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第94話 測定不能と、壊れる測定器


「では、簡単な確認だけで構いません」


 研究院主任ラウフェンは、できる限り穏やかな声で言った。


 だが周囲の研究員たちは完全に緊張している。


 視線の先は、もちろんカイだ。


 カイは首を傾げる。


「確認?」


「魔力測定です」


「痛い?」


「痛くありません」


「ならいい」


 即答だった。


 リナが小さく呟く。


「基準そこなのね……」


 ラウフェンは研究員へ視線を送る。


 すると後方から、金属製の台座が運ばれてきた。


 透明な結晶板。


 複数の魔導刻印。


 見るからに高級そうな装置だった。


 ティアが目を丸くする。


「わぁ……」


 エルミナが説明する。


「研究院式の高精度測定器です」


「通常の学院測定器より、かなり細かく魔力構造を解析できます」


 レオンが嫌な予感をしていた。


「……壊れないよな?」


「やめてください不安になる」


 エルミナが真顔で返す。


 ラウフェンは咳払いした。


「カイ君、この結晶へ手を置いてくれ」


「うん」


 カイは普通に近づく。


 そして。


 ぺた、と結晶板へ手を置いた。


 一秒。


 二秒。


 沈黙。


 研究員たちが首を傾げる。


「……反応なし?」


「いや、待て」


 次の瞬間。


 測定器全体の刻印が、一斉に光った。


「――っ!?」


 研究員たちが息を呑む。


 光量が異常だった。


 通常は数本だけ発光する術式ラインが、全域同時発光している。


 エルミナの顔色が変わる。


「ちょっ――」


 バキッ。


 嫌な音が響いた。


 結晶板に亀裂。


「止めろ!!」


 ラウフェンが叫ぶ。


 だが遅い。


 術式が暴走した。


 光が明滅する。


 研究員たちが慌てて後退する。


「遮断!」


「魔力弁閉じろ!」


「無理です制御奪われてます!」


 カイはきょとんとしていた。


「?」


 そして。


 ぼんっ、と軽い音。


 測定器の上半分が煙を上げた。


 完全停止。


 沈黙。


 風だけが吹いている。


 研究員全員が固まった。


 ラウフェンがゆっくり振り返る。


「……壊れた?」


「壊れましたね……」


 エルミナが遠い目で答える。


 ティアがおろおろしていた。


「だ、大丈夫なんですか!?」


「大丈夫ではありません」


 研究員の一人が泣きそうだった。


「研究院の最新機材です……」


 レオンは額を押さえる。


「やっぱりかぁ……」


 アルトもさすがに苦笑する。


「ここまでとは思わなかった」


 カインは完全に青ざめていた。


「測定器が……」


 ラウフェンは壊れた機材を見下ろす。


 そして。


 静かに呟いた。


「……数値が振り切れた訳ではないな」


 研究員たちが顔を上げる。


「主任?」


「術式そのものが、途中から別挙動へ書き換わっていた」


 エルミナがはっとする。


「まさか……」


 ラウフェンはカイを見る。


「測定しようとした結果、“測定側が現象に飲まれた”」


 ぞわり、と空気が変わる。


 リナは意味が分からなかった。


「えっと……つまり?」


 レオンが苦い顔で答える。


「普通は器械が魔力を読む」


「でも今のは逆だ」


「カイの現象に、器械側が引っ張られた」


 ティアがぽかんとする。


「そんなことあるんですか……?」


「本来ない」


 ラウフェンが即答した。


「だから研究対象なんだ」


 カイはそんな空気の中。


 壊れた測定器を見ていた。


「……直す?」


 全員が止まる。


 エルミナがゆっくり振り返る。


「え」


 カイは普通に続けた。


「壊れたままだと困るでしょ」


 ラウフェンのこめかみが引きつった。


「いや待て」


 だが。


 カイはもう測定器へ近づいていた。

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