第95話 修復と、研究院の悲鳴
「いや待て!」
ラウフェンが珍しく声を荒げた。
だがカイはもう壊れた測定器の前にしゃがみ込んでいる。
砕けた結晶板。
焼き切れた術式ライン。
煙まで出ていた。
普通なら修理班送りだ。
それも研究院上位技師が必要なレベルの損傷。
カイは装置をじっと見る。
「……いっぱい壊れてる」
「当たり前です!」
研究員の一人が叫ぶ。
「最新型なんですよそれ!」
「高い?」
「高いどころじゃ――」
途中でラウフェンが手を上げ、制止した。
研究員が慌てて黙る。
ラウフェンは静かにカイを見る。
「……君は直せるのか?」
「たぶん」
「たぶんで触るな!」
今度は別の研究員が叫んだ。
レオンが吹き出す。
「気持ちはわかる」
カイはそんな周囲を気にせず、壊れた結晶板へそっと触れる。
「【解析】」
空気が変わった。
淡い光。
結晶内部へ魔力が染み込むように広がっていく。
研究員たちが息を呑む。
「解析魔法……?」
「しかも速すぎる」
「構造把握を一瞬で?」
エルミナの目が見開かれる。
「待ってください……研究院式の多重刻印ですよそれ!?」
普通の魔導師では、構造理解だけで数時間かかる。
だがカイは。
「……ん」
もう終わっていた。
「分かった」
「分かった!?」
ラウフェンですら声が裏返る。
カイは小さく頷いた。
「壊れた場所、六十七」
研究員たちが凍りついた。
「ろ、六十七……?」
「一瞬で全部見抜いたのか……?」
カイは普通に続ける。
「ここ無理して繋いでる」
壊れた内部刻印を指差す。
「あとここ、熱逃がせてない」
さらに別箇所。
「こっちは効率悪い」
沈黙。
研究員たちの顔色が変わっていく。
それは驚愕だった。
全部。
実際に研究院内で問題視されていた箇所だったからだ。
ラウフェンが低く呟く。
「……嘘だろ」
エルミナも固まっている。
「設計資料を見ていないはずです……」
カイは首を傾げる。
「見れば分かるよ?」
「分からないんですよ普通は!」
研究員たちの悲鳴みたいなツッコミが飛ぶ。
カイは少し不思議そうだった。
「そうなの?」
レオンが笑いを堪えきれていない。
「お前基準で考えるなって」
そして。
カイは壊れた測定器へ両手を置く。
「【修復】」
瞬間。
光が走った。
砕けた結晶が浮く。
焼き切れていた刻印が、まるで時間を巻き戻すみたいに繋がっていく。
研究員たちが完全に沈黙した。
精密。
あまりにも精密。
ただ直しているんじゃない。
内部構造そのものを理解した上で、最適化までしている。
ラウフェンの顔が引きつる。
「……おい」
エルミナが震え声で呟く。
「術式効率……上がってます……」
「は?」
「魔力循環ロスが減ってる……」
研究員たちが一斉に測定器を見る。
そして。
数秒後。
光が収まった。
カイは普通に立ち上がる。
「終わった」
静寂。
研究員の一人が恐る恐る測定器へ触れる。
起動。
――正常作動。
「……動いた」
別の研究員が確認する。
「出力安定してる……」
「いや待て」
「反応速度上がってないか?」
「なんで性能向上してる!?」
研究院が軽くパニックになった。
カイはそんな様子を見て首を傾げる。
「壊れにくくした」
簡単に言った。
ラウフェンが額を押さえる。
「副学院長が頭痛になる理由が分かった……」
レオンが大笑いしていた。
「はははっ! ダメだろもうこれ!」
ティアは純粋に感動している。
「カイ様すごいです……!」
リナは遠い目だった。
「もう“すごい”で片付けていい段階なのかなこれ……」




