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ここから  作者: きさら
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第13話 それでも、あなたが

友達の家に着いた。


一人でいることが怖くて、どうしても誰かにそばにいて欲しかった。


友達に繋と別れたことを話した。


突然別れて欲しいと言われたこと。

元カノとよりを戻したいと言われたこと。

そして私がまだ繋を好きなこと。


不思議なくらい頭は冷え切っていた。


自分でも驚くほど冷静に起きたことを説明していたと思う。


泣き叫ぶわけでもなく取り乱すわけでもない。


まるで他人の話をしているみたいだった。


でも一人になったらどうなるか分からなかった。


「一人じゃ眠れないから、一緒に寝て欲しい」


そうお願いしてその夜は友達と同じ布団で眠った。


翌朝。


いつも通り仕事があった。


友達の家から職場へ向かう。


昨日までと何も変わらない道。


いつもと同じように朝が来た。


でもひとつだけ違っていた。


繋からの連絡がない。


いつもなら仕事に行く前に交わしていた言葉。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


たったそれだけのやり取りが今日はない。


……あぁ。


もう恋人じゃないんだ。


そう思った瞬間涙があふれた。


昨日はあんなに冷静だったのに。


友達にもちゃんと説明できたのに。


たった二つの言葉が交わせないだけでこんなにも苦しくなるなんて。


涙が止まらなかった。


昨日まで当たり前だったことが今日からは当たり前じゃないんだ。


繋はもう私の彼氏じゃない。


その現実がようやく胸に突き刺さった。


付き合った期間は短くても気持ちはとても大きくなっていた、と実感する。


会社に着く頃にはどうにか気持ちを落ち着かせようとしていた。


でも同僚たちはすぐに私の異変に気づいた。


心配してくれる声がありがたかった。


それでも何をしていても頭のどこかには繋がいた。


昨日のことを思い出しては胸が苦しくなる。


それでも仕事はしなくちゃいけない。


何とか一日を乗り切った。


仕事を終えて家に帰るといつも通り猫たちの世話をした。


この子たちには私の恋愛事情なんて関係ない。


ご飯をあげて必要なことを済ませる。


そうしている間だけは少しだけ気が紛れた。


でもやっぱり今夜も一人ではいたくなかった。


私はまた友達の家へ向かった。


その道中だった。


スマホに繋から連絡が入った。


『やっぱり振られました。俺のことは忘れて幸せになってください。』


……え?


思わず画面を見つめた。


振られた?


昨日私を振ってまで戻りたかった相手に?


じゃあまだ望みはあるってこと?


昨日のことを考えれば腹だって立つ。


でもそれ以上に、繋に会いたかった。


私は友達に変更の連絡を入れてから繋にLINEを送った。


『家に行ってもいい?』


返事を待つ時間がやけに長く感じた。


そして繋から了承の返事が届いた。


私は急いで進路を変えた。


向かう先は繋の家。


昨日もう恋人ではなくなった人の家だった。


繋の家に着いた。


部屋の電気はついていなかった。


暗い部屋にテレビの明かりだけが浮かんでいる。


テレビからはYouTubeの音楽が流れていた。


失恋ソングだった。


一曲終わってもまた失恋ソング。


テーブルの上には500mlのビールの空き缶が6本置かれていた。


……何やってるのよ。


昨日私を振ったのは繋なのに。


その繋が今度は失恋して泣いている。


正直、複雑だった。


でもそんな姿を見てもやっぱり私は、この人が好きだった。


そして、私には下心もあった。


今ならもう一度私の方を向いてくれるかもしれない。


弱っている繋のそばにいればまた恋人に戻れるかもしれない。


そんな期待が確かにあった。


私は繋を抱きしめた。


「元カノを忘れるために、私を利用すればいいよ」


以前繋が私に言ってくれた言葉。


あの時は彼は元彼を忘れるために自分を利用してもいいと言ってくれた。


今度は私がそう伝える番だった。


繋は泣いていた。


「こんなクソ野郎だよ?それでも良いの?」


……うん。


知ってる。


昨日嫌というほど思い知らされた。


許せない気持ちだってもちろんある。


それでも…


「それでも良いよ」


私はそう答えた。


だって、愛していたから。


繋は私を抱きしめ返してくれた。


謝る言葉と、ありがとうという言葉を口にしていたと思う。


そして繋が言った。


「こんな俺で良ければまた付き合ってください」


昨日。


この人から、別れて欲しいと言われた。


もう恋人ではいられないのだと思った。


それなのに今、同じ人がもう一度付き合って欲しいと言ってくれている。


嬉しかった。


本当に、嬉しかった。


許せたわけじゃない。


昨日のことをなかったことになんてできない。


それでも、もう一度この人の恋人になれる。


また一緒に過ごせる。


そのことが、どうしようもなく嬉しかった。


もちろん、私の答えは決まっていた。


もう一度、繋と付き合うことになった。


たった一日。


恋人ではなかった時間は、それだけだった。


でも、その一日は私にとってあまりにも長かった。


……ちなみに。


あの時のことは、今でも怒っている。


そりゃそうでしょ?(笑)


好きだからって何でも許せるわけじゃないんだから。


それでもあの夜。


私はまた、繋の隣にいられることが嬉しかった。


そして、そのまま繋の家に泊まることになった。


――第13話 それでも、あなたが 終

とてもツラい思い出でした。

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