十四.安心してください、隠れてますから
「ハイハァ~イ。ワタクシがみんな大好き、風の精霊シルフちゃんよ~。よろしくね」
長く艶やかな髪は大きな三日月のように伸び、その上へ浮かぶ風の精霊シルフ。大事なところは目に視える翠色の風が覆っているが、何も身につけていないのではなかろうか?
バニーガール、筋肉兎からの露出魔な風の精霊。今日一日濃厚な料理のフルコースをいただいているかのようなインパクトだ。シルフは周囲を見渡したあと、ソファーに座るエルフに気づき、上半身だけを彼女へ近づけ話しかける。
「あら~~。アンちゃんじゃない~~。前はこんなにちっちゃかったのに大きくなったね~」
「シルフ様、お久し振りです。お陰様で巫女としての力を継いで、頑張っています」
精霊を崇めるエルフの巫女だけあって、シルフはアンの事も幼い頃から知っている仲らしい。
「それにいい男を捕まえたわね」
「え? そんなんじゃないですよぉ~」
弁解しつつ頬と耳を赤らめるアンとレイを交互に見つめ、うんうんと頷くシルフ。シルフと視線が合った事で、レイが頭を下げる。
「冒険者のレイだ。訳あって闇精霊ルシアと契約し、此処に居る。よろしく頼む」
「シルフよ。よろしくねぇ~。……凄いね~君。ちょっとぉ~ルシアぁ~。あなたレベルの精霊が、何心核まで融合させちゃってる訳~?」
どうやらシルフは精霊同士、レイの中に居るルシアと話したいらしい。
「人前であまり呼ばないでもらえる~? 普段は姿を隠しているんだから」
「ルシア数百年ぶり~! 元気にしてた~~?」
突然名前を呼ばれ、シルフがレイの横へ顕現した闇精霊へ手を振る。漆黒の衣に身を包んだルシア。シルフを意識してか、今日はビスチェっぽい衣装ではないらしい。下着姿と風の衣のみの裸体が並ぶと色々とまずいと判断したのだろうか?
「あなたが闇精霊ルシア……。神話の世界の存在と思っていた」
「闇精霊のルシアよ。よろしくね、風の勇者さん」
ルシアが顕現したところで、シルフがようやく話を切り出してくれた。
エルフの族長がレイへ告げた通り、単に四大勇者と言っても、精霊と契約をしている勇者は此処に居る風の勇者リーズと土の勇者ポポロンの二人。火の勇者グラシャスと、水の勇者ロイドは封印。己の武器へ精霊の力を封印し、強制的に縛っているらしい。
「イフリートとウンディーネは苦しんでいるわ。同じ精霊仲間としては救ってあげたいところなんだけどね」
「私は勇者としての使命がある。だから此処から離れる事は出来ない。風の国は今魔族からの侵攻へ備え、厳戒態勢だ。私は奴等を迎え討ち、国を守る使命がある」
リーズとシルフの事情は分かった。そして、エルフの族長が言っていた勇者が火と水の二人であるという事実も。
「なーんだ。簡単なことじゃない。うちのレイが魔族なんか蹴散らしてあげるわよ。そして、火の勇者と水の勇者も懲らしめてあげるわよ」
「ルシアさん名案ですね。レイ様なら魔族の討伐くらい余裕ですねっ」
「それはお断りする」
エルフのアンとルシアが盛り上がっているところで、リーズが立ち上がる。風の勇者へ皆が一斉に注目する。
「君達の手は借りない。これは風の国の問題であり、勇者の問題。此処まで話しておいて悪いが、後は私と国の騎士団でやる」
「いや、俺の問題でもある。勇者の元パーティとして、俺も世界を脅かす魔族討伐を誓っていた。さっき話した通り、火の勇者にも私怨がある。放っておく訳にはいかない」
「そうか、なら火の勇者のところにでもそこの巫女と行けばいい。魔族の討伐は私がやる」
「いや、此処まで話しておいてそれはないだろう」
立ち上がって互いの意見を主張するリーズとレイ。互いに引かない様子に隣でオロオロしているアン。二人の様子を見ていたシルフが何か思いついたのか、手を叩く。
「そうだ! じゃあそこのレイ君を戦いに参戦させるかどうか、風の王に決めてもらいましょう!」
「待つんだシルフ! それはだめだ」
シルフの提案に反対するリーズ。レイは仮にも元銀色――Bランクの冒険者。風の国直轄の兎耳騎士団――ラビリオウイングの傭兵としてなら戦闘に参加出来るのではないかという話だった。それに闇精霊と融合したレイの強さは本物だとシルフは補足する。
「契約だけならまだしも心核が融合なんてレアどころかスーパーレアよ。この力、利用するっきゃないでしょ!」
「シルフ……彼はたまたまこの地に来ただけだ。そんな通りすがりの少年の力なんて借りる訳にはいかない」
「リーズと俺は同じくらいの年齢にも見えるが……。それにたまたまじゃなくこれは運命なんだと思う。魔族が俺の行く手を阻むなら、俺は斬るのみ」
溜息を吐きながら、どうするべきかあぐねいているリーズ。なぜかレイの隣ではアンが、耳を真っ直ぐ立てた状態で、小声で『運命! ……私とレイ様の出逢いもきっと運命……』とぶつぶつ呟いていた。
「話は聞かせてもらったわよぉ~ん♡」
「デラウェア!?」
それまでバックヤードに下がっていた筋肉バニー、デラウェアがホールへと入って来ていた。どうやらバニーだけに聞き耳を立てていたらしい。
「そこのレイちゃん、シルフとあたいが推薦してあげるわよぉ~ん。それなら間違いないでしょう?」
「ママだめだ。此処は私がなんとかする」
「おめーと騎士団だけだと苦戦するかもしれねーって分かってるんだろうリーズ」
「くっ……それは……」
急にドスの利いた声となった筋肉バニーデラウェア。刹那変わった空気にアンの両肩が飛び跳ねていた。リーズと親しいからなのか、このママ色々内情を知っているらしい。リーズは拳を握り締め、下を向く。
「そうねぇ~。デラウェアとワタクシの推薦なら間違いないわね」
「な、なぁ。デラウェア。あんた一体何者なんだ?」
レイがそう質問すると、観念したのかリーズがゆっくり口を開いた。その素性に皆が驚愕する事となる。
「今は現役を引退してママをやっているが、デラウェア・プロティーン。彼女は元Aランク冒険者であり、元兎耳騎士団騎士団長だよ」
「な、なん……だとっ!?」
「さ、という訳で、みんなでデザートを食べましょう♡」
両腕の筋肉をアピールさせつつウインクしたデラウェアが持って来たデザート、メロンサイズの巨大プリンがテーブルの上でプルプルと揺れていた。
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