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神クラフトでシブヤを統べる ~死亡十二秒前、パシリに転生した異世界の覇王は、平穏な高校生活を送りたい~  作者: トール
第二章:配信、伏線、そして影編

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第016話:氷の刃、来訪す

 


 1. 生徒名簿の先に


 零の端末に、渋谷代々木学園高等部三年、佐藤徹の名が表示される。ゴブリンキング討伐時の不鮮明な映像と、学園の生徒名簿を数日がかりで照合させた末の結果だった。


「――見つけた」


 零の行動は早かった。放課後、彼女はジャンクショップの扉を、迷いなく開けた。


 2. 初対面


「お前が、トール」


 いきなりの断定に、トールは片眉を上げた。作業台から顔を上げると、そこには見覚えのある、氷のような瞳の少女が立っていた。


「……誰だ、お前」


「神城零。単刀直入に言う。私にも、あの子と同じ装備を」


 トールは面倒くさそうにため息をついた。


「順番待ちしろ。名乗りもせず来た客に、優先権はねえよ」


「今、名乗った」


「名乗ったのは今さっきだろうが。順番はその前から始まってんだよ」


 零は珍しく、言葉に詰まった。理詰めで返されることに、あまり慣れていないらしい。


 3. 零の渇望


「……A級止まりなの、私。プラネットダイブスーツをもってしても、その先に届かない」


 淡々とした声の底に、微かな焦りが滲んでいた。


「頂点にいるはずなのに、頂点じゃない。その差を、埋めたい」


「……そりゃまた、贅沢な悩みだな」


「贅沢、で片付けられる悩みなら、とっくに解決してる」


 零の声に、初めて棘が混じった。トールは、その横顔にどこか覚えがある気がした。かつて、頂点を目指し続けた自分自身の姿と。


(……こいつも、似た者同士か)


 4. 保留、という返事


「……検討はしてやる。だが、今すぐは無理だ。順番ってもんがある」


「いつまで?」


「知るか。気長に待て」


 素っ気ない返事に、零はしかし、なぜか小さく笑った。


「……悪くない返事。待つわ」


「待つって言った奴が、明日また来たりしないだろうな」


「さあ、どうかしら」


 零が身を翻し、扉に手をかけたその時、トールは思わず声をかけていた。


(……この女、凜をあそこまで押し上げた立役者の一人でもあるんだよな)


 渋々ながらも、その事実だけは認めざるを得なかった。装備を今すぐ作ってやる気はないが、せめて相応の礼くらいはしてやってもいい。


「――待て」


 零が振り返る。


「装備の話は保留だ。だが、お前のデータが欲しい。ラボに問い合わせか?」


「いや、それはだめだ。今ここで測定してほしい」


 食い気味の即答に、トールは片眉を上げた。


「随分と嫌ってんだな、そのラボとやらを」


「……色々と、事情がある」


 零の声が、わずかに硬くなった。踏み込むべきではない領域だと、トールは経験的に察する。


「……まあいい。そこに突っ立ってろ」


 トールは鑑定眼を起動し、零の全身へと意識を巡らせる。


 《――生体反応、部分的に異常値。頭部・胸部・腹部・左腕は生体組織。右腕・腰部・下肢は非生体――高精度アクチュエータ駆動》


(……これは、随分と大掛かりな改造だな)


 《魔力循環効率:既存個体と比較し著しく高い。ただし循環経路の一部が機械部位を経由しており、純粋な生体循環とは性質が異なる》


 《エネルギー系統:生体由来(食事)と、外部補給(携行式エネルギーパック)のデュアル方式。機械部位の駆動出力は主にパック依存》


 トールは思わず口笛を吹きそうになるのを堪えた。噂に聞くプラネットダイブスーツの性能どころではない。この女自身が、歩く高性能装備そのものだった。


「……お前、一体何なんだ」


「――さあ、何でしょうね」


 零は表情を変えないまま、はぐらかすように目を逸らした。だが、その氷のような瞳の奥に、一瞬だけ、何かに怯えるような色がよぎったのを、トールは見逃さなかった。


「……まあいい。今日のところは、これで十分だ」


 トールはそう言って、鑑定眼を解除した。零は小さく頭を下げ、今度こそ静かに店を後にした。


 残された膨大なデータを前に、トールはしばらく考え込んだ。


(あの女、ただの負けず嫌いなA級探索者、って線じゃねえな……)


 トールは肩をすくめ、増える一方の「客」の数に、静かにため息をついた。新たな謎と依頼人が、静かにトールの日常へと足を踏み入れた。


 零の姿が完全に見えなくなってから、トールはようやく作業台に向き直った。頭の中では、既に先ほどの測定データが渦を巻いている。


「右腕が生身の身体についているのか……。外骨格で保護して、力が逃げない工夫をする必要があるのかな。とすると腰部と右腕を覆う外骨格……うーん、半そでのレオタードスーツを、プラネットダイブスーツの下に着こませるか?」


 独り言のように呟きながら、手元のメモ用紙に殴り書きが増えていく。継ぎ目一点への的確な補強――派手さのない、けれど確実に効く仕事。ちょうど、凜の得物を仕上げた時と同じ手触りだった。


「……ま、暇潰しにはなるか」


 面倒くさそうに言いながらも、トールの手はもう止まらなかった。




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