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ここから  作者: きさら
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11話 小さな違和感

「えっ、これ繋!?」


思わずアルバムと本人の顔を見比べてしまった。


そこに写っていたのは、今よりずっと幼くて可愛らしい男の子。


……意外と可愛いじゃん!(笑)


もちろん面影はある。


でも、今のちょっと怖そうな雰囲気とは違って、どこか柔らかい顔立ちをしていた。


この日、私は繋の小学校と中学校の卒業アルバムを見せてもらっていた。


付き合い始めてから、まだ一ヶ月と少し。


今の繋のことは少しずつ知ってきたけれど、子どもの頃のことはほとんど知らなかった。


こんなに可愛らしい時代もあったんだなぁ。


なんだか不思議な感じがした。


小学校、中学校とアルバムを見せてもらったけれど、高校の卒業アルバムはなかった。


繋は高校には進学せず、中学校を卒業してすぐに親の仕事を手伝い始めたらしい。


そうだったんだ。


またひとつ繋のことを知れた。


同じように子ども時代を過ごしていても、その後に歩んできた道は人それぞれなんだなぁ。


アルバムの中にいる幼い繋と、今私の隣にいる繋。


その間には私の知らない時間がたくさんある。


これから少しずつ、そんな話も聞いていけたらいいな。


そう思った。


それから数日後。


この日は繋と大分へ出かけることになっていた。


付き合い始めてから、二人でいろんなところへ出かけている。


今回も楽しみだった。


まず向かったのは十文字原展望台。


高い場所から見渡す景色はとても綺麗だった。


遠くまで広がる景色を眺めながら、しばらく二人で過ごした。


こういう場所に来ると、ついつい写真を撮りたくなる。


綺麗な景色もそこにいる繋の姿も。


後から見返した時に、その日のことを思い出せるように。


そんなふうに、二人の思い出が少しずつ増えていくのが嬉しかった。


お昼には大分名物の鶏天を食べた。


せっかく大分に来たんだから、ご当地の美味しいものも食べたい!


景色を楽しんで、美味しいものを食べて。


それだけでも十分楽しい一日だった。


でも、今日の目的はまだまだある。


次に向かったのは、別府の地獄めぐりだった。


最初に訪れたのは血の池地獄。


名前のとおり赤い色をした池が印象的だった。


そんな場所を見て回っていると外国人観光客から声をかけられた。


どうやら写真を撮ってほしいらしい。


……あ、私ですか?(笑)


そういえば私、昔からこういうことを頼まれやすいんだよね。


どうしてだろう。


特別目立つことをしているわけでもないのに。


旅先でもいつもどおり写真撮影を頼まれるなんて、なんだかおかしかった。


写真を撮ってあげてから、私たちは次の場所へ向かった。


今度は龍巻地獄。


ここでは間欠泉を見ることができるらしい。


ただ、いつでも噴き出しているわけではない。


噴出するまで待つ必要があった。


せっかく来たんだし見たい!


そう思って待っていると、ようやく間欠泉が噴き出した。


勢いよく噴き上がるお湯。


「おぉー!」


思わず声が出る。


自然の力ってすごいなぁ。


待った甲斐があった。


……ただ、一つ問題が。


思っていた以上に時間が経ってしまったのだ。


まだまだ見て回りたい場所はあるのに!


ちょっと残念だったけれど、気を取り直して次へ向かった。


その後は海地獄へ。


さらに鬼石坊主地獄にも足を運んだ。


地獄といっても、それぞれ見た目も雰囲気も違っていて面白い。


全部を回る時間はなかったけれど、いくつもの景色を見ることができた。


そして私にはもう一つ楽しみがあった。


卵だ。


私は卵が大好きなのだ。


温泉の蒸気で蒸された卵。


それからプリンもいくつか買った。


こういう場所に来るとついつい食べたくなっちゃう。


いくつか食べ比べてみたけれど、岡本屋の卵が一番美味しかった。


……また食べたいなぁ。(笑)


間欠泉を待っていたせいで、行きたかった場所を全部回ることはできなかった。


それは少し残念だったけれど。


綺麗な景色を見て、鶏天を食べて、地獄めぐりをして。


大好きな卵まで楽しめた。


何より、繋と一緒だった。


今回も楽しい思い出ができたなぁ。


そんなふうに思いながら、一日を終えた。


大分旅行から数日後。


私は風邪を引いてしまった。


近くに住んでいる母に声を掛けて病院へ連れて行ってもらった。


結果はやはり風邪。


薬を飲んで、早く治さないとなぁ。


そんなふうに思っていた。


ところが。


薬を飲んだ私はアナフィラキシーを起こしてしまったのだ。


まさかいつも飲んでた薬でこんなことになるなんて。


救急搬送されることになった。


あの時は本当に死ぬかと思った。


……いや笑い事じゃないんだけどね。(笑)


それくらい怖い出来事だった。


幸い、こうして無事に過ごせているけれど、まさか自分がそんな経験をするとは思ってもいなかった。


私はそのことを繋にもきちんと報告した。


そして、心配だから、とその日から繋と一緒に過ごしていた。


特別なことがなくても、二人で過ごす時間は楽しかった。


いつもどおり、一緒に過ごす日々。


少なくとも私には、何かが大きく変わったようには感じられなかった。


それから数日が経った。


前日の夜も、私たちはいつもと変わらず親密な時間を過ごしていた。


だから、何も疑っていなかった。


翌朝。


いつものように仕事へ向かう繋を見送った。


ただ、その時。


ほんの少しだけ違和感があった。


……あれ?


なんだろう。


何が違ったのかと聞かれても、うまく説明できない。


表情が違ったとか、何か変なことを言われたとか。


そういうわけではなかった。


ただ、何となく。


ホントにただ何となく、いつもと少し違う気がした。


でも、それだけだった。


前日の夜だって、普段と変わらず一緒に過ごしていた。


だから、気のせいかなと思っていた。


そして、お昼休み。


繋からLINEが届いた。


「今日の夜話したいことがある」


その文章を見た瞬間だった。


……別れ話だ。


なぜかそう確信した。


どうしてそう思ったのか、自分でも分からない。


ただ「話したいことがある」と書かれていただけ。


別れようなんて、一言も書いていない。


それなのに。


絶対に別れ話だと思った。


朝のあの違和感が頭をよぎる。


何かあったんだろうか。


私、何かした…?


考えても答えなんて出てこない。


ただ、言いようのない不安だけが胸いっぱいに広がっていった。


どうしよう。


何の話なんだろう。


……いや。


本当はもう分かっている気がした。


でも、分かりたくなかった。


――第11話 小さな違和感 終

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