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無慈悲な神が支配する

地鳴りのような音がする。ライチは慌てて立ち上がった。セシルも寝起きのようにゆったり起き上がる。


「なんの音だ」


「セシル……!」


ジーナがこちらに気づくとよろけながら走ってきた。セシルの顔を眺め、「良かった」と息を吐く。


「生き返ったのね」


「ああ。不思議な感じだ。少しも動けないのに意識があって全部見れてた。

……ニコのこともな」


ケイトに今にも殺されそうなニコを彼は悲しそうに見つめている。


「お前にも守護をかけてたのに」


「そうね。何本かは弾いていたわよ」


セシルはジーナの肩を叩き、彼女は痛みで顔を顰めた。振動が伝わってしまったらしい。


「触らないで……」


「悪い。いま守護掛け直したから」


セシルがライチの頭に触れる。優しい手つきだ。


「お前にも」


「あ……」


胸が暖かくなったかと思うと、腕の熱が消えていった。

刑は完全に取り除かれた。

驚いて両腕を見つめているとセシルに抱きしめられる。ライチも抱きしめ返した。

ずっと求めていた暖かさがそこにあった。

嬉しくて涙が溢れる。ライチは初めて自分の力で大事なものを蘇らせることができた。


「……さて、続きは後にするとして」


彼は名残惜しそうにライチの体を離し、ケイトに捕らえられたままのニコの方に歩み寄る。


「ニコ。俺には嘘をつかないって約束忘れたのか」


「そうだったかもね……」


彼は柔和な顔をくしゃくしゃにして笑う。自分の悪事が見つかって笑う悪戯っ子のような表情だった。


「君は彼をどうするつもりだ……?」


「……離してください」


ケイトは不満そうな顔をする。けれどセシルがもう一度、頭を下げてお願いするとあっさり縄を解いた。


「殺さないの?」


雪の上に倒れ咳き込みながらニコは見上げる。ライチもセシルを見上げた。


「殺さない。

お前がしてきたことは最初から分かってた。ライチまで信者だったのは知らなかったが……。

……お前がどう思ってるのか知らないが俺はお前のこと仲間だと思ってる……」


「……フリーズのこと嘘ついたのに」


「そうだな」


セシルは一瞬泣きそうな顔をした。

しかしすぐに口を結び、手を伸ばしニコの腕を掴んで引っ張り上げる。

ニコは呆然と彼を見た。


「僕を許すの?」


「……何か来てる」


セシルがニコの質問に答えないで真っ直ぐ前方を指さした。

地鳴りのような音は止まない。

黒い、何かがこちらにやって来ている。


「……群れだ。鐘楼に近付けるのか?」


化け物たちは殺気を放ちながら街を走る。

その光景にライチの全身が粟立つ。慌ててレオの方を振り返り彼女を見据えた。


「レオ。あれは何。どういうこと」


ライチは大股でレオに近づく。

責める彼女の言葉にレオはお腹を押さえながら立ち上がる。


「……もう、終わりにします。侵略者の塔を壊して……侵略者を、引き摺り出す」


侵略者の塔とは鐘楼のことだろう。それを壊せば女神がやってくる?


「遺骨を回収し終わったらすぐに動けるよう、ここに力のある墓守を何人も配置していました。

手始めにこの街から壊します」


「街を?」


どういうことだ。ライチはレオの腕を指先が白くなるほどの強さで掴む。


「私たちに何もしないって……!」


「正確に言おうか。

不死身になるケイトとマックィーン二人には関係ないって言ったんだよ。お前たちは死ぬ!」


するりと力が抜ける。そういうことか。

彼女の目的が今わかった。

遺骨を集め終わった彼女は今度は侵略者である女神、そしてその駒のライチたちを殺すのだ。

群れを放ち鐘楼を壊し、世界を取り戻すこと。


「そんなことさせない!」


「させない? ならどうするつもりですか?

あなたに何ができる」


レオはライチの無力さをニヤニヤ笑う。

その通りだ。ライチに力は無い。あるのは蘇生させる力……。


ふと彼女は頭を上げた。そうだ。自分は蘇生の力がある。


「……ごめん」


「何を謝っているのです? あなたの罪は謝ったところで……」


「違う。これからすること。ごめんね」


ライチは彼女から手を離した。そして吊り下げられている遺骨に走る。

レオが気付いた。喉の口が「やめろ!」と叫ぶ。傷を堪えながらズルズルと追いかけて来る。

だがライチは足を止めない。今までライチが何度やめてと言ってもやめてくれなかったじゃないか。


レオは荒い息をし黒い体液を撒き散らしながら近づいて来る。それでもライチが遺骨に触れる方が早かった。


「起きて、くれますか」


遺骨にそう問いかける。

ケイトの縄が緩んだ。雪の上に骨がバラバラに散る。

そして視界が真っ暗になった。


*


何が起こったのだろう。

ゆっくり目を開ける。

雪も鐘楼も無く、真っ暗な空間にライチは立っていた。

セシルたちの姿は見えない。けれど唖然とした表情のレオと化け物の群れは真っ暗な床に立っていた。


「馬鹿なことを」


頭上から声がして彼女は深い深い暗闇の空を見上げる。

巨大な化け物が立っていた。三つの頭に黒いヌラヌラとした肌に針金のような腕が六本生えている。


「……あなたは」


ライチの問いにそれは答えなかった。鐘楼を忌々しげに見下ろしている。


「私の世界を穢してくれたな」


男と、女と、子供が混ざった異質な声だった。これがこの世界の真の神。

三つの頭の一つがこちらに向く。


「さて、お前も何をしでかしてくれたのか。理解できないな」


「すみません」


咄嗟に謝ったがどのことを責められているのだろう。

遺骨をバラバラにしたこと? レオにしたこと? 蘇らせたこと? その全て?


「良い、良い。はあ。せっかく死んでいたのに。

墓守たちは何をしているのか」


神は群れの方へ腕を伸ばすと化け物を一匹手にとった。

巨大な手の上では化け物は小さく見える。


「……侵略者を殺すのか。はあ、だけどお前たちにこれ以上期待はしていない」


面倒そうに呟いた神はライチに手を伸ばす。


「侵略者の体を持っているな」


「え?」


「手首に巻いているものだ」


ライチは慌てて御石を巨大な手に乗せる。神はそれをつまむとぐしゃりと握りつぶした。

どこからか悲鳴が聞こえてくる。


「こちらの寝込みを襲うとは随分品が無い」


巨木のような六本の腕が広げられる。そして何かを閉じるように、祈るように、対の手を合わせた。

キンと耳鳴りがし目眩に襲われる。

ライチはその場に倒れ込んだ。


「いくつかは取りこぼしたかもしれないが、もう力は無い。後はお前たちがなんとかしろ」


なんとかと言われても。

何が起こったのかライチにはわからない。それでも神に説明する気は無いようでだらんと気怠げに腕を下ろしている。


「もう良いな。はあ、こんな汚いところじゃ寝てられない。別の墓を探すか……」


「どうするつもりですか?」


「別の墓を探すと言っただろ」


馬鹿じゃないのかとでも言いたそうに神は声を上げる。


「この世界は?」


「良い、良い。こんな穢したんだ。

もうお前たちが使えば良い。ここで勝手に死んでろ」


「私たちを殺さないのですか?」


「殺して欲しいのか」


「まさか。ただ私は人を殺して……レオ、あなたの墓守を傷つけた」


神の姿を見た時、あまりにも化け物に似ていると思った。

これはあちら側の神なのだから当然だ。だからこそ遺骨をばら撒きレオを怒らせたライチはただじゃ済まないだろうと思った。


「どうでもいいな」


そう、神は呆れた声を出す。


「一つ、言っておくが……。お前たちが何をしてようとこちらには関係無い。

墓守は墓守だ。職務を全うしてればなんでもいい。殺し合いでもなんでもしてろ。

瑣末なことに関わる気は無い」


冷めた言葉にライチはなぜか悲しくなった。

レオはあれだけ必死になって遺骨を集めていたのに。

偽物のニコの方がよほど慈愛に満ちた言葉をくれた。

彼女はこっそりとレオの顔を伺う。彼女は定まらない視線を神に向けるだけだ。


「墓守はあなたを愛しているのに」


「当然だ。あれは私の駒なのだから」


「え?」


「わからないか? 墓守もお前たちも同じだ。単なる駒。

神と名付けられた我々が好き勝手できる存在だよ」


悲しみを通り越して虚しさすら感じる。

ライチは頭を下げ、そうですか、とつぶやいた。

私たちは駒などではないのに。


真の神とはライチがずっと描いていたものとは随分違っていたらしい。

だが当然なのかもしれない。彼女の、人間の望み描いた神をニコラスは再現していただけに過ぎない。

実際の神は慈愛もなく、つまらなさそうに盤上遊戯に興じているだけだ。


「はあ、くだらない話に付き合わされたな」


それだけ言うと視界が、今度は白くなった。

目の前が回転する。


*


「ライチ!!」


気が付くと彼女は雪の上に寝ていた。

セシルの顔が視界に飛び込んでくる。


「……あれ……」


なぜ寝てるんだろう? 彼女は寝転がりながら周りを見る。

ニコもジーナもケイトもマックィーンも怪訝そうに、あるいは心配そうにライチを見ていた。


「遺骨に触ってぶっ倒れたんだよ」


身を起こし遺骨の縄を辿る。天から降りる縄には何も吊るされていない。

手首に視線を下ろすと御石も無くなっている。


「何が」


「こっちが聞きたいよ。ライチが倒れたと思ったら耳鳴りがして御石が砕けて遺骨は無くなって」


セシルが遠くを指さす。化け物たちの群れはこちらに近づきもせず街の反対側に向かっている。


「突然動きが止まって、あっちに行き出した」


「……レオは?」


群れの中に彼女の姿は見えない。

セシルは無言で雪の中に座り込む彼女を指差す。レオは呆然と群れを見つめていた。

その顔に覇気は無い。


「……神は私を置いて行くのですね」


ライチを見ようともせずに彼女は呟く。


「追いかけないの」


「私は墓守でも駒でもありませんから」


今の彼女は抜け殻のようだ。

薄紫色の髪が風にはためく。ライチはレオの髪に白いものが混じっていることに気が付いた。

人間とは違う体を持っていても途方もない時間を過ごし彼女は老い始めていた。


やり方はともかく彼女は彼女なりの正義を持って行動していた。救いを求めてただ彷徨うライチやマックィーンとは違う。だが今、遺骨と墓場を守ろうとしたレオの行動は無に帰した。

ライチはレオがこのまま潰れちゃうんじゃないかと思ったが、ページの呻き声を聞くとゆっくり立ち上がった。


「ページ」


「……レオ。こんな痛い目にあうなんて聞いてないんすけど」


「すみませんね」


彼女はページの脇の下に腕を入れ持ち上げる。


「治療してくれる人のところ行きましょうか」


「足引きずんないで……傷に響く」


「文句言わないでください」


レオの暗い目がライチを見た。

怒りは消えたのか、はたまた鳴りを潜めているだけなのか。ただもう喉の口は罵って来ない。


「さようなら」


怒っても殺してこようともしない彼女に接するのは初めてでライチはなんと返事をするべきか戸惑う。

なんとか「さようなら」と同じ言葉を絞り出した。

けれどレオはもうこちらを見ていない。

痛い痛いと喚くページを面倒そうに抱き上げて街の出口へ進み出した。

ぼんやり二人を眺めているとセシルに肩を叩かれた。


「何があったのか話してくれるか?」


四対の目がライチを見ている。

この世界に神はもういない。まずはその話をすることにした。

[補足]

この世界の神と女神は同じ存在ですごいpowerがある。

レオたち化け物とライチたちも同じ存在で上位存在にpowerを少しだけ与えられた弱い生き物。

神・女神たちはレオライチたち弱い生き物を使って土地取り合戦をずっとしている。

レオライチたちが神と呼んでるだけで、セシルが信じてる神とは違う傲慢な存在。

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