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第93話 研究院と、“現象”を見る目


 紫紋のローブを纏った魔導師たちが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。


 周囲の空気が少し変わった。


 学院所属の魔導師とは違う。


 もっと“研究者”寄りの雰囲気だった。


 先頭の男は四十代ほど。


 細身で、鋭い目をしている。


 その視線は、完全にカイへ向いていた。


「……君が、“例の少年”か」


 レオンが小さくため息を吐く。


「やっぱ来たか」


 エルミナが静かに頭を下げた。


「研究院第一解析部主任、ラウフェン卿」


「副学院長案件が動けば、研究院にも情報は回ります」


 ラウフェンと呼ばれた男は小さく頷く。


 だが視線は外さない。


 観察。


 分析。


 測定。


 そんな目だった。


「先ほどの【修復リペア】と【浄化クリーン】、見せてもらった」


 カイは普通に返す。


「壊れてたから直した」


「……そうだろうな」


 ラウフェンは少し笑った。


 だがその笑みは、研究者特有のものだった。


 興味深い未知を見つけた時の顔。


「術式展開は?」


「見えませんでした」


 後ろの研究員が答える。


「魔力波形も異常です」


「発動兆候が曖昧すぎる」


 ざわざわと研究員たちが話している。


 ティアが少し不安そうにカイの後ろへ寄った。


 リナも小さく眉を寄せる。


(うわぁ……なんか完全に研究対象扱い)


 レオンは面倒そうに口を開く。


「先に言っとくが、変なこと考えるなよ」


「分かっている」


 ラウフェンは即答した。


「副学院長からも通達済みだ。“刺激するな”と」


 アルトが小さく吹き出す。


「通達内容が物騒ですね」


「当然だ」


 ラウフェンは真面目な顔だった。


「もし報告が事実なら、この少年は既存理論外だ」


 その言葉に、研究員たちの空気が少し変わる。


 好奇心だけじゃない。


 警戒も混ざっていた。


 だが。


 カイ本人は。


「?」


 よく分かっていなかった。


 ラウフェンはそんなカイを見て、逆に少し目を細める。


「……なるほど」


「何が?」


 リナが聞く。


「力を誇示する気配がない」


 ラウフェンは静かに言った。


「むしろ、“生活の延長”として使っている」


 エルミナが頷く。


「副学院長も同じ結論でした」


 研究員の一人が小声で呟く。


「高等修復を道の補修感覚で使う人間なんて聞いたことないぞ……」


「ベンチ掃除までしてましたし」


「なんなんだこの子は」


 カイは普通に聞き返す。


「汚れてると嫌じゃない?」


 研究員たちが黙る。


 レオンが吹き出した。


「ほらな、こうなる」


 ラウフェンは数秒沈黙したあと、小さく息を吐いた。


「……確かに報告通りだ」


 そして。


 ゆっくりカイへ近づく。


「カイ君」


「はい」


「研究院として、君に興味がある」


 ティアが少し緊張する。


 だがラウフェンは続けた。


「安心しろ。解剖しようとか、そういう話ではない」


「当たり前です!」


 エルミナが即座にツッコんだ。


 ラウフェンは咳払いする。


「……純粋に知りたいだけだ」


「君の魔法が、何なのかを」


 カイは少し考える。


「便利なやつ?」


 またそれだった。


 研究員たちが頭を抱え始める。


 レオンは笑いを堪えている。


 アルトはとうとう諦めたように肩をすくめた。


「なるほど。“規格外”だ」


 その評価は、もう誰も否定しなかった。

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