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ぼくは先輩のなんなのさ。  作者: 七峰らいが
第一章「模倣人《フェイカー》」
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第一話「侵入中=緊急事態《インベイド・スクランブル》」

 噴煙を上げる基地をバックに流れるエンドロールに、「何者かに侵入されました」とのシステム文字が被る。

 もう何回も見た「文明を失った人類は原始時代に還り、そしてまた歴史は繰り返す」という救われないラストに別れを告げて、ハイスコアネームに「YOU」の三文字のアルファベット。

 警察に通報するための通話ボタンが被るランキング画面にずらりと並ぶYOUの三文字を眺めながら考える。誰が来たんだ?

 考えなくても解かる。ありあわせとはいえその道のプロでなくては絶対に開錠出来ない筈だったセキュリティを、絹のカーテンのように破る人間。「あの人」しかいない。

 どうせいつか、そうなることはわかっていたのだし……今はただ、侵入者を指し示す赤い光点がマップ上の自分のいる青い光点に向かって一直線に向かって来ているのを見ていることしかできない。

 沈む心と裏腹に、扉は随分と威勢よく開いた。

 開くが早いか、何かが勢い良くこちらへと飛んでくる。

「どーん!」

 そんな、どこか腑抜けたあざとい声を伴って。

 十二歳の平均身長をやや低めにしたような肢体の少女が、部屋の中心に据えられた円筒形の機械に飛び掛かる。肩ほどの黒髪が軽く跳ねた。

 その勢いに負けて少女ごと倒れこむ。ケーブル類が抜け飛ぶことで視覚・聴覚に直接発生するノイズに、言語化できないノイジーな悲鳴を上げた。

 衝撃音が収まって、少女が囁く。

「よぉ。(ピー)のほうは元気してたか?この豚(ピー)」

 規制音に阻まれた言葉に相当な悪意を感知。うら若き青少年少女を守るための言語規制も、こうした人間が使ってしまうと、何故「豚」はセーフで「あそこ」と「野郎」はアウトなのか?という根本的な問題で考え込んでしまう。熟語や当人の意思ごとフィルタリングしないからこうなるのだ。もっと言えば、わざとそこまでフィルタリングしないこの人が一番悪い。

「元気でしたよ。先輩が来るまでは」

 汎用的な「メカっぽい声」でそう答えると、無表情でも十分に愛らしいであろう彼女の口角が釣り上がり、にやり、という言葉がぴったりの笑顔を作り出す。年齢に伴わない妖艶さどころか、それを通り越して不気味さすら感じさせられる、いつもの笑顔。

「だろうな」

 少女は円筒物――今のところのぼく自身――をゆっくりと抱き起こして、辺りを見回しながら呟いた。

「まだこんなもん集めてるのか。暇なヤツだな」

 部屋の周囲には、簡素なスチール棚に丁寧に置かれた古めかしいロムカセットのカートリッジやCDロム、業務用の基板などが置かれている。どれも大昔に著作権切れで、ネットを少し漁れば現物から吸い出した高品質のデータを無料でダウンロードでき、法にも問われないが、多くのゲーマー達はその発売年を聞いただけで鼻で笑い、ダウンロードすることさえ面倒臭がるという年代物ばかりだ。それでいて、有名な作品にはこぞって……まぁ、どうでもいい。

 今の時代、こうしたものは骨董品レベルなので、真空状態にした袋に密閉して保存されている。言わば観賞用というわけだ。もっとも、ほとんどのものはもう中古屋に行っても全く見つからないか、売られた当初を思えば売った者買った者そのどちらもが涙を浮かべずにはいられない値段で買い叩かれていることだろう。実際、ラッピングする費用の方がよっぽど高い。

 そうしたゲームソフトの化石たちは、(ぼくのこの隠れ家の中にあるものでは)そのほとんどがこの部屋から更に奥に行ったところにある汎用ゲームコンソールにデータとして集積されている。そこからコードを引いて遊んでいた。おかげで三年間、簡易的な生命維持装置だけの生活でも十分に楽しく過ごせていた。

 それを先輩は、

「ま、いいや」

 と一蹴し、この円筒型の生命維持装置「EP-106」――愛称「バンブー」――のカメラに顔を近づけながら、

「ほら、さっさと行こうぜ」

 とのたまった。アイカメラがきゅうっと縮こまっているのがよく見える。

「どこにですか」

 嫌味ったらしく問いかけた。

「俺んち」

「いやです」

 即答。

「嫌か?」

「嫌です」

「嫌か……」

 一秒と間を置かない返答に先輩は俯いて黙り込み、数秒しておもむろに顔を上げた。

「じゃあ、ついて来いよ」

 そしてぱっと身体を翻して、ドアの奥へと駆けて行く。

 聞いちゃいない。

 ぼくは空気孔をわざとらしくぷしゅうと鳴らして、駆動モーターを動かし、一般的な人一人分くらいの重さの身体を底部の車輪を使って前に滑らせた。

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