第3章 潜入の準備と謎のハンター
新キャラクターの名前が登場します。
ヴェルニカとの取引が成立した翌日、直影はノーネームの司令室に呼び出されていた。
「約束通り、例の『二人の特級ハンター』に関する現在判明しているデータを開示するわ」
ヴェルニカが操作するコンソールから、空間に二つのホログラムウィンドウが浮かび上がった。
「まず一人目……名前は『風狼』。人型の肉体に狼の頭部と毛皮を持つ、野性味溢れる獣人の男よ。卓越した身体能力と凄まじい嗅覚を持ち、異世界でのターゲット追跡や生け捕りの実動部隊を率いているわ」
「狼の獣人……風狼か」
画像に映し出された鋭い眼光の男を見つめ、直影の胸の奥がわずかに疼いた。理由は分からないが、その「狼」というキーワードに、どこか懐かしいような、切ない既視感を覚えたからだ。
「そして……もう一人。こちらは自らを『アン』と名乗る女性よ」
二つ目のウィンドウに映し出されたのは、全体がノイズで乱れたシルエットだった。
「アン……?」
「ええ。異世界へ移動するための特殊な方法や抜け道を熟知していると噂されているハンターよ。だけど、その情報が真実なのか、ただの都市伝説なのかすら分かっていないわ。あなたには、彼女に接触してその噂が本当かどうかを確かめてほしいの」
説明を聞いた直影は、片眉を上げてヴェルニカを見つめた。
「要するに……その噂が嘘か本当かを調べろってことか」
「物分かりが良くて助かるわ。確証のない噂を追うのはリスクがあるけれど、もし本当なら彼女こそが次元移動の鍵を握っているわ」
直影は腕を組み、ホログラムを見つめながら深く息を吐いた。
「なるほどな。一方は野性的な追跡者、もう一方は真相不明の鍵を握る女か……。だがヴェルニカ、いくらなんでも無策で俺一人がこの二人を同時に調べるのは無理があるぞ。相手は次元をまたぐ巨大な組織の幹部だ」
直影の至極まっとうな指摘に、ヴェルニカは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ、もちろん丸腰で挑ませる気はないわ。……実は、治安組織の手が届かない下層区画の闇市に、各種族のハンターたちが情報交換や獲物の取引のために集まる『裏の集会所』が存在するの」
「集会所……そこに奴らが現れる可能性があるわけか」
「ええ。だが、当然ながらノーネームの治安維持部隊が入れば一瞬で警戒されるわ。潜入して探るほかないけれど……」
ヴェルニカがそこまで言った時、直影は迷いなく口を開いた。
「潜入なら俺の専門だ。……だが、顔をそのまま出すわけにはいかない。顔立ちや気配、体格すら胡乱にするための『変装の道具』が欲しい」
「変装……? あなた、そんな技術も持っているの?」
ヴェルニカが意外そうに眉を跳ね上げた。記憶を失っているはずの男が、ごく自然に「潜入と変装は自分の専門だ」と言い切ったからだ。
「ああ。頭で理由は説明できないが……手が、体が覚えているんだ。顔の骨格を変えたり、気配を殺して他人に成りすます方法をな」
「本当に……底が知れない男ね、あなたは」
ヴェルニカは感心したように首を振ると、一枚のデータアクセスキーを直影に手渡した。
「いいわ。なら、あなたの期待に応えられる『協力者』を紹介するわ。ノーネームの技術区画の隅に工房を構える、偏屈な発明家よ。彼女のところへ行きなさい。潜入に必要な機材でも何でも、腕に見合うものを用意してくれるはずよ」
「発明家か。助かるよ」
アクセスキーを受け取った直影は、自分の両手を見つめた。
(変装、潜入、生け捕り……俺は一体、過去にどんな修業を積んできたんだ……?)
失われた過去の残像を胸に抱きながら、直影は新たな協力者が待つ技術区画の工房へと足を進めるのだった。
ハンターとは?何者?それは読んでからのお楽しみ!




