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いつまでもしつこく執拗に追いかけてくる

2人はすぐに追い付くだろうか。

セシルは地面を踏み締め後ろを振り返らないように歩いた。

守護の祝福が2人にはかかっている。相当なことが無ければフリーズは無事なはずだ。

……相当なこと。

それが今起こってるんじゃないだろうか。

嫌な想像が頭から離れない。


けれど振り返るわけにはいかない。振り返ったら、その瞬間セシルはオニツカ達の方へ走り出してしまいそうだから。

今はライチを救い、化け物をどうにかしなくては。化け物をどうにかしない限り安全は訪れない。

吐き気を催すほどに血の匂いが辺りに充満している。

この中に彼らの血が一滴も混ざっていませんように。


「なんでこんな……。

ねえ、あなたは何か知ってるんじゃないですか?」


普段は気丈なジーナもさすがに動揺を隠せないらしく声が震えていた。


「何かって」


「あの群れのこととか……ライチのこととか」


マックィーンは僅かに歩く速度を緩めた。


「群れのことは知らない。あんなのがいるって知ってたらコムも連れてきたよ」


「ライチのことは。

あんた、アイツの祝福を知ってたのか?」


彼はセシルの問いに短く「ああ」と答える。


「……ライチの祝福は誰かを蘇らせるものなんだな」


「そうだ。

でも俺が知る限り蘇生は成功したことがない。いつも歪んで蘇生される。

……そのせいで酷いことになった。俺はその場にいたわけじゃないんだが、蘇生に失敗して顔の真ん中に穴が空いてる奴だとか、首が異常に伸びた奴だとか、そういうのはたくさん見た。

結局もう一度殺すしかない。

だからアイツは自分の祝福を誰にも話さないんだと思う」


話す声も表情も淡々としているが赤い腕が落ち着かない様子で拳を作っては広げている。

かつて聞いた死者が蘇った遠くの街の話を思い出す。おそらくそれはライチが蘇らせたのだ。

だがうまくいかなかった……。


「……歪んで……そう、なんだ」


ニコは悲しそうに息を吐く。


「どうして失敗しちゃうんだろう」


「信仰心を捨てられないから。この世界は女神以外を信仰してはならない。

女神以外の神を信じていれば祝福を施せなくなる」


やはりそうなのか。

セシルは首にかかっていた十字架を指で探る。ケイトとの一件で曲がってしまったが捨てられず首にかけたままにしている。


「信仰を捨てられれば蘇生はうまくいく……」


「そういうことになるな。そんな簡単な話じゃないだろうが」


「……早くライチを助けないと」


「うん。そうだね。急ごう」


不安げに揺れる彼女の瞳を思い出すと胸が締め付けられる。

ライチはこの世界で、使えない祝福と望まない刑を抱え長いこと生きてきてしまった。


「どうせあいつは死なないんだ。焦らなくていいだろう。それより自分たちの身を案じた方がいいんじゃないか。

あんな化け物の群れどう対処するつもりなんだ」


そんなのセシルがわかるわけがない。

ただ、ルパートにいる化け物とあの群れが合流すれば今までにない脅威になることはわかっている。

今なら間に合うかもしれない。合流する前に遺骨の力で化け物を殺せれば……。

……そんなのは理想に過ぎない。


「こんなめちゃくちゃな世界で予測なんか立てても無意味でしょう。

大丈夫、私の巻き戻しの力もあれば、ニコの力もある。それにあなたの守護の力があればまず死なないわ」


ジーナが急かすように背中を押す。

彼女の手のひらの感触を感じ、何があろうと仲間を死なせないという想いが強くなる。


「マックィーンさん」


「なんだ」


「あんたにも守護の祝福を」


「どうせ死なない」


「死ななくても傷は受けるでしょう」


マックィーンの返事を待たずに彼に祝福を施す。

彼には悪いが、あれだけ強いのだ。何かあった時は囮か盾になってもらえる。


一行は死体に彩られた道を駆け抜け、ついにルパートの街に到着した。

街には細かな雪が降り辺りを白く染めている。だだ道の中央は何かが這いずった赤黒い跡が雪を溶かしていた。

懐かしさを感じる冷たい風がセシルに向かって吹いてくる。

不思議と寒さは感じない。焦りがあるからだろうか。


「酷い匂いだ」


化け物はここでも暴れているのだろうか。

血の匂いがあちこちから漂ってくる。

住人たちは避難しているのか殺されたのか、姿が見えない。


「この先にライチが……」


ニコは黒い道を真っ直ぐ見つめている。


「なんで化け物はライチを殺さずに捕まえたのかしら……」


「ああ。化け物の目的はなんなんだ?

何が目的で群れになった……」


その答えがわかるはずもなく、雪の隙間から街を見る。

ふと、汚されていないはずの白い道にポツンと赤いものが見えた。

あそこにも化け物が来て人を殺したのかもしれない。

セシルはゆっくりとそこに近づく。


男が死んでいた。内臓が地面に並べられている。

……化け物がやったとは思えない。なんだこれは……。


「ヴィヴィアンがいるみたいだな」


マックィーンは当然といった様子でいる。


「ヴィ……!?まさか」


「殺し方が特徴的だからすぐわかる。内臓を引き摺り出すのが好きなんだ。

あいつもいて化け物もいるんじゃこの街はほとんど人がいないだろうな」


「そうじゃなくて!

ここにいるのか!?」


「そりゃそうだろ」


マックィーンはジーナに目を向けた。彼女は真っ青な顔をして死体を見つめている。


「大丈夫?」


「平気……」


首を振る彼女だがニコに肩をさすられると背中を丸め顔を覆った。体は震え唇からは呪詛の言葉が漏れていた。


「ジェイコブスが……ここにジーナがいるのは危ないんじゃない?

彼女だけでもサージの街まで戻すべきじゃ」


「私は平気よ」


「無茶しない方がいい。

そうだ、マックィーンに送ってもらおう。その間に僕たちで先の様子を伺って……」


「そうやって分断させて、何考えてるのかしら」


背後から可憐な少女の声がする。

その声がした途端セシルの背筋が粟立った。


「ジェイコブス……!!」


いつの間に側に来ていたのだろう。青白い顔のジェイコブスが雪の舞う街に立っていた。

彼はジーナを見るとにっこりと微笑んだ。対照的にジーナは口汚くジェイコブスを罵り、今にも殺さんばかりの勢いで彼に詰め寄っていく。


「あなた、何しにここに来たの!?」


「呼ばれた気がしたんだけど」


「呼ぶわけない!!」


ジーナの平手が少女目掛けて振り下ろされる。だがあっさりとそれを避けたジェイコブスは死体に近づきそれに腰掛けた。


「少し話があるんだ。ちょっといいかな」


「いいわけないでしょ!

あなたなんかと何も話すことなんかないわ。そうでなくても今、化け物の群れが来てるって言うのに」


「え? ああ、大丈夫でしょ」


「大丈夫じゃない!! ライチが……」


「まあまあ、落ち着いて。

それよりジーナに話があるんだ。来て」


彼はジーナに向かって手を伸ばした。


「行かせるわけないだろ」


セシルは慌てて二人の間に割って入る。

この男何を考えている。


「あら? そう……。

この群れを先導していた人のこと教えてあげるけど……あと、お前の女のことも。

知りたいでしょ?」


思わぬ言葉にセシルは動きを止める。

先導していた人というのは群れは人が作り出していたというのか?

それにお前の女とはライチのことか……?


「どういうことだ?」


「どういうことでしょう。知りたいよね? ジーナが来てくれるなら教えてあげる」


「適当言ってジーナを攫うつもり?」


ニコが睨みつけるとジェイコブスは体をのけぞらせて笑う。


「お前じゃないんだからそんな嘘つかないよ。

あのね、僕ジーナが来るって言うから少し早くここに来てたんだ。あの群れが来るよりもずっと前に。

それで群れのことも捕まってる女も見てたよ」


「……いいわよ、少しだけなら話を聞くわ」


「ジーナ!?」


「今は時間がないでしょう……。ただしあなたとずっといるつもりはない。

話が終わったらすぐに解放して」


「いや、行かせるわけには」


「……セシル。祝福はジーナにかけてる?」


当たり前だろうと頷く。人も化け物も彼女を傷つけることは叶わない。


「ジーナがそれでいいというなら、行かせるべきなんじゃないかな。

今は情報が欲しい」


「だけどあいつは……。見ろ、人を殺すだけじゃなくてそれを椅子にするような奴なんだぞ」


ジェイコブスは大量の血を流し動かなくなった男の背中に座り、地面に並べられた内臓を踏み潰している。


「異常だね。でもジーナには手は出さないはずだ。今まで何もしてこなかった」


「今までの話だろ」


「セシル……。全部を守ろうって言うのは無理な話なんだ」


お前がそれを言うのか。

セシルは緑の目を見開く。

大切なものを失うということがどんなことか彼は知っているはずなのに。


「ジェイコブス。どこに行けばいいの」


「あら? まだ豹男は納得してないみたいだけど?」


「いいのよ。ここでゴネてる時間は無い。

だから早く情報を教えて」


「ジーナ! お前、あんなにジェイコブスのこと殺したがってたじゃないか!」


「……あなた一人で全部を守ろうとするのは無理。ニコの言う通りよ。

私は自分の身は自分で守れる。だから」


これ以上セシルは何も言えなかった。

セシルの気持ちは単なるわがままなのだろうか。ただ危険なところに行ってほしくないだけだ。

フリーズにもオニツカにもジーナにも。


「……ジーナはなんであんな男を信頼するのかな……」


「お前よりは信頼できるだろ」


「そうかしら?」


「で? 群れを先導してた奴ってのは?」


マックィーンが聞くとジェイコブスは一瞬、セシルを見た。


「……いいね?」


彼が何も言わないでいるとそのまま言葉を続ける。


「二人組だった。僕の銃を作ってくれた金髪の男と紫の髪の女」


どちらもセシルには覚えは無い。ジーナもニコも特に反応は無かった。

だがマックィーンは眉をひそめ「紫の髪の女」と繰り返した。


「なんだ、知ってるの?」


「多分女の方はレオだ。ページっていう金髪の男といるのを見た」


どちらの名前にも聞き覚えは無い。セシルはニコとジーナの顔を見た。

二人も眉を寄せマックィーンを見上げている。


「知り合いなんですか?」


「俺はそこまで話したことはない。

ライチに付き纏っていたしケイト様にもちょっかいを出すから知ってるだけだ」


「ふーん。あの焼死体にねえ……。

何がしたいのかしら?」


「遺骨を探してる」


セシルは腰のポーチに入れている遺骨を無意識に触っていた。

大体の面倒はコレが引き起こす。


「遺骨を使って群れを操るとは……俺はできなかったのに、随分器用な奴ですね。

しかし討伐チームでそんな名前聞いたことない。もっと上の奴らですか」


「……遺骨が無くても化け物を誘導できるし、そもそもアレが化け物を殺すところは見たことない。

祝福も刑も無い。

ただずっと遺骨を追い掛けてる」


マックィーンの言葉が理解できない。セシルたちのように化け物を殺す必要が無い? 祝福と刑が無く化け物を誘導できる……?

それは自分たちと同じ存在なのだろうか?


「……なんでそんなのにライチは付き纏われた?」


「さあ。ずっとライチに遺骨を探すように命令してる。

アイツにそんなことできるわけないのにな」


彼は憐れみの篭もった声で呟いた。

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