第十四話「ざまぁと溺愛は同じ日に来た」
翌日、王都から使者が来た。
ルーチェが朝の作業を始めようとしたところに、見慣れない紋章の馬車が村の入り口に止まった。
降りてきたのは、壮年の男だった。
「アルヴィス家のルーチェ嬢はご在宅でしょうか」
「私ですが」
「シュタイン子爵家より参りました。緊急の御用がございまして」
シュタイン子爵家——ロデリックの実家だ。ルーチェは何の話かを整理しながら、使者を村の入り口脇に案内した。
「先日、当家のロデリック様がこちらを訪問されたかと存じます」
「はい」
「実は……ロデリック様の侯爵家との縁談が、先方の都合で破談となりまして」
ルーチェは少し考えた。ロデリックが来たとき、「新しい婚約相手が侯爵家の縁戚の令嬢で」と言っていた。それが破談になったということか。
「それは大変でしたね」
「それで……アルヴィス家との縁談を改めて検討していただけないかと」
「アルヴィス家、というのは」
「あなたのことです、嬢。ロデリック様が、あなたのご活躍を拝見して……改めてお傍に置きたいと」
ルーチェは少し間を置いた。
つまり侯爵家との縁談が破断になったので、代わりにルーチェをまた使おうということだ。婚約破棄したときと同じ理由——都合のいい付与術師として。
「お断りします」
「ですが——」
「失礼します」
低い声が、横から聞こえた。
エドガーだった。今日は視察の予定があったはずで、少し早く着いたらしい。後ろにフィリップがいる。
エドガーが使者の前に立った。
「アルヴィス術師は現在、ハーヴェイ侯爵領の専属付与術師として契約の内諾を得ています。シュタイン家からの申し出は、お受けできません」
ルーチェが目を丸くした。
「…………それは」
エドガーがルーチェだけに聞こえる声で言った。
「昨夜、決まったことだ」
ルーチェは固まった。昨夜、丘の上で——告白をされた夜だ。
「あの、私は了承した覚えが」
「返事は全部聞いていた」
「全部は言えていないと思いますが」
「言えていた分で十分だ」
エドガーが前を向いた。使者に向かって、静かに言った。
「ご用件はそれだけですか」
使者が青ざめて「は、はい、失礼いたしました」と一礼して、馬車に乗り込んだ。あっという間に走り去った。
静かになった村の入り口で、ルーチェはまだ固まっていた。
「専属付与術師、というのは」
「その通りの意味だ」
「それは……求婚では」
「そうだ」
エドガーが、さらりと言った。
その声が、村に届いた。
「——求婚!?」
グレタの声が飛んだ。
「専属付与術師って、それ求婚じゃないか!」
グレタの声は大きい。気づけば村の住民全員が外に出ていた。カルロス、ベルト、シルビア、ダルク、ニコ、子どもたち——全員がこちらを見ている。
エドガーが全員に向かって、静かに言った。
「そうだ」
歓声が上がった。
カルロスが「やったー」と叫んだ。ベルトとシルビアが拍手した。ダルクが帽子を投げた。子どもたちが走り回った。ニコが珍しく、ちゃんと笑っていた。グレタが「わしが一番最初に気づいたぞ」と言っていた。
その中でルーチェだけが、真っ赤な顔で立っていた。
「……皆さんの前で言うことでしたか」
「隠す理由がない」
「私の返事がまだですが」
「聞く」
エドガーがルーチェを見た。
静かな目だった。急かしていない。でもちゃんと、待っている目だった。
「正式な返事を——」
エドガーが言いかけた瞬間、ルーチェは先に口を開いていた。
「はい」
また歓声が上がった。
ルーチェの顔はさらに赤くなった。




