必至。ティラミスは勝利を確信し、捨て身覚悟で一気に攻め込む。 


「まだだ」

「なっ!」


 しかし、大盾に押されつつも、レイは冷静だった。顕現させていた魔剣をイメージで瞬時に消失(・・)させ、そのまま大盾の縁を掴み、自身へ引き寄せたまま地面へと背中を預ける。そして、相手の勢いを利用した状態で、右脚を大盾の中央へ乗せ、ティラミスを後方へ投げ飛ばしたのだ。


 そのまま壁へと激突するティラミス。ダメージは少ないものの、結果レイの身体には傷はついておらず、無事三分が経過する事となる。


「はーい、それまで! レイちゃん試練クリア。合格よ~ん!」

「レイ様! やりました~~!」


 デラウェアの合図と共にレイへと駆け寄るアン。喜ぶ二つの果実は上下運動を披露している。


「最後の柔術(・・)。俄かで身に付くものじゃないな。どうやった?」


 立ち上がるレイへ声をかける騎士団長。


「俺は闇精霊と契約する前、あんたと同じ(・・)大盾と剣を使った戦闘スタイルだった。自身が以前使っていた(・・・・・)技の弱点くらい、理解しているさ」

「成程な」


 そう、レイが勇者パーティの一員だった頃の盾と剣を使う、当時の騎士としての戦闘スタイルが酷似していたのだ。大盾で相手を押し潰すチャージアタックと、盾で相手を叩きつけるシールドバッシュ。自身が使っていた技だからこそ、咄嗟にレイはあの投げ(・・)を披露したのである。


 こうしてレイは、無事に風の王にも認められ、魔族による進撃から備える防衛戦のメンバーへ抜擢される事となる。 


 【よかったわね~リーズ。心強い味方が出来たじゃない】

 (私はまだ、彼の実力を認めた訳じゃないからなっ)


 心の中で風精霊シルフと会話しつつ、風の勇者リーズは黙ってレイを見つめるのであった。


【読者の皆様へ】


下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。


お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リーズが落ちる(意味深)のも時間の問題ですねぇ・・・・・・、あとデラウェアさんの存在感の強さが凄まじいです(´ε`;) 更新お疲れ様です、次回も楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ