第91話 高等生活魔法と、さらに増える注目
「……一瞬でしたね」
アルトが静かに呟く。
その視線は、完全にカイへ固定されていた。
さっきまでの“噂の確認”ではない。
明確な観察の目だ。
周囲の見物人たちもざわついている。
「今の【乾燥】だよな?」
「詠唱ほとんど無かったぞ……」
「術式展開見えなかったんだけど」
エルミナは小さくため息を吐いた。
「だから副学院長が頭を抱えているんです……」
カイ本人はそんな空気を気にしていない。
乾いた袖を触り、満足そうに頷いていた。
「濡れてない」
「そこ重要?」
リナが聞く。
「重要」
即答だった。
レオンが吹き出す。
「まあお前らしいけど」
すると。
先ほど助けられた子供が、母親の後ろから恐る恐る顔を出した。
「……お兄ちゃん」
小さな声。
カイが視線を向ける。
「ありがとう」
子供は少し震えながらも、ちゃんと頭を下げた。
カイは少し止まる。
どう返せばいいか考えている顔だった。
数秒後。
「……落ちると危ないよ」
出てきたのは、それだった。
リナが少し笑う。
「まあ、そうね」
子供はこくこく頷く。
母親は何度も礼を言って去っていった。
その背中を見送りながら、レオンがぽつりと言う。
「迷わなかったな」
「?」
「飛び込む時」
カイは少し考える。
「困ってたから」
「普通は躊躇する」
「なんで?」
カイには本当に分からなかった。
レオンは少し苦笑する。
「……そういうとこなんだろうな」
アルトが静かに口を開く。
「レオン」
「なんだ」
「君が気にする理由、少し分かった」
その言葉に、レオンは肩をすくめる。
「だろ?」
「危険性じゃない」
アルトはカイを見る。
「“基準が違う”」
エルミナが小さく目を見開く。
それはセレスティアとほぼ同じ結論だった。
カイは首を傾げる。
「?」
話がよく分かっていない。
リナが苦笑した。
「あなた、時々とんでもないこと普通にやるのよ」
「普通じゃない?」
「全然」
即答だった。
ティアは嬉しそうに言う。
「でもカイ様、優しいです!」
「そういう話じゃない気もするけど……」
リナが頭を抱える。
その時。
レオンが周囲を見回した。
人が増えてきている。
さっきの騒ぎに加え、【乾燥】まで見られた。
完全に注目を集め始めていた。
「……場所変えるか」
「増えた」
カイも少し嫌そうだった。
「視線多い」
「だろうなぁ……」
レオンはため息を吐く。
アルトが少し考える。
「なら、西側庭園はどうだ?」
エルミナが反応した。
「貴族研究区画側の?」
「あそこは関係者以外あまり来ない」
リナが半目になる。
「つまりまた偉い人エリア?」
「静かではあるぞ」
その一言で。
カイが少し考え込んだ。
「……静かならいい」
「基準が単純すぎる」
レオンが笑う。
そして一行は、さらに人目を避けるように、王都西側区画へ向かい始めた。




