接触
その男は1年間指導を受けた強いシオン先輩そのものだった。
「かるさばなら来ると思ったよ。」
先輩は昔、お前のカール・サヴァンのヴァって言うのは発音しづらいんだよ、と突然文句を言い出した。
それからシオン先輩は俺のことをかるさばと呼んでいる。
残念ながら、この呼称は流行らなかったが…
「なお、この姿は魔法で視覚化しただけで、実態はないから注意してね。」
アリスが手を伸ばすが先輩の身体をすり抜けた。
なるほど、あの静電気は個人を識別するためのセンサーの役割であり、俺の魔力に反応し、ホログラムのスイッチが入ったのだろう。
用意周到な先輩らしいといえばらしい。
皆が唖然とする中、男はいつもの調子でペラペラと喋りだした。
「まさか僕の研究が政府に目をつけられていたとはねぇ〜、校長にチクられたのかなぁ〜。
僕は事情があってどうやら政府に追われているんだ。
おっと、なぜかは言えないよ。君たちにも危険が及ぶかもしれないからね。」
おおかた検討はつく。
きっと危険な術でも作ったのだろう。
「とはいえ既に学校に役人が潜り込んでる可能性があるんだ。」
珍しく真剣な面持ちで仰った。
「責任持って出頭してください。」
「やだよ〜。殺されるかもしれないじゃん。」
先輩の場合は少しの間、留置所にいた方が世のためではないかと思ったのは俺だけではないはずだ。
「冗談はさて置き、ことは深刻なんだ。念のため警戒しておいてくれ。」
こくこくと頷くアリス。
しかし、政府の役人が校内を歩き廻っていたら、俺らにはわかるだろう。
教員はいない、生徒はたしか200人ほどしか在籍していないはずだ。
となると、先輩と入れ替わりで学園に通うことになった1年生や転校生がスパイとして、入り込んでいるのかもしれない。
最近は平均寿命の低下で優秀なマギは、政府の機関に配属されることがあると聞く。
確かに学園のセキュリティはザルである。
だがシオン先輩を探すためだけに、わざわざ学園にスパイを政府が送るだろうか、一体何したんだあの変人。
「そういう訳で、僕は当分君たちにコンタクトすることはできない。
何か困ったことがあれば2年生の、いや、今は3年生か、ゲッケイ・アヤメを頼ってくれ。
彼女は今学園で最も信頼できる。」
アヤメという女性は確か防衛魔術科の面倒見のよい先輩だ。
1度決闘方式の演習で指導してもらったことがある。
かわいいというより美人で普段はクールだが、分け隔てなく皆に優しいので学園では人気者である。
「わかりました。」
アリスが少し寂しそうに返事をした。
そのアリスをリナリアが心配そうに見つめていた。
「さて、そろそろ行かなくてはならない。その前にかるさばよ。」
シオン先輩が俺を指差した瞬間、俺は白い正方形の空間に閉じ込められた。
共にいたリナリアとアリスはいない。
俺はそのときシオン先輩と二人、恐らく俺の意識の中に存在した。
そして告げられた、ダリアは危険だと。




