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◼︎◼︎より愛を込めて*

ちょっとグロいです。

自分の体が引き裂かれるような感覚が蘇りライチは体を震わせた。

酷い悪夢だった。だが目が覚めた今はもう大丈夫だ……。

彼女は体を丸める。もうずっと、長いこと思い出さないようにしていたのに。

夢のせいで全ての感覚が蘇ってしまった。

セシルもフリーズもみんな、同じくらい酷い気持ちになったのだろう。ライチはやるせない気持ちになる。

眠る時ですら苦しみから逃れられない。叫びたくなる気持ちを抑えいつものように喉を鳴らした。


ライチは殆ど手のつけられていない食事を見る。食欲が湧かない。物を食べ、咀嚼する。それはライチがされたことと同じだ。

彼女が食器を弄り全く食べようとしないでいると店の少女から声を掛けられた。


「……大丈夫か?」


「あ、ハイ……。嫌な夢を見て、気分が悪くて」


「そうか……」


「あなたも見たんですよね?」


少女は驚いた顔になる。

指摘されたくなかったのだろうと思いライチは慌てて手を振った。


「すみません、顔色が悪かったのであなたも悪夢を見たのかと、勝手に」


「い、いや。そうだ。私も見てた……」


彼女は少し迷った後ライチの前の席に腰を下ろす。


「酷い話ですよね。眠る時すらあんなものを見せられたら私はどこに逃げればいいんでしょう」


「夢の中は良いものだった……。夢の中なら好きなものを好きなようにできるし、会えない人にも会える」


小さな手を握り締め、声を震わす。


「でもあんなのを見たかったわけじゃない。

幸せな夢を……見たいじゃないか」


二人は黙り込んだ。

脳内には化け物の姿と飛び散る内臓が浮かぶ。

こんなこと思い出したくない……ライチは必死に明るい声を出して少女に話題を振る。


「あの、そういえばお名前は? 私はライチです」


「エルシーだ。よろしくライチ」


「よろしくです。

ここは一人でやってるんですか?」


「まあ小さい宿だしな。なんとかなる。

お前たちは最初嫌な感じだと思ったが案外悪さもしないから助かってる」


褒められたのか貶されたのか一瞬分からなかったがライチはいやいや、と照れ笑いを浮かべた。


「良い宿ですよね。物が少なくてスッキリしてて」


「ありがとう。

ほら、寝泊まりするだけなら余計なものもいらないだろう?

それに常連に細かいのがいるんだ。キチンとしてないとうるさいから面倒で全部片付けることにした」


「ああ……なるほど……。

神経質なんですね」


少女は「そうだな」と苦笑する。

面倒なお客というのはどこにでもいるようだ。

だがお陰でジーナがイライラせずに済んでいる。彼女は整頓されていないと片付けを始めるか、もしくは突然何もかもめちゃくちゃにし始める。


そんなことを考えていると入り口から物音がして当のジーナが現れた。

彼女はライチの休息に付き合ってくれていた。


「ここにいたの」


「ご飯食べなきゃと思って……」


手のつけられていない食事を見て彼女は薄い色の眉をしかめた。


「そうね」


「食べやすいもの作ってこようか?」


「いえ。大丈夫です……食べます」


「無理しなくていい。

口に合う合わないはあるだろう?

黒髪の男だって食事は自分で用意しているらしいし、それならそれで構わない。

残飯も家畜の餌になるからな」


ライチはただ折角作ってくれた料理を食べないのが嫌だった。エルシーも気を悪くするだろう。

だが彼女はさして気にした風でもない。

優しい人なのだなとライチはエルシーを見上げた。


しかしジーナはなぜか冷たい視線を送っている……いつものことだと言われればそれまでだが。


「ジーナさん?」


「私、少し休むわ。眠くてたまらない。

ライチは宿の中にいてね」


「ハイ」


ふらりジーナは背を向ける。

その姿が見えなくなるとエルシーが口を開いた。


「なあ、彼女はなんで……」


「ハイ?」


「……いや。なんでもない。

私も少しやることがあるんだ。食べられそうになかったら食器はそのままにしておいてくれ」


彼女は小さな足でトンと床に降りるとジーナの後を追うように出て行った。

ライチは彼女の作ってくれた料理を見る。ゆっくり食べよう。



*


各部屋の扉にある小窓から中を覗く。

明かりは点いていない。ジーナは寝ているようだ。

それはそうだ、警戒しているのか彼女は宿に来てから一度も寝ていない。だがそろそろ限界だろう。

エルシーは小さな手をノブに掛け音を立てないようゆっくり回した。

扉を開くとすぐにベッドが目に入り、布団がゆっくりと上下に動くのがわかる。

彼女は慎重に部屋に入りベッドの横に立つ。


毛布に軽く触れるとジーナの茶色の目とぶつかった。

起きている……! エルシーは慌てて飛び退くがその細い手を掴まれた。


「あなたね。悪夢を見せていたのは。

まあ犯人なんてそれくらいしかいないわよねえ」


「な、なにを」


「何が目的。遺骨かしら……」


エルシーは必死に手を振り解こうとするが想像よりもずっと強い力で掴まれ振り解けない。腕を捻り体を逸らすが逆に引き寄せられてしまった。


「早く答えなさい」


「誰が答えるか! 離せ!」


「悪夢を見せて何がしたかったの」


違う。悪夢を見せたかったのではない。

彼女の祝福は夢の中に入り込むこと。

今回はその人の弱点と呼べる場所に入り込んだ。それがあんな。

誰があんな夢を見たいと思うのか……。

エルシーの脳裏に血と臓物と殺された人々が浮かぶ。

あれが視界にこびりついて消えない。


「私以外の全員に悪夢を見せた。でも私は見せられなかったでしょう……寝てないから」


そうだ。ジーナは一睡もしていない。

祝福によるものでは無いはずだ。ジーナの祝福が時を戻すものであることは彼女が扉を壊し直すところを見て確認している。

……いや。そうか、ジーナは……。


「刑が不眠なのか……!」


「そうよ。私この世界に来てから一度も寝てないの。

あなたの祝福とは相性が悪かったようね」


なぜ気づかなかったのだろう。自分の愚かしさが嫌になる。

それにしても彼女とはとことん相性が悪いようだ。


「手を離せ!」


エルシーが必死で腕を振るとそれがジーナの頭に当たった。彼女はそれに腹を立てたらしい。目がギラリと輝き、強く強く腕を捻り上げられた。


「離す訳ないでしょう! さあ、目的を言いなさい!

遺骨!? これが欲しいの!?」


ヒステリックに叫ぶジーナに慄きながらもエルシーは必死で首を振る。

すると彼女は枕から丸い何かを取り出しそれを勢いよくエルシーの頭にぶつけた。いや、殴った。

ガチン! と鋭く嫌な音が響く。


「やめろ! 割れちゃう……!」


「これが欲しかったんでしょう!? ほら!」


彼女は灰色の骨をエルシーに突きつける。


「そんなのいらない! やだ! やめてくれ!」


ひび割れる音がしてエルシーは悲鳴を上げた。


「……いらない? なら、なんで」


ジーナの攻撃が止む。


「私はただあの人の期待に応えたいだけ、遺骨なんかどうだっていい!

殴らないでくれ……! 壊れちゃう……」


「あの人って誰」


「ヴィヴィアン様……お前はよく知ってるだろ」


エルシーはジーナの茶色に輝く瞳を見つめた。

しかし徐々に輝きは失せていく。灯された明かりが消えていくようにゆっくりと。


「そんな人知らないわ」


その声は震えていた。


*


「ジーナさん!」


誰かの悲鳴が聞こえ、ライチは慌てて部屋に飛び込んだ。遅れて戻って来たセシル達も駆け込んでくる。


「どうした!?」


部屋ではジーナがエルシーの腕を、爪の先が白くなるほど握り締めていた。ところが握られている腕には変化が無い。


「どうもこうもありませんよ。刺客です」


「はあ!? 違う! ……違わないのか?」


ライチはジーナとエルシーの顔を何度も見比べ、そして三度見比べてやっとエルシーが額に怪我をしていることに気が付いた。

大きな黒い痣ができている。ジーナが遺骨を手に持っているところから、あれで殴ったのだろうと推察できた。


「ジーナさん落ち着いて……。エルシーさん、怪我してますから」


2人の間を割って入ると予想外にもジーナはあっさり手を離した。

彼女のことだからもうひと殴りするかと思ったが。


「刺客ってどういうことだ?」


セシルの声にいつもの温度は感じられない。彼が敵を見つけた時に発する、刃物のように鋭く緊張感の漂う声。


「返答によっちゃタダじゃおかない……それはわかるよな?」


背後でニコが面に手を掛けていた。

少しでも誤ればエルシーの細い体はあの槍たちに貫かれるだろう。

フリーズも警戒するようにエルシーを見ていたが、オニツカだけは愉快そうに唇を歪めていた。

不測の事態が楽しいのだろう。


「こいつ、私たちに悪夢を見せていたんですよ」


ジーナが忌々しげにエルシーを睨み返す。


「違う、夢に入っただけだ」


セシルの視線が更に鋭くなる。このままじゃエルシーは。

そう思ったらライチの体は勝手に動いていた。

庇うように彼女の前に立ち「待ってください」と声を上げ、しかしその声はエルシーの言葉にふさがれた。


「けどこの女の言うことは正しい。私は刺客だ」


「何が目的だ」


「……この女の、ジーナことを探るつもりだったんだ」


予想外の返答にセシルの顔が歪んだ。

彼も、ライチも、そして残りの面々すら目的は遺骨だと思っていたのだ。


「ジーナ? なんで。遺骨は?」


「いらない。それを私は集めてないし、関わりたくない」


「……夢に入ったって言ったな。

それがお前の祝福なんだろう……ここにいる全員が悪夢を見たのはどういうことだ?」


「……私の祝福は、夢の中に入り込むことであって、私が夢を作り出すことはできない。

どんな夢になるかは見ているその人自身によるものだ。寝ていても意識があれば多少夢を変えられたりすることがあるだろう」


「ああ」


「その延長線みたいなものだ……。

私はお前たちが一番油断する、弱点とも言える場所に入った……つもりだった。

いや……あれが弱点なんだな。血の匂いがする……」


エルシーはぼんやりとした目でライチを見つめてきた。その視線にライチは化け物にされたことを思い出し体が震える。


「油断させて何がしたかったの?」


オニツカの言葉遣いは柔らかいが、瞳の輝きは猛獣さながらだ。


「言っただろ。ジーナのことを探るつもりだって……」


「なぜ? 全てのことを一から説明しなよ」


細い体を震わせエルシーはそれぞれの顔を見渡した。

彼女が宿に招いたのは目的のためなら人の命を奪うことを厭わない、ある種合理的であり無慈悲な人間だったのだとやっと気が付いた。

冷たい視線でエルシーの一挙手一投足を見つめている。


「……分かった。だが最初に約束してくれ。

私はお前達の命を奪う気は無かったし、遺骨だって見なかったことにしたい。

殺さないでくれ」


「とりあえず話せって」


彼女の命乞いはセシルには効果は無かった。

ライチは苦しくなる。


「あの……話の前に、手当てをしませんか」


エルシーの額にある大きな痣を見ていられなくなってライチはそう提案した。

話が長くなるなら先にそうするべきだと思った。

この提案にオニツカは大きく顔をしかめた。彼としてはこれは愚かな考えだと思ったのだろう。

だが、その表情がみるみる変わっていく。目を大きく見開き「なんだそれ」と呟いた。


「オニツカ? どーしたんだよ」


「待って、なんで……。俺の目がおかしいのか?

それは怪我?」


「私が殴った時にできた痣よ」


そう言ってジーナもエルシーの痣を見てギョッとした顔になる。

エルシーは僅かに顔を伏せた。


「痣じゃない……ヒビ割れてる」


ジーナの言葉にライチもその痣を覗き込んだ。

……痣は、痣ではなく、細かな細かな亀裂だった。

微かに息を飲む。なぜ人の額にヒビ割れが?

いや、違う。

ライチの目がおかしくなったのだろうか? エルシーは人ではない。

滑らかな肌も、繊維のような髪も、輝く青い瞳も、すべて作り物だ。

彼女はビスクドールだった。


突然の気付きにライチは動けなくなる。

いつから人形だった?


「……呪いが解けたな」


人形は、人形だというのに硬い唇を滑らかに動かして話し始める。


「私の刑は、人の体ではなく人形の体になることだった。

だがそれだと宿屋をやるときに不便で、友人に協力してもらって幻覚をかけてもらったんだ」


誰も言葉を発しなかった。ライチの脳内にあったのは悪夢で見た人形だ。

あの人形はエルシーだった。


「私が普通の人に見える幻覚だ。整合性が取れなくなると解ける。

……幻覚を掛けた友人は自治チームの人間だ。私は彼と関わる内にある人と出会った。

それがヴィヴィアン様。ジーナを探るように頼んだのは彼女だ」


皆がちらりとジーナを伺う。だが彼女も怪訝そうな顔をするだけで、ピンときてはいないらしい。


「なんでそんなことを」


「ヴィヴィアン様のことを知ってるはずだ。

彼女はお前のことを愛してる。ずっと側にいて、見ていたんだ。

セシルやオニツカ、ニコに笑いかけることは無かったらしいな。……まあ変な人達だし……。

だけどコムに、私の友人に笑いかけただろ」


彼女はそう言って顔を上げた。陶器の擦れる音がする。

コムとは誰だっただろうか。ライチは思考を巡らせる。

そしてフリーズが「あの神経質男のこと?」と不思議そうに首を傾げていたのを見て、左右対称に異常にこだわるヒールを履いていた男のことだと分かった。

彼はエルシーの友人であり、そしてこの件の首謀者とも繋がりがあった。


「今まで誰にもそんな顔見せなかったらしいのに。

ヴィヴィアン様はお前が、もしかしたら誰かを好きになる可能性があるんじゃないか。

そもそも既に誰かを好きなんじゃないか。周りにいるのは彼女が気を許して良いような奴なのか。そう考え心配になって、私の力を頼ったんだ」


ジーナは何も言わない。薄暗い瞳でエルシーだけを見つめている。


「言ってることの何一つ理解できない。ジーナが誰に笑いかけようが勝手だろうが」


「私はヴィヴィアン様の幸せを願ってる。笑いかける相手は彼女だけで良いとも。

だから私はお前たちの夢に入り込んで、ジーナに想い人がいないかどうか探りたかったんだ。

本当はジーナだけのつもりが、ジーナが眠らないから仕方なくお前たち全員の夢に入った。

あの人の力になりたかった……」


「オレたち会話出来てる? 意味分かんねえな?

ヴィヴィアンサマってのはジーナのことが好きで好きでしょうがないってことでいいのか?」


フリーズの苛立った声音にエルシーは頷いた。また陶器の音が聞こえる。


「プレゼントも置いていったんだ」


「プレゼント……?」


「あれを貰ってお前が嬉しいかは分からない。けど、それだけの衝動があの人にはあるんだ」


案内したい、と言うのでライチとフリーズがエルシーの腕を掴み、逃さないようにしたままそれを見せてもらうことにした。

陶器の腕は冷たい。関節は球体で繋がれぎこちなく動いていた。


「あそこにある」


外に出ると彼女は宿と隣の建物の隙間、路地を陶器の指で指した。


「随分大きなプレゼントだな?」


「動かせないんだよ。

だが、ライチ……お前は見ない方が良い」


「……なぜ?」


青いグラスアイが悲しげに瞬く。


「きっとお前は耐えられないよ」


背筋が震え喉が鳴る。それは、しかし耐えられないのはライチだけじゃないはずだ。

ライチは彼女を引っ張りながら路地に駆け込む。

嫌だった、見たくはない。この悪臭だって散々覚えがある。

だがそれを確かめないと何が起こってるのか分からない……そんな気がしたのだ。


だがその考えは誤りだった。何が起こってるのか分からないまま、凄絶な光景を目の当たりにしてしまう。


真っ赤な血の海に溺れるように一人の男が横たわっていた。

男は全裸で、腹から内臓を零し絶命していた。

性器は切り取られ宿の外壁にナイフで留められている。

隣の壁には血で何がしかの文様が描かれていた。文字、だろうか。ライチには見覚えがない。

しかし死体の顔には見覚えがあった……狼の頭の男。

ジーナやライチにナンパをして来た男だ。


不意に胃酸がせり上がってくる感覚がしてライチは口元を抑える。


「なんだよこれ」


フリーズの声は震えていた。そして後ろに続くジーナたちに「こっちに来るな」と叫ぶ。

だがその叫びは虚しく、ジーナはそれをしっかりと見てしまった。


「……プレゼント……」


「あの人は、これだけの情熱でお前を愛してるんだ」


エルシーの無機質な声が怖い。

体を震わせていると背中をさすられた。

セシルだ。ライチの体から力が抜ける。そして出来るだけ死体を見ないようにした。


「こんなの見せるなよ」


「わ、私だって嫌だよ。けどジーナは喜ぶって聞いてたんだ。メッセージもあるし」


「メッセージ?」


「あの壁の。私には読めないが」


セシルは口をへの字に曲げる。


「ロシア語?

ジーナ……」


彼女を見るが唇はきつく閉じられたままだ。


「……ニコ、お前も読めるよな」


「多分。

けどあれはロシア語じゃなくてウクライナ語なんじゃない?」


ニコは真っ白な顔のジーナを見た。彼女の瞳は虚ろだ。


「なんて書いてあるんだ」


「愛を込めて、かな」


「愛……?」


背筋の震えが止まらずライチは自分の体を抱きしめた。

死体は死後どれくらい経っているのだろうか。

この世界では死体は無機物と同じ扱いで、つまり町を出なければ腐ることはない。

酷い匂いを放つ血からはほんの少し前に殺されたばかりのように熱い温度を感じられた。


「いつの間にこんな」


「鐘の音の、二回くらい前だ」


想像よりも少し前のことだった。自分が呑気に過ごしていた宿のすぐ側でこんな恐ろしいことが行われていた?


「誰なんだよそのヴィヴィアンサマは。ジーナの知り合いなのか?」


澱んだ瞳で死体をジッと見ていたジーナが顔を上げる。

唇まで色を無くしていた。


「ヴィヴィアンは……私の妹の名前よ」


「妹? じゃあ……」


「でも違う。妹は死んだ。

……一人思い当たる人はいる……でも彼女なわけが……。

……翻訳の問題……?」


「何言ってんだ?」


「一旦戻ろう。歩けるか?」


「平気です」


そう答えるがジーナの足元はふらついていた。当然だろう。

押し付けるような、悪意の塊のような好意。それを向けられてどんな気持ちになるかなんて考えずともわかる。


「……嬉しくなかったんだな」


フリーズに手を繋がれ引きずられるようにしてエルシーが歩く。


「そりゃそうだろ! アイツはあんなだけど感性はかなりまともだぞ。気持ち悪いだろ。

……殺し方の惨たらしさっていうのよりも、狼男を殺してジーナが喜ぶと思う神経が気持ち悪い」


赤い髪を軽く振ってフリーズは、何かを堪えるように息を吐いた。


「……エルシー。ヴィヴィアンには会えないのか?」


セシルが尋ねると彼女は寂しげな笑みを浮かべた。


「お前たちが気付かなかっただけで、いつだって側にいる」


エルシーが視線を上げる。

路地の先に誰かが立っていた。

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