第84話 王都案内と、初めての寄り道
「……王都」
カイが小さく繰り返す。
レオンは軽く頷いた。
「学院の中もすごいけど、外の方が王都っぽいぞ」
「静かな場所ある?」
最初に確認するのがそこだった。
リナが吹き出しかける。
「もう条件それ固定なの?」
「大事だから」
カイは真面目だった。
レオンは少し考える。
「中央通りは無理だな。人多いし」
「却下」
「即答かよ……」
だがレオンも嫌そうにはしていなかった。
むしろ少し面白がっている。
「外周側なら比較的静かだ。庭園区画とか、古水路とか」
「古水路?」
「昔の王都の水路跡。今は散歩道になってる」
カイが少しだけ反応する。
「水ある?」
「ある」
「見たい」
即決だった。
ティアがぱっと笑顔になる。
「行きましょう!」
リナは腕を組む。
「まあ、せっかく王都来たしね」
エルミナは少し困ったようにセレスティアを見る。
「副学院長、よろしいのですか?」
セレスティアは静かにカイを見る。
中央書庫へ入ってから。
この少年の空気は、少し落ち着いていた。
静かな場所。
知らない景色。
“自分で歩いて見る”こと。
それが彼を安定させている。
「……構いません」
セレスティアは静かに言った。
「ただし、目立つ行動は禁止です」
全員の視線がカイへ向く。
「?」
「主に君です」
エルミナが真顔で言った。
カイは少し考える。
「壊さなければいい?」
「できれば“驚かせない”方向でお願いします」
「難しい」
リナが頭を抱える。
「もうダメだこの会話……」
その時。
レオンがふとカイへ聞いた。
「そういえば、お前って王都初めてなんだよな」
「うん」
「地方から来たのか?」
何気ない質問。
だがカイは少しだけ黙った。
数秒後。
「……遠いところ」
短かった。
詳しくは言わない。
でも嘘でもない。
リナは横目でカイを見る。
カイは時々、自分のことを話しそうで話さない。
隠しているというより。
どこまで言葉にしていいか分からない感じだ。
レオンもそれ以上は聞かなかった。
「まあいいか」
軽く流す。
その距離感は、カイにとって少し楽だった。
「じゃあ行くか。昼前ならまだ人も少ない」
一行は中央書庫を後にする。
静かな廊下。
大きな窓から見える王都。
カイは歩きながら、時々外を見ていた。
白い街並み。
遠くの塔。
空を飛ぶ魔導輸送艇。
知らないものばかりだ。
「そんな珍しい?」
レオンが聞く。
「うん」
「王都初めてならまあそうか」
カイは少しだけ目を細める。
「……自分で見れるの、なんか好き」
ぽつりと漏れた言葉。
レオンは少しだけ不思議そうな顔をした。
でも、その理由までは聞かなかった。
ただ。
その言葉が妙に本音っぽいことだけは、なんとなく分かった。




