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終わらない後始末

血塗れのマックィーンとケイトを回収し、コムは一息ついた。

嫌がるヴィヴィアンに無理矢理マックィーンの内臓を詰めさせたが彼は未だに動こうとしない。

蘇生に時間が掛かるのだろう。


「なんで僕が人の内臓なんか触らなきゃいけないわけ」


彼はケイトの明かりを頼りに内臓を探る。火の光が金属の耳を照らす。

完璧なシンメトリーの耳はヴィヴィアンの中で唯一好きな部分だ。


「お前がチームの奴ら皆殺しにさせたから人手が足りない」


重たい荷物を抱えなおしてコムは低い声で答える。


「そうだっけ……」


ヴィヴィアンは不思議そうに首を傾げていた。何をすっとぼけているのだろう。それとも本当に覚えていないのだろうか。

この男の異常性にはついていけない。


「僕の耳この中にあったり」


小さい手で散らばった内臓を持ち上げている彼に「咀嚼してたから諦めろ」と伝える。


「それで、どこに行くんだったかしら」


「ビスだ」


ほんの少し前に説明したはずだが彼は聞いていなかったらしい。いつものことだが嫌な男だと思う。


「僕も行くの?」


「…… 君の耳が……なぜ無いのか……君が連れてきたチームの人が、なぜいないのか……話を聞かないとな」


「んー。そこで死んでる男に聞いた方が早いかと」


ケイトがゆるゆると立ち上がりマックィーンの胴と足を縄で吊るした。運ぶつもりらしい。


「歩きながら……話そうか……」


3人と一つの死体は歩き出す。コムはこれまでに何があったか懇切丁寧にケイトに聞かせた。ヴィヴィアンのしでかしを聞くたび彼女は低く呻く。


「……つまり……君は、ひとりの女性に付き纏うために、コムの知り合いを洗脳し……無関係な、人たちに攻撃を仕掛け……今まで増やしてたチームの人間を皆殺しにした……そういうことだな?」


「僕の認識とはだいぶ違いますね」


彼はまっすぐ前を向き、大股でズンズンと歩いている。それでも身長140cm程度しかないため、先頭を歩くコムとは距離があった。


「どこが……?」


「僕はただ妻を迎えに行っただけですよ」


何が、ただ、だ。コムは忌々しく彼を睨んだ。

認識が歪んでいる。


「……最悪だな。

ああ……彼らは可哀想だな……。

おかしなことに、巻き込まれて……息つく間もなく、殺し合い……」


「マックィーンが攻撃されてるからって殺しに行くことなかったんじゃないですか」


「頭に血が……。

……血統的に、短気なんだよ」


「どうせ生き返るのになんでそんな過保護なんです?」


ケイトはヴィヴィアンの質問に答えなかった。


「そうだ……。あの、銃の……弾が、あと一つしか無いんだ。貰えるか?」


「使っちゃったんですか。

あれ貴重な物って言いましたよね」


ヴィヴィアンがやれやれと首を振る。


「本体が、だろう……」


「そうですけどね。でも精度良くないんであんまり使うと壊れますよ。

それから乱暴に使うと暴発するかもしれない」


彼は真剣な顔で語る。その割にヴィヴィアンは遠慮なく使っているようだが。


「暴発……」


「僕はいつも腿にホルダーを巻いてるんですけど、一回暴発して足の肉が抉れたことが」


ヴィヴィアンが右足を軽く叩く。


「どうせなら左足の肉も抉っておいたらどうなんだ」


「……本気で言ってるんだから怖いよねえ。頭おかしいんじゃない……」


彼がしかめっ面になり自分の耳に触れていた。

ヴィヴィアンに頭がおかしいと言われるのはコムにとっては心外だ。


「暴発か……便利なんだがな……」


「そうでしょう。だから僕も作らせたんですよ。

ただ作り手の鍛治職人が居なくなっちゃったみたいでしてね、弾ならなんとかなりそうですが銃本体はもう作れないんです」


「居なくなった……?」


「支払いを忘れられたとかで人と揉めたそうです。

もう結構前の話ですから、今頃どこかで死んでるんじゃないかしら」


「ふうん……。勿体ない、な。

名前は……?」


「なんだったかなあ。パ……グ……? ペ……?

顔も曖昧で。

ああ……でも、一個覚えてることがあって」


コムは少女に顔を向ける。人を人と思わないこの男が何を覚えているのだろう。


「祝福がかなり変わってたらしいんです。裁きの祝福……とかって聞きましたけど」


「裁き?」


「そう。

なんだかあなたの祝福に似てますね」


コムとヴィヴィアンは、マックィーンの死体を吊るす縄を見上げた。


「どこが似てるんだ?」


「どこがって、罪人を処刑するときに縄で吊るすじゃない。コムのところは違うの」


「……私のところは……そうだった……。

縄で、罪人を……」


彼女は首を振りそれ以上言葉を続けなかった。

話したくないのだろう。コムは適当な話題を振って話を変える。

そうやって二回鐘が鳴る間歩くと暗闇の先に明るい光が差し込んでいるのが見えた。

ビスの街だ。


シップスの街を抜けると辺りがパッと明るくなり3人は顔を顰めた。

肌に当たる風に砂が混ざっている。ケイトの炎が風に煽られ大きく揺らぐ。

ビスの街は砂漠に覆われた街だ。街の中央、鐘楼を囲うように巨大な泉がいくつも点在している。


「コム……泉に」


「分かってます」


「ヴィヴィアンは……宿でも取って、じっとしてろ」


「おや。もっと絞られるかと思いましたけど」


「次からは……失敗するごとに……左右の、体のパーツを……切り落として、燃やす」


ヴィヴィアンは二つにくくった髪を揺らしながら鼻を鳴らした。

彼は人の話など何も聞いていない。

どうせ宿を取ってろ、というケイトの言葉だってその小さな足で一歩歩けば忘れることだろう。

彼女もそれを分かっているから余計な労力をかけないのだ。

コムは行きましょうか、とケイトに声をかけた。炎は掠れた声で「どうしようもないな」と呟いて歩き出した。


3人は手近な泉に訪れる。

辺りには誰もいない……街の境目は化け物の出現率が高いので人がそう多くはないのだ。

辺りからは水の匂いと土の匂いが漂っている。化け物はいなさそうだ。

いたところで遺骨を使って追い払うので問題は無いが。

ケイトは吊るしていたマックィーンを乾いた地面に降ろすと自身は躊躇うことなく泉の中へ入っていく。

ジュウジュウと湯気を立てながら腰のあたりに水面が来る位置になると一度潜った。

そして再び姿を現す。ケイトの火は消え、煤けてぬらぬらと光る赤い肉が見えた。それはものの数秒で滑らかな肌へと変わり全身を覆っていく。

あばらの浮いた白い体に白い髪に金の瞳。

真っ白でどこかぬるりとした体つきは洞穴生物を思い起こさせた。日の当たらない場所で生きてきたのだろうか。


「……治療を」


彼女はこちらにザブザブと音を立てて近付き腕を差し出してきた。肘の関節を折られたらしい。


「綺麗に折ってもらえて良かったですよ。治りが早いですから」


そう言うと彼女は鼻に皺を寄せた。不満だったらしい。


「しかし彼は力がありますね。マックィーンの足を切ったのもセシルさんでしょう?」


コムはセシルの姿を思い浮かべる。彼はこちらの話への理解が早い。頭の回転が速いのだろう。

そしてマックィーンとケイトにこうして怪我を負わせるだけの力もある。

敵に回ると厄介そうだ。


「彼等に協力を申し込まれた」


「……遺骨の捜索の?」


コムは彼女の折れた腕に鉄の棒を添える。腕を伸ばさせるとケイトが小さく呻いた。

気にせずに鉄線でぐるぐる巻いていく。


「ああ。悪くないんじゃないかと思う。

探す人数は多い方がいいが、信用できる奴らでもないと裏切られるから」


「彼等は信用できますか?」


「お前たちが来るまでの間セシルと話をしたんだ。

彼は遺骨を……蘇らせるつもりだ」


思わず手が止まる。


「……蘇らせる……?」


「そう。中々良いアイディアじゃないか?

蘇生の祝福があるなら手っ取り早くアレの正体が分かる」


ケイトは遺骨が何者かを探している。なぜかと聞いたら暇つぶしと嫌がらせと返ってきた。

—あれは……女神にとっては、よくない存在だろうから……。


「私たちは彼等より先に蘇生の祝福を見つけ出しそのあいだ遺骨を探させれば良い。

情報は必ず共有させる」


「蘇生の祝福が見つかれば彼等の持つ遺骨分だけで蘇生するかもしれません」


「その時はその時で考えるが……多分彼等も手掛かりが少ないんだろう。

多くの遺骨を集めて情報が欲しいはずだ。だからまだ探してるんだ」


「出し抜いてこちらの集めた分を盗られるかもしれませんよ」


「盗みようが無い……」


彼女は天を仰ぎ見た。


「それに、盗もうものならマックィーンが追いかけ回すさ」


「……確かに……。

私は良いと思いますよ、協力しても」


「……ならそうしよう」


どうせマックィーンはケイトに逆らわないし、ヴィヴィアンはそもそも遺骨のことをどこまで分かっているのか。

そこでふとジーナの顔を思い出した。

ヴィヴィアンは協力体制を取ったことを理由に付きまとう可能性がある


「……ヴィヴィアンはこの件にあまり関わらせない方がいいと思いますよ。

ジーナさんが……」


「ジーナ……奥さん?」


彼女は怪訝そうにこちらをジッと見る。金の瞳が太陽を反射してギラギラと光っている。宝石のよう、という形容詞はこの瞳には美しすぎる。もっと嫌な光りかたをする目だ。


「そうです。

ヴィヴィアンに付きまとわれて……かなり可哀想なので……」


「どうせ付きまとうと思うが……ヴィヴィアンを喜ばせるのも癪だ。何か適当な理由をつけて遠ざけておこう」


それが良い、とコムは何度も頷く。

それにしても。彼はジッとケイトを見つめた。


「……なんだ?」


「もう片方も折りませんか?」


今のままだと片腕だけ折れて鉄の棒が添えられているアシンメトリーな状態だ。これだと美しくないし気になるだろう。

彼の提案にケイトは金色の目を見開く。


「何を言ってるんだ」


「左右揃えた方が美しいですよ」


「私の美的感覚とだいぶ違うな」


「大丈夫、私も綺麗に折る自信があります」


「そんな自信無くていい。離れろ、どっか行け」


慌てた様子で水音を立ててケイトが泉の深い方へと入っていく。


「綺麗に折れば綺麗にくっ付きます」


突然、コムの背中を何者かが押した。地面に倒れそうになるのをヒールでグッと堪える。


「……マックィーン。随分長かったな」


全身に鱗の生えた大男が不満そうな顔でコムを睨んでいた。

常に浮いている赤い腕でコムを牽制しながら彼は立ち上がった。紺色の長い髪が風になびく。


「死に切れなかった」


「トドメ刺して無かったんですか?」


ケイトに聞くと「そうだったかもな」とすっとぼける。わざとだろうか。コムはそれ以上聞かなかった。

マックィーンはケイトの方を見るがいつものように駆け寄って行かない。ただ苦しげな顔をして彼女を見つめている。


「ケイト様……申し訳ありませんでした……」


「……全くだ。誰彼構わず攻撃するのはやめろと言っていたはずだよ」


低い声でケイトは呆れたように呟く。流石にマックィーンといえど、ここまでの勝手は許せないようだ。


「はい……」


いつもの覇気はマックィーンに無い。項垂れ、普段ご機嫌に揺れる尻尾まで地面に垂れていた。

コムは少し可哀想になってフォローに回る。


「でもマックィーンのお陰でセシルさんの実力はよく分かりましたし、結果良かったんじゃないですか?」


「結果論ってやつだろそれは。

……でも……確かにセシルがどんな奴か分かった」


マックィーンの赤い目が僅かに輝く。


「まあ、お仕置きはもう済んだしこの件はこれで終わりにしようか。

次は無いよ?」


ケイトが柔らかく微笑んだ。彼女の顔を見るのは久しぶりなので、勿論こういう笑顔を見るのも久しぶりだった。

やはりマックィーンのことになるとケイトは甘くなる。


「おいで」


彼女は白く長い腕を広げた。あばらがより浮きだって見える。

コムはギョッとなったがマックィーンは一切気にせず、むしろ嬉しそうにケイトの方へ駆けて行く。

その拍子に彼のズボンから何かが落ちた。


手のひら大の金属の板だ。拾い上げると、片面が粉々にひび割れているのが分かる。

なんだろうこれは。


「マックィーン。落し物だ」


彼に差し出すと慌てた様子で引き返して来る。


「ああ、ありがとう」


「それなんだ?」


「さあ。伝達用の道具で中から声がするらしいんだが俺は聞いたことがない」


コムは渡しながら金属の板を眺める。壊れてるんじゃないだろうか。


「なんでそんなの持ってる」


「人の物だ。大事な物らしいから返さなきゃいけない」


その割には乱雑に扱っている気がするが。


「誰の物なんだ?」


「ライチ」


ライチ? コムはいきなり出てきた名前に戸惑う。

セシルのチームにいる少し病んだ感じのする少女のことか?

更に話を続けたかったがケイトの元へと行きたくてソワソワしているマックィーンを見て諦めることにした。

2人きりにするべきだろう。コムは先に街に戻ることにする。

どうせヴィヴィアンは宿なんて取っていないのだから、コムが取らなくては。

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